国産食材とチョコの調和を探究 メリーチョコレート・大石茂之シェフに聞く
最近のバレンタインでは国産の食材を使ったチョコレートが増えているが、その先駆者とも言うべき存在が、メリーチョコレートカムパニーだ。和素材を用いたチョコレートを世界のコンクールへ毎年出品し、数々の賞を受賞している。昨年行われたチョコレートの世界大会「インターナショナルチョコレートアワード」(ICA)では、銀賞と銅賞、ローカルスペシャル賞を受賞した。マーケティング本部研究開発部部長の大石茂之シェフショコラティエに、商品開発のこだわりや秘訣を尋ねた。
受賞作は伊予柑や柚子、ほうじ茶を使用
――2024年ICAの受賞、おめでとうございます。
大石 ありがとうございます。世界中のスペシャリストが競う大会ですので、その中で選ばれたということは大変うれしく思います。「伊予柑と柚子」が銀賞、「ヘーゼルと胡麻とほうじ茶のプラリネ」が銅賞に入賞しました。「伊予柑と柚子」は、地域の特産品を使った商品の中でも際立ったものに与えられる「ローカルスペシャル賞」も受賞しました。
――受賞した2品は、どのようなチョコレートですか。
大石 「伊予柑と柚子」は、高知県産の柚子果汁と愛媛県産の伊予柑果汁をブレンドし、ビターチョコレートに合わせました。こだわったポイントは「味の移り変わり」で、まずは伊予柑の苦みや甘み、酸味が感じられ、それが徐々に柚子の香りと重なりながら、柚子の味へと変化していきます。
伊予柑と柚子はどちらも酸味があるので、それと同調できるように、チョコレートは酸味やカカオ感の強いボリビア産のカカオ豆を使ったものを選びました。果物の香りを引き立てるための隠し味として、日本酒の純米大吟醸も少し入れています。
もう1つの「ヘーゼルと胡麻とほうじ茶のプラリネ」は、10年熟成させた日本酒と和三盆糖でキャラメリゼしたヘーゼルナッツと胡麻を粗引きにし、コスタリカ産カカオマスのミルクチョコレートと合わせました。ほうじ茶の茶葉も加え、ほんの少し沖縄の海の塩も入れてアクセントにしています。
コスタリカ産のチョコレートは結構スモーキーなので、ヘーゼルナッツは強めに焦がしました。ヘーゼルナッツや胡麻自体に和三盆糖や古酒が浸透しているので、噛んだ時においしさが口の中に広がります。ナッツやチョコレートには塩が合うので、ミネラルの豊富な沖縄の塩も入れました。
同じように香ばしさ、スモーキーさのある素材として、ほうじ茶を選びました。茶葉は「奏-KANADE-」シリーズで使用している最高級のものを、許可をいただいて使用しています。KANADEでは茶師の先生に組み合わせていただいていますが、今回のチョコレートに一番合う作り方をしたかったので、私が直接フライパンで煎りました。
チョコレートと素材の「両方を生かす」ことを重視
――聞けば聞くほど、1粒のチョコレートに込められた奥深さが感じられて大変興味深いですね。これらの作品は、今年のバレンタインに買うことができますか。
大石 「セゾンドセツコ」から、8粒のショコラを詰め合わせた「アワードボックス」(3780円)を発売しました。今回受賞した2品に加えて、同じく24年大会に出品した「南高梅とキリッシュ」「トンカ豆と伊予柑」「小豆島醤油とオリーブオイル」、22年に金賞を受賞した「すだちと薔薇」、銀賞を受賞した「和薄荷と日向夏」「柚子とヘーゼルのプラリネ」が入っています。
――過去の大会も含め、受賞作は大石シェフの手によるものが多いです。世界から高く評価される、その秘訣はなんでしょうか。
大石 目指す味に到達するために必死で試作を重ねているだけで、あまりピンとこないのですが(笑)。ただ、大事にしているのは、「チョコレートと素材を合わせること」です。先ほどの2品もそうですが、チョコレートが勝つとか、素材が勝つではなく、両方の持ち味を一番良いところで出す“中庸”、これがこだわりです。
開発していると、偶然の発見も起こります。試作している最中に別の用事で呼ばれて、温度が冷めてしまった素材を使用したら意外と良かった、なんてこともありました。商品開発はできるだけ柔軟に考えるようにしていますが、どうしても方向性ができてしまうので、イレギュラーな発見は学びにもつながります。
――そうした大石シェフのこだわりが反映されている商品は、ほかにもありますか。
大石 「奏-KANADE-」は私がプロデュースするブランドで、国産素材を使うことが特徴です。サロン・デュ・ショコラの経験やICAの出品の開発から国産の素材の素晴らしさを知り、より多くの方に国産素材を使ったチョコレートを楽しんでいただきたいと考えております。
「日本茶」「国産イチゴ」「国産サツマイモ」の3シリーズがあり、日本茶は「加賀棒茶」「宇治抹茶」、イチゴは「あまおう」「とちあいか」、サツマイモは「安納芋」「紅はるか」などを使ったチョコレートを詰め合わせました。1つの商品で食べ比べを楽しめます。
ここでも素材とチョコレートのハーモニーにこだわっており、例えば抹茶は全て茶師十段の大山拓朗氏に依頼し、当社のチョコレートと合うオリジナルの合組(様々な茶葉を組み合わせること)をしてもらっています。自信をもってお勧めできる商品達なので、ぜひ、皆様に口にしていただきたいです。
(聞き手・都築いづみ)