2025年01月03日

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百貨店の本領発揮と価値創造への要諦 首都圏基幹百貨店店長パネルディスカッション総括

ストアーズ社主催の「首都圏基幹百貨店店長パネルディスカッション」を24年12月2日(火)に開催した(リーガロイヤルホテル東京にて)。京王百貨店新宿店、高島屋横浜店、東急百貨店、松屋銀座本店(発言順)の店長をパネリストに迎え、「百貨店の本領発揮と価値創造」をテーマに、各店各様の将来の「あるべき姿」の実現に向けて、短期・中長期視点で取り組んでいる重点戦略・戦術を語っていただいた。

パネリストには前半と後半に分けて、前半では24年度の重点戦略、優先的に取り組んできた具体的な施策と成果などについて、2巡目は25年度並びに中期視点で店づくりの方向性、独自の価値創造に向けた重点戦略、具体的な営業施策について言及していただいた。(司会:ストアーズ社 編集長 羽根 浩之)


【24年度の総括、営業戦略の成果】

開店60周年と改装で、集客と客層若返りに成果

京王百貨店
新宿店
水島 英樹 氏

京王百貨店新宿店の水島英樹店長(兼京王百貨店営業本部長)は、24年の新宿店開店60周年をフックにした重点施策を中心に言及した。

同店は新宿駅西口エリアの大規模開発に伴う環境変化に対応していくため、この2年間、「集客」「リピート」「組織化」にフォーカスした戦略に徹してきた。「開店60周年」を迎えた24年は、特に「集客」にこだわってきた。その重点施策と事例を説明した。

集客策の要となる7階の大催場では60周年記念の冠催事を11企画開催し、このうち7企画が新規。それぞれの好事例を説明した。恒例の春と秋の「北海道展」は、共に過去最高売上げを更新した。ヒットした新企画の多くが、若手社員が発案しており、運営まで携わった。「小売業の醍醐味を体験でき、人材育成の場にもなった」と強調した。

11月1日が開店記念日であり、前後の2週間を重点強化週と位置付け、約30企画のイベントを集中して実施。商品も取引先の協力を得て、約100企画の別注商品を展開した。

こうした60周年企画と、2年に亘り約4割を一新した全館規模の改装とのシナジー効果で、「最大の課題だった新客の獲得と客層の若返りが進展した」。コロナ禍前に比べ入店客数は9掛けの状況だが、客層が変化してきた。

これまで組織顧客の比率が7割を超え、そのうち70歳以上が売上高の半数を占めていた。「限られたお客様で商売し、駅上立地を生かし切れていなかった」わけであり、組織顧客比率の高さは強みにもなるが、同店にとっては数年来の最大の課題だった。

それが現在、組織顧客の比率は6割まで下がり、70歳以上で5割だった売上高シェアは4割までダウンし、30~50代が増加した。「シニア百貨店のイメージが強かったが、随分様変わりしてきており、店頭で実感できる」と語った。

国内顧客の売上高も順調で、コロナ禍前の19年実績を上回っている。しかしながらインバウンド(免税売上高)は19年比で9掛け弱の回復度。売上高構成比も5%程度の状況だ。とはいえ購買客数は2桁増で、客単価の減少が影響している。インバウンド対策の課題は明確であり、「インバウンドに強いブランドや商品を充実させ、増えているリピーターへの対応も強化していきたい」考えだ。

いずれにしても長年の課題だった新客の開拓と客層の若返りが、改装と60周年をフックに大きく前進している。

地域産業の役割、中間層への価値提供に注力

◆高島屋
 横浜店長 竹下 真 氏

順調な実績で推移している高島屋横浜店の竹下真店長は、地域・立地産業である百貨店の存在価値を示した上で、24年度に取り組んできた2つの重点施策について述べた。

同店の24年度上期(3~8月)の実績と分析から説明。売上高はコロナ禍前の19年比で2桁増まで回復している。インバウンド(免税売上高)は前年に比べ倍増したものの、売上高構成比は4%台にとどまった。ただ今後は訪日外国人の増加が見込めるため、対応策を強化していく考えを示した。国内顧客の売上げは堅調で、組織顧客、準組織顧客共に伸びており、加えて非組織顧客が2桁伸長している。外商顧客の売上高も2桁伸長しており、総じて順調な実績で推移した。

重点施策が結実してきたわけだが、このベースとなっているのはこれまで蓄積してきた「地域性」。「百貨店は地域産業であり、立地産業であり、ローカルな存在。(百貨店)各社の方針、全社の戦略に基づき、そこに各々の店舗が立地する地域性を加えて経営していくことが重要であり、地域のお客様ニーズを理解することが肝になる」と強調した。

地域性の重要性を前置きに、24年度の2つの重点施策を述べた。1つは「中間ボリューム層の復元と顧客づくり」で、まず「中間層の集客力向上」に注力してきた。もちろん、他の都市部の基幹百貨店と同様に、同店も富裕層の旺盛な消費に支えられ、引き続き富裕層とインバウンドへの対応を強化していく必要があるが、「地域密着型百貨店として、支えていただいている中間層に対し、本来提供すべき価値を十分に伝え切れていない課題に向き合っていかなければならない」と警鐘を鳴らした。

同店は横浜駅西口のターミナル立地の百貨店で、多くの入店客でにぎわっている。それだけに「自分達で集客する意識が希薄になっている」という課題認識から、集客策の強化に取り組んできた。「ターゲット、担当、手段などを決めて実践する基本的な集客策に取り組み、検証して、改善、次の行動につなげていく」という、いわば営業プロモーションのPDCAサイクルを実行してきた。

顧客づくりについては、地域連携を重要視。高島屋グループの総合戦略「まちづくり」に基づき、館と街の魅力化に注力してきた。地元の企業や商業施設、学校などと連携した取り組みを紹介した。

もう1つは、高島屋グループが推進している「TSUNAGU ACTION(ツナグアクション)」である。ESG経営を象徴する活動であり、「この地球を次の世代へつなぐために私たちができること」を考えながら、顧客や取引先と協業・共創しながら取り組んでいる。エコ&エシカルな商品やサービスを通じてサステナブルなライフスタイルを提案し、社会課題解決と利益増大の両立を目指している。

「PLANET(プラネット)」(=美しい地球と豊かな資源を未来へ)「SOCIAL(ソーシャル)」(=日本・地域の伝統や文化を伝え、広げていく)「PEOPLE(ピープル)」(=全ての人の自由と平等、笑顔に寄り添う)という3つのテーマに基づいて取り組んでおり、半期で約100企画を実施した横浜店の活動事例を紹介した。

最後に26年ぶりに日本一になった「横浜DeNAベイスターズ」の優勝セールに触れた。大いににぎわった光景が浮かぶ。地域密着型百貨店ならではの集客力を発揮したと同時に、地域性の大切さを再認識できたにぎわいだったであろう。

創業90周年機に、存在価値と渋谷拠点を強化

◆東急百貨店
 店舗運営事業部事業部長 石田 晃也 氏

東急百貨店の大小17店舗を束ねる店舗運営事業部の石田晃也事業部長は、24年に迎えた創業90周年の営業施策を中心に言及した。

1934年、東急東横線渋谷駅の駅舎と一体の建物に、関東初の私鉄直営のターミナルデパートとして「東横百貨店」(旧東横店)が開業した。1967年には本店が開業し、駅周辺の渋谷のにぎわいを面として拡大。しかしながら100年に1度といわれる渋谷の再開発に伴い、2020年3月に東横店、23年1月に本店の営業が終了。現在、渋谷では、渋谷ヒカリエ ShinQs(シンクス)、渋谷東急フードショー、渋谷スクランブルスクエア内の+Q(プラスク)ビューティーと+Q(プラスク)グッズ、東急フードショーエッジなどを展開している。

創業90周年の営業施策では、「90周年だからこそ、東急百貨店の存在価値を取り戻す」と「90周年をきっかけに、創業の地である渋谷の拠点を強化する」という2つの考え方で、様々な記念企画を連打してきた。

「90周年だからこそ」では、「渋谷で、あなたの街で」を合言葉に、「渋谷で花開いた楽しさや新しさを、 渋谷からその先のエリア、その街で過ごすお客様へ広げていく様々な取り組みを実施した」。全店プロモーション企画として、誕生日の11月1日を含めた10月31日~11月6日まで、「90」の数字にちなんだ商品をはじめ、オリジナルアイテムの販売、期間限定イベント、プレミアムな体験や東急百貨店各店の担当者が推奨するグルメが当たる応募抽選会などを実施した。

もう1つの「90周年をきっかけに」では、強みの領域である「フード」と「ビューティー」で、6月から7月にかけてイベントを連打。渋谷駅を中心に東西に広がる各店舗(食とコスメの各3拠点)を巡りながら、渋谷らしいワンハンドフード、コスメの新作やトレンドアイテムなどを提供した。

ビューティーでは「シブヤビューティージャム」と称し、好きなコスメや最新トレンドのコスメを見つけて体験する楽しみ、新しいメイクにチャレンジするきっかけを創出し、好奇心を刺激するイベントを展開(6月14~23日)。フードは「シブヤフードダンジョン」(渋谷の地下には未知なる『うまい』がひそんでいる)と称し、「ワンハンドフード」をミッションに、食の迷宮「シブヤダンジョン」で、サクッと手軽に食べられる「うまい」を探し出すイベントを実施(6月27日~7月10日)。それぞれ具体的な事例を説明した。

90周年企画を通じた「東急百貨店の存在価値向上」と「渋谷の拠点の強化」の成果は、期間中の好実績が物語っている。

過去最高売上げ更新、海外顧客をID化

◆松屋
 銀座本店長 石脇 聡子 氏

前期に続き2024年度上期(3~8月)が過去最高の売上高を更新した松屋銀座本店の石脇聡子店長は、過去最高額をけん引した「インバウンド売上げの最大化策」「地域共創プロジェクト」「割引に頼らない施策の追求」の3点に絞って重点施策を説明した。

24年度上期のインバウンド(免税売上高)は倍増して過去最高を更新した。売上高の5割を占めるまでに拡大し、全国百貨店で5指に入る高水準だ。こうした数値面の現況と、高水準に達した最大化施策について説明した。特に各国の銀行などの海外企業と連携した施策が奏功。現在、23社と提携しているという。今後の強化策では、中心である中国以外の国の企業との連携を強化し、インバウンドのさらなる拡大を目指していく。

そのため国内顧客と同様に、インバウンド(訪日外国人)に対し「ニーズの把握とおもてなしの強化による顧客体験価値の向上に注力していく」。9月に「海外顧客アテンドチーム」を新設し、高額購入者へのパーソナル対応を強化。加えて10月にはグローバルゲストラウンジの運用を開始し、優良顧客へのおもてなしも提供している。こうした優良顧客を中心に海外のID顧客化を推進しており、そのためラグジュアリーブランドの拡大改装など「引き続きMDとサービスの充実に取り組んでいく」方針を説明した。

地域共創プロジェクトは「日本各地で継承されている伝統工芸・産業・文化を、絶やすことなく新たな機会創出と発展へとつなげること」を使命として、20年にスタート。「地域の魅力を銀座から発信することで、地域発展への社会貢献と収益化の両立」を目指しており、現在は11府県28エリアまで活動が広がっている。

地域共創活動は主に「装飾プロジェクト」「地域のブランディング活動」「観光推進活動」に取り組んでいる。装飾プロジェクトは地域の魅力、伝統に根差した真摯なモノづくりを松屋銀座の店内装飾やショーウィンドウの演出に活用するプロジェクトで、これまで数多くのコラボレーションを実現。さらに使用した装飾物を他社に貸与することで、銀座のみならず日本全国にプロジェクトを普及および推進させ、本質的な持続、循環を目指している。

地域ブランディングは、自治体と連携しながら、地域の伝統工芸、産業、文化を「デザイン」とコラボレーションさせてリブランディングして、店内演出や商品企画、販売などを行う。地域の関係人口・交流人口の創出を目指し貢献していく活動で、それぞれ代表的な取り組み事例と今後の活動の方向性、収益化について説明した。

割引に頼らない施策の追求については、創業者の「実質本位」という言葉とその意味を説明。夏のクリアランスへの取り組みを紹介した。前年まで6月最終の金曜日をクリアランスの初日に設定していたが、24年は約3週間後ろ倒しして7月19日(金)を初日にした。顧客の消費マインドや環境の変化などの理由とその効果について言及。プロパーの売上高および比率が大幅に上昇し、収益拡大にもつながった。反省点にも触れ、引き続き「前例にとらわれず、お客様にとって良い品物を提供することを意識していきたい」と強調した。


【25年度の指針と重点施策、中長期視点の価値創造】

次いで後半の発言は、前半の現状を受けて、25年度以降の中長期視点を踏まえた重点戦略、優先的に取り組む施策や課題、リアル店舗の魅力化への方向性など、「百貨店の本領発揮と価値創造」への取り組みを中心に語っていただいた。

25年度より新中計始動、リピートと組織化に的

京王百貨店
新宿店
水島 英樹 氏

将来の大規模開発が控えている京王新宿店の水島店長は、それを見据えて25年度から始動する3カ年計画の考え方、その初年度の重点施策について述べた。

この3年間は将来を見据えながら「新宿店で稼ぐ」ステージと位置付けており、そのため開店60周年の前期に続き「集客」に留意しながらも、「リピート」と「組織化」を推進していく方針を示した。コロナ禍を経て新客の増加が顕著で、客層の若返りも前進した。ただ新客の1人当たりの買上げ額は既存顧客に比べ低く、新客の買上げ増を大きな課題に挙げた。

課題克服に向けた強化策の1つ目が、アプリ会員へのアプローチ。この2年間で10数万人規模に達しており、現状でも毎月3000~5000増えているという。会員の年代層も50代、60代、40代の順で、友の会やハウスカード会員よりも若い層で構成される。この層への訴求策などについて語った。

2つ目の重点施策が、客層の変化に応じた品揃えと接客サービスの見直し。新規顧客の買い回りを高めるため、その起点になる食品の品揃えの充実を進めていく。食品以外でもショップの入れ替えを順次検討する。

さらに価格政策にも留意していく。「百貨店のお客様とはいえ、価格に敏感になっている傾向が見受けられ、食品を中心にエントリープライスやお買い得感を訴求していきたい」考え。

一方で、百貨店ならではの高価格帯の提案力も強化していく。店内には常設のラグジュアリーブランドが限られるため、24年度よりラグジュアリーブランドの路面店への送客を行っている。25年度も対象ブティックを増やしていく。

3点目には接客サービスの強化を挙げた。「リピートを増やしていくためには、お客様に気持ち良く買い物をしていただく接客が大事であり、取引先の販売員へのサポートをしっかりしていきたい」と強調。その一環として、接客クレームにフォーカス。クレームを調査すると「挨拶、笑顔、言葉使い、気配り」が8割を占めた。この調査に基づき、ポケットマニュアルを作成。取引先の販売員を含め全従業員に配布した。開店前に毎月サービス朝礼を実施している。「この半年間でクレームが激減し、お褒めの言葉が増えた」という。

京王百貨店は非日常を重視した特別な体験価値を提供する百貨店とは一線を画し、「あくまで日常を大事にして、生活に彩りを与え豊かな生活のお手伝いをするスタンスで存在価値を高めていきたい」方針で、「25年度は存在価値を再確認して、磨き上げていく年にしたい」と述べた。もちろん将来を見据えた存在価値の磨き上げでもある。

横浜・神奈川で「国内最強の地域密着型百貨店」目指す

◆高島屋
 横浜店長 竹下 真 氏

高島屋横浜店の竹下店長は、24年度から約3年かけて段階的に取り組んでいく改装、外商の強化、エンゲージメント向上と人材育成の3つに絞って、25年度以降の店舗づくりの方向性並びに重点戦略について説明した。

改装に取り組む背景として、商圏特性に言及。同店の中心商圏では人口増加が見込め、特に富裕層の流入が想定され、加えて外資系ホテルも相次いで進出し、インバウンド(訪日外国人観光客)の増加も見込める。商圏のポテンシャルの高さを背景に進めていく段階的改装では、ラグジュアリーゾーンの拡大、中間顧客層対策としての婦人服・婦人雑貨の効率化、紳士・子供ゾーンの再構築をポイントに取り組んでいく。ラグジュアリーゾーンは2階のワンフロアから、3階を加えた2フロア展開に拡大していく予定。これに伴い婦人服・婦人雑貨は3フロアから2フロアに集約されるが、自主編集売場を中心に効率化を図っていく。

ラグジュアリーゾーンではブティックの導入に加え、自主編集売場である「サロンルシック」も充実させて、他店との差別化も図っていく。編集ゾーンの強化は婦人服・婦人雑貨、紳士・子供ゾーンの改装でも力を入れていく考え。いわば平場の再構築は「人手も労力もかかるが、メスを入れて活性化していくことが、地域のお客様に支持される百貨店には必要不可欠なMDだと考えている」と強調。この秋、実施した紳士セレクトショップ「CSケーススタディ」の事例を挙げて、「ブランドショップだけでは難しい編集提案、コーディネート、地域性といったお客様ニーズを反映していく」とした。

2点目の外商の強化は、「百貨店にとって大きな武器であり、生命線」と位置付け、「仕組みとサービスの両面で強化策に取り組んでいく」。同店の外商の売上高シェアは他の大型店に比べて低いものの、外商員1人当たりの売上高はトップクラスであることから「3カ年で増員し、エリア戦略も再配置して、新たな外商営業活動にもチャレンジしていく」と述べた。

重点商圏内で流入増が見込める富裕層の新規開拓と接点の拡大、既存の外商顧客の満足度向上への商材提案に注力する。さらに外商活動をより効率的に行うシステムの導入を検討中で、営業力強化、業務効率化、人材育成を主眼に、導入時に即応できるように準備していく。

エンゲージメント向上および人材育成については、「今後の店の経営にとって最も重要な取り組みの1つと捉えている」。もちろん、取引先の販売スタッフも含めた取り組みだ。「従業員が生き生きと働ける環境をハードとソフトの両面から整備していく」考えを示した。すでに24年度は従業員食堂を全面改装し、25年度以降もバックヤードやトイレなどの環境改善を進めていく。ソフト面の取り組みも紹介した。人材育成については、若手で構成する3つのプロジェクトを立ち上げており、それぞれ内容を説明した。

高島屋横浜店は「横浜・神奈川エリアで圧倒的な地域一番店の地位を盤石にして、『国内最強の地域密着型百貨店』として、地域と共に持続的な成長を遂げていきたい」と締め括った。

「基幹店なきビジネスモデル」確立への実践・実行

◆東急百貨店
 店舗運営事業部事業部長 石田 晃也 氏

東急百貨店の石田部長は、「基幹店なきビジネスモデル」構築に向けて中心的部門である「店舗運営事業部」の役割と、25年度から取り組んでいく実践フェーズについて言及した。

まず、店舗運営事業部の機能を説明。同部は東急百貨店が運営する17店舗を束ねる部署で、3つの役割を担う。東急百貨店が施設に出るスタイルの大型店舗、他社の館内に出店する専門店型の店舗(小型店)の運営管理、これら大小17店舗のサポートをする本社機能である。専門店は、主に強みであるフードとビューティーの領域で出店している。「店舗の営業推進と本社機能を1つの事業部にしたことで可能となったヒト・モノ・カネの最大活用」をミッションにしている部門だ。換言すると「東急百貨店の店舗運営スタイルの確立」に向けた取り組みを先導するキー部門である。

24年度は新たな店舗運営スタイルのフレームづくりに取り組み、25年度は構造改革を実行し、成果に結び付けていくステージに入っていく。新たな仕組みづくりから言及した。ポイントは「各店舗における必要最低限のリミット人員を設定した」という。「適正人員」ではなく「リミット人員」と称した理由も説明。リミット人員策定のために、店舗と本社機能における各々の業務内容を設定した。店舗運営業務を7つの項目で整理し、各項目で業務明細を洗い出して、店頭の販売・売場運営と後方部門の業務フローを見える化した。業務を明確化した上で、細分化していた担当制を止め、チームで複数業務に従事できるように再編した。

そして25年度から東急百貨店独自の店舗運営スタイルの確立に向けて実践・実行していくための3つの課題と主な取り組みを説明した。1つ目としては、本社と店舗の業務が明確になったことで、本社と店舗および店舗内の縦と横の階層の連携をつなぎ、良くするスキームを整備。そして計画から実行まで、いわゆるPDCAを高速度で進めていく体制を整え、実践していくこと。

2つ目が、店舗従業員のホスピタリティ向上を目的に、取り組むべき9つのメソッドの策定と実行である。東急百貨店では数年来進めてきた「店舗構造改革」に伴い定期賃貸借契約売場が広がったこともあり、「百貨店サイドの誤った認識があり、お客様に提供するサービスやホスピタリティのレベルで格差が表れた」反省から、取引先の従業員が東急百貨店で働きたいと思えるメソッドを実行に移していく。

3つ目が業務の効率化・集約化の実行だ。具体的な事例を紹介した。会計関連では、店舗ごとに微妙に異なっていた業務を統一化して、本社に集約化。これで会計業務の人員を集約化でき、強化部門に配置転換できる。

「こうした取り組みはコスト削減のマイナスな印象もあるが、ボクシングに例えると『打たせずに打つ』という勝つための戦い方で、『高度なディフェンス』を身に着けるためのトレーニング」と強調。東急百貨店ならではの店舗運営スタイルを確立していくための基盤となる「攻めの戦略」といえよう。

開店100周年、「松屋らしさ」を磨き上げる

◆松屋
 銀座本店長 石脇 聡子 氏

松屋銀座本店の石脇店長は、11月27日にローンチしたリアル店舗とデジタルを融合させた新たなサービス「matsuyaginza.com(マツヤギンザドットコム)」との連携、銀座店開店100周年、「松屋らしさ」推進活動の3点にフォーカスして25年度以降の重点施策に言及した。

マツヤギンザドットコムは、店内にショップを構えるブランドから店内にないブランドまで世界中からアクセス可能。事前に予約すると店舗で受け取れ、確実に商品を確保した上でスピーディーに買い物できる。訪日外国人は免税手続きまで一貫して行うため、購入後に免税カウンターに並ぶ時間も手間も短縮できる。国内顧客は直接オンラインショッピングもできる。このため来店顧客の「時短購入ニーズ」と「接客ニーズ」への対応を分けられ、店内の混雑緩和や顧客の不満解消につながる。

購入できる領域はラグジュアリーブランドと化粧品からスタートしたが、順次拡大。ブランドとのつながりを深める様々なサービスやケアを加えていき、個々のニーズに合った商品とサービスを提供し、 店頭と同様に特別な買い物体験を得られるプラットフォームを構築していく方針。「マツヤギンザドットコムでは高いユーザビリティを提供し、リアル店舗では高いホスピタリティを提供することで、顧客体験価値の向上と接点拡大に努めて、国内外顧客を拡大していきたい」と述べた。

今年25年5月1日、「銀座店開店100周年」の大きな節目を迎える。ワンチームで100周年記念を最大限に盛り上げていく取り組みの1つとして、「期間限定のクラブ活動」について言及。21のクラブがあり、毎月1回のペースで活動している。社員の半数近くが参画しているという。クラブ活動の主旨と事例を紹介し、100周年企画を通じ、取引先の従業員を含めてコミュニケーションをより強めて、「ワンチーム」になってさらなる成長につなげていく考えを示した。

3点目の「松屋らしさ推進活動」については、コロナ禍の中で進めてきた構造改革と生産性向上策によって「松屋らしさが揺らいできていた」という危機意識から、7月に「松屋らしさ推進委員会」を立ち上げて、活動を開始した。まず、創業の精神に立ち返って「松屋らしさ」を言語化した。その経緯を説明。100年史から紐解き、全てに「誠実」であること、「勤勉」であること、「真剣」であることに、「謙虚」と「挑戦と創造」を加えた5つをキーワードに、「『親切・丁寧』『実質本位』『安心・安全』『信用・信頼』のある商売をしていくことを『松屋らしさ』と定義した」。

松屋らしさ活動推進策の一環として「松屋らしさアワード」という報奨制度を新設し、1回目は12人が受賞したという。「松屋らしさ」の継承は今後も大事にしていかなければならない活動と強調して、締め括った。

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