2024年業界回顧 百貨店「復権」、次のステージへ
※以下、弊誌「ストアーズレポート」2025年1月号の抜粋です。
2024年(令和6年)の百貨店業界は、堅調な高付加価値需要と旺盛なインバウンド消費に強い都市部の基幹百貨店がけん引し、全国百貨店の売上高はコロナ禍前の19年の実績を上回る復活を遂げた。ただ、復活過程で顕在化した基幹店と地方都市・郊外立地の百貨店との「業績格差」は広がったままの状況である。
地方・郊外百貨店で生き残りをかけた店舗構造改革に向けた改装も活発化してきた。また大手百貨店グループでは中長期視点で事業ウイングを拡大していくための戦略投資も積極化させている。構造改革を継続して「守り」を固めながら、「攻め」の戦略を強めている。
市場開拓・海外進出が加速、働き方や就業環境を改善
大手百貨店では、将来の持続的成長に向け、新事業や新市場の開拓を積極化させている。他の企業との連携や提携、出資やM&Aなどによる戦略投資を増やしている。さらに現地の優良企業と提携して、東南アジアなど海外進出も活発化してきた。
J.フロントリテイリングは、イグニション・ポイントベンチャーパートナーズと共同で、日本政策投資銀行を事業パートナーに迎え、事業承継ファンド「プライド・ファンド」を3月に設立し、運用を開始した(総額30億円)。事業承継ファンド設立は小売業では初めての取り組み。
イグニション・ポイントベンチャーパートナーズとは「JFRミライクリエーターズファンド」を共同で運営しており、超高齢社会の課題解決に取り組むトリニティ・テクノロジーをはじめ、NFTチケット売買プラットフォームを提供するチケミー、移動の課題に取り組むソーシャルデザインカンパニーのニアミー、ギフト特化型ECサイトを運営するタンプなどに出資している。このほかにもJFRは、コメ兵とリユース事業を手掛ける合弁会社(JV)を25年3月に設立する予定。リユース業界との合弁会社設立は、百貨店業界では初の取り組みだ。
東南アジア進出では、高島屋グループがベトナムを成長ドライバーと位置付け、業界で先行して取り組んでいる。三越伊勢丹ホールディングスは、タイ最大級の企業グループであるTCCグループ傘下のTCCアセッツ、およびフレイザーズプロパティの子会社であるワンバンコクカンパニーと共同で、タイ・バンコクの複合開発プロジェクト「One Bangkok」のオフィス事業と小売事業に参画している。
百貨店業界では、取引先を含め従業員の就業環境の改善や働く場の魅力向上による人材確保の一環として、休業日増や営業時間短縮も広がってきた。高島屋、大丸松坂屋百貨店、阪急阪神百貨店は25年より元日に加え1月2日も休業し、初売りを3日から始める。
地方都市の百貨店では閉店、売場面積縮小などが相次いでおり、百貨店業界を取り巻く環境の厳しさが続いている。が、全国百貨店の売上高はコロナ禍前を上回り、過去最高の営業利益を更新する百貨店グループがある。24年は、百貨店の復活・進化、改革継続とともに、各社各様に目指す姿の実現に向けた基盤整備が進んできた。持続的成長への「変革期」の真只中にあるものの、25年は「攻めの戦略」をさらに加速させていくステージになりそうだ。