2025年01月05日

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2025年 百貨店首脳 年頭所感・壱

<掲載企業>

■札幌丸井三越

■松屋

■丸広百貨店

■藤崎

■水戸京成百貨店

■岡島

■井上


道内随一の高い価値提供へ挑戦

札幌丸井三越 社長 神林 謙一

昨年は33年ぶりに5%を超える高い賃上げ率や過去2番目の高水準となる夏のボーナスなどが報じられた一方で、政府による定額減税や電気代補助の実施に象徴されるように、依然として物価高の影響は続き、消費の回復は力強さに欠ける状況にありました。他方、円安にも支えられたインバウンドは好調に推移し、訪日外国人旅行者数、旅行消費額はいずれも過去最高が見込まれています。

このような背景から、当社においても2024年は前年を上回る好調な業績で推移しましたが、その中身はインバウンドの高い伸びが全体をけん引する構図となっています。本来、地域に根差す百貨店は、地元のお客様にファンになっていただき、多くの愛顧を賜ることこそが、存在意義の証になるものと考えます。丸井今井150年余、札幌三越90年余に亘り北海道で積み重ねてきた歴史は、そのような愛顧の賜物でありました。マクロ環境や競合状況の変化はあっても、決して忘れてはならない基本として胸に刻むべきものです。

当社の基本戦略の1つである「マスから個のビジネスモデル」は、商品政策、コミュニケーション、サービスの整合性が取れた業務フローを構築し、顧客との関係性強化を軸として、LTVの向上を図るものであります。その時々により顧客関心度の高い催事や商品を発信することや、当社ならではの提案をプロフェッショナルな販売員による接客で提供することを通じて、地元顧客の「ファン化」を推進し、お客様の豊かな暮らしを支える一助となることを目指しています。

25年は、こうした取り組みをさらに推し進め、深化させてまいります。多くのお客様に来店いただくために、例えば大型催事では全館において統一されたメッセージを発信して関心度を高めていくことに加え、当社の館内のみならず大通エリアから札幌市内へと協業の範囲を広げ、札幌の街を彩る中心的存在としての役割を担っていきたいと考えています。

商品政策では、デザインや機能面、素材などの価値に優れる商品を発掘し、その価値が伝わるような工夫を凝らしながら積極的に発信することで、真の豊かさを求める顧客のニーズに応えていきます。

道内では、次世代半導体の国産化を目指すラピダスが世界最先端へ「挑戦」し、これを機に「北海道バレー構想」が打ち出されるなど、北海道の産業構造にも変化の兆しがみられています。当社もまさにこのような変化に取り組み、お客様、取引先、従業員、地域社会を含むステークホルダーに対して、道内随一の高い価値を提供するための「挑戦」を続けてまいります。


世界基準目指し全事業妥協なく

松屋 社長 古屋 毅彦

昨年の当社について振り返りますと、主力の百貨店事業においては2024年1月より営業時間を1時間短縮しながらも、月間の売上高で歴代10位以内に5件がランクインするなど、我々の当初の予算を大きく上回りました。1月~11月の両店計の売上高は前年比126%、19年比で言えば156%という数字になりました。特に7月についてはバブル期の月間最高売上げを更新できました。会社として強化を続けてきた、個人外商部を中心としたIDをいただいているお客様の売上げも堅調に推移しました。また、海外からのお客様の伸びは想定以上となり、大きな売上高を実現できました。

昨年は百貨店をはじめとしてグループ全体で様々な新しい挑戦がスタートしたり、新展開を迎えたりした1年でもありました。例えば、夏のセールを3週間遅らせ、プロパー商売にしっかり取り組む期間を延ばしました。

IDのあるお客様へのインセンティブ強化のために、催事の初日にIDのあるお客様限定入場日を設ける取り組みも進めています。地域共創の取り組みを、点ではなく面として館に取り込んだり、銀座店で好評のコンテンツ催事を浅草店でも開催したり、デザイン感度を持った次世代リーダー育成プログラム「Future Leaders Academy in Ginza(FLAG)」をスタートし、地域のものづくりとつながる人材育成をスタートしたりしました。

お客様の買い物体験をよりスムーズにするオムニチャネルの新たなデジタルプラットフォーム「matsuyaginza.com」も立ち上げました。デジタルとリアルをシームレスにつなげることで、日本のお客様も海外のお客様もストレスなく買い物を楽しんでいただけるはずです。

現行の中期経営計画は今年の2月末までとなります。さらなる成長を目指して引き続き努力しながら、一歩一歩、ひたむきに前進をしていきたいと思います。

本年は、銀座店にとっては開店100周年のアニバーサリーイヤーです。銀座店ではお客様向けの様々な取り組みやインナープロモーションを通じて、素晴らしい1年にしていければと思います。

百貨店の仕事は「人々が豊かになるエネルギーを供給する仕事」だと考えています。そしてその中で松屋は「未来に希望の灯を灯す、全てのステークホルダーが幸せになれる場の創造」をミッションとして掲げています。新しい1年も、我々の商品やホスピタリティを通じて幸せな場を創造することを目指します。

百貨店をはじめとした全ての事業を通して、さらなる成長と企業価値の向上を実現すべくまい進してまいります。世界基準を目指し、妥協なく松屋らしく、取り組んでいく所存です。


キリンビール


中計初年度は飛躍への基盤強化

丸広百貨店 社長 伊藤 敏幸

2024年を振り返りますと、百貨店業界においては大都市圏を中心に富裕層の消費意欲の高まりやインバウンド消費が過去最高となるなど、著しい回復傾向にありました。ただし、都市部以外の百貨店の回復は限定的となり、地域格差が広がっております。加えて、物価上昇に賃金の伸びは追い付かず、節約志向が高まっており、消費の先行きに注視する必要があります。

このような中、昨年は創立75周年の冠の下、1年を通して様々な周年企画に取り組んでまいりました。川越店では約4年間に亘る全館の改装を完了し、11月13日にグランドオープンを迎えることができました。

川越店のグランドオープンでは、「百貨店」からトキを過ごす「百過店」をテーマに、店内で素敵な時間を過ごしていただくため、6階には憩いの場となる「まるひろば」や外商顧客などが利用できる「スターサロン」、ラグジュアリーブランドなどの催し場として「ギャラリー」を新設しております。

1階にはアネックスC館から本館へ「アフタヌーンティー・ティールーム」などを移設し、買い物中のくつろぎの場を充実させております。地下1階では厨房が見えるライブ感を演出し、4階ではファミリーで買い物を楽しめる複合型のショップを展開するとともに、地域最大級のベビー休憩室を設けるなど、環境面の改善にも取り組んでおります。

25年は、新たな中期経営計画のスタートの年となります。日本経済は物価と賃金が共に上昇し、脱デフレへの転換点を迎えつつあります。世の中が大きく変化する中、次期中期経営計画では、より強靭な経営基盤の構築と、将来を見据えた成長戦略に取り組んでまいります。

そのための施策として、本年はこれまで培ってきた百貨店の強みを生かし、進化させるとともに、環境変化に対応できる新たなビジネスモデルへの変革を目指してまいります。

川越店では、新設したギャラリーでのプレミアムな体験の提供、「まるひろば」での交流会や参加型イベントを実施し、時間消費型の買い物体験をより充実したものにします。外商戦略を強化し、地域の富裕層顧客を囲い込むため、ニーズの深掘りによる新たな提案や店頭にない商品の販売にも力を入れていきます。

新規事業戦略では、新たな収益源を創出するため、自社ビジネスの様々な方向性を模索し推進していきます。その一環として、昨年は飯能店に自主運営による「まるひろ買取サロン」をオープンいたしました。今後も経営資源の活用や地域共創事業への取り組みなど、推進のスピードを加速していきます。

本年は第12次中期経営計画の初年度として、大きく成長、飛躍するための基盤強化の年にしたいと考えております。25年からの5年間を対象とする本計画を長期的な成長を実現するための指針として、この計画の達成に全力で取り組んでまいります。


山元


多様なつながり深め「交差店」に

藤崎 社長 藤﨑 三郎助

昨年の国内経済は、雇用・所得環境が緩やかに改善した一方で、原材料・エネルギー価格の高止まり、物価上昇などによる経済活動や国民生活への影響が続きました。

そのような中、より多様化するお客様のニーズに応えるため、ストアテーマ「Up to Date」の下、これまで培ってきた「伝統」とデジタルに代表される「最先端」の両方をバランス良く組み合わせ、魅力的なモノやコト、時代に合った仕組みづくりにチャレンジしました。おかげさまで、県内外より多くのお客様に来店いただくことができました。

売場改装に関しては、婦人靴売場を本館1階から7階に移設し、ゆったりとした居心地の良い買い物空間を実現したほか、化粧品売場での新たなフレグランス専門店のオープン、宮城・東北の伝統工芸品を集積するセレクトショップ「伊達CRAFT」の拡大、季節の移り変わりを発信するフラワーショップの全面刷新などを実施し、店舗の魅力向上に努めました。

デジタルツールを活用した顧客アプローチに関しては、SNSによるイベント告知などの情報発信に加え、従来のハウスカードとアプリやLINEを連動させ、お客様一人一人の趣味・嗜好に合ったコミュニケーションの提供を促進しました。これらの取り組みにより、30~40代の顧客層を中心に、幅広い世代におけるオンライン会員の獲得が進み、リアル店舗への誘客にもつながっています。

また、「国際卓越研究大学」の第1号に認定された東北大学と包括連携協定を締結し、パートナーシップをより強化しました。多様な人材が活躍し、快適に暮らせる国際都市・仙台の実現に向け、相互の知見を掛け合わせた新しい価値の創造を目指しています。

中期経営計画の最終年である2025年のストアテーマは「HAPPY CROSSING」としました。前2年間で実行してきた「顧客戦略」「デジタル戦略」「コンテンツ戦略」「人材戦略」の各戦略が相互に交わり、その効果が最大化される1年となるよう、様々な取り組みをブラッシュアップしていきたいと考えています。

デジタルツールによる顧客の囲い込みを継続して進める一方で、効率化されたデジタル全盛時代だからこそ、百貨店らしい温かみを感じる接客や店づくりを大切にし、豊富な商品知識と高い販売スキルを持ったスペシャリストの育成、高齢者、障がい者への配慮とバリアフリー化などにより店内環境を整え、お客様に安心と信頼を感じていただけるよう努めてまいります。

地域に根差した百貨店として、お客様との「つながり」はもとより、取引先、地域の生産者、周辺商店街の事業者などとの多様な「つながり」を深め、私達百貨店が、その「交差店」となることにより、誰もが「幸せ」で暮らしやすいダイバーシティを備えた街づくりに貢献してまいります。



法令順守と構造改革を徹底継続

水戸京成百貨店 社長 谷田部 亮

2024年は、コンプライアンスと事業構造改革を徹底するとともに、時代と地域にふさわしい京成百貨店として進化するために、再生に向けた「経営改善計画」の基本方針を策定し、お客様と地域社会からの信頼回復への第1歩を踏み出しました。

販売促進策としては、全館テーマに「楽しい」を掲げ、隣接施設である水戸芸術館、水戸市民会館及び京成百貨店の「MitoriO」の3施設が一体となった地域イベントの創出を図るとともに、百貨店の枠にとらわれない鮮度ある催事の開催と情報発信の強化に取り組み、多様化するお客様の趣味嗜好に合わせた商品提案の強化を実施してまいりました。

売場改装では、市民会館や芸術館からの来客増に対応し、9階レストラン街に新規店舗を導入。地下1階和洋菓子コーナーの一部改装を実施しました。各フロアにおいても、水戸市民会館からの新たな客層に向けた商品提案、多様化するお客様の趣味嗜好に向けた様々な物販企画を開催し、売上げの増加に努めました。

個人消費は今後も緩やかに回復していくと想定されますが、海外景気の下振れリスクや、物価上昇の継続による購買心理への影響が懸念されています。

百貨店業界では、円安によるインバウンドの大幅増加の恩恵で、大都市圏の一部店舗では売上高の増加が継続しておりますが、地方都市を取り巻く環境は依然厳しく、地方百貨店では売上高の減少やテナントの退店が継続しており、地域格差が顕著になっております。

茨城県内の当社商圏においては、商圏人口は緩やかに減少しているものの、足下では水戸市民会館を核とした中心市街地活性化策が継続。新規マンションの建設工事も増加してきており、商環境の活性化に向けた変化もみられてきております。

そのような中で、25年は「経営改善計画」に基づく全館リモデルのスタート年となります。コンプライアンスと事業構造改革の徹底継続をベースに、消費スタイルや商環境の変化に対応し、欠落カテゴリーの導入を図るとともに、お客様に買い物だけでなく百貨店という場所・時間を楽しんでもらえるような、時代と地域に相応しい京成百貨店として進化するために、リモデルを加速させてまいります。

販売促進策としては、25年度以降3年間の全館テーマを「弾もう」と設定。地域活性化への弾みとなるような、行政・地域イベントとの連携、産学共催企画、SDGs企画など、コラボレーション事業を深化させ、地域社会の活性化に取り組んでまいります。

さらに、良質な商品・サービスの提供強化への弾みとなるような、従来の百貨店の枠を超えた新たなイベント催事の導入、販売施策を継続的に実施してまいります。

2025年、REBORN、京成百貨店。ぜひご期待下さい。



地元連携と労働条件改善に軸足

岡島 社長 雨宮 潔

新店舗2年目となった2024年度は、売上げ・利益共予算を上回る順調なペースで推移いたしました。猛暑が続いた7月・8月は苦戦を強いられましたが、春・秋の最盛期にしっかりと盛り上げを図ることができましたため、開店初年度を凌ぐ実績となっております。

各階に設置したプロモーションスペースの企画充実が図られ、半期に1度必ずポップアップを行うブランドをご支持下さるお客様数が確実に伸びており、「狭い店舗面積ながら毎週足を運んでいただける百貨店」としての足場固めが確実に進んでおります。

さらに、外商活動と連動したラグジュアリーブランドの特別販売会や老舗MDの特集など、県内唯一の百貨店だからこそできる上質な提案に対する地元顧客の認知度が高まり、岡島のアイデンティティがさらに定着してまいりました。

新店舗移転後の財務内容の好転を踏まえて、今までにないレベルでベースアップや賞与など各種手当の充実を図ることで離職率を大幅に低下させられ、販売サービスの向上にもつながっております。

25年度は、4月頃に「小江戸甲府・花小路」という商業施設が近隣にオープンを予定しております。飲食・物販の約20店舗が軒を連ねることとなり、これにより甲府中心市街地の魅力度が大幅に向上することが期待されております。

甲府の官民連携事業である「甲府まちなかエリアプラットフォーム」では、社会実験を通じて周辺の公園やストリートなどの活用を促進しております。岡島としても、この取り組みに積極的に参画し、今までとは違う新たな周辺施設との相乗効果により、ウォーカブルな甲府の街づくりを推進したいと考えています。

品揃え面では、23年3月の開店以降、お客様から頂戴していた「衣料品のバリエーションをもっと増やして欲しい」という声にお応えし、2月には2階催事場跡地にアパレルブランドショップを複数オープンさせます。

催事場はすでに地階生鮮マーケット跡地に移設し、物産展などの開催頻度向上で食料品フロアの買い回りを大幅にアップさせております。

地方百貨店としての地元連携策をさらに拡大し、山梨県の各種地場産業との連携強化にとどまらず、高校生や大学生の社会活動にも着目し、中心市街地のリアル店舗だからできるお披露目の場を提供し、社会インフラとしての新たな役割も果たしてまいります。

人財が命である百貨店としては、年始休暇を元日だけでなく2日にも拡大し、3日初商とするほか、労働条件の改善を今まで以上に行うことで、ファッションに携わる若者を呼び起こし、華やかな職場づくりを目指してまいります。


創業140周年、「ワンランク上」追求

井上 社長 井上 裕

昨年の4月に、当社の松本駅前本店を2025年3月末に閉店することを発表いたしました。45年間営業してきた店舗は老朽化により修繕にも多大な投資がかかり、郊外店のアイシティ21に注力するための判断でした。地元では、すでに松本パルコ、イトーヨーカ堂南松本の閉店が決まっており、本年の1月、2月、3月と大型商業施設の閉店が続きます。商環境が大きく変わると多くの皆様に注目された2024年となりました。

昨年の11月より当社の閉店セール第1弾がスタートし、今まで井上駅前店をご愛顧頂いてきたお客様への感謝の気持ちを伝えられればと、今後も閉店まで様々な催しを開催していく予定です。閉店後は一部のブランド、機能を150坪程度の広さで展開できるよう、松本駅前の立地で別の場所にサテライトを計画しております。

本年4月以降は、いくつかのブランドには本店からアイシティ21へ移設いただき、百貨店としての品揃えを充実させますが、さらに館としての魅力を高めるために新たなテナントの導入も計画しております。例えば、アカチャンホンポ、マツモトキヨシなどに出店いただき、4月にオープンするように準備を進めております。

他にも紳士アパレルや眼鏡テナントなどもアイシティ21で展開していただけることとなり、先行して3月にオープンとなります。アイシティ21のコンセプトを「くらしに彩りと発見を、地域に根づく魅力発信基地」と再確認させていただき、イベントやテナントの導入、百貨店売場のリニューアルを実施していきます。

アイシティ21では昨夏、駐車場の一部を使い「ワールドドリームサーカス」を誘致しました。2カ月間に5万5000人以上を動員し、県内外から集客できました。今後も駐車場や施設の広さを生かし、魅力ある催しなどで買い物だけでなく来店を楽しみにできる提案や発信を行っていきます。

本年は創業140年でもあります。1885年に呉服店として開業してから、時代の流れに沿って様々な変化に対応して今日に至ります。呉服店から商店へ、その後百貨店へ、創業の地から松本駅前への移転、郊外でのショッピングセンターの運営など、時代にあった形態になってやってまいりましたが、どの時代も安心してお客様が買い物を楽しめるよう努力してまいりました。これからも「ワンランク上」を目指し、常に柔軟に変化して、お客様に笑顔を届けられるようまい進してまいります。

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