【関西主要百貨店<食品>パネルディスカッション】三方良しのデパ地下とは
ストアーズ社は10月31日、「関西主要百貨店<食品>パネルディスカッション」をホテル日航大阪で開催した。あべのハルカス近鉄本店、大丸梅田店、高島屋京都店、阪急うめだ本店、阪神梅田本店の食品の責任者を招き、「三方良しのデパ地下とは」をテーマに、客、取引先、百貨店の全てが恩恵を得られる――すなわち、客にとって魅力的で、取引先と百貨店が共にもうけられる売場の在り方を、語っていただいた。
パネリストは、前半で「2024年度上期の戦略と総括、下期の戦略と展望」について言及。後半は「加速する人手不足への対策」「食品売場におけるインバウンド対策」「三方良しにつながる次世代のデパ地下とは」など取引先らから寄せられた質問の中から、それぞれが選んで回答した。
■パネリスト■
近鉄百貨店 営業政策統括部 商品政策部 部長 久光和彦 氏
大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 営業3部 部長 長谷川寛 氏
高島屋 京都店 販売第5部長 山本秀嗣 氏
阪急阪神百貨店 阪急本店 フード販売統括部 GM 西田健二 氏
阪急阪神百貨店 阪神本店 フード営業統括部 GM 中尾康宏 氏
※GM=ゼネラルマネージャー
◆一巡目
10年後見据えた売場づくり着手
近鉄百貨店 営業政策統括部 商品政策部 部長 久光和彦 氏
今年5月に着任した久光部長は、冒頭であべのハルカス近鉄本店の開業10周年に触れた後、上期の改装と好結果を収めた催事を説明。改装は4月にウイング館地下2階の和洋酒売場に地ビールやワイン、日本酒などを楽しめ、惣菜売場などで買った商品を持ち込める「ハルチカBar」を設けたほか、フランチャイズ事業として3月にタワー館の12階に「24世紀ラーメン」、4月にウイング館2階にベーカリーカフェ「オッテ」をオープンし、7月にはウイング館地下2階に直営のうなぎ専門店「うなぎ屋 ハレルヒ」を構えた。
催事では3月に初めて開いた「いちごPARTY」が活況。いちごのショートケーキやパフェ、スムージーなど20種類以上を揃え、想定を超える売上げを記録した。5月の「全国かき氷まつり」は来店予約を強化し、実績は前年から倍増。どちらの催事も「学生ら若年層の取り込みにつながった」という。
下期は「10年後を見据えた売場づくり」に着手。近鉄百貨店の新中期経営計画が始まる2026年2月期までに、改装計画を策定する。一方で、クリスマスやバレンタインデーなど食品売場にとって大きな催事が控えており、とりわけバレンタインデーは年々売上げが伸び、注目度も高い。「会場を楽しむ」をコンセプトに、日替わりのパフェ、イートインなどを用意するとともに、ネット予約やネット通販などの充実で利便性も向上。若手社員を中心にSNSでの情報発信も増やし、勢いに弾みを付ける。催事では新型コロナウイルス禍で開催を断念し、ようやく11月に実現した「にっぽんの離島物語」への想いも明かした。
マーケットの変化への対応急ぐ
大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 営業3部 部長 長谷川寛 氏
長谷川部長は、売場が「広域と足元、2軸のお客様で支えられている」と指摘した上で、上期は「マーケットの変化への対応が課題だった」と振り返る。課題を解決するために講じた施策は①ローカリティ②オリジナリティ③価値の伝え方の見直し――の3つだ。
①は大阪府や兵庫県のブランドを新規に導入したり、既存のブランドを拡大したり、新しい大阪土産を提案したりした。②はオリジナルの商品を開発するのではなく、目新しいブランドを加えて独自性を高めた。③は「大丸・松坂屋アプリ」や店内外のデジタルサイネージの活用を積極化。新規に導入したあるブランドは、デジタルを駆使した販促で客に価値が伝わり、売上げは前売場対比で1.3倍を記録した。
下期は上期の施策を継続および加速。9月にはハンバーグ専門店「ボストン」をテイクアウト専門で誘致し、好評を博している。大丸梅田店は階層の変更を含めた大規模改装が計画されているが、食品売場はマーケットの変化に対応する部分改装にとどめる方針だ。
強みの“自主”認知度向上に注力
高島屋 京都店 販売第5部長 山本秀嗣 氏
山本部長は、まず昨年10月に「京都高島屋S.C.」としてグランドオープンしてからの変化を語った。「ニンテンドーキョウト」が集客装置を担い、客数は前年比1.3倍に増加。数だけでなく層も変わっており、若年層などの増加を基に「今までとは異なる商品を販売していく」と方向性を示した。上期の売上げは前年を超えたが、伸び率が客数のそれに及ばないのが課題と認識。品揃えのバランスを修正する意向だ。
京都高島屋S.C.は目下、百貨店部分の改装を進めており、食品売場も対象。需要が多いベーカリーを約1.3倍に広げ、洋菓子売場も一部リニューアルした。洋菓子売場は想定ほど伸びておらず、てこ入れする。
グランドオープンから1年を経て、客数は大きく増えづらくなる。今後は「ライトユーザー、中間層の取り込み」に注力し、26年2月期末までに品揃えを修正していく。また、高島屋の独自性を発揮できる自主編集売場は認知度が低い。中でも季節の生菓子や和菓子の老舗の生菓子などを自由に買い回れる売場は「他社にはできない」と自負するが、客に知られていない。足元商圏の客だけでなく、観光客にも訴求して、買上げにつなげる。毎日老舗料亭の京料理を小分けのパックや軽量で購入できる売場も、ブラッシュアップして集客力を高める。
一方で、物産展は好調。10月の「大北海道展」の売上げは前年の1.3倍だった。
顧客と収益源の拡大にアクセル
阪急阪神百貨店 阪急本店 フード販売統括部 GM 西田健二 氏
西田GMは、エイチ・ツー・オー リテイリングの中期経営計画の「重点取り組み内容」を食品売場に落とし込んできた。具体的には①既存事業「国内顧客・店舗ビジネス」の深化②成長ポテンシャルの高い「海外顧客ビジネス」への注力・強化③新たな収益源の開発・展開――の3つだ。
①は、いわゆる「識別顧客」の年間購入額を上げるため、独自商品の開発、季節限定品や数量限定品の販売を強化。「インスタグラム」をメインに情報を発信し、取引先との協業も交えて双方向コミュニケーションにも取り組んだ。「デパ地下アンバサダー」の募集、外商顧客に対する特別受注も行った。どちらも客との関係性を深める狙いだ。
②は「2年間で道半ば」という。複数の組織が一体化して食品の活性化に取り組んでおり、“ジャパンコンテンツ”も開発中。熟成した古酒、和牛を使った生ハム、高付加価値のコメなどを海外のVIP、空港などに売り込む。
③の象徴は冷凍ケーキの宅配で、販路を拡大していく。スイーツの移動販売もコンテンツを強化するとともに、フランチャイズ展開を準備中だ。そのほか、リテールメディアの活用による収益の確保にも言及した。
最後に食品売場の概況に触れ、売上げと客数の両方が前年比で2桁増。売上げの増加率の方が高く、単価の向上とインバウンドの高伸長に支えられている。成功事例としては9月に特集した「月餅」を挙げ、逆に節分やクリスマスケーキなどの事前予約はキャパシティがオーバーし、客を1時間や1時間30分も待たせる事態を招いたのが失敗談という。
地域密着やローカリズムを追求
阪急阪神百貨店 阪神本店 フード営業統括部 GM 中尾康宏 氏
中尾GMはグランドオープンから約2年間が経ち、地下1階と地上1階に構える食品売場の概要や状況、他の百貨店との違いから説明。例えば、地下1階は55~65歳の客が圧倒的に多く、1階は30~40代の女性が中心というデータを示した。情報発信におけるインスタグラムの有益性、人気の催事も発表した。催事のベスト3は、切り口として「モンブラン」「発酵」「名古屋めし」の順。名古屋めしは、名古屋出身の29歳の女性社員が担当して「愛が深過ぎて、刺さる人に刺さりまくった」。
梅田地区のマーケットの変化にも触れ、KITTE大阪やイノゲート大阪、グラングリーン大阪などの商業施設が相次ぎ開業する中、阪神梅田本店は食品売場にも飲食店にもダメージがなく、「梅田地区のパワーが増している」と指摘。実際、24年度の上期は売上げも客数も前年を上回った。
次いで、阪神梅田本店のビジョン「毎日が幸せになる百貨店」について言及。地域密着やローカリズムを追求し“愛される百貨店”を目指してきたが、まだまだ課題があるという。具体的には①直営店も含めて品出しが間に合わない、欠品が生じるなど“足腰”が弱い②まだ(22年4月に)グランドオープンしたのを知らない人がいる③顧客ニーズへの対応――の3点を挙げた。
顧客ニーズへの対応はフードデリバリーを指し、昨年9月に「menu」を導入して約500SKUを6km圏内に配達しており、好調に推移しているが、収益化には至っていないという。阪神梅田本店が入居する大阪梅田ツインタワーズ・サウスの高層階のオフィスに商品を届けるサービスも開始。需要は徐々に増えており、他のビルにも対象を広げている。
また、上期だけで50回以上のワークショップやセミナーを実施。特に子供関連が好評だったという。「子供の心に残れば、10年後や20年後に帰ってきてくれる」と強調した。
◆二巡目
二巡目は、それぞれが話したい内容を明示。“五者五様”の発言となった。
人手不足に危機感、“セルフ”検討
近鉄百貨店 営業政策統括部 商品政策部 部長 久光和彦 氏
久光部長が選んだのは人手不足への対策で、「(採用は)さらに厳しくなっているし、来年は大阪・関西万博もある。アルバイトを中心に雇いづらくなる。取引先と話していても『人がいない』と聞く。将来的にも、さらにひどくなっていく」と危機感を募らせつつ、「セルフ的な販売を真剣に検討する」と腹案を明かした。例えば、複数のブランドをまたいだ販売体制だ。
制服の重要性も指摘した。「子会社に出向時、惣菜のショップを運営していたが、女性の販売員と話していると『友人に来てほしくない』と言われ、理由を聞くと『制服が恥ずかしい』だった。すぐに制服を変更すると、凄く喜んでくれたが、ある洋菓子のブランドは(制服がオシャレで)大学生を採用しやすいと聞く。制服は侮れない」と力を込めた。
次世代のデパ地下についても触れ、①健康志向への対応②地産地消の推進③体験型販売④持続可能性への配慮――の4つを挙げた。
最後に「百貨店業界は特に郊外店が厳しい。存続させるためには売上げ構成比の高い食品が大事。お客様の声を聞いて変化していかなければならない。いずれにしても、取引先の協力が不可欠」と聴講者に訴えた。
次代はデジタルとリアルの融合
大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 営業3部 部長 長谷川寛 氏
長谷川部長は人手不足やインバウンドへの対策、複数のブランドの一体運営、次世代のデパ地下について持論を展開。「人手の確保、維持のためには労働環境の整備が不可欠。1月2日の休業もその一環だ。従業員教育もデジタルを活用したり、新しい集合教育を採用したり見直している。インバウンドは中層階や上層階にキャラクターコンテンツの売場が充実しており、どれだけ食品売場に呼び込めるか。デジタルサイネージで食品の動画を流し、ライブ感やシズル感を伝えている。複数のブランドの一体運営は、ブランドの世界観を表現するのが難しく、ハードルが高い。セレクトショップなどはあり得る。次世代のデパ地下を端的に表すと『時間と場所の制約を受けない』。デジタルとリアルが融合されたデパ地下だ」とした。
インバウンドやSDGsに力点
高島屋 京都店 販売第5部長 山本秀嗣 氏
山本部長も、人手不足への対策に言及。取引先から派遣された販売員にアンケートに答えてもらい、それを集約および分析して改善に役立てている。一昨年頃からは、高島屋の村田善郎社長とのミーティングへの参加を取引先の販売員からも募り、労働環境に関する率直な意見を集めているという。1月2日の休業、定休日の増加なども挙げ、「労働時間を含めて環境を改善させないと『働きたい』と思ってもらえない」と強調した。
続いて複数のブランドの一体運営の可能性に触れ、「婦人服飾雑貨で採用されているのは把握しているが、食品とは掛け率が大きく異なるため、実現しづらい。自主編集売場で買い取って販売する方が良いのではないか」とした。
京都地区はインバウンドも多い。「お茶の需要が多く、毎日20~30人が並ぶ。中国のSNSでバズって増えた。製造の段階からSNSで発信するとバズりやすいのではないか。取引先との協業で可能か考えている」という。最後には高島屋のサステナブル活動「ツナグアクション」を紹介。京都店では伝統産業や老舗の後継者不足を踏まえ、ポップアップストアを誘致したり自主編集売場で商品を買い取ったりして若手職人を支援していると説明した。
取引先は運命共同体、連携深化
阪急阪神百貨店 阪急本店 フード販売統括部 GM 西田健二 氏
西田GMが語ったのは、インバウンドと人手不足への対策。インバウンドは売上げ構成比が小さいものの、SNSで火が点いて大きな売上げを記録したブランドを挙げ、「キーワードとして軽量、小分けが人気。味では、特に中国人はピリ辛を好む。一方で、豚まんやコロッケ、刺身、どら焼きなど日本ならではの食品も好まれている」と指摘した。今後は体験型のコンテンツを手掛け、多言語対応や試飲・試食なども強化していく。
人手不足については、5年間で自主編集売場の廃止や統合、複数の取引先のショップの併設などを進め、人員配置を最適化してきた。1月2日の休業などによる就労環境の改善、報奨制度や福利厚生の充実などによる職場環境の改善なども具体的に示した。「取引先は運命共同体。対話、共同意識が重要だ。一緒に売場を運営していく。確執や障壁をなくし、モチベーションにつなげてもらう」と力を込めた。
“総コンシェルジュ化”に伸び代
阪急阪神百貨店 阪神本店 フード営業統括部 GM 中尾康宏 氏
中尾GMは、次世代のデパ地下と人手不足への対策について持論を披瀝した。次世代のデパ地下は「基本がきちんとできていないと計画倒れになる。品切れさせない、お客様を待たせないなどをベースに、『体験とコミュニティに満ちあふれた食のテーマパーク』『デジタルとAIを駆使した利便性』『アナログのサービス』の3つが考えられる」とした。
次世代とアナログは合致しないように映るが、「最後はアナログでのサービス。販売員全員がコンシェルジュになれば、売場に外商員がいるのと同じで、ワントゥワンマーケティングが実現する。100人の販売員が100人のお客様を持てれば、1万人になる。百貨店の強みは、やはり人だ」と強調した。
人手不足への対策は「よく『人がいない』と聞くが、ヒントはある」と明言。アルバイトの倍率が70倍と驚異的な人気を誇る企業を例に出しながら、「百貨店業界は全体として『3K』。それを変えなければならない。いわゆる『スキマバイト』を限定的に活用中だが、今までは入店教育がネックだった。(スキマバイトの活用で)それを取り払ったが、現状はノークレームだ」という。外国人労働者も「製造業、農業、建設業ばかりで小売業には少ない。百貨店業界として、もっと誘致すべき」と力説した。
また、取引先に対して「(ショップの)店長のレベルが全てを決める。売上げも、マネジメントも、だ。店長の給料を上げてほしい。このままでは成長にもつながらない。さらに言えば、店長のように現場を知っている社員を管理職に就けるのが最も良い」とメッセージを送った。
(司会:野間智朗)