多ブランド展開で攻勢を加速する「ダイソー」
百貨店業界で、100円ショップ「ダイソー」の存在感が高まっている。「スタンダードプロダクツ」「スリーピー」といった300円の価格帯のブランドと併せ、大型商業施設に複合で出店するケースが増えてきた。特に象徴的なのが東武百貨店池袋本店に開いた3ブランド複合形態で、売場面積は約2400㎡(720坪)にも及ぶ。店頭は連日客で賑わい、売上げも好調だという。百貨店とどのような相乗効果があり、今後どのような出店戦略を進めるのか。店舗開発本部本部長の渡邊有和氏に尋ねた。
売上高が過去最高を更新、ブランド複合店舗が好調
――御社の近年の状況を教えていただけますか。
渡邉 当社は2024年2月期に、売上高が過去最高の6249億円(前期比6.0%増)を記録しました。その主要な要因として、新ブランドの展開や出店強化、出店形態の多様化があります。出店ペースは現在、国内では300~400を毎年新たに出しています。
新ブランドは「スタンダードプロダクツ」「スリーピー」の2つがあり、「ダイソー」と併せて展開しています。ダイソーの出店数の次に、これらのブランドを組み合わせた複合店舗も増えています。様々な出店形態に対応しながら、引き続き数を増やしています。
――「スタンダードプロダクツ」「スリーピー」はどのようなブランドでしょうか。
渡邉 スタンダードプロダクツは「ちょっといいのが、ずっといい」をコンセプトに、2021年3月にスタートしました。シンプルなデザインが特徴で、環境に配慮した商品や、伝統ある日本の職人と組んだ商品などを提供しています。有名なところでは、広島県の「熊野筆」の化粧筆、岐阜県関市の包丁、新潟県燕市のカトラリーなどがあります。
スリーピーは「あいらしい。そして私らしい。」をコンセプトに、くすみトレンドカラーを取り入れたブランドです。18年にスタートした後、22年4月に銀座の商業施設「マロニエゲート銀座2」6階に新店を開業したのを機に、リブランディングしました。
「マロニエゲート銀座店」は初の3ブランド複合形態で、グローバル旗艦店という位置付けです。売場面積は約500坪、取り扱う商品数は約2万7400SKU。これが非常に好調で、オープンから2年以上経ちますが、高層階にもかかわらず今でも多くのお客様で賑わっています。これをきっかけに複合ショップが評価され、商業施設からの引き合いが増えました。スタンダードプロダクツ、スリーピーの認知度も上がっています。
新ブランドが客層やタッチポイントを拡大
――複合店舗が成功した要因は何でしょうか。
渡邉 新たな2ブランドは、デザイン性や使い勝手、環境への配慮、職人の技術など、ダイソーとは異なる付加価値の部分を評価していただいています。特にスタンダードプロダクツは、シンプルなデザインを好む人、サステナビリティに関心のある人など、これまでの取り込めていなかった層の獲得に成功し、店舗数は24年2月末時点で100を達成し、10月には150を超えました。
各々特長が異なりつつ、店頭で買い回りができ、レジは一緒なので利便性が高いです。各ブランド目当てのお客様が買い回りをするので、新たな客層も獲得できたのではないかと思っています。
客層で言うと、スタンダートプロダクツは本当にシンプルなデザインなので、年齢や性別を問わず支持されています。スタンダードプロダクツは一見女性向けのように見えますが、意外と男性のお客様がいらっしゃいます。私達としても、ここまで幅広い層に支持されるとは正直思っていませんでした。
東武池袋店が好調、百貨店と融合したモデルケースへ
――最近は、百貨店への大型店の出店も増えています。
渡邉 マロニエゲート銀座店などによって集客力が評価され、東武百貨店池袋本店への出店(23年2月)につながりました。ここも3ブランド複合で、売場面積はマロニエゲート銀座店の約1.4倍です。売場面積に加えて品揃えも都内最大級で、3ブランド合同展開やディスプレイコーナー、限定商品も揃えました。池袋はサブカルチャーの中心地なので、推し活向けのグッズを集積したコーナーも展開しています。
ここも非常に好調で、売上げは想定を超えて推移しています。オープン当初は列ができるほど人が並び、今も常に店頭が賑わっています。目玉の1つだった推し活グッズも売れていて、フォトスポットで写真を撮る方は多いですし、インフルエンサーの方の取材も受けました。最近は「推し活で一番アイテムが揃ってるのはダイソーだよね」という声もいただいています。
百貨店のお客様も利用しているようで、あまり100円ショップに来ないという年配のお客様がフラっと寄り、品質の良い商品を気に入って買われるというケースもありました。百貨店と100円ショップでは、お客様の層が一見別々のようにも思えますが、東武さんと一緒にやることでうまく融合できたのではと感じています。
東武池袋本店が好調だったため、24年4月に東武宇都宮百貨店宇都宮本店にも3ブランド複合で出店しました。
高品質な上位ブランドと集客効果で、百貨店とウィンウィンに
――ほかには、どのような場所に出店されていますか。
渡邉 大型の複合店としては、福岡三越内の「ラシック福岡天神」(23年4月)、「ビッグカメラ新宿東口店」(24年10月)に出店しました。ビッグカメラ新宿東口店は売場面積が約504坪で、新宿区内で最大です。大型ではないですが、最近ですと和歌山ターミナルビル(24年2月)にスタンダードプロダクツとダイソー、松山三越(24年10月)にダイソーがオープンしました。
――御社にとって、百貨店に出店するメリットは何でしょうか。逆に百貨店にとって御社のメリットは。
渡邉 百貨店には普段ダイソーを使わないお客様もいると思いますので、そうした方に「今ダイソーはこんな取り組みをしているのか」と知っていただく機会になっています。立地も良く、ある程度の面積があれば豊富な品揃えを打ち出せますので、お客様には地元の小型店と使い分けていただくことも可能です。
百貨店にとっては、やはり集客効果が大きいのではないでしょうか。当社の国内店舗の客数は、年間で約11億に上ります。当社の商品は価格ももちろん魅力ですが、アイテム数が多い、いつ来ても新しい商品があるというのも来店動機なので、定期的なリピートにつながります。館にいるお客様の絶対数が上がりますので、他の売場、他フロアとの相乗効果は実感していただいていると思います。
出店が増えているのは、スタンダードプロダクツやスリーピーの影響も大きいと考えます。当社の店舗は国内に4000以上ありますが、2ブランド、3ブランド複合にすることで差異化できますので、複合での出店をご要望いただくことが多いです。100円ショップ系とはいえ「おしゃれ感」や品質、ものづくりのストーリーがあることも、出店を認めていただける理由かもしれません。
百貨店には積極的に出店、都心部では大型店も
――今後の出店戦略についても教えてください。百貨店への出店は拡大していく意向でしょうか。
渡邉 駅前や市街地の中心部という百貨店の立地は非常に魅力的ですし、我々としてはできるだけ広く、3ブランド複合で出たいという考えですので、まだまだ全国各地に出店できる可能性はあると思っています。実際、今はまだ具体的に言えませんが、いくつか百貨店さんと話をさせていただいているところもございます。
都心部でいうと、先ほど述べた東武池袋本店や銀座マロニエゲート、ビックカメラ新宿東口店のような、圧倒的な集客力がある施設に大型店を出したいです。3ブランド複合となると500坪くらいの規模感なので、広い売場面積を持つ百貨店さんとはぜひ一緒にお取り組みできればと思います。
やはり我々の強みというのは圧倒的な集客力ですので、人を呼び込むことで、百貨店の活気や賑わいの一助になると考えております。今後もできるだけ様々な場所に出店していきたいので、ぜひお声がけいただければ幸いです。
(聞き手・都築いづみ)