三越伊勢丹、「個客業」に向け新たな人財戦略
三越伊勢丹ホールディングスは、12月4日に「サステナビリティ説明会」を開き、取締役代表執行役社長CEOの細谷敏幸氏らが、「人」にフォーカスした「個客業」への転換を図るための人材戦略を発表した。これまで社員は館での販売業が中心だったが、グループ企業や外部への出向を積極的に実施。不動産事業や金融事業、飲食事業など複数領域を経験させることでグループの力を最大化していく考えだ。
複数領域を経験する「横の人事」を強化
執行役常務CAO兼CRO兼CHROの金原章氏が人財戦略の内容について説明した。時代の変化を踏まえ、百貨店という「館」と「日本人顧客」中心の旧体制から、「世界中の個客」を中心に据えて個客ニーズを分析する方針へと転換していく。キャリアの道筋はこれまで、売場での販売業務→バイヤー・マネジャー→部⾧・店⾧→経営の流れが主だったが、各事業の専門人財を育てる「縦の人事」と、複数領域を横断経験する「横の人事」を両立させ、イノベーションを起こす人財を増やす。
効率化を進めるために従業員の業務内容や役割も見直し、DXも活用して人数を縮減し、外商セールス・ストアアテンダント・バイヤーが一体となるチームを強化。運営業務は三越伊勢丹グループの人財派遣や研修、ショップの運営代行を担う、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ(以下三越伊勢丹HS)に集約する。
外商データ活用で顧客の満足を追求する「松嶋モデル」
すでに個客業への変革に向けた先行事例がある。1つは情報システム統括部データ戦略部の松嶋徹氏らが開発した「営業支援プログラム」で、これを活用することで売上げの伸長を促進。社内では「松嶋モデル」と呼ばれている。エムアイカードの蓄積データに100人のベテラン外商セールスのデータを掛け合わせたプログラムで、「××の購入者は〇〇も好き。提案すると喜ばれるのでは」といった個客満足につながるヒントをAIが導く。
これにバイヤーや外商員といった人材のアイデアも合わさり、売上げに結び付けている。現在、支援ツールを活用したミーティング(読み解き)を週5回開催。全国で200人以上が活用している。
「かつてはビギナーがベテランのスキルを習得するのに3年はかかると言われたが、すでに1年の下期にはベテランを抜くビギナーも出ている。ここまでの結果は予想していなかった」と松嶋氏は話す。
専門性を生かして人材育成、グループ貢献
もう1つの事例として、前述の三越伊勢丹HS代表取締役社長の五十嵐賢氏が、美容事業店における専門人財活性化の取り組みを説明した。駅ターミナルビルなどで20店舗を展開するコスメセレクトショップ「イセタンミラー」は、数多のブランドの商品比較ができ、美容部員も常駐しているため人気だ。美容部員は個客の商品選びをヘルプする「セレクター」であれと教育される。
化粧品の基礎知識、接客のマナーなども学び、店頭販売を経験した後は百貨店へ出向し、専門性を強化する。同社へ戻ってきた後は外部営業を担い、実績が評価されればショップの立ち上げや運営なども任される。
質疑応答では、グローバル人材や複数領域経験によるイノベーション人材の育成、個客業を意識した人事などに関する質問が複数出た。首脳陣の回答概略は以下。
海外外商セールスでは、おもてなしの力が世界中で高評価され、ラグジュアリーブランドのトップが「GAISHOU(外商)」と日本語で呼ぶほど。現在は語学の堪能な従業員約40人で構成し、販売実績は1人当たり2億円だが、言葉よりおもてなしの心が重要と責任者もいう。今後の人数や目標は特に定めていない。
複数領域経験については、行きたい部署を申告できる制度がある。以前は年間100人弱だったが、今は300人を上回る。マッチングが前提で、部署の上司の考えが重要。また、横の人事で難しい「経営層の人材登用」は、新制度を作る。従業員数は縮減するだろうが、半数以下になることは考えにくい。グループ全体で個客をサポートしていくので、効率的な要員になる。