2024年12月23日

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快進撃を続ける「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」、その理由とは

憩いの場でありイベントスペースにもなっている「芝生のひろば」

コロナが明けて目覚ましい回復をみせ、2022年度(22年4月~23年3月)に続き23年度も過去最高売上高を更新したアウトレットモールがある。「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」(以下、軽井沢PSP)である。

インバウンド需要が売上げ・客数を上振れさせていることに加え、国内外客に向けたイベントも集客と滞留時間の延長に貢献。24年度に入ってもその勢いは衰えず、さらなる快進撃が続きそうだ。そこで西武リアルティソリューションズ軽井沢・プリンスショッピングプラザ総支配人の清水努氏に、イベントやインバウンド、地域連携などを中心に、好調が続いている理由などを聞いた。


軽井沢・プリンスショッピングプラザの清水努支配人

――軽井沢PSPは22年度に541億円、23年度に565億円を売上げ、2期連続で過去最高売上げを更新され、24年度に入っても好調が続いていると聞いています。

今期に入っても勢いが落ちていません。売上げを単月でみると5月は前年を下回ったものの、それ以外の月は前年を上回っており、6月と7月は過去最高になるなど、貯金ができて折り返しに入っています。下半期を前年並みで乗り切れば、3期連続での売上げ更新が可能な状況です。

――好調が続いている理由は何でしょう。

新型コロナ感染症が5類に移行したのが23年5月ですが、私はその約1年前の22年4月に、総支配人として着任しました。まず考えたことは、人々の生活行動が大きく変わっていく中で、コロナ禍収束後に、果たしてどれほどのお客様が私どもの施設に来ていただけるのかということです。軽井沢の自然豊かな地域特性や、リゾートの特徴をより打ち出していくことが不可欠になると考えました。

ですので着任後は、施設内のリソースを利活用して多数のイベントを仕掛けることで、ショッピング以外でも満足いただき「また来たい」と思ってもらえる施設を目指すことにしました。

22年度は新しいイベントを加え、既存イベントをブラッシュアップしました。アウトドアからスポーツ、音楽・カルチャー系、食など様々なジャンルに広げ、毎週のように仕掛けました。23年度からは、22年度に一気に増やしたイベントを動員力のあるイベントに絞り込んで展開。結果、軽井沢ならではの楽しさを味わえる、「芝生のひろば」や「池」の周りを利用したイベントへの支持が高いことが分かりました。

――どのようなイベントが人気ですか。

まず挙げられるのは、22年度から当社とカルチュア・コンビニエンス・クラブとが共同開催している、自動車のイベント「軽井沢モーターギャザリング」です。芝生のひろばにEV(電気自動車)からヘリテージカー、キャンピングカー、お客様の愛車も含めて一堂に会してカーライフを体験できるイベントとなっています。軽井沢PSPには車でお越しになるお客様は7~8割で、車に関心ある方が多いこともあり、支持されるイベントに成長しつつあります。

ほかにも、芝生のひろばで熱気球に搭乗したり気球を横向きに膨らませてその中に入ったりできるイベントも、お子様連れのファミリーに人気があります。また今夏は、グランピングや野外シネマイベントを開催しました。「グラスシネマサイト」と題した野外シネマは、芝生のひろばに大型ビジョンを据え、お客様は椅子に座ったり、ラグマットに寝転がったりして映画鑑賞ができます。このグラスシネマサイトは夜の滞留につながりました。

今夏に開催した野外シネマイベント「グラスシネマサイト」

一方で冬場については、家族で雪遊びやパフォーマンスが楽しめる「KARUIZAWA SNOW FESTA」が貢献しました。ガーデンモール、ツリーモール、芝生のひろば、イーストエリアなどに設置するイルミネーションを通年展開したことも、夜間や冬場の滞留時間に貢献しています。

――軽井沢というと避暑地としてのイメージが強いですが、厳冬となる冬場は夏場と比べて動員はいかがでしょう。

軽井沢の冬も魅力的ですが、夏場には集客が及びません。当施設でも上期と下期で売上げ・客数に格差があり、冬場は取り切れていないのが実情でした。しかしコロナ明けはインバウンドによってその流れが変わりました。雪を絡めた冬のイベント攻勢やイルミネーション通年化などによる効果もありますが、夏場はもちろんのこと、インバウンドが冬場を強くしている要因の1つです。

新型コロナウイルスが5類に移行した23年5月から訪日外国人旅行客数が増加に転じ、23年度はコロナ前の19年度比で約3割アップ、売上げは全体の約16%を占めました。今年の1月~6月においてもインバウンドは19年度対比で56%も売上げが増え、インバウンドの売上げ構成比も同6.3ポイント上がりました。

その勢いは下半期に入っても衰えず、雪への憧れが強い台湾や中国、タイといったアジアからの訪日外国人が冬場も訪れ、夏場と冬場の格差がかなり解消されてきました。かつてはテナント様から「夏場は好調でも、冬場はあまり」と冬の弱さを指摘されたりしていましたが、冬を気にせずに出店いただけるようになってきました。

冬期は「KARUIZAWA SNOW FESTA」などを開催している

――訪日外国人を誘致するためにどのような施策を講じていますか。

インフルエンサーによる海外に向けたYouTubeでの発信や、軽井沢PSPに足を運んでいただいた訪日外国人に向けた「対面型翻訳機による対話サービス」と「海外配送サービス」を始めています。インフォメーションセンターの窓口に設置した対面型翻訳機による対話サービスは、英語をはじめ中国語、タイ語など12言語に対応。話した内容がリアルタイムで透明ディスプレイに表示され、お客様の顔を見ながら自然な会話が可能です。インフォメーション担当者からはこの翻訳機が後ろ盾となり、「外国のお客様にも自信をもって対応できるようになった」と言われます。

海外配送サービスは、施設内で購入された商品を120カ国へ配送できるサービスです。お客様は商品購入後、それぞれの店舗で提示されるQRコードを読み取り、必要事項を入力することで買上げ商品を海外の自宅まで送ることができます。これによって快適に旅行やショッピングを楽しんでいただけます。

――最近、アウトレットはイベントだけでなく行政や生産者、学校など地域との連携を強めているようですが、軽井沢PSPではどうですか。

まちとの連携は常々考えており、私自身、軽井沢町の観光協会の理事を仰せつかっています。軽井沢のまちにお住まいの方や別荘にお住いの方とがどうコミュニケーションづくりしていけばいいのか、軽井沢の町をどうしたら楽しく回遊していただけるか。当施設にお越しになったお客様に街のお店や施設を認知していただくために、どのように連携していくかなどを議論しており、当施設としても地域とつながる取り組みに注力しています。

その連携の大きなトピックスとして、23年4月に当施設に隣接する軽井沢プリンスホテルで「G7長野県軽井沢外務大臣会合」がありました。この会合に伴い当施設は期間中(4月16日~18日)を臨時休業としました。当施設の駐車場で式典が執り行われるにあたり、期間中は駅周辺一体が交通規制され厳重な警備体制が取られましたが、無事終えることができ、地域の一員として貢献できたことを大変うれしく思います。

――3日間全面的に休業されたんですか、大変でしたね。

通常でも地域と連携した取り組みは多くありますが、特に軽井沢町と軽井沢観光協会との協業に力を入れています。例えば、軽井沢観光協会が立ち上げた「軽井沢ドッグツーリズム推進プロジェクト」では、観光協会並びにペッツオーライ株式会社と連携して、軽井沢の町や当施設でアプリ「ワンパス」を利用できるようにしました。ワンパスとは、ペットとの旅行やショッピングをサポートするアプリで、ペッツオーライ社が展開しています。ワンパスを通じて、愛犬と入れるお店や愛犬と同伴可能なカフェなどが分かります。

もう1つは、軽井沢町が生成AIを介した実証実験を進めている観光情報提供サービス「軽井沢 AI Navi」があります。これは軽井沢の観光について案内してくれるサービスで、例えば軽井沢においしいそば屋さんがどこにあるかを尋ねるとAIが自動的に答えてくれます。このAI Naviについては当施設のホームページに取り上げて紹介しています。そのほかにも軽井沢の街中でなかなかタクシーが捕まえられない課題解決に向けて、タクシーを呼べるアプリも開始しており、当施設でも発信する場を提供しています。

――行政以外の取り組みでは何がありますか。

今夏は軽井沢ブルワリー、南信州ビール、北アルプスブルワリーなど信州でクラフトビールを製造する11社のブルワリーが出店する「信州クラフトビールフェスタ」を開催し、ワインについても地元ワイナリーが集まるワインの試飲販売会を春と秋に開催しました。今秋のハロウィンイベントでは「軽井沢アートリンク at ハロウィン」と題し、SDGsをテーマに、ハロウィンイベントに絡めて地元の障がい者アーティストの皆さんとコラボして館内を装飾していただきました。

その他にも軽井沢町のカーリングチームや長野県のバスケットチーム、女子バレーボールチームの選手に来ていただいてお子様とプレーをしたりゲームをしたりするイベントも開催しています。

――最後に今後の意気込みをお願いします。

これからもお客様に「また来たいね」と言っていただけるように、環境整備と地域連携を積極的に推進していきます。引き続き、軽井沢の魅力を存分に生かしたイベントを継続的に開催し、好調を維持した状態で来年の開業30周年を迎えたいと思っています。

(塚井明彦)