高気温が続く秋冬でも三陽商会の「TO BE CHIC」が好調なワケ
長引く暑さによって百貨店の衣料品は苦戦しているが、そんな中でも好調なのが三陽商会の婦人ブランド「TO BE CHIC(トゥー ビー シック)」だ。特に市場も厳しかった10月も売上高が前年比116%と大きく伸長し、ヒットアイテム「3WAYタフタ ダウンコート」は想定の倍以上売れている。その理由を、事業統轄本部事業本部婦人服ビジネス部トゥー ビー シック企画課の吉鶴八雄課長に尋ねた。
ブラウス・カットソー、ライトアウターの拡充が奏功
TO BE CHICは2003年に誕生したブランドで、「永遠のLadyStyle」をテーマに、大人のスウィートエレガンスを表現している。“大人可愛い”が好きな客から支持され、客層は40代~50代を中心に、下は30代以下まで幅広い。
好調な要因の1つは、酷暑や暖冬を見据えたMDカレンダーだ。三陽商会はコートを強みとしているが、近年は猛暑や暖冬の影響を受け、とりわけ昨年は不振だった。これを踏まえて今年は、ブラウスとカットソーの生産量をそれぞれ前年比1.5倍に増加。逆にニットは0.8倍に抑え、例年はニットを売り出す9月にブラウスとカットソーを展開した。
結果、ブラウスとカットソーは11月中旬まで売上げをけん引。吉鶴氏は「さすがに11月まで売れ続けるのは予想以上だったが、うまく実需とかみ合った」と語る。「カットソーは在庫が少し足りなかった」ほどだという。
読めない気候変動でも使えるコートとしてヒットしているのが、「3WAYタフタ ダウンコート」(11万円、Lサイズ12万1000円)だ。同社の全社横断プロジェクト「商品開発委員会」から生まれたアイテムで、ファー付きダウンベストとノーカラーコートがセットになっている。ダウンベストやコート単品だと秋や春先にも着られるため、長期間着回しができる。
こうした機能性が受け、10月1日の発売以降、売行きは好調。11月末までの2カ月間で想定の倍以上が売れ、同ブランドのコートとしては極めて異例の追加発注も行った。コートの肩や袖のギャザー、ダウンの裾のフリルなど、さりげなく“可愛さ”を盛り込んでおり、それも人気の理由となっている。
ジャケットよりは厚手で、コートよりは薄手の「ジャケット以上コート未満」のアウターも充実させた。こうしたアウターは以前から展開していたが、例年は2~3型のところを、今年は5型を用意。取り外し可能なフリルとパール調ボタンが甘い雰囲気の「ブークレフリル ボレロ」(4万9500円)などが売れている。
今季はかなり思い切ったMD変更を行ったが、それが気候に合致し、売上げの伸長につながった。12月以降はダウンジャケットやウールコートをメインに打ち出しつつ、引き続きライトアウターも揃え、臨機応変に対応していく構えだ。
上顧客受注会で、顧客のロイヤルティが上昇
8月に行った上顧客受注会も売上げを押し上げた。上顧客受注会はコロナ禍を機に一度途絶え、今回久々の開催となった。複数ブランドの合同としては初の開催で、同社の会員プログラム「サンヨー・メンバーシップ」で購入額上位の顧客を招待。秋冬商品の予約を受け付けた。
会場は装飾などで特別な雰囲気を演出し、限定商品やケータリングなどを用意。通常の店舗とは異なる環境を設え、デザイナーや企画担当者も接客にあたったため、会場は大いに盛り上がった。TO BE CHICは約30人を招待したが、1人あたり平均で数十万、中には100万円超を予約注文する客がいた。
吉鶴氏は「企画チームとお客様がお話しし、商品説明をしながらの接客だったため、納得して注文していただけた」と要因を述べる。上位顧客なだけあってブランドへの愛が強く、「15年前のあの商品が良かった、また出してほしい」と言う客や、10年前に発売したワンピースを着て来場する客もいた。
ブランド側にとっても顧客の生の声を聞けたメリットは大きく、今後に生かしていく考え。多かった「昔の服をまた出してほしい」という要望には、今風にアレンジして発売することを検討しているという。
「可愛い」トレンドの流れも追い風か
ファッショントレンドの変化も、密かな追い風となっている。一時期世を席巻していたエフォートレスなスタイルは落ち着き、最近は「可愛い系のアイテムが市場に増えている」(吉鶴氏)。ファッションは多様化が進んでいるが、それでも大きなトレンドの潮流が“可愛い”に傾けば、さらなる上昇気流に乗ることが期待できそうだ。