2024年12月05日

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SCとシネコンの歴史 今は「野外シネマ」がトレンドに

ショッピングセンターのシネコン人気は根強い。最近は「野外シネマ」イベントの人気も高まっている

ショッピングセンター(SC)にとって、シネコンのメリットは大きい。特に90年代前半の大店法規制緩和で相次いで開発された大型SCでは、広域商圏からの集客装置としてシネコン併設でのオープンが目立った。シネコン側にとっても観客動員につながることから、両者の蜜月が続いてきた。本記事では、その歴史について振り返っていく。

1993年にスタート、30年で1533スクリーンへ

一般社団法人日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)が、2003年の協会設立30周年に、月刊SC専門誌「URERU」(現SC JAPAN TODAY)に「データで見る、日本のSC像 SCなんでもランキング」を記念特集した。

シネマコンプレック((以下シネコン)を併設したSCが取り上げられていて、1993年4月に、神奈川県の「海老名サティ」に「ワーナー・マイカル・シネマズ海老名(現イオンシネマ海老名)」が、日本初のシネコンとしてオープンしていた。それからおよそ10年経った03年11月時点で、国内に167のシネコンがオープン。その73%にあたる122館は、SCに併設されたシネコンだという。ちなみに、一般社団法人日本映画製作者連盟の調査によると、03年のスクリーン数2681のうち、シネコンは1533となっている。

同特集にはシネマコンプレックス導入SC一覧が掲載されている。関東地区で一番多く導入されているのは神奈川県で、以下の通りとなる。

横浜ワールドポーターズ(ワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい)、マイカル本牧(マイカル松竹シネマズ本牧)、港北東急百貨店SC(109シネマズ港北)、チッタデッラ(川崎チネチッタ)、ダイス(TOHOシネマズ川崎)、新百合ヶ丘サティ・ビブレ(ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘)、つきみ野サティ(ワーナー・マイカル・シネマズつきみ野)、ビナウォーク(ヴァージンシネマズ海老名)、海老名サティ(ワーナ・マイカル・シネマズ海老名)、茅ヶ崎サティ(ワーナー・マイカル・シネマズ茅ケ崎)、OSC湘南シティ(シネプレックス8平塚)、ショッパーズプラザ横須賀(横須賀HUMAXシネマズ8)、ダイナシティウォーク(ヴァージンシネマズ小田原)。

日本映画界の活性化に貢献したシネコン

シネコンの広がりは先細りにあった日本の映画界を活性化させた。日本映画製作者連盟が発表している「日本映画産業統計」によると、77年から続いていた映画館数の減少が、94年から18年ぶりに増加に転じ、2001年には年間観客動員数が15年ぶりに1億6000万人台に回復。さらに16年には42年ぶりに1億8000万人台に増加と、シネコン効果が出ている。シネコンの増加はその後も続き、00年には映画館数2524館の約45%の1123スクリーン、23年には3653館の90%近い3244スクリーンをシネコンが占めるまでになった。

ちなみに、シネコンを展開している映画会社の劇場数とスクリーン数は、次の通り。イオンシネマを展開するイオンエンターテインメントが96劇場・821スクリーン(24年3月時点)、TOHOシネマズが75劇場・705スクリーン(共同経営サイト56スクリーン含む)、ローソン・ユナイテッドシネマが44劇場・410スクリーン(運営受託含む、24年4月時点)、109シネマズを展開している東急レクリエーションが21劇場193スクリーン(24年7月時点)、ティ・ジョイが23劇場・230スクリーン(共同経営・共同運営含む)。

国内シネコン第1号とのワーナー・マイカル・シネマズ海老名がオープンしてから30年以上を経過し、出店が鈍ったとはいえ、シネコンを併設しているSCにとっては今もシネコン効果が出ている。

「私どもの二子玉川ライズS.C.には日本一の強さをもつものが幾つかあり、シネコンはその一つ」と語るのは東急モールズデベロップメント第二事業本部二子玉川ライズグループ長 総支配人の田中利行氏。テラスマーケットの3~4階には、10スクリーン・1665席の109シネマズ二子玉川がある。

「駅改札を出て、歩行者専用通路のリボンストリートを車に妨げられることなく歩いてシネコンにたどり着ける、アクセスの良さがある。観客動員力も抜群で、『ドラえもん』の興行収入は全国1位。加えて映画鑑賞前後にタウンフロントなどの約170店舗からなるショッピングセンターの物販店や飲食店に立ち寄られるケースが多くみられる」(田中支配人)。

さいたま新都心駅前の大規模商業施設「コクーンシティ」のシネコンも強い。「コクーン1」に「MOVIXさいたま」が併設オープンして30年になる。12スクリーン・約2500席の埼玉県内最大級だ。オープン当時は周りにシネコンが少なかった。今はシネコンを搭載した大型SCが周囲に進出してはいるものの、コロナ禍の影響を受けた期間を除けば勢いは落ちておらず、近年ヒットした「翔んで埼玉」は、顧客動員数で全国1位を記録した。

横浜「MARK IS みなとみらい」大規模改装の目玉「ローソン・ユナイテッド STYLE-S みなとみらい」

商業施設や飲食店とウィンウィンの関係に

24年度上期の施設来館者数が11.8%増加したのは、横浜の「MARK IS みなとみらい」。大規模改装の目玉として24年4月に大型シネマコンプレックス「ローソン・ユナイテッド STYLE-S みなとみらい」がオープンした。三菱地所プロパティマネジメントMARK IS みなとみらい館長の菊田徳昭氏は「足元商圏の近隣居住者が増え、来館頻度と買い上げ店舗数がアップした。これは、改装で一新した食品館 まいにちマルシェの効果。就業者の来館が増え、滞留時間が延び、買い上げ店舗数が増えたのはシネコン効果による」という。

菊田館長は「映画鑑賞で来館される人には、その前後に食事や買い物されるケースが多くみられる。特に朝9時からの早朝上映を見られる方は、朝7時から開いている館内のカフェでモーニングを、観賞後はランチで利用される。20時以降のレイトショーでは、館内の飲食店が23時まで開いているのでディナーの利用が多くみられる。シネコンができたことで飲食店の席の稼働が1回転増え、平日の売上げを底上げしている」とシネコン効果を分析する。

上映作品には、大きな興行収入を挙げたヒット作も複数ある。最近では「アナと雪の女王」「君の名は」「鬼減の刃 無限列車編」「トップガン マーヴェリック」など。もちろん観客動員数もアップするので、SCにも大きな跳ね返りがくる。

ただし、最近はヒット作がなかなか出にくく、SC、シネコン共に、開業テンポが鈍ってきてはいる。SC協会が発表している年間にオープンするSC数は、19年から減少傾向にある。ここ3年は、35施設前後に留まっているうえに、シネコンを併設できる店舗面積5万㎡規模の大型SCの出店も減少。この現状に対応して、シネコンを運営する各映画会社は、最新鋭設備の導入や、スポーツ・音楽のライブビューイングを上映するなど、映画作品以外のコンテンツを加えたりして、エンターテインメント性を強めている。

観客が没入体験できる新鋭設備の導入が進む

そんな環境下でも、今年は3つのSCに大型シネコンがオープンした。前述のローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらいは、12スクリーン・約1050席。MARK IS みなとみらいにある。

7月に、相鉄いずみ野線・ゆめが丘駅前に開業した、相鉄グループの大規模商業施設「ゆめが丘ソラトス」の「109シネマズゆめが丘」はエリア最大級。10スクリーン・約1300席だ。

そして9月には、西武鉄道所沢車両工場跡地などに開発された広域集客型商業施設「エミテラス所沢」に、12スクリーン・1872席の「T・ジョイ エミテラス所沢」がオープンした。

これらのシネコンは、映像、音響、シートなどに最新鋭の設備を備え、没入体験ができるのが特徴だ。

まず、ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-Sは、全席全スクリーン、没入型音響システム「フレックスサウンド」を導入。椅子に、音と振動を発生させるスピーカーが内蔵されており、枕や背もたれから発する音と振動を身体全体で感じながら、臨場感ある鑑賞ができる。

109シネマズゆめが丘は、エリア最大級の「IMAX」と国内最大級の最新スペック版「ScreenX」が売り。ScreenXは、正面スクリーンと左右の壁面に映像が投影される「3面ワイドビューシアター」だ。

T・ジョイ エミテラスは、「IMAXレーザー」と3面マルチプロジェクション「ScreenX」と立体音響技術による「ドルビーアトモス」を導入。これまでにないリアルなサウンドでシアター内を満たす。音が空間内を縦横無尽に移動するので、まるで作品の中に入り込んだような感覚にひたれる。

誘致したシネコン任せにせず、映画会社や配給会社などと組んで新しい仕掛けをする商業施設も出てきた。MARK IS みなとみらいはその一つ。

今年4月にシネコンをオープンしてから、ハリーポッターの全作品やスターウォーズのエピソードシリーズ全作品を上映したのをはじめ、「クラウド」の全国公開に合わせ、タイアップキャンペーンを組み、館内で没入型ミステリーゲームを開催。

11月にはプロサッカー・横浜FCのパブリックビューイングも。現在は、横浜ランドマークなどと共同で、クリスマスからニューイヤーを盛り上げるイベントを展開中。ウォルト・ディズニー・ジャパンの協力で、アナと雪の女王をイメージしたイルミネーションツリーが登場。さらに映画館との仕掛けでは12月6日公開の「モアナと伝説の海2」、20日公開の「ライオン・キング:ムファサ」とのプロモーションも予定。商業施設単独ではできないようなイベントを連発している。

商業施設での「野外シネマ」が人気上昇中

今夏以降、全国各地でシネコンでなく、商業施設内の広場などで「野外シネマ」が開催されて人気を呼んでいる。コロナ禍で長期にわたって営業自粛を強いられたが、野外シネマは「密」をあまり気にせず、芝生に座ったり寝転んで見られるので、シネコンを併設している商業施設でも盛んになってきた。

例えば大阪府泉佐野市では、関西空港対岸にある、シーサイドアウトレット「りんくうプレミアム・アウトレット」。10月12日の18時から、海を望む約2万㎡の広大な芝生広場・シーサイドパークで「りんくう海辺の映画館」が開かれた。夕陽が見られるロケーションで、当日は天候に恵まれ、来場予想300人を上回る約500人が訪れた。シートの持ち込みや飲食自由、会話・掛け声OKといった野外映画ならではの楽しみ方も受けたようで、家族連れも多くみられたという。

事後アンケートでは、98%の来場者が「次回も参加したい」と回答。「家族みんなで楽しめた」「きれいな夕陽が見られ、上映前後も楽しめた」「声を出してもOKで、子供と一緒に安心して楽しめた」といった声が寄せられた。

長野県の軽井沢でも、野外シネマイベント「グラスサイトシネマ」が、お盆の8月17日・18日に、リゾート型ショッピングモール「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」で開催された。涼を求める観光客が多く訪れ、来場客数(レジ客数)は約50万人で、前年比(8月11日~20日)は1日平均で12.3%増、売上げは同17.4%増となった。

「トップガン マーヴェリック」「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」「SING」など4作品上映された。会場のガーデンモール芝生の広場には、グランピング風の椅子や寝転がって鑑賞できるラグマットが用意され、子供から大人まで自然を感じながらリラックスして楽しんだ。

軽井沢・プリンスショッピングプラザは「今回のグラスサイトシネマは滞留時間延長に有効だった」という。夜の時間帯の滞留時間を延ばしたい考えから、冬場だけだったイルミネーションの通年開催も実施している。

各地で、需要が高まっている「野外シネマ」

都内でも活況を呈している「野外シネマ」

9月13日~15日、立飛ストラテジーラボが運営する、JR立川駅近くの複合施設「GREEN SPRINGS」で、無料野外シアターイベント「Green Night CINEMA」が開催された。2階パブリックスクエアの緑広がる開放的な芝生広場に座り、巨大スクリーンに投影される映画を鑑賞。上映作品は13日が「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」、14日が「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」、15日が「チャーリーとチョコレート工場」だった。

都心の「麻布台ヒルズ」の秋イベント「AUTUMN AT THE GREENN」でも、10月26~27日に、中央広場を会場にして参加費無料で、初の屋外映画鑑賞会「ボタニカル シネマナイト」が開催された。麻布台ヒルズは緑化面積2.4ヘクタール、約320種類の植物が生育する。26日は「ビッグ・フィッシュ」、27日は「ムーンライズ・キングダム」が上映された。

「恵比寿ガーデンプレイス」「二子玉川ライズ」「ビナウォーク」「三井ショッピングパーク ララガーデン春日部」は、シネコン併設しているが野外シネマを開いたSCだ。

「YEBISU GARDEN CINEMA」がある恵比寿ガーデンプレイスでは、野外シネマと人気レストランの味が楽しめるイベント「FOODIES PICNIC」毎年初夏に開催している。今夏は、6月7日~7月15日に開催した。期間中は、時計広場にフードテラスが設けられ、ガーデンプレイス内のレストランが週替わりで出店。野外シネマでは約300㎡の人工芝があるセンター広場に、280インチ(縦3.6m×横6.3m)のスクリーンが設置され、19作品が上映された。

「109シネマズ二子玉川」がある二子玉川ライズは、ルーフガーデン5階の原っぱ広場で、野外映画館「原っぱシネマ」を開催。今年は9月14~15日の週末開催。人気があり抽選制で、定員は各日最大180人。

「TOHOシネマズ海老名」を併設するビナウォークでは、10月6日に「ねぶくろシネマ」を開催。海老名中央公園ビナウォーク5番館壁面に『えんとつの町のプペル』が映写された。

「ユナイテッド・シネマ春日部」を併設しているララガーデン春日部の「ナイトシネマ上映会」は、9月14日~16日と21日~23日に開催。1階プラザ人工芝エリアで、屋外の開放感に浸りながら無料観賞。上映作品は、14日が「ボス・ベイビー」、15日が「ミニオンズフィーバー」、16日が「ペット」、21日が「SING/シング」、22日が「劇場版おさるのジヨージ」、23日が「ペット2」である。

施設単独でなく、エリアで取り組む「野外シネマ」も

商業施設単独でなくエリアを挙げて取り組んでいるところもある。今秋、日比谷・大手町・丸の内・有楽町エリアで映画祭が開かれた。

東京ミッドタウンと一般社団法人日比谷エリアマネジメント主催の「日比谷シネマフェスティバル2024」は、今年7回目。メイン会場は、東京ミッドタウン日比谷の日比谷ステップ広場で、10月11日から13日間にわたって、昼と夜合わせて数々の名作が屋外ビジョンに上映された。例えば、10月21日15時からのデイスクリーンでは「スタンド・バイ・ミー」、18時30分からのナイトスクリーンでは「バカ塗りの娘」が上映された。この日は夜になっても暖かいこともあってナイトスクリーンも満席だった。

「ながらシネマ」がテーマで、大型LEDビジョンの前にリラックスダイニングチェアや寝転んで見られるYogiboが置かれ、階段を合わせた座席数は約160。入場無料・入退席自由である。

20年からスタートした「大丸有SDGs映画祭」は、SDGsの17の目標と関連したテーマの映画を取り上げる。今年は、9月27日~10月24日開催され、会場は、丸の内二重橋ビル内のDMO東京丸の内や、丸の内ビルにある丸ビルホール、マルキューブなどのイベントスペースやインキュベーションオフィスなどをミニシアターとして活用。SDGsの目標の背景にある世界の課題の実情やその解決のヒントなどを映画とトークで考える。5年目となる今年は、紛争やダイバーシティ、気候変動など、社会課題となる長編映画9作品が上映された。

横浜みなとみらい地区の「SEASIDE CINEMA」は、ゴールデンウィークに開かれる日本最大級のシネマフェスティバル。今年は4月30日~5月6日に、横浜ベイクォーター、横浜ハンマーヘッド、MARINE & WALK YOKOHAMAなどの6施設が会場で。

パシフィコ横浜以外の5会場は、野外での上映だ。横浜赤レンガ倉庫だと、赤レンガパークでみなとみらいの夜景を望みながら。海に一番近いMARINE & WALK YOKOHAMAは、夜景と波の音を感じる海辺のロケーション。横浜ワールドポーターズは、開放的な屋上がシアター会場だ。

二子玉川では、一般社団法人キネコ・フィルム主催の「第31回キネコ国際映画祭」が長く続いている。二子玉川ライズ、玉川髙島屋SC、二子玉川公園などを中心に開かれ、街一帯が映画館のようになる。今年は10月31日~11月5日に「PLAY and PLAY for Peace~せかいからあらそいがなくなりますように~」をテーマに開催。コンペティション上映には全世界23カ国からの60作品が登場。海外作品の上映では、スクリーン横で声優による生吹替えを一部作品で実施。映画館に行くのが難しい入院中の子供達に、オンラインで映画を鑑賞できる試みも行った。

映画上映やそれに連動したイベント、フェアはその場でしか体験できない“コト・トキ消費”であり、強力な来館動機となる。SCとシネコンの蜜月は今後も続き、とりわけ映画鑑賞の体験をいかに充実させるかが発展のカギとなりそうだ。

2018年以降に大型施設に併設してオープンした主なシネマコンプレックスはこちら(クリックすると表が開きます)

(塚井明彦)