2024年11月22日

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顧客接点の拡大や品揃えの充実で、イエナカ需要取り込みへ 寝装・寝具特集

コロナ禍による旺盛な「イエナカ需要」を取り込むため、百貨店の寝具売場はデジタルツールを通じた顧客接点の拡大や、機能性が高く上質な商品を増やすといった施策を講じる。大丸東京店は大丸松坂屋百貨店のインターネット通販(EC)サイトでの寝具の取り扱いを始め、外商顧客を対象にビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を用いたオンライン接客にも着手。そごう横浜店は、ニーズが高まっている保温性の高い寝具で高価なものを揃え、売場の魅力を磨くと同時に単価アップを狙う。外出自粛によって家で過ごす時間が増えた結果、イエナカ環境を充実させようという機運が目立ち、百貨店の寝装・寝具の売上げは堅調な推移を遂げている。この好機を生かすため、各店は最善を尽くす。


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家で過ごす時間への関心が高まり、売上げ好調

そごう横浜店では、体圧を分散できる健康寝具の人気が上昇中だ

寝具市場はコロナ禍においても好調だ。矢野経済研究所は今年8~10月に国内のホームファッション市場を調査し、今年の小売市場規模を前年比1.4%増の3兆3845億円と予想した。さらに「巣ごもり消費を捉えて販売が好調になった企業も多い。特に『ホームファニチュア』、『寝具』、『キッチンツール』などを展開する企業は軒並み好調となった」と述べている。

大丸東京店では外出自粛の緩和ムードの高まりに合わせ、秋頃から徐々に客数が増加。西川の「エアー」などが人気を博し、10月の寝具の売上げは前年比24.6%プラスだった。昨年10月は消費増税の駆け込み需要の反動があり、売上げは低調だったことも要因として挙げられるが、アパレルをはじめとする他のカテゴリーが軒並み苦戦していることを考慮すると、健闘といえる状況だ。

中でも、今まで比較的少なかった20~30代の客の姿が多く目立った。「今までは外でアクティブに活動していたため、家は寝るための場所だった方が、テレワークや外出自粛によって家にいる時間が増えた。『それならば』ということで、今までより高品質な寝具をお買い求めに来るお客様が増えたようだ」と大丸東京店リビング担当の吉田圭佑氏は理由を分析する。

そごう横浜店もイエナカ需要の高まりを感じているという。来店客数自体はコロナ前に比べて減っているものの、6~8月の店舗全体の買上げ客数に対し、寝具売場のそれは約20ポイント高く、他のカテゴリーより回復傾向にある。また、買上げ率や単価は前年同時期に比べて上昇した。これは「密を避けることが推奨される状況下で店舗まで訪れるお客様は、購買意欲の強い方が多い」(そごう横浜店営業Ⅱ部インテリア雑貨担当担当課長小麦崎諒氏)ためだ。

「この機会に寝具を見直そう」という考えの客が多く、とりわけシーツや布団カバーの売上高(6~8月)は前年比2桁増で推移。経年で嵩の減った羽毛布団をメンテナンスする、打ち直し(リフレッシュ加工)のオーダーも増えた。テレワークの普及によって家で寝る時間が増えたため、睡眠時の悩みが解消できるような健康寝具、西川の「エアー」や昭和西川の「ムアツ」などの人気も高まっている。

 

ECサイトやオンライン接客を活用する大丸東京店

大丸東京店の寝具売場。デジタルツールの活用は店舗へ来訪するきっかけにもなっている

寝具に対するニーズは高まりをみせているものの、生活様式の変化によって店頭への来店客数は減少が続き、ボトルネックとなっている。そこで大丸東京店はECサイトへの商品の掲載や、ズームを活用したオンライン接客を始め、客との接点確保に努める。大丸東京店は営業自粛明けの5月下旬から、「大丸松坂屋オンラインショッピング」への商品の掲載を始めた。まずは人気の高い商品に絞り、季節柄ニーズの高いタオルケットや枕を登録。その後は寒くなるにつれて暖かいダウンの布団などを増やした。11月13日時点で約20種類を擁する。

これは4~5月の臨時休業期間がきっかけとなった。以前はECサイトにおける寝具の取り扱いはほぼ無かったため、店舗を閉じてしまえば商品を売る機会がなくなってしまう。ECサイトを新たな販路とするため、商品の登録を開始した。ECサイトで買える旨は大丸松坂屋アプリ内にある「ショップブログ」で告知するなどして認知度を高め、じわじわと売上げを伸ばしている。

今後はさらに、取り扱い商品を充実させる。しかし、ただ数を増やすわけではない。「むやみに増やしてしまうと、ECサイトという特性もあり、お客様が選びにくくなってしまう。どういうものが求められているのか、ということを意識して魅力ある商品をセレクトする」(吉田氏)意向だ。例えば今の季節であれば、温かく、かつ軽くて薄いといった機能性の高い商品の投入を予定する。

9月にはエアウィーヴの「スリープカウンセラー」がズームを通じて外商顧客にコンサルティングするサービスを始めた。直接会わないため客の安全が確保できるというだけでなく、客の寝室を見てアドバイスができるというメリットもある。顧客からは概ね好評で、購入を決めた客もいれば、その後店頭へ訪れ、最終的に商品を試して買う客もいるという。店頭で試すケースでも、先に落ち着いた環境で専門家と話しながら商品の候補を絞り込めるため、店頭での接客時間の短縮になり、安全な買い物環境づくりへと繋がる。

こうした外商顧客向けのサービスは拡大を検討する。「様々なブランドを比較検討したいというニーズもある」(吉田氏)ため、他の取引先にも、ビデオ会議システムを活用したサービスができないか打診し、検討を重ねている。

 

「温活」や衛生意識に着目 そごう横浜店

そごう横浜店は衛生に対する意識の高まりから、ロフテーの中まで洗える枕を揃える

そごう横浜店は、未だコロナ禍の収束の目途が立たない現状では来店客数の増加を見込めないと考え、単価と買上げ率の上昇を目指す。単価上昇のための施策として、消費者の関心が寄せられ、かつ高品質な商品を訴求する。通説として「体温と免疫力には関連があり、体温が上がると免疫力も上がる」と言われており、新型コロナの感染拡大によって「温活」が注目されている。そこに着目し、今秋から西川の「ローズテクニー」や「ドクターセラ」の拡販を進める。

どちらも体を温める効果が優れているブランドで、医療機器が付いているものは取り扱いに免許が必要なため、付いていないものを取り扱う。9月8日~23日には店頭で「温活フェア」を開催したが、単価が10万円を超えるなど非常に高いため、外商顧客を主なターゲットとして購買を促進。高額にもかかわらず、特に「ローズテクニー」の売行きは好調だ。

そのほか、消費者の衛生に対する意識が高まったことから、中わたまで洗える枕の取り扱いを9月に開始。ロフテーの「パピヨン」シリーズの新しい枕は中わたがポリエステル製のため、洗うことができる。

客の需要に応じた商品を揃えると同時に、来店客を購買に繋げる〝きっかけ〟となるような企画を行う。10月6日~16日には羽毛布団の打ち直しの価格をディスカウントする「リフレッシュキャンペーン」、羽毛布団を下取りし、新たに購入すると3000円オフする「グリーンダウンキャンペーン」を実施した。

実際に打ち直しや下取りをしたい客が利用することで購買に結び付くが、それだけでなく、こうしたキャンペーンを店頭で行うことで、売場を通りかかった人が足を止めるきっかけにもなる。そこで「羽毛布団は段々ボリュームが減っていくので、定期的な打ち直しが必要ですよ」、「10年程度が買い替えのタイミングですよ」などと説明することで、潜在的なニーズの掘り起こしにもなる。「イベントによって集客するのが難しい現状では、訪れたお客様が足を止めてもらうような仕掛けをつくることで、買上げ率を上げていきたい」(小麦崎氏)。

 

接客レベルを上げ、店舗ならではの強みを堅持

このような施策によって買上げ率や単価の向上を目指しているが、他方で小麦崎氏はコンサルティングのサービスレベルの向上を長期的な課題として挙げる。これは「コロナ禍によって、買い物イコールECサイトと思ってしまうのではないか」という危機感があるからだ。実際に緊急事態宣言下の外出自粛期間によって、アマゾンをはじめとするECサイトの利用は飛躍的に伸びた。昨今ではリアル店舗を持たないD2Cブランドも台頭している。

商品を試せ、豊富な知識を持つ販売員のアドバイスを受けられるのはECサイトにはない店舗の強みである。そごう横浜店は販売員同士のノウハウの共有や、取引先との連携を強化する意向で、西川の「スリープアドバイザー」などメーカーが運営する専門資格の取得も検討している。

大丸東京店も、ECサイトやオンライン接客といったデジタルツールを活用するだけでなく、売場の魅力向上も重視する。「やはり寝具という商品の特性上、実際に試したいというニーズが高い」(吉田氏)ためだ。中でも首や腰に悩みを持つ客は「すぐに改善したい」という気持ちが強く、店頭で購入した後に配送ではなく自身で持って帰る人もいるという。そうした客のニーズに応えるため、販売員への教育を充実させたり、商品をより見やすくするためのディスプレイを工夫したりする。

ニュー・ノーマルに対応するには新しいサービスや商品の導入が不可欠だが、寝具においては「実際に商品を試し、アドバイスを受ける」ことの重要性は変わらない。百貨店には両軸の強化が求められる。