大丸松坂屋の「明日見世」が“売る店”に、移設・拡大しカフェも追加
大丸松坂屋百貨店は18日、大丸東京店で運営するショールーミングスペース「明日見世」を移設・新装オープンした。従来の4階から9階に移し、面積を約4倍に拡大するとともに、カフェを併設。展開する約20のD2Cブランドのうち、18ブランドをその場で買えるようにもした。イベントやアーティストによるインスタレーションも定期化。より入りやすく、ゆっくり過ごしやすい環境を整えて集客力を高め、物販の売上げを除く出品料を2024年度下期(24年9~25年2月)に前年の約2.5倍に引き上げる。
“新生”に当たっては、増床やカフェの併設以外にも多くの変化を加えた。ブランドの数や約3カ月ごとの入れ替えは以前と同じだが、約6カ月間に亘りポップアップストアのようにブランドの世界観や歴史なども交えて商品を打ち出せる場所を設けたり、売り逃しを防ぐためにその場で商品を買えるようにしたり、約3カ月ごとに入れ替えるブランドの出品料を90万円にしたり、店頭で商品の情報を伝えるアンバサダーやブランドを発掘および交渉するバイヤーら明日見世に携わる人員を約3割増やしたりした。出品料はこれまで、スペースの大小やフィードバックする情報の多寡などに応じて15万円、21万円、45万円、90万円のプランを用意していた。
他のブランドより長い約6カ月間、ポップアップストアのようなコーナーを設けるのは三省製薬だ。明日見世には過去に何度も出品しており、三省製薬の陣内宏行社長は「(明日見世を通じて)新しい流通ルートを開拓できた。2022年には明日見世を通じて昭和女子大学環境デザイン学科の学生と連携したが、その成果はパッケージや什器に生かされている。アンバサダーからのフィードバックもメリット。例えば商品のより良い並べ方を教えてもらい、役立っている」とウインウインの関係性を強調。「半年間を有効活用し、イベントも実施したい。展示やイベントを通じ、インターネット通販の売上げ伸長、認知度の向上につなげたい」と続けた。
新生明日見世は、ターゲットの幅も広げた。4階では周辺の婦人服売場を目当てに訪れるミレニアル世代に照準を合わせてきたが、9階は家庭用品や子供関連の売場がメイン。老若男女を問わず、立ち寄ってもらえるように工夫した。その一環がカフェであり、2カ所に構える「インスタレーションスペース」だ。インスタレーションの第1弾として、ブックコーディネーターの内沼晋太郎氏が率いるNUMABOOKSがセレクトした本を展示。カフェで購入した飲み物を楽しみながら、本を手に取って読める。インスタレーションスペースでは、イベントも定期的に開く予定だ。
カフェは半年ごとに入れ替わる。第1弾は山梨県のスタートアップ、Bonchiが初めてカフェを運営。同社は契約した農家の良質な果物を全国に送るネット通販サイトを手掛け、若手農家の育成にも取り組む。カフェではコーヒーやアイスティー、スイーツなどを提供する。
岡﨑路易DX推進部部長は「リアル店舗の魅力化の1つの解が明日見世。百貨店は変化を楽しむ所。明日見世も、いつ来ても楽しい場にしたい。店舗の周辺では再開発が活発化しており、その効果も期待しつつ、これからも明日見世を進化させていく」と宣言。多店舗化については「まずは大丸東京店で成功させる。出品者へのフィードバックを強化し、出品する価値を上げたい。多店舗化はフォーマットが完成してからだ。2年弱くらいで完成させたい」とした。和田房恵プロジェクトマネージャーは「明日見世は革新であると同時にデジタルではない。立ち上げからの約2年10カ月でリアルの強み、人の重要性が分かった。関わる全員が、どんなブランドを入れるか、どう展開するかを共有し、一丸で目標に臨む」と意気込んだ。
明日見世の担当者は、異業種から転職してきた人が半分を占める。大丸松坂屋百貨店にとって精鋭部隊であり、特殊部隊だ。「ここから社内に良い影響を与えていきたい。ステップアップの登竜門も担う。自主編集売場が減っているからこそ、学びが多い。新入社員にも経験してほしい」(岡﨑氏)。明日見世は単なるショールーミングスペースでも実証実験でもなく、人財育成の要衝でもある。宗森耕二社長からも「売場の大切さを学ぶ良い機会」と評価されているという。果たすべき役割の多さと重さが、移設・増床の背景にはある。
(野間智朗)