2024年09月16日

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福利厚生の充実急ぐ 百貨店の人手不足対策

多くの百貨店が販売員の確保に苦労している

人手不足が問題化する中、百貨店は福利厚生を充実させることで人材の確保を図る。基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)に加え、営業時間の短縮や休日の増加、顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対応方針の策定などを実施。店頭で働く販売員の多くは取引先から派遣されるため、全員が働きやすい環境の整備を進めている。

帝国データバンクが今年4月に実施した調査によると、正社員が「不足」と感じている企業の割合は51.0%。前年同月比で0.4ポイントの低下にとどまり、高止まりが続いている。非正社員では30.1%で、前年同月から0.6ポイント低下。正社員と同様の傾向がみられた。中でも「各種商品小売」業の非正社員の人手不足割合は60.8%で、小売業で人材難が深刻化していることが分かる。

こうした課題の解決のため、高島屋は今年7月、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を発表。カスタマーハラスメントの対象となる行為や対応を明示し、従業員の労働環境を守る姿勢を先駆けて打ち出した。社内ではカスハラに対する相談窓口を設置し、対処方法の研修も実施。外部の専門家との連携も行っている。

“従業員を守る”施策は村田善郎社長の号令の下で全社的に推進しており、従業員食堂の限定メニューを充実させたり、店舗によってはWi-Fiを導入したりなど、バックヤードの整備にも力を入れている。営業時間も、グループの商業施設は半期に1度、1日休業日を設けることを昨年2月に決定。さらに今年4月には、25年1月2日を休業とし、初売りを1月3日にすることを発表した。1月2日の休業は23年ぶりとなる。

自社従業員に対しては、モチベーション向上と物価上昇への対応策としてベアを実施。正社員組合員の月額を23年度、24年度と連続で9000円引き上げた。

大丸松坂屋百貨店は23年度から自社従業員の年間所定労働時間の削減に取り組み、年間所定休日数を12日拡大した125日とした。今年3月には、大丸と松坂屋が経営統合して以来初のベアも実施し、月額で2万円アップ。非組合員である管理職を含む社員約5000人が対象で、ベア率は6.1%となる。

店舗の営業時間も見直し、昨年3月には大丸下関店、松坂屋上野店、松坂屋静岡店、高知大丸の一部フロアの営業時間を1時間短縮。さらに25年の年始は、15店舗で1月2日を休業にすることを決めた。

阪急阪神百貨店も24年度に経営職で1万円、一般職で1万5000円のベアを実施した。非組合員である管理職を含む社員約4500人が対象で、ベア率は4.84%。24年4月入社の大卒初任給は24万円で、前年より1万3000円アップしている。労働環境の改善としては、カスハラ対策などを検討しているという。

松屋は昨年9月に銀座店の開店時刻を10時から11時に変更し、営業時間を1時間短縮。これによって売場の人員体制を手厚くし、接客機会の増加、サービスの充実に一定の成果を得ている。24年の年始も銀座店で1月2日を、浅草店で1月1日を休業日にした。

また多くの百貨店では、これらの施策に加えてグループウエアの導入やスマートフォンの配布、研修の電子マニュアル化など、デジタル技術を活用した業務の効率化に取り組んでいる。高品質な接客サービスは百貨店の肝であるだけに、それに集中できる体制の構築を急ぐ。

(都築いづみ)