2024年11月28日

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百貨店のおせち商戦、新たな客や需要、販路の開拓に注力(下)

松屋は価格据え置きのおせちや、北陸のおせちなどを用意する

おせちの売上げは、まだ伸ばせる――。新型コロナウイルス禍の「巣ごもり需要」を追い風に市場の拡大が続いたおせちは、アフターコロナを迎えた2023年度(24年の正月用)に反動が表れ、売れ行きが鈍ったが、大手百貨店は24年度(25年の正月用)も“前年超え”を目指す。その勝算が、新しい客や需要、販路の開拓だ。インフルエンサーと組んだおせち、いわゆる「昭和レトロ」を感じさせるおせちなどで若年層の購買意欲を喚起したり、物価の高騰を意識した値頃感のあるおせちを投入したり、遠方の親族にも贈れる冷凍のおせちを拡充したり、老若男女を問わず関心が強まる「ふるさと納税」に対応したりして、拡販につなげる。


松屋オリジナルの「肉の一段重」は約2~3人前で1万2000円と、手に取りやすい価格設定だ

松屋は物価高を踏まえた値頃価格のおせちを充実させ、前年比102%を目指す。23年度は行動制限の緩和があったにもかかわらず、3~5万円の中価格帯おせちがけん引し、前年並みの売上げを維持した。今年は物価上昇で消費者の財布の紐が堅くなることも予想し、“コスパ重視”のおせちを打ち出していく。

「昨年のおせち商戦は厳しくなると予測していたが、前年比100%を達成できた。これは、コロナ禍の間におせちを食べる習慣が改めて根付いたのではと考える」と食品部食品一課バイヤー田中翔氏は述べる。コロナ禍で伸びた10万円以上の超高額おせちや外商顧客の売上げはやや減少傾向、中価格帯のおせちが同110%と伸長した。

これを踏まえ、素材を吟味するなど様々な工夫で価格は据え置きしつつ、高品質でボリュームのあるおせちを「コスパ重視・お値段据え置きおせち」として主軸に据える。松屋オリジナルの「特選肉・海鮮おせち三段重」(3万円)、「肉の一段重」(1万2000円)、「和洋折衷オードブルおせち一段重」(1万9980円)などを用意。他の商品も価格の据え置きに努め、今回は全228SKUのうち、約48%を価格据え置きとした。

ほかにも食べて応援する「北陸のおせち」、百貨店ならではの「銀座・浅草の銘店シェフおせち」、毎年人気の「ホテルおせち」などを揃える。

インターネット通販の利用促進も図る。同社は21年にECサイトを通じた販売を始め、売上げは増加傾向にある。23年度は売上高が前年比106%、シェアはほぼ5割に達した。今回はさらなる増加を狙い、初めて早期受注によるクーポンプレゼントを実施する。

そごう西武は、洋酒や和酒に合う「和洋おせち」などを用意。多様化するおせちの楽しみ方に対応する

そごう・西武は前年並みを目指す。ただ、同社は旗艦店である西武池袋本店が改装中で、おせちの注文受付や受け渡しは7階の食品売場「デパナナ」で行う。そのマイナス要因を補うため、早期注文による送料無料キャンペーンや、広域配送おせちの拡販などで対策する。

同社のECサイト「e.デパート」ではおせちの配送に通常1045円かかるが、「早期配送無料」の対象は10月31日までの注文で送料無料となる。対象のおせちは約50SKUで、全体の約350SKUから人気商品を中心に選定した。

また同社が力を入れているのが、遠方への配送もできる広域配送おせちだ。冷凍おせちなど、89SKUを用意。23年度は広域配送おせちの売上げが前年比125%と高伸長したため、種類を約3割増やした。リーシング部フード担当の長岡俊範氏は「遠くに住んでいる親に送るなど、ギフトとして使う方も多いようだ」と話す。今回は初の試みとして、広域配送おせちのカタログを別冊で制作。地方店での販促も強化する。

品揃えでは、最近はおせちやごちそうを囲むシーンが多様化していることを受け、バラエティ豊かなおせちを用意した。フードクリエイターの丸山千里さんが監修した「年越し洋風オードブル&迎春和風オードブル」(2万5000円)はオードブル感覚で楽しめるおせちで、洋の段は洋酒に合う肉料理を中心に詰め合わせ、和の段は伝統的な食材を和酒に合う味に仕立てるなど、酒とのマリアージュを楽しめるようになっている。

こうしたオードブル感覚で楽しめるおせちは全9種、肉料理やカニ料理を一段丸ごと詰め込んだ「美味づくしおせち」シリーズは全7種を用意した。長岡氏は「近年は元日前におせちを食べたり、洋酒と合わせてつまんだりと、若い人を中心におせちの食べ方も自由になっている」と説明する。“年末年始のごちそう”のニーズは健在とみて、形を変えながら商機を狙っていく。

(野間智朗、都築いづみ)

百貨店のおせち商戦、新たな客や需要、販路の開拓に注力(上)