2024年11月21日

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百貨店のおせち商戦、新たな客や需要、販路の開拓に注力(上)

大丸松坂屋百貨店は同業他社に先駆けて8月26日におせちを発表した

おせちの売上げは、まだ伸ばせる――。新型コロナウイルス禍の「巣ごもり需要」を追い風に市場の拡大が続いたおせちは、アフターコロナを迎えた2023年度(24年の正月用)に反動が表れ、売れ行きが鈍ったが、大手百貨店は24年度(25年の正月用)も“前年超え”を目指す。その勝算が、新しい客や需要、販路の開拓だ。インフルエンサーと組んだおせち、いわゆる「昭和レトロ」を感じさせるおせちなどで若年層の購買意欲を喚起したり、物価の高騰を意識した値頃感のあるおせちを投入したり、遠方の親族にも贈れる冷凍のおせちを拡充したり、老若男女を問わず関心が強まる「ふるさと納税」に対応したりして、拡販につなげる。


高島屋では2000年以降、おせちの売上げが右肩上がりだ。23年度も前年比1.9%増と伸長。天笠亜佑子MD本部食料品部バイヤーは「幅広い選択肢を用意している。品目数が多く、価格帯も下から上まで揃え、ニーズを取りこぼさない。鍋料理やスイーツ、串揚げなどで、おせちにプラスアルファの買上げも引き出せた」と話す。奇手妙手で売上げを伸ばしてきたわけではなく、“全方位戦略”が実った。

24年度は「カスタマイズ」「スイーツ」「肉尽くし」「北陸応援」「昭和レトロ」などをキーワードに、店頭では約900種類、インターネット通販サイト「髙島屋オンラインストア」では約1150種類を揃え、前年実績のクリアを目指す。

カスタマイズは「よりどり彩りおせち」で、髙島屋オンラインストアと通販のみで受注。35種類の料理から、12品か9品を自由に選べる。全て同じ料理を選んでもいい。価格は選んだ料理で変わる。毎年好評を博しており、今年はキャビアやカラスミなど豪華な料理を5種類加えて魅力を高めた。スイーツは「トシ・ヨロイヅカ」「モンサンクレール」「たん熊北店」などで構成。毎年早期に完売するという。肉尽くしでは、新規に「髙島屋 肉おせち」が登場。15種類の肉料理を一段重に詰めた。

35種類から自由に選べる「よりどり彩りおせち」。12品と9品の2種類で、価格は選んだ料理で変わる

北陸応援では、売上げの一部を被災地に寄付する「北陸応援おせち料理 三段重」を髙島屋オンラインストアと通販の限定で販売する。昭和レトロでは、人気ブランドの「アデリアレトロ」と協業した「アデリアレトロおせち」が新登場。重箱は小物入れとして利用できる。

昭和レトロのブームに照準を合わせた「アデリアレトロ」のおせち

おせち以外の需要を取り込むため、串揚げ用の食材を33本詰め合わせた「串重」、日本人が好む肉や海鮮、うなぎに特化した「肉づくし」「海鮮づくし」「鰻づくし」なども取り扱う。

大丸松坂屋百貨店は、コロナ禍でおせちの売上げを大きく伸ばした。23年度は前年並みだったが、19年度比では約26%増。けん引役はネット通販や全国配送(冷蔵および冷凍)、鍋・迎春料理で、ネット通販のシェアは23年度までの5年間で約30%から約50%まで上がり、全国配送の売上げは23年度に19年度の約3.6倍、鍋・迎春料理は同じく約2.2倍を記録した。24年度は、好調なネット通販と冷凍、伸び代が大きいふるさと納税の対応を強化。昨年は大丸東京店など一部の店舗で販売し、客からは「1080円で味を確かめられる」、店舗からは「お客様に『おせち商戦が始まった』と意識付けられる」と歓迎された「おためしおせち」を全店に広げるなど販促にも力を入れ、おせちの売上げを前年の103%に引き上げる。

柴田智本社営業本部MDコンテンツ開発第2部フーズ(おせち料理担当)バイヤーは、おせち商戦について「市場は飽和状態で競合が激化している。新規販路の開拓、冷凍の強化による顧客拡大、毎年売上げで上位を占める“監修おせち”を充実させるなどの独自性の鮮明化が必要」と指摘する。

新規販路は、ふるさと納税とショッピングモールに照準を合わせる。ふるさと納税について、柴田氏は「百貨店にとって1番の脅威。ふるさと納税を活用して、おせちを購入する富裕層が増えている」と指摘。商機を逃さぬよう、23年度は京都店で対応したが、売れ行きが良かったため、24年度は全店に広げて売上げを約2.5倍に増やす。ショッピングモールは具体的な名称を避けたが、Amazonや楽天市場などではなく、例えば地方新聞社が運営する「47CLUB」のような規模のもようだ。法人外商部でも使っており、一定の利用を見込めるという。

冷凍はSKUを23年度の7から14に倍増。23年度は和風が2段、洋風が1段、中華が1段の「さくら」が「圧倒的に売れた」(柴田氏)ため、選択肢を広げて勢いに弾みを付ける。冷凍の売上げは前年比30%増を狙う。全国に配送できる冷凍はネット通販の嵩上げにも役立つ。ネット通販は「まだまだ伸びる」(柴田氏)と期待を寄せており、売上げ目標を前年比8%増とした。

監修おせちは、文字通り著名人や人気店らが監修。「特別企画おせち」として販売しており、23年度は料理研究家の大原千鶴氏が監修した「口福おせち」(三段重)が売上げのトップ、吉田類氏の「おつまみ玉手箱」が2位に入った。24年度はSNSで人気の「ぐっち夫婦」が監修した「しあわせおせち」を追加。百貨店になじみがない人の購入に結び付ける。

SNSで人気の「ぐっち夫婦」が監修したおせち

物価の高騰を受けて、コストパフォーマンスに優れたおせちも訴求する。例えば23年度の販売個数が1位だった「京都・衹園 京彩宴」の「天禄」は、1万1880円をはじめ5種類の価格帯からなるが、いずれも値上げしていない。天禄は大丸松坂屋百貨店が中身などをコントロールしやすい“厳選おせち”に位置付けられるが、他の商品も含めて「取引先と協力して中身を見直し、コストを抑えた」(柴田氏)。

新しい需要を取り込むため、「ペットのごちそうおせち(愛犬用)」も初めて販売。大丸札幌店や松坂屋名古屋店では先行して取り扱ってきたが、一定の需要があり、販売体制を強化した。

百貨店のおせち商戦、新たな客や需要、販路の開拓に注力(下)