2024年09月16日

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≪大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション≫百貨店の本領発揮と進化の要諦

「大阪地区主要百貨店店長パネルディスカッション」(ストアーズ社主催)を7月1日(月)に開催した(ホテル日航大阪)。髙島屋大阪店、阪急うめだ本店、あべのハルカス近鉄本店、阪神梅田本店、大丸心斎橋店(発言順)の店長を招いて、「百貨店の本領発揮と進化の要諦」をテーマに、短期・中長期視点でポイントとなる戦略・戦術を語っていただいた。
それぞれ前半と後半に分けて発言していただき、前半では24年度の位置づけと重点施策の基本指針、その中で上期に優先的に取り組まれている施策(改装・MD再編、販促・集客策、接客サービス関連など)、並びにその具体的な事例と成果を中心に、具体的な事例を挙げながら独自の視点で述べていただいた。(司会:ストアーズ社編集長 羽根浩之)


「顧客・取引先・従業員」基盤固めの年

〇髙島屋大阪店 髙山俊三店長

第1四半期(24年3~5月)の売上高が約4割増で推移した髙島屋大阪店の髙山俊三店長は、24年度を「輝かしい未来に向けて成長基盤を固めていくために、チャレンジをしながら準備していく年」と位置付けている。髙島屋は2031年に創業200周年を迎え、それに向けた基盤づくりでもある。「今は追い風もあり、絶好調だが、短期的であり、中長期的には決してバラ色ではない。人口減少・少子高齢化で持続的成長を遂げていくためには、単純な解釈かもしれないが、1つが商圏と客層を拡大していくか、もう1つがお客様に寄り添って(髙島屋が)より近い存在になってライフタイムバリュー(LTV)を如何に高めていくか。そうした中で地域と共に成長していく図式を描いていけるか」と前置きしたうえで、今期の重点施策を述べた。

成長基盤とは、「顧客基盤」、「取引先基盤」、全員が活躍して成長できる「従業員基盤」である。顧客基盤づくりに対しては「お客様づくりに真摯に向き合っていく取り組み」を進めている。この第1歩が「お客様が好きな店になるための品揃えとサービスを提供していく」ことだ。同店では24年度を初年度とする中期3カ年経営計画に基づき、「ヒト、モノ、コトの好きがあふれる、こころ豊かな生活創造を、お客様や取引先と共創していく百貨店」の実現を目指しているが、この実現への第一歩でもある。

「好きになってもらう品揃えとサービス」を提供するために力を入れているのが、催事、ポップアップショップ、アイテム編集売場で、それぞれ事例を挙げて説明した。さらに品揃えでは強化領域と客層の拡大策を示した。強化領域ではラグジュアリーブランドと「デパ地下」を挙げた。ラグジュアリーブランドではエリアでナンバーワンの品揃えとサービスが提供できるようにコンバイン型(メンズとレディス)によるブティック展開、「デパ地下」ではより特徴的な売場づくりに取り組んでいく考え。

こうした品揃えと並び重要なのが、言うまでもなく接客。「お客様に好きになっていただくための、最も大切な接点であり、百貨店らしい、髙島屋らしい接客を提供できなければLTVも上がっていかない」と強調した。働きやすい環境の整備や取引先の販売員満足度を高めていくための取り組みなど具体的な事例を紹介した。

過去最高を更新、26年度4000億円に照準

〇阪急うめだ本店 佐藤行近店長

前期に続き23年度(24年3月期)も過去最高の売上高を更新した阪急うめだ本店の佐藤行近店長は、好実績の要因と今後の店舗の「有り様」について言及した。
富裕層を中心とする高額品消費とインバウンド需要がけん引してきたのは事実だが、「この2年間、強化してきた国内顧客のハウスカードホルダー(中間層顧客)の売上げが伸びてきたことも大きい」と強調した。中間顧客層の消費活性化は百貨店業界全体の重要な課題でもある。

カードホルダーを対象にした人気催事のプレセールへの招待や限定品の優先販売、クーポン利用の定期開催(年4回)などの取り組みを紹介した。

もちろんインバウンドと富裕層消費の動向についても言及。インバウンドでは、強化してきた海外VIP顧客の会員数が2万人を超えた。このVIP顧客を対象に、同店の館内をアテンドするパーソナルショッピングサービスが好評で、特に中国の「寧波阪急」とは顧客の情報を共有して各々のニーズに応じたサービスを提供していることが評価されているという。インバウンドは今後も成長マーケットとして捉えて対応を強化していく考え。また国内外の富裕層人口の増加が見込めることから、引き続き「国内外の富裕層顧客とのパーソナルな関係づくりによってLTV(ライフタイムバリュー)を高めていく営業活動を強化していく方針だ。

ただ売上高が過去最高を更新したとはいえ、入店客数はコロナ禍前の85%程度の回復度。中長期的には人口減少・少子高齢化によるマイナスの影響が考えられる環境下で、持続的成長を遂げていくために改めて阪急うめだ本店の有り様を見直した。24年度より新中期経営計画が始まっており、最終の26年度に掲げた売上高目標は4000億円。この目標達成に向けて「店舗の有り様をモデルチェンジしていく必要がある」からだ。

同店のストアビジョンは「世界へ・次世代へ発信する『楽しさ世界№1』の劇場型百貨店」。ただこれは事業者の視点によるストアビジョンであり、これを改めて顧客視点の存在意義に言い換えた。それが「夢の実現や新しい自分を発見できる体験価値や感動を提供できるような『夢と冒険に誘う感動体験の目的地』となる百貨店」である。この有り様の実現を目指し、サービス、商品、空間の3つの価値をさらに磨き上げていくと締め括った。

あべのハルカス開業10周年をフックに

〇あべのハルカス近鉄本店 北村浩店長

あべのハルカス近鉄本店の北村浩店長は、23年度で強化してきた営業施策を振り返りながら24年度の基本方針について述べた。

近鉄百貨店は24年度までの中期4カ年経営計画で「百“貨”店から百“価”店へ」を基本方針に掲げ、対象顧客の暮らし方の変化に寄り添った新たな価値の創造に取り組んでいる。その旗艦店の役割を担っているあべのハルカス近鉄本店は、23年度に「FC(フランチャイズ)事業への取り組み拡大」「スクランブルMDの推進」「集客力の強化」を基本指針に掲げ、それぞれ具体的な施策とその成果から言及した。
このうちFC事業は25業種、68店舗まで広がっている。売上高では150億円規模になり、収益源に成長してきた。スクランブルMDとは、婦人服、紳士服、化粧品、アクセサリー、食品など商品カテゴリーを掛け合わせて新しい売場を開発していくMD改革の一環。新しい自主編集売場や取引先との協業による編集ゾーンを開設してきた事例を紹介し、客層の拡大、並びに30代、40代の開拓に寄与しているという。集客力の強化では、地域連携の一環として取り組んだ「高知」の名産品を揃えたショップなどの事例を紹介した。

次いで中期経営計画の最終年度である24年度は、「あべのハルカス」開業10周年をフックに、「あべの・天王寺エリア『ハルカスタウン』の魅力最大化」をテーマに重点施策を進めている。今年3月に実施した開業10周年企画、改装計画並びにFC事業への今年度の取り組みに言及した。

改装に関しては、あべのハルカス近鉄本店に近接する商業施設「and(アンド)」の改装に着手している。今年4月に近鉄沿線の産品を揃えた「ハルチカマルシェ」を新設し、7月に「ロフト」をあべのハルカス近鉄本店のウイング館7階に移設し、跡地には9月にホームセンターを誘致する。

今回の改装によって、一体的に運営する「Hoop(フープ)」を含め、3館の特性・役割がより明確になり、「ハルカスタウン」の魅力化がアップデートされることになる。

「楽しいから行く、親切だから買う」を実践

〇阪神梅田本店 小森栄司店長

22年4月6日の全館グランドオープン後、3巡目に入った阪神梅田本店は昨年の阪神タイガース優勝セールを機に潮目が変わってきた。小森栄司店長は上昇気流に乗っている現状と24年度の重点施策について言及した。
同店は、「自分らしい生き方を追求しながら、毎日を豊かに暮らすために時間もお金も使いたい価値観」という「自分充足志向」のマーケットに焦点を当て、「毎日が幸せになる百貨店」をストアコンセプトに、新しい百貨店の創造に挑んでいる百貨店だ。大都市の基幹百貨店のような特選ブティックゾーンがなく、中間層マーケットに焦点を絞っているだけに、百貨店業界全体の課題にチャレンジしている店舗であり、地方都市・郊外立地の百貨店にも参考になる。
23年度の売上高は前期より2割近く伸び、660億円まで達し、ほぼ計画軌道に乗ってきた。24年度に入り、2桁伸長が続いている。最大の強みである食(食物販と飲食)が売上高の約6割を占めるが、伸長率の観点ではファッション商材が貢献している。「改装時に4割程度が新規導入ブランドで、ようやくお客様の固定化が進んできた」ことが大きい。顧客別では、年間購買額が高い上位顧客の実績がけん引し、また年齢別では20代、30代のシェアが高まり、顧客の若返りも進んできた。

ナビゲーター(好きなことを追求し専門知識を持つ阪神百貨店の従業員)を中心としたファンコミュニティが形成され、重視してきた「個のお客様との関係づくり」への取り組みも成果を上げており、3巡目に入り当初描いていた姿が顕在化してきた。

それだけに24年度はこの勢いを続ける施策が問われてくる。エイチ・ツー・オーリテイリングが掲げている「コミュニケーションリテーラー」の一翼を担う百貨店として、「楽しいから行く、親切だから買う」という、30年程前に言われていた百貨店の本質の1つを、それぞれ磨き上げていく考えを示した。この本質を現在のわかりやすい言葉に置き換えると「楽しいから行く」の「楽しい」は「楽しい体験価値の提供」。もう1つの「親切だから買う」の「親切」は「優遇」に言い換えた。優遇とは「特別なおもてなし、限定品の先行販売、人気催事への優先入場など、あなただけの特別なサービスを提供していく」ことだ。

「楽しいから行く、親切だから買う」という百貨店の本質を磨き上げて、「毎日が幸せになる百貨店」の完成度を高めてきている。

過ごしたい・行きたくなる空間価値を追求

〇大丸心斎橋店長 小室孝裕店長

大丸心斎橋店の成長力も高い。23年度の売上高は前期比35.2%増の957億円。小室孝裕店長は高伸長の背景、24年度の重点施策について言及した。

売上高はコロナ禍前の19年度を超えた。インバウンド(免税)も増収要因だが、最もけん引したのは外商(掛け売り)で、19年度比では約1.4倍に成長した。外商活動の高度化が奏功した。外商顧客の潜在ニーズを顕在化させていく取り組みで、外商セールスを対象にした外商催事などで提案する商材のワークショップ形式による事前説明会、クローズドイベント開催によるVIP顧客への対応強化、データサイエンティスト(データ分析の専門家)によるデジタル活用などに取り組んでいる。

24年度の重点施策については、「空間価値の向上」、「心を充足させる視点の活動」、「パルコとの連携強化」、「心斎橋グリーンプロジェクト」について言及した。

空間価値の向上では「過ごしたい場所、行きたい場所になる」ために、各階エスカレーター前やエントランスなどを活用した装飾やVMDなどの工夫について説明。心の充足視点による活動では今年開催された「大阪アート&デザイン」(5月29日~6月25日)への参画、地下2階フードホールで毎週末に開催するジャズミュージシャンによる演奏会などの事例を紹介した。

パルコとの連携強化では、入社4年目までの若手のプロジェクトチームが企画した「フードミーツキャンプ」(夏めしとエクササイズを組み合わせた新感覚グルメフェス)、富裕層向けのプロモーションへのパルコ内ショップの参加など、事例を紹介した。

最後の心斎橋グリーンプロジェクトとは、生ごみを微生物の働きを活用して分解させ堆肥にするコンポストを活用し、社員並びに顧客参加型の「まちに緑を広げるため」のプロジェクト。昨年11月7日、御堂筋に面する花壇(約12㎡)に花(約600株)を植えた。

大丸心斎橋店は、百貨店と専門店が融合したハイブリッド型百貨店モデルであり、コロナ禍で地域密着度を深めながら、進化してきている。


大阪・関西万博を商機に、持続的成長に向かう

次いで後半は、前半の現状を受けて25年度以降の中長期視点を踏まえ、自店の持続的成長ステージに移行していくための秋以降の重点施策を中心に、その方向性と具体的な事例を語っていただいた。

好きがあふれる百貨店、25年が勝負の年

〇髙島屋大阪店 髙山店長

髙島屋の髙山店長は、今期まで成長基盤を固めていく年度であり、25年度から「勝負の年」と位置付けている。「大阪・関西万博」を商機に転換して、持続的成長へと舵を切っていくターニングポイントになる。「好きがあふれる百貨店」の実現を目指して、来年から5年程度かけて着手していく改装計画と「まちづくり戦略」について言及した。

まず段階的改装計画の概略を説明。成長カテゴリーの売場面積拡大に伴う面積の再配分に踏み込んでいく。「様々なニーズに対応して、ワンストップショッピングが楽しめるようなフロア構成、MD編集を意識していく。結果的にお客様のLTVが上がっていくようにしていきたい」考えだ。

成長カテゴリーとは「付加価値の高い商材(上質・逸品)、食、ビューティー(美と健康)」。高付加価値商材は衣・食・住の全てにおいてLTVを高めていくための品揃えだが、中でも「特選、婦人服、紳士服、雑貨のファッション領域を再構築して、幅広いお客様に各々好きなファッションを楽しんでいただけるようにバリエーションを広げていく」。ビューティーでは「お客様のいつまでも健康で美しくありたいニーズに応えていける品揃えとサービスを充実させる」。

これらに加えインテリア領域も「伸び代があるマーケット」と捉えている。「お客様が求める毎日が生活が楽しくなる空間を提案できるようなコンサルティング型の売場をつくっていきたい」意向だ。こうした成長カテゴリーでは自主編集売場も強化していく考え。

段階的改装と共に重視しているのが「人」だ。「販売員が働きやすい環境を整え、取引先と一緒になって、販売員の専門性が存分に発揮できるようにしていきたい」と強調した。

もう1つ髙島屋グループが総力を挙げて推進している「まちづくり戦略」では、エリアの活性化と社会貢献の視点を重視していく。百貨店事業に加え、商業開発・不動産、金融、飲食などを有するグループ力を最大限に生かして、「お客様のこころ豊かな生活に必要な価値を提供していく」考えだ。社会貢献は持続的成長戦略の軸の1つになると位置付けており、髙島屋グループが取り組んでいる「つなぐアクション」(エコ&エシカルな商品・サービスを通じてサステナブルなライフスタイルを提案していく営業活動)を軸に力を入れていく。

「百貨店はマーケットを創り出してこそ、存在意義が高まってくる。ただ取引先の協力がなければ成し得ない。取引先と情報を共有しながら、新しい価値を共創していきたい」と強調した。

「グローバル百貨店」へアップスケール化

〇阪急うめだ本店 佐藤店長

阪急うめだ本店の佐藤店長は、「グローバルデパートメントストア」を目指したアップスケール化への段階的改装の概要とサステナビリティの推進について言及した。

エイチ・ツー・オーリテイリングの24年度より始動した新たな中期3カ年経営計画では、阪急うめだ本店に約120億円を投じるリモデルを順次進めていく予定で、完成後の26年度の売上高は4000億円突破を目標にしている。リモデルでは、「世界から日本を訪れる人々の目的地となり、かつ沿線に住まうお客様に愛着と誇りを感じていただけるような存在になることの両軸を大切にしながら、『グローバルデパートメントストア』にアップスケール化する」。

リモデルの先兵として今秋、13階に国内外の富裕層を対象にした体験型の「VIPサロン」を新設する。約300坪の広さで、複数の個室やセミクローズ型接客スペースを設ける。一人一人のニーズに応じ、同店ならではの特別なおもてなしやコンテンツを提供する。その詳細について説明した。

さらに国内外富裕層ニーズへの対応を強化するため、ラグジュアリーを拡大する。5階と6階フロアでは、ラグジュアリービッグメゾンブランドのインストア旗艦店化と、ハイエンドジュエリー&ウォッチワールドの拡大を順次進めていく。

また、アジアや西日本の広域から高感度な次世代顧客の開拓に向け、2階と3階フロアでは高感度ファッション&ライフスタイル編集ワールドの新設、ファッション雑貨&ビューティー編集によるラグジュアリーブランドショップの新設などに取り組む。

この4フロアとVIPサロン新設が改装の中心になるが、プレミアムファッション、リビング、ファニチャー、インテリア、美術・アートの領域でもアップスケール化、コンテンツの充実化を図っていく考え。

一方、サステナビリティの推進は、「社会課題の解決と事業活動を融合して新しい価値を創造し、収益源を生み出していくことは、中長期的視点で欠かせない」と位置付けている重要な取り組み。「地域の絆を深める」「地域の子どもたちを育む」「豊かな地域の自然を守り引き継ぐ」という重点テーマと「HANKYUこどもカレッジ」「H2Oサンタ」の活動を紹介した。

「世界へ・次世代へ発信する楽しさ世界№1の劇場型百貨店」(ストアビジョン)が、「グローバルデパートメントストア」へとアップスケール化する挑戦が始まった。

攻めの積極投資で、3館体制を再構築

〇あべのハルカス近鉄本店 北村店長

あべのハルカス近鉄本店の北村店長は、24年度に最終年度を迎えた近鉄百貨店の中期4カ年経営計画に基づく重点施策について言及した。

中期計画では「くらしを豊かにする共創型マルチディベロッパーへの変革」を事業戦略として掲げている。「これまで数多くの品物を揃えていた『百“貨”店』から、数多くの価値を提供する『百“価”店』に変わっていく」ための事業戦略であり、「顧客の暮らし方が大きく変わっていく中で、その変化に寄り添い、新たな価値を創造し提供する事業者」を目指している。

あべのハルカス近鉄本店では、「質と価値の追求」と「攻めの積極投資」を柱に、営業施策では「食の深耕による日本一の『デパ地下』の構築」「3館体制の再構築」「スクランブルMDのさらなる推進」「ラグジュアリーの強化」を掲げ、それぞれ具体的な取り組みを紹介した。

このうち3館体制の再構築では、隣接する「Hoop(フープ)」と「and(アンド)」の館の特徴・役割をさらに明確化していく。フープは「エリアに欠落しているスポーツ、アミューズメントを加えて、ヤングファミリーを対象に新たな発見、刺激を受けることができる館に進化させていく」考え。アンドは「近隣生活者の『上質な暮らしのサポーター』をコンセプトに、上質な食、生活用品、家庭用品を提案する館に舵を切っていく」方針だ。

衣・食・住を混在させたスクランブルMDでは、新規顧客の開拓など成果が表れてきており、男女のコンバイン型など新しいスクランブルMDの開発に取り組んでいく。

ラグジュアリーの拡大策では、近鉄百貨店の外商から「近鉄グループの外商員としてグループのお客様のコンシェルジュ的な存在」を目指して、これまで以上にグループ力を生かしてアプローチを強化していく。またグループ力の活用に関しては、近鉄リテーリング、近商ストアとの3社でシナジーを発揮していくための商品開発に力を入れており、「近鉄のブランディングでは百貨店が中心的役割を果たしていきたい」と語った。

近鉄本店は「あべのハルカス」の開業10周年をフックに、「近鉄百“価”店」への変革を加速させている。

「食」の磨き上げと専門店導入で収益力向上

〇阪神梅田本店 小森店長

阪神梅田本店の小森店長は、成長軌道に乗ってきたとはいえ、まだ途上だけに、さらなる成長が求められ、建て替え投資の回収に向けた事業構造の見直しによる収益力向上も問われている。それだけに25年度の完成を目指して、収益力向上に向けた改装に着手していく。「阪神流のインバウンド対応の強化」、「顧客の単価アップ」、「コトサービスの強化」の視点で、重点施策について言及した。

インバウンド対応については、今年4月と5月の実績をベースに傾向を分析。阪急うめだ本店や神戸阪急に比べ同店の免税売上高シェアは低いものの、5%を超えてきた。その購買傾向やブランド毎の免税売上高シェアなどから、今後の攻め方について述べた。「訪日外国人観光客の関心が高いジャパンを感じるアイテムやブランド、目的性が高い商材などを明確にして、アプローチにも工夫を凝らして訴求していく」考え。

国内顧客に対しては、「食の阪神」に次ぐ定評のある強みを育てていく必要があると強調した。そのテーマとしては「家族(ファミリー)」「ウィズローカル」「ヴィンテージ」「ナチュラル」を挙げ、強みに育て上げていく考えを示した。

コトサービスの強化に向けては、計画している改装の考え方や概要を述べた。顧客支持が高いフードワールド(1階)の磨き上げと、百貨店との相乗効果が高い大型専門店の導入によって、店舗全体の買い回りを促進する。さらにバックヤードを売場化して顧客の関心が高い健康・美容サービス専門店を導入する計画だ。

全館建て替えグランドオープンに向けて、阪神梅田本店ならではの新しい百貨店モデルの骨子だった「食の阪神の磨き上げ」「スモールマスマーケットを捉えた共感型コンテンツの開発と新しい体験価値の創造」「OMOで実現するファンコミュニティの形成」は継続していくが、3年の歳月を経て25年度より「毎日が幸せになる百貨店」の進化が始まろうとしている。

「世界と未来に向けて進化する百貨店」へ

〇大丸心斎橋店 小室店長

売場の65%を定借化して、百貨店とテナントのハイブリッド型に生まれ変わってから今年で5周年を迎えた大丸心斎橋店の小室店長は、今秋から来春にかけて行う大規模改装と戦略の方向性について述べた。

今回の改装は25年の「大阪・関西万博」、26年の「大丸大阪出店300周年」を控え、心斎橋エリアの魅力をさらに増幅させる絶好のタイミングでもある。改装のテーマは「世界と未来に向けて進化する百貨店へ」で、3つのポイントに言及した。

1点目が旗艦店や新業態など同店にしかない独自性の高い売場を展開し、リアル店舗ならではのドラマティックな世界観の演出をさらに強化する。2つ目が若年富裕層顧客への対応強化で、特選ブティックのフロアに加え、全館で時流を捉えた高感度ブランドを拡充する。3つ目がインバウンド(訪日外国人観光客)を対象にしたローカリティ・体験型コンテンツの強化。大阪・関西万博を機に外国人観光客の増加が想定されることから、日本の文化伝統工芸やジャパンポップカルチャーなど、日本でしか、大阪でしか体験できないコンテンツを強化する。

もう1つの戦略の方向性とは、上位顧客にフォーカスした顧客戦略へのシフトだ。CRM分析を駆使し、上位顧客をグルーピングして、各々富裕層ニーズにマッチする企画やコンテンツ、体験価値を提供していくことで、「上位顧客のLTVを高めていく」ためだ。既に上位顧客を対象に、特選ブランド、時計、アートを提案する「スーパーラグジュアリーフェスタ」を6月に開催し、「十分な手応えを実感した」という。

またインバウンド富裕層に向けても海外企業とのコラボレーションによる館内への来店促進にも力を入れている。ここでも「館内をアテンドして高額品の売上げにつながっている」と手応えを得ている。

大丸心斎橋店は、来年の大阪・関西万博、26年の大丸大阪出店300周年をフックに持続的成長軌道に乗っていく重要なフェーズを迎えている。