2024年10月30日

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東急の「渋谷アクシュ」開業、渋谷の街につながりを生む

東急株式会社の亀田麻衣氏

渋谷駅東口エリアに今年6月に竣工した大型複合施設「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」が、7月8日開業した。渋谷アクシュは1~4階が商業施設(全15テナント)、5~23階がオフィスで構成されている。コンセプトは「TSUNAGI-BA」。単なる大型オフィスビルでなく低層部に商業・広場を配し、周辺エリアとの歩行者ネットワークを形成するなど、周辺とのつながりを強化して人々が集う空間とした。ここでは渋谷アクシュのメディア向け説明会で「働く場としての渋谷の魅力とオフィスブランディングについて」を語った、東急株式会社不動産運用事業部事業推進第三グループ主査の亀田麻衣氏と、渋谷アクシュの全体像を語った東急株式会社渋谷開発事業部プロジェクト推進第二グループ担当部長の田邊秀治氏の説明内容を紹介する。

働く・遊ぶ・暮らすが融合するまち、渋谷

東急株式会社 亀田麻衣氏

渋谷はオフィスの絶対数が少ないという要因もありますが、コロナ後、真っ先にマーケットが戻っていたエリアです。とりわけ勢いのある企業が渋谷にあること、そして渋谷にオフィスを構えたいと考える企業の多さを表しています。市況からも渋谷が人気のビジネス街となっていると言えますが、今渋谷は買い物や食事に来る街、外国人が観光で訪れる街としての印象が強いかと思われます。今も昔も渋谷は文化、遊びの要素が強い街です。つまり日本の今がここにあり、その中で働くことができる街です。そして、街にいる人は様々な目的で渋谷を訪れるために、どんなスタイルでいても街に馴染むのも大きな特徴です。

そのためか自由なスタイルを大切にする企業や、その価値観の方が多く働くエリアで、コロナ以前からシェアオフィスやノマドワークが根付いていたり、髪形や服装も自由で自分らしく働いている方が多いです。三軒茶屋、代官山、中目黒、恵比寿など、電車で10分圏内に人気の住宅街が複数あり、働く・遊ぶ・暮らすが近接でQOLの高い生活をしやすい環境と言えます。このように、日本の今と隣り合わせで働けることはビジネスにとって非常に重要なことで、従業員が自分のスタイルで働きやすいことは現在の多様な働き方の中で、ますます大事なポイントになってくると考えています。

「渋谷アクシュ」のオフィスフロア

渋谷アクシュはオフィスフロア満床で開業を迎えました。開業前に満床になるのは近年非常に稀なことで、渋谷の街のポテンシャルの高さを改めて感じています。入居企業様の業種は人材、IT、不動産、金融など多岐に亘っています。

今回渋谷アクシュにご入居いただくVisional様を紹介しますと、Visionalは2009年に渋谷でビズリーチを創業されました。起点となる現在のオフィスと渋谷アクシュが歩道橋でつながり、利便性の高いビルであることなどから、入居を決めていただきました。長年渋谷に根差すVisionalから見た渋谷で働く魅力とは、「渋谷駅の利便性の高さ、多種多様な企業が居ること、文化が融合された街であること」。そして渋谷に期待することは「Visionalのミッションである新しい可能性を次々と推進するに当たって、今後も多用性に富み、新たな文化へイノベーションが次々と起こる地であって欲しい」とコメントをいただいています。

他のテナント様からも、渋谷にオフィスを構える理由は「人が集まりやすい立地、最近の流行を肌で感じることができるから」とのコメントがありました。渋谷で成長を続ける企業のこれからを感じられる通り、渋谷は働く場所としても独自の個性を持つ場になっています。

20年以上に亘り渋谷の再開発を推進する弊社ですが、この変化の中だからこそ一度立ち止まり、東急株式会社として改めて渋谷でオフィス事業を推進する意義を皆様に発信していこうと考え、この度パーパスを作成しました。パーパスのキービジュアルは「心躍る世界を、渋谷から。」。渋谷の皆様と共にさらなるフィールドをつくり続け、産業と文化の発展を後押しします。渋谷のたくさんの企業、プレーヤーによって育ってきた街です。その皆様が活躍できるフィールドを我々がつくることによって、さらなる産業、文化が生まれ、日本そして世界の発展をしていきたいという思いを込めています。

このパーパスを基に、渋谷で働く魅力を訴求するプロモーションを5月より開始しました。プレイワーク「渋谷で生きる。ビジネスに活きる。」をキャッチコピーに、関口メンディーさんを起用して展開しています。

最後にハード面の整備だけでなく、弊社のオフィスビルで働くワーカーの方がより楽しく、働きやすくなるソフト面のサービスも紹介します。先月にアプリ「Shibuya TOQ Pass」をリリースしました。渋谷駅周辺の弊社が関与するオフィスビルで働く方に向け、渋谷のイベント情報、優待サービスを搭載したアプリです。優待対象の店舗は現在約250店舗で、例えば渋谷ヒカリエの店舗で10%割引などの優待を提供しています。すでに1万3000を超えるダウンロード数となっており、ワーカーさんからの期待の高さを感じています。

そして20年近く街の情報を発信続けているウェブサイト「渋谷文化プロジェクト」も、渋谷のワーカー向けサイトとしてリニューアルしました。再開発によるハード面の整備だけでなく、ソフト面でも働きたい街として渋谷で選んでいただけるように、これからも様々な取り組みを行ってまいります。

東急株式会社の田邊秀治氏

エリアの回遊妨げや賑わい・店舗不足を解消

東急株式会社田邊秀治氏

「渋谷アクシュ」は、渋谷スクランブル交差点とは反対側の渋谷駅東側に立地しています。青山方面には複数のオフィスビルや教育施設があるため、数多くのオフィスワーカーや学生などが行き来するエリアにあります。また、渋谷アクシュの周辺は宮益坂、青山通り、明治通りといった幹線道路に囲まれている上に、渋谷駅から青山方面に向かって上り坂になっているためスムーズな回遊や街歩きがしにくい状況にあります。さらには多くのビルが建ち並ぶこのエリアでは来街者が憩い、溜まれる広場が少なく、店舗などによる賑わいも不足しているといった課題もありました。

そういった課題に対して、渋谷アクシュの事業コンセプトは「TSUNAGI-BA」です。このコンセプトは本事業が渋谷と青山を行き交う人々をつなげるハブとなり、居心地の良い場所を提供することで多様な人々が集い交流する――。そういったつながりにより、人々だけでなくビジネスや文化が交じり合うことで新たな価値が生まれる。そんな未来を創造していました。そして、その想いをそのまま表現したのがこの渋谷アクシュという名前です。

そしてこのTSUNAGI-BAを実現するために、エリアの回遊性や賑わいの不足という地域課題を解決すること。また、渋谷に求められるオフィスニーズへの対応、こういった背景を基に渋谷アクシュの開発方針が定められています。それは単なるオフィスビルでなく、低層部に店舗や広場を一体的連続的に配置することで周辺エリアとのつながりを強化し、賑わいの連続性を実現するというものです。

開発の3つのポイントである「回遊性」「広場」「店舗」について説明します。まず回遊性、歩行者ネットワークについて。当地区は青山方面へ向かう上り坂の中腹に位置しているが、アクシュのアトリウムを通過することでバリアフリーなどの動線を確保し、隣接する渋谷ヒカリエ、クロスタワーとの接続デッキを整備することにより、利便性の高い快適な歩行者ネットワークを実現しました。これによって渋谷駅から青山方面に向かう人の流れだけでなく、宮益坂やクロスタワーの先にある渋谷3丁目エリアといった周辺の街との回遊性も向上します。

青山側広場に展開されるパブリックアート

続いて、人々が憩い、溜まれる広場についてです。人々が集う空間としてヒカリエ側と青山側にそれぞれの玄関口となる広場が誕生します。ヒカリエ側の広場が「SHIBUスポット」です。ヒカリエを抜けた後に見えてくるこちらの広場では、大型のシースルービジョンを用いた環境演出やキッチンカーの出店、イベントの開催などにより賑わいあふれる広場になることを目指しています。

青山側の広場「AOスポット」では、渋谷アクシュにギャラリーやアートバーを出店するNANZUKAのパブリックアートプロジェクトである「NANZUKA PUBLIC」を手掛けます。NANZUKAがキューレーションしたアートを年に2~3回入れ替えることで、訪れる人々が様々なアート作品に触れる機会を創出します。広場とともに現代アートを楽しむことで、渋谷アクシュが文化的シンボルとして育まれていくことを期待しています。

そして開業時の第1弾は、フランスのアーティスト、Jean・Jullien氏の作品に決定しました。Jean・Jullien氏はアーティストとして世界各地で展覧会を開催しており、22年にはGINZA SIXで大規模なインスタレーション「The Departure」を発表されています。渋谷アクシュ開業時の作品である「The Tank」は、Jullien氏が自身の幼少期の記憶と空想を膨らませながら、海の生物に囲まれて生きる人魚の姿をした生き物の物語を表現しています。日常生活を、リアルでありながらもユニークなものに昇華させる彼の作品をぜひご覧いただければと思います。

「渋谷アクシュ」の低層階にオープンしたレストラン

3つ目のポイントは店舗についてです。ネットワークや広場に沿う形で店舗を配置することにより、アクシュの低層部全体が休憩したり食事を楽しむ場に生まれ変わります。特に1、2階は各店舗が前面の広場やテラスを活用することで、路面店の連続した賑わいが広場ににじみ出るように工夫しています。左上にあるのが2階にあるヒカリエの広場です。プライベート感ある広場にベンチやカウンターを配置することで、ポケットパークのように使われることを想定しています。そして1~4階には、合計15のテナントが開業以降順次オープンします。

渋谷駅周辺を見ると、駅周辺には大型の商業施設が集積している一方で、クロスタワー周辺には店舗自体が少なく、周辺にお勤めのワーカーや学生のニーズに応えきれていない。そこでアクシュではワーカーや学生に向けた飲食機能を充実させ、加えて来街者をターゲットにした店舗構成とすることで様々なニーズに応えるラインナップにしました。

具体的には東京初出店のハワイアンレストラン、老舗の塩問屋が手掛ける初の飲食店、そしてアート作品に触れながら食事やワインを楽しめるイタリアンなど、新業態や初出店の店が軒を連ねます。また、ワーカーや来街者の増加に伴い不足しがちなカフェも充実させ、飲食店舗だけでなくアートギャラリーやオフィスサポートとしての健診施設も出店します。

また、アクシュ3階のオフィスエントランスは、事業コンセプトであるTSUNAGI-BAを象徴する空間として様々な要素が交じり合う、渋谷らしい新たなオフィスエントランスを目指しています。エントランスの左手にはNANZUKAが現代アートギャラリーをオープンします。05年にこの地に誕生したNANZUKAが、新たなコンセプトを掲げて復活する形となります。また、右手にあるカフェではエントランスとシームレスにつながるしつらいとし、オフィスと一体となったラウンジ空間のような使い方ができます。

このほかにも、ワーカーや来館者がくつろいだり仕事をしたりできる様々な家具を配置し、さらにはイベントなどに利用できる階段状のスペースを設けることで、このフロアが色々なシーンで利用できることを想定しています。これにより機能的にも空間的にもTSUNAGI-BAを具現化し、多様な人々が混じり合う渋谷らしいオフィスエントランスとなることを期待しています。

続いて、渋谷全体の「まちびらき」について説明します。アクシュの開業を契機に、これから「渋谷まちづくり2024」も盛り上がりをみせていくことになります。今回のまちびらきでは「SHIBUYA OPEN CITY ひらけ、渋谷。」をテーマに、開かれた渋谷を体感できる3つのイベントを渋谷のまち全体で開催します。音楽をまちにひらくOPEN LIVE、アートをまちにひらくOPEN ART、体験をまちにひらくOPEN CITY 体験の3つで、この期間イベントを通じて渋谷を巡り歩きながら、渋谷の街の魅力をさらに感じていただきたいと思います。アクシュの開業以降、渋谷のオープンシティのロゴが渋谷の街を彩ることになります。

これまでも東急が事務局を務める一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントをはじめとし、行政、地元の方々、事業者が一体となって街の節目に合わせてまちびらきを実施して参りました。18年には、渋谷ストリーム開業に伴う第Ⅰ期に「Shibuya River Fes」を開催。19年には、渋谷スクランブルスクエアや渋谷フクラスなどの開業に伴い、第Ⅱ期まちづくり「HELLO neo SHIBUYA」を実施しており、今回で第Ⅲ期を迎えます。第Ⅲ期のまちびらきの内容は、渋谷アクシュの開業により渋谷駅東口エリアから青山方面へつながります。そしてJR渋谷駅新南口改札移転開業、渋谷駅西口地下歩道の開通、さらには東急不動産が推進する渋谷サクラステージのテナント一斉オープンにより、桜丘エリアから代官山、恵比寿方面へとつながります。

このように駅周辺のデッキや地下通路の整備に伴い、歩行者ネットワークが東西南北につながることでまちの分断が解消され、回遊性が高まり、さらに巡り歩いて楽しい街へと変貌を遂げます。そして今回の第Ⅲ期まちびらきを迎え、いよいよ次のまちびらきで駅中心5街区と呼んでいる2000年頃から描いてきた計画が完成します。

デッキなどが完成することで道玄坂上から宮益坂上が大山街道に加え、デッキレベルでもスムーズにつながります。この完成に合わせて街が再生し、地下、地上、デッキ、様々なレベルで東西南北の動線が分かりやすくつながり、渋谷らしい新しい景色を楽しめる渋谷駅前歩行者ネットワークが形成されます。

(塚井明彦)