コロナ禍を乗り越え成長する「りんくうプレミアム・アウトレット」 【支配人 村上尚美氏インタビュー】
2000年11月に開業した「りんくうプレミアム・アウトレット」は、23年度(22年4月~23年3月)に過去最高となる売上げを計上した。開業20周年の20年8月に4回目の増設となった第5期開業を迎え、店舗数約250店舗、店舗面積約5万200㎡にスケールアップ。西日本最大級のアウトレットとなった。また規模拡大だけでなく、海沿いに広大な芝生広場を誕生させ、海を一望できる「シーサイドアウトレット」へと進化した。第5期のオープンは、新型コロナウイルス禍の真っ只中だった。そこで、りんくうプレミアム・アウトレット支配人の村上尚美氏に、コロナ禍をどう乗り切り、第5期で施設がどのように変わり成長を遂げてきたのかを聞いた。
――りんくうプレミアム・アウトレットは、開業してから4回増設して西日本最大級のアウトレットとなりました。しかも第5期で、海に面したアウトレットとなって新たなコンテンツが加わりショッピング以外にも楽しめるようになりました。
実は私が入社したのがここ、りんくうプレミアム・アウトレットです。一度転勤があった以外はりんくうプレミアム・アウトレット一筋の勤務ですから、りんくうプレミアム・アウトレットと共に歩み、しかもここで1番勤務が長い社員の1人です。開業してもう24年も経ち、りんくうタウンも大きく変化しました。駅前の大型複合商業施設の「りんくうプレジャータウンSEACLE」の先にあるのが私共のアウトレットで、開業してから4回に亘って増設を重ねてきました。2012年7月の第4期増設後に海が一部見えるようになりましたが、施設からダイレクトに海に出ることができず、海の近くにあるアウトレットに過ぎませんでした。
――それが今は関西国際空港が見え、シーサイドパークの真ん前に海が広がっています。
第5期の増設で「シーサイドエリア」(敷地面積約4万5700㎡)を設け、ラグジュアリーブランドやスポーツ・アウトドアブランドなどを拡充し、3階に配置したフードホールの「りんくうダイニング」からは大阪湾を一望できます。さらに海沿いに約2万㎡の広大な芝生広場「シーサイドパーク」ができたことで、すぐ前に海が広がり潮風が感じられる距離となりました。シーサイドパークの一角には、海を眺めながらグランピング体験ができるモバイルハウスがあり、アウトドアアクティビティを楽しめるようにもなりました。
――すると5期以降、来場客のアウトレットの使われ方が変わったのではないでしょうか。
ここでのお客様の楽しみ方が多様になりましたね。ショッピングの合間に海を眺めたり、対岸にある関西空港に離発着する飛行機を眺めたり、すぐそばのマーブルビーチが日本の夕陽百選に選ばれたこともあって夕陽見たさに訪れる方もいたり、インフォメーションスタッフが夕陽を見られる日には「本日何時頃から美しい夕陽が見られます。ぜひ海辺にお立ち寄りください」とアナウンスしています。アウトレットと隣接しているりんくう公園も合わせ、朝からペットを連れて散歩されたりウォーキングされたりする人も見られ、第5期増設をきっかけに、ショッピングだけでなく、多様な体験価値を提供できるアウトレットに進化することができたと自負しています。
――モバイルハウスの利用はあるんですか。
スノーピークが運営するモバイルハウスは隈研吾氏とスノーピークが共同開発したもので、「住箱」という名称で5台設置しています。完全予約制ですが特に土・日の利用が多く、ファミリー層からカップル、最近は海外のお客様の宿泊もあります。
海を一望できる立地を最大限に生かして、数々のイベントを実施しています。例えばウェルビーイングを目的にした「シーサイドヨガ」は、海が見えるシーサイドエリアで定期的に開催しています。毎年11月に開催される音楽花火「大阪湾りんくう芸術花火」は盛大な人出となります。私共のアウトレットもベストな観賞エリアとなり、敷地内に有料の鑑賞席が設けられます。
――コロナが5類感染症に移行してからインバウンドの回復が著しく、今年に入って百貨店などでもインバウンドが急増しています。プレミアム・アウトレットの中でもりんくうプレミアム・アウトレットはインバウンドに強いそうですが、どういう状況にありますか。
ここはJRと南海鉄道が乗り入れているりんくうタウン駅に近く、国内外問わず幅広くお客様がやって来られます。海外のお客様については関西空港から一駅であり、コロナで運休となっていた関空から片道約15分で結ぶシャトルバスも再開になり、1時間に1本位で往復しています。関西空港の国際便が増便になってここに来場される海外のお客様も増加傾向にありますが、まだコロナ禍前の水準には戻っていません。とはいえ、免税売上げベースでコロナ禍前を上回る月も出てきました。まだ伸び代は十分あります。今のところ、台湾、香港からのを旅行者を筆頭に、韓国、中国、タイなどアジア圏からの旅行者が多く見られます。
――インバウンドで特に力を入れている施策はありますか。
コロナ禍の収束を見据え、インバウンドへの本格体制を整えた23年4月に、運休していた関西空港とのシャトルバスが再開しました。訪日観光客の方々が身軽で便利なショッピング体験ができるようにと、施設内の訪日観光案内所「ウェルカムセンター」内に手荷物一時預かりと、国際配送を行う「TUMOCA Express(ツモカ エクスプレス)」のサービスセンターを開設しました。手荷物の一時預かりは、施設内で購入した商品であれば無料で追加預かりができ、身軽に施設を利用できます。ツモカは世界120カ国以上の国に対応できる荷物の国際配送で、例えばゴルフバッグのように大きく、重い商品となると持って歩けないし持ち帰るのにも大変。ツモカのサービスを利用すれば安心して購入ができるし、煩雑な手続きなしで安心して発送できる。これはりんくうプレミアム・アウトレットならではのサービスといえます。
――第5期オープンがコロナウイルス感染拡大と重なり、コロナ禍には遠出や外出が制限され、大きな逆風になったと思われますが。
第5期の増設事業は、残念なタイミングというよりコロナ禍にあっても計画通りに進行し無事オープンできて良かった。そしてオープンを待ち望んでいたお客様が来場され、喜んでいただけたことが1番嬉しいことでした。
――その逆風を乗り越え、りんくうプレミアム・アウトレットは、第5期前の20年度300億円位だった売上げが23年度には503億円となり、過去最高売上げを計上したそうですね。
増設したシーサイドエリアが本格的に機能し、お客様は従来のメインサイドエリアとの両エリアを回遊しながら非日常空間の中でショッピングを楽しんでおられる。両エリア合わせると約250店舗の集積ですから、国内外のお客様から満足いただけている。そこにシーサイドパークが加わり、海を眺めたり、散歩されたり、バーベキューも楽しめるグランピングなどの体験ができるようになり、加えて立地を生かしたイベントの展開や、泉佐野市などの地域と連動した活動などがアウトレットの大きなパワーになっていると確信しています。
――これからどのようなことに力を入れていきますか。
1つは関空から一番近いシーサイドのロケーションを生かし、お買い物だけではない体験価値をさらに向上していく所存です。お得感を感じていただいてショッピングしていただくだけでなく、手に取ってリアルなショッピングが楽しめ、ここでしか味わえない楽しさを提供し続けることで、ここに来たことが思い出に残るアウトレットをつくり上げていこうと思っています。
2つ目は地域との連携活動です。三菱地所・サイモンは泉佐野市と観光振興と地域活性化を目的に包括連携協定を結び、先程の大阪湾りんくう芸術花火をはじめ、ゴミ拾いを競うスポーツゴミ拾い大会、地産地消マルシェなどの催しを一緒に開催しています。泉佐野市の魅力を発信していく役割を担い、これからも積極的に取り組んでいきます。
――スポーツゴミ拾い大会というのは楽しそうですね。どのような内容ですか。
昨年12月に泉佐野市と共同で初開催したゴミ拾いを競う「スポGOMI大会in泉佐野」は、全19チーム、総勢80人の一般の方が選手として参加され、りんくうタウン駅周辺やアウトレットの周辺道路などを競技エリアとして制限時間を1時間と決めてゴミ拾いに回ります。その結果、総重量61.18kgのゴミを回収できました。
力を入れる3つ目はやはりインバウンドです。関空の対岸にあるアウトレットは関空で中国などへの増便があれば反応して、その国のお客様の来場が増加を辿ります。アジアからは多くのお客様が来場してくださっていますが、中国はまだコロナ禍前の水準に届いていないことからしてもインバウンドは客数、免税売上げ共に伸び代があります。今年2月には春節キャンペーンを開催し、ランタンを用いてメインサイドエリアに全長6mの龍の形の装飾をして来場を歓迎しました。
――ほかに力を入れることは。
4つ目は2025年を盛り上げる年にすること。25年は大阪・関西万博の年であり、りんくうプレミアム・アウトレットは開業25周年の年となります。これら大きな節目となる2つの案件を絶好の好機と捉え、攻勢を掛ける年にしたいと思っています。ここから関西万博の会場とは少し離れていますが、万博会場だけの賑わいにとどまらず、国内外からの万博来場者が観光されて私共のような商業施設や宿泊施設、飲食店などへも波及することを期待しています。開業25周年については、まだどのような施策を打つかは具体化していませんが、ここでしか提供できない体験や一日中楽しめる施設であることなどをアピールしようと考えています。
(聞き手:塚井明彦)