ナイガイのラボを体験、記者が“足の通信簿”を取ってみた
2024/05/16 2:07 pm
ナイガイの商品づくりを支える拠点「ナイガイ・ラボ」をご存じだろうか。東京・江東区にある同社企画開発部技術課内に2018年に開設された研究施設で、足や体に関する様々なデータを収集する測定室や、靴下などの開発、品質管理に必要な試験室などが設けられている。人それぞれ足の形状や指の形、歩き方も異なれば、左右の足でも実はサイズが全く同じではないという。ナイガイの商品づくりにおける知見と技術を蓄えるラボ空間で、記者の“足の通信簿”を取るべく体験してみた。
ナイガイ・ラボには、足の状態をはじめ足や体の動きなどを測定する様々な機器が常備されており、同社の社員も定期的に計測している。高齢者用の商品開発のため、同社OBやOGもラボを訪れるという。物流センターや協業企業の工場に計測器具を持参して、働く人達の足のデータを取る「出張ラボ」も実施。基礎研究として多くの人の足や体のデータを収集し、得たエビデンスをプロダクトに反映させている。
ラボに伺ったのは4月上旬。迎えてくれたのは、技術開発部開発課MGの森一章氏と商品部門技術開発部開発課の塩谷明日香氏、担当執行役員兼技術開発部GM兼広報室長兼SDGs担当の土屋聡子氏の3人だ。今回は主に塩谷氏にレクチャーを受けながら、自身の足から関連する体の動き、傾向や特徴までを解析してもらう。
全方向から計測、ミリ単位で示される足情報
早速、ふくらはぎの高さまでの脚の形状や寸法を測るボックス型の「3D足形計測器」を試す。ボックス内部の周囲にはカメラと赤外線レーザーが何台も付いており、足長、足囲、アーチ高、足首囲などを3Dで立体的に測定する。
初めに左右の足それぞれの親指と小指の付け根部分、かかと部分、甲の内側にある舟状骨(せんじょうこつ)部分など計測ポイントとなる部分に丸いシールを貼り、片足ずつボックスの中に入れ、左右均等に力が掛かるように立つ。ゴム製のふたを閉めて、いざ計測開始。
測り終わると、左右の足を上から解析した画像と、各部位の寸法が記録された用紙がもらえる。かかとからつま先までの「足長」、親指と小指の付け根を通る「足囲」、親指と小指の付け根の直線幅の「足幅」など、各部位の寸法がミリ単位で出る。記者の足長は左足の方が3.1mm長く、足囲は右足の方が0.5mm大きく、足幅は左右共に同寸法。靴選びの際には、足長と足囲の数値を参考にすると良いそうだ。
「第1指側角度」は親指の付け根から内側にどれだけ傾いているかを示す角度で、この数値が20度を超えると「外反母趾」の傾向がある。小指の角度は「第5指側角度」といい、小指の変形を指す「内反小趾(ないはんしょうし)」かどうかの診断に用いられる。あまり聞きなれない「舟状骨点高」は、足の内側、土踏まず部分の縦アーチの高さで、これが低いと「偏平足」とされ、足が疲れやすく、外反母趾や他部分の不調にもつながってくる。記者はいずれにも当てはまらず、とりあえずは一安心。
裸足の状態の寸法となる「足のサイズ」は、左足が「23.5 2E」、右足が「23.0 3E」という結果が出た。この2E、3Eという表記は、靴の幅サイズ表記に用いられるワイズ指標で、比較的目にしたことのある人も多いのではないか。これは足囲から算出され、3E以上は一般的に幅広となる。
次に試すのは「ウォークWay」という機器。歩行時の重心移動や圧力分布の変動、歩幅といった歩行の特徴、歩いている際の足裏の状態を視覚的に確認できる。塩谷氏から「普段歩いているのと同じように」歩くよう指示を受け、2mほどの長さのマット上で歩を進める。
測定結果を示す画面には、足跡のような画像とその中央で交互に折れ曲がった1本のラインが表示される。足跡からは、親指以外の指があまり地面に付いていないのが見て取れる。指を使っていないと「浮指」といい、巻き爪になりやすいそうだ。真ん中のラインは歩行時の重心の軌跡。諸説あるが「一般的には、外側から親指の方向に軌跡が抜けていくのが良い」(塩谷氏)といわれている。
「バランスコーダ」で衝撃の“バランス年齢”が発覚
次いで、体のバランス能力を図る「バランスコーダ」。三角形の台の上に立ち、重心動揺、下肢の加重、重心可動域などを測定し、足腰の総合的なバランス感覚を解析する。まず台の上に直立で10秒間静止、次に体全体を真っすぐ保ったまま前傾姿勢で10秒間静止、今度は体を後方に傾けて重心をキープできるところで10秒間静止、最後に左右それぞれにも体を傾けて計測する。
両足を動かさず、足裏全体を付けたまま体を傾けなければならない。前傾時にはつま先に、後傾時にはかかとに重心を掛けるイメージで、腰から曲がらないようにする。前傾はまだしも、後傾はどこまでが自分の限界なのかがわからず難しい。
計測後に、「重心図」と「IPS解析」の項目で「クロステスト結果」が出される。重心図は縦横にcm表記の四角い図に前後左右に可動できた体の範囲と、足裏の動きで記録された重心の軌跡が表示される。重心の軌跡は小さな四角の中にうねうねと動く線で表示され、このブレが少ない方が良い。そして、この可動域と重心の軌跡を基に算出される数値が「IPS」というバランス指標。年齢ごとの平均値と照合して、いわゆる“バランス年齢”が出される。
記者の結果は59歳。実年齢より14歳も上の数字にショックを隠し切れない。しかし塩谷氏によれば「初めて計測した人は大体、実年齢より10~20歳上の年齢が出る」という。測定にもコツがあり「慣れると、何回もやっているうちにバランス年齢がどんどん若くなる傾向がある」(土屋氏)。
「初回で実年齢より若い人もいるのか」と尋ねると、3割ほどいるそうだ。「体幹が関わってくるので、ピラティスなどをしている人は下の年齢が出る。逆によく運動している人でも実年齢より高い場合もある。バランスは筋力とは違う」(塩谷氏)普段歩く際に、体幹を意識するかどうかでも変わってくるという。
「赤外線サーモグラフィ」の映像装置も試してみた。脚の表面温度を測り可視化することができる。記者の脚の画像を見ると、つま先が床の青色と同化し、指も消えている状態。冷えがない人は指まできれいに画像として映り、男性の場合はつま先も高温を示す赤色であることが多いそう。
ナイガイでは近年、進化系機能素材「テラックス ケアテクト」を使用したソックスやインナーを開発し、女性の温活サポートに注力している。そのため、最近はサーモカメラの稼働率も高い。塩谷氏は「保温性については、外部の試験機関で靴下自体の性能として調べることもあるが、当社では着用した状態でどれだけ脚の温度が下がりにくいかのデータを取る」と活用法を説明。同社の従来品や他社製品との比較などにも用いられている。
そのほか、色々な動作時の筋肉の動きを捉える「筋電計」や、文部科学省が定める「新体力テスト」と日本整形外科学会の「ロコモ度テスト」を参考にした「体力テスト」用の測定器具も揃える。ロコモ度とはロコモティブシンドロームの度合いのことで、主に高齢者で足腰の機能が衰えて、歩いたり立ったりといった移動機能がどれぐらい低下した状態かを示すもの。握力や垂直飛び、長座体前屈のほか、10~40cmの高さの台を使用して下肢筋力を調べる「立ち上がりテスト」、大股での歩幅を調べる「2ステップテスト」などを行い、総合的に判断する。
データが導く「正しい体の動かし方」と「商品開発のエビデンス」
今回のナイガイ・ラボでの体験を通して学んだのは、「意識して体の細部と内部を動かす」こと。記者の場合、定期的にランニングをしていたこともあり、その際に足の付き方には気を配っているものの、足の指をどう動かすかまでは意識が及んでいなかった。また、体幹についても「ブレていないつもり」だったのかもしれない。
多角的な計測で、自分の身体的特徴や動作傾向を知ることができたのも収穫だった。同時に、データによって可視化され、つまびらかにされたことで「次はもっとできるようになりたい」という向上意欲も湧いた。
土屋氏は「(ラボでの測定は)普段の生活習慣を変えようというきっかけにもなるかもしれない」と話す。今回改めて、数値や目に見えるデータの説得力を痛感するとともに、こうした一つ一つの客観的事実を積み重ねて商品が誕生している過程も知る貴重な機会となった。次回の“通信簿”に向けて、まずは基本動作である「歩く」ことから意識してみようと思う。
(中林桂子)