2024年11月21日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 日銀がついに実施したマイナス金利政策解除のインパクト

3月19日の金融政策決定会合で、日本銀行は「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」との判断を示した上で、異例の金融緩和の修正を決めた。

大きな修正は3点。まずは「マイナス金利政策の解除」だ。階層型の日銀当座預金制度を廃止し、2016年にマイナス金利政策が導入される前の従来型の当座預金(所要準備と超過準備)に戻した上で、超過準備への付利金利を+0.1%とした。従来の政策金利(政策金利残高への付利金利)を−0.1%から0.2ポイント引き上げた形だ。

ただし、政策金利は従来の政策金利(政策金利残高への付利金利)から、16年にマイナス金利政策が導入される前の無担保コールレート翌日物の誘導目標に戻し、その水準を0~0.1%程度とした。無担保コールレート翌日物の誘導目標で見れば、今回の利上げ幅は0.1%程度とより小幅にとどまる。

しかし、超過準備が高水準にある中、無担保コールレート翌日物の誘導目標を量の調整だけで達成するのは難しい。引き続き付利金利の力を借りながら、日銀は無担保コールレート翌日物をコントロールしていくことになる。この点から、政策金利に返り咲いた無担保コールレート翌日物の誘導目標は、まだ独り立ちできているとは言い難いかもしれない。

日銀は対外公表文で「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とし、追加の政策金利の引き上げ、急速な政策金利の引き上げを行わない考えを示し、金融市場の安定確保を狙っている。

  • 国債買い入れや長期金利のコントロールは継続

第2は、「イールドカーブ・コントロール(YCC)の廃止」だ。昨年の柔軟化措置によってYCCは既に形骸化していたが、正式に廃止するというわけだ。一方、これまでと概ね同程度の月額6兆円程度の金額で長期国債の買い入れを継続するとした。

また、長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施するとした。つまり、国債買い入れは継続する一方、長期金利を一定程度コントロールするという政策も継続させる。YCC廃止による、政策の激変緩和措置のようなものだ。将来、国債の保有残高を削減し、バランスシートを縮小させる量的引き締め(QT)を開始するまでの移行措置と言える。

第3は、ETFなどの「その他資産の買い入れ廃止」だ。ETF、J-REITについては、新規の買い入れを終了する。CP及び社債については、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する。足もとでは既にETF、J-REITの買い入れはほぼ停止しているため、現状追認の決定に過ぎないだろう。

  • デフレ脱却宣言の行方は

今回の日銀によるマイナス金利解除は、連合が3月15日に発表した春闘の第1回集計(主要企業)で、賃上げ率がプラス5.28%と32年ぶりの高水準となったことが、判断の決定打になったとも言える。しかし実際には、賃上げ率が事前予想を大きく下回らない限り、このタイミングで政策変更を行うことは事前に決めていたとみられる。

一方の政府は、日銀の政策変更を容認したものと考えられる。金融市場や経済に大きな悪影響を及ぼすことがない限り、物価と賃金が大きく上振れるもとでの日銀の政策変更は自然なこととの受け止めだろう。

さらに政府は、日銀の政策変更は十分な意思疎通、政策連携の枠組みの下で決定されたものであり、経済政策や経済環境の認識について食い違いがないことをアピールするだろう。企業への賃上げ要請や賃上げ促進税制も含めた政府の経済政策の成果の表れだということもアピールするのではないか。

ただし、日銀が2%の物価目標達成を宣言したことと平仄を合わせて、政府が「デフレ脱却宣言」を打ち出すことは難しそうだ。春闘での賃上げ率は事前予想を大きく上回ったものの、多くの国民にとって物価高の逆風はなお続いており、生活環境改善の実感は持てない状況だからだ。高い賃上げ率の持続性にも懐疑的な見方は残っているだろう。

そうした中で政府が打ち出せば、国民からの反発を招いてしまいかねない。また、岸田政権が増税への布石を打ち始めた、などといった批判が出てくる可能性もある。そのためデフレ脱却宣言を打ち出すのは難しいと言えそうだ。

  • 「バランスシート政策」の正常化は先の話

ETF、J-REITの買い入れ策の正常化の“本丸”は、日本銀行のバランスシートからそうしたものを外していくことにある。しかし国債保有残高の削減、つまりQTとともに、そうしたバランスシート政策の本格的な正常化には、しばらく手を付けられそうにない。当面のところは「金利政策」の正常化に注力し、「バランスシート政策」の本格的な正常化に着手するのは、25年後半以降になりそうだ。

そこで次の焦点となるのは、日銀が追加引き上げにいつ踏み切るか。その時期は25年前半までずれ込むとの見方が強い。24年後半に見込まれる米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ、インフレ率の低下、内外景気の軟化などが追加利上げの障害になりそうだ。

25年後半以降の日本銀行の政策修正の対象は、「金利政策」から「バランスシート政策」へ、「金利」から「量」へと移っていくだろう。日銀はオーバーシュート型コミットメントを撤廃した上で長期国債の保有額を減らす、いわゆるQTを始めるだろう。それは、25年後半くらいになりそうだ。

国債を市場で売却するのではなく、償還分の半分程度を再投資することで、緩やかに国債保有残高を削減していく。その際、国債の残高削減額を新たに目標として掲げ、経済情勢などに合わせてそのペースを微調整していくことになるだろう。

そして最後に着手するのが、ETF及びJ-REITの「オフバランス化」だ。株式時価総額に占める日銀が保有するETF相当分の割合は、50%を超える日本銀行の国債保有比率と比べればかなり小さく、市場機能を損ねるリスクは相対的に小さいと考えられる。

そのため日銀は、バランスシート政策のうち、最初に国債保有残高の削減に着手し、その後に、ETFを外部の受け皿機関に移すなどのオフバランス化に踏み切ると見ておきたい。その時期は26年との見方が多い。

  • 経済・生活への影響は大きくない

日銀が金融政策の正常を進めても、金利の上昇幅は限定的だとの見方がもっぱらだ。10年金利については現状の0.7~0.8%程度と、中期的な均衡水準に比較的近いだろう。

そもそも、日本の低金利環境は、日銀の異例な金融緩和策が作り出したものではなく、日本経済の潜在力の低さに根差すもの。そのため日本銀行が金融政策を正常化しても、金利の上昇幅は限られ、低金利環境は続くのだ。

さらに日本経済は、成長期待の低下と長引く低金利環境の中で、金利感応度を大きく低下させてしまったと考えられる。このことから日銀の正常化策は、日本経済や国民生活を大きく変えるものではないだろう。

しかし、それは円高を生じさせるなど、金融市場には想定以上に大きな影響を与える可能性もある。それを通じて経済にも相応に影響を与える可能性がある点には留意しておきたい。

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