2024年11月22日

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【久世良太社長が語る】サンクゼールが物価高でも定番商品を値下げした理由

12月7日から値下げに踏み切った理由を語る久世社長

「久世福商店」「サンクゼール(St. Cousair)」「メケル(MeKEL)」などの専門店を全国に約160店舗展開する食品SPAのサンクゼールは7日、久世福商店とサンクゼールの定番商品を合わせて48品目を値下げした。原材料の高騰などで値上げが続く中、なぜ値下げに踏み切ったのか。サンクゼール代表取締役社長の久世良太氏が語った。


久世福商店は12月20日に10周年を迎えます。この10年、当社のバイヤーが全国を訪ね歩き、生産者と共に久世福商店ならではのこだわりの逸品をつくり上げてきました。久世福商店の商品は一般的なプライベートブランド商品と比較して価格帯の高いものがやや多いとは思いますが、誇りを持ってものづくりに励む仕入先のこだわりや理念をお客様に伝え、適切な価格で販売させていただき、お客様、仕入先、そして世間の三方にとって有益な商いをしたい。そんな思いでこの10年間励んできました。

昨今の物価高騰でお客様の生活が厳しい状況にある中、久世福商店の立ち上げ時に掲げた理想を追求するのは簡単なことではありません。お客様から商品やサービスに対するお声をいただいていますが、実際に「価格が高い」と、特に夏以降は切実な声が届きます。

当社は食のSPAとして企画開発から製造、販売まで一気通貫による事業を手掛けています。私共のものづくりの起点はお客様の声にあり、その声に応えられるように仕入先と共にものづくりに励んできました。改めてこの10年を振り返ると、お客様の声に応える、応えたいという地道な活動が、久世福商店の大きな成長につながっていったことを感じています。

今では年間690万人ものお客様にご愛顧いただけるブランドに成長できました。厳しい時だからこそ、私共が大切にしてきたお客様の声に立ち返るとともに、その声に基づいて開発してきた商品をお客様に還元することを決め、今回の値下げに踏み切りました。

久世福商店、サンクゼールの2つのブランドでそれぞれ24品目、合計48品目の定番商品を値下げします。当社の商品は工場での自社製造商品とサプライヤーの皆様からの仕入品からなり、今回値下げの対象となるのは主に自社製造商品です。一部仕入品が含まれていますが、仕入原価を変えることなく当社の利益率で調整しています。

当社はサンクゼールで長野県のメーカーズブランドとして歩みを始め、私共も生産者として40年の経験があることから、商品製造に関するノウハウには強いこだわりがあります。今回の値下げは自社製造商品の製造プロセスを見直して実現するものです。仕入先との取引価格に変更はないものの、値下げによって販売数量が増えることで納得していただけると思いますし、当社にとってはボリュームインセンティブがあると考えられます。

10年の感謝を込めて「久世福商店」「サンクゼール」で定番商品計48品目を値下げした(写真は久世福商店)

具体的な値下げの内容は、久世福商店が値下げ対象24品目のうち22品目が自社製造商品、2品目が仕入商品です。値下げ幅は平均で89円、値引き率14%で、最小値は12円で値引き率2%、最大値は183円で値引き率25%。久世福商店と一緒に10年歩んでくれたお客様に感謝の気持ちを込め、思い切って値下げしました。

サンクゼールでは、対象24品目のうち自社製造16品目、仕入商品8品目です。値下げ幅は平均で109円、値引き率16%で、最小値は42円、値引き率7%、最大値は151円で値引き率23%。サンクゼールについても「Cheer Up Project 毎日の食卓を、もっと楽しく豊かに。美味しさはそのまま、お値ごろ価格になりました」というメッセージ発信を強めていきます。

当社では3カ月に1度、原価高騰の影響を鑑み商品価格を変更するかどうかの検討を行っており、22年9月に値上げを決断しました。今回、その時に値上げした商品の一部を値下げし、商品によって価格改定前の戻り率にばらつきがあるものの、久世福商店については24品目を平均すると値上げ前とほぼ同等に、サンクゼールは値上げ前よりも平均50円ほど低くなりました。

値下げ対象商品はお客様の声を聞いて選定したものです。お客様から「もう少しお値打ちなら常備できるのに、どうしても余裕のある時のみ購入している」、「価格と品質は見合っているのでしょうが、毎日食べて買い置きするのは高いと思う」といった声をいただくことが増えました。

毎日の食卓に選んでいただいているものだからこそ、値上がり感を感じやすい商品群でもあるので、定番商品の価格を下げることで、よりお客様の暮らしに寄り添いたいと思っています。また生活防衛として、ごはんの友は「おかずの少ない時でも主食をおいしく食べられて満足できる」といった声をいただくことも増えています。このような声に応えるために、久世福商店では値下げ対象商品に人気のごはんの友を、サンクゼールは一品でも特別な食事になるパスタソースを選定しました。

価格改定を実現するための具体的な取り組みにつきましては、原材料価格高騰やインフレが続き、お客様の間に買い疲れが広がっている厳しい状況にあって、三方が満足できる環境をつくるという原点に立ち返り、どうしたら皆様に満足いただける事業ができるのか、これを真剣に考え、「食のSPA」を強化することで、皆様からより満足いただける事業を目指すことにしました。

仕入先との取引条件は変更せず、付加価値の高い商品、ものづくりに集中していただきます。お客様については、品質はそのままで値頃感のある定番商品を届けるとともに「お店を訪れるたびに新しい発見がある、楽しいお買い物」を叶えるために、売場づくりや新商品の投入、接客の改善に取り組んでいきます。

「食のSPA強化」に向けて、バリューチェーンにおける3つの要素を強化しました。1つ目の自社製造商品については、製造プロセスの効率化への取り組みです。効率化によって下がった原価をお客様に還元していきます。まず製造原価の低減に向けて、今年から商品開発のアドバイザーとしてプロのシェフに参画いただき、商品の味を高めることはもちろん、どのように品質を損なわずに原価を下げられるかを追求。使用している全ての原料を分解し、1つ1つ見直しをかけました。

原材料や原材料の配合の変更、原料購買プロセスの見直しなどで、お客様が求めやすい価格で提供できる具体的手段が計画できるようになってきました。一般的には原価を下げた後に販売価格を引き下げることになると思いますが、私共は昨今のお客様の負担をいち早く緩和するため、12月からの価格引き下げを決断したわけです。

2つ目は、お客様により付加価値の高い体験を提供するため、ブランド力の強化に取り組みます。私共は品質を損なわずに原価を引き下げる取り組みに限らず、定番商品をよりおいしいものへと磨き上げ、お客様の食卓に欠くことのできない商品を目指しています。そしてこの取り組みを社内のノウハウとして定着させるために、研究開発ラボを本格稼働します。今期に施工および試運転を行い、来期より本格稼働に入れる見込みです。

製造についても同様で、効率的製造プロセスをより強くするため、工場買収を含め自社製造能力のさらなる強化に取り組みます。お客様により付加価値の高い体験をお届けするため、魅力的な売場づくりにも取り組んでいます。お客様が負担を感じている価格をまず引き下げ、合わせて商品価値に目が向くような新商品や季節ものの投入、接客力の向上などで、「いつ訪れても新しい発見があり、楽しい店」として、お客様により満足感を感じていただけるブランドに成長させてまいります。

東急プラザ銀座で久世福商店の第1回ファンミーティングを開催

3つ目はコミュニティ施策です。これまでの10年で食のSPAの基礎を築いてきました。バリューチェーンを垂直統合し、約500社の仕入先と共にものづくりに励み、お客様の声を基に改善、改良を重ねてきました。当社にとって重要な成長ドライバーでもあるお客様の声をより近くで伺い、事業プロセスに早期に反映できるよう、本日はこれから久世福商店の第1回「ファンミーティング」を開催します。

これからの10年でお客様とのコミュニケーションを強化し、これまで以上に価値を感じてもらえる商いをすることと合わせ、効率化、仕入先とのネットワークの強化に取り組み、食のSPAをより強固に磨き上げられると確信しております。

(塚井明彦)