構造改革から「価値創造」へ【2024年新年特集】
あけましておめでとうございます。読者の皆様に少しでもお役に立てる情報を発信してまいりますので、引き続き、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
「復活元年」に
2023年は、百貨店の店頭に賑わいが戻ってきた1年。入店客数はコロナ禍前の水準まで回復していない百貨店が少なくないようだが、売上高は着実に回復している。すでにコロナ禍前を上回り、中には過去最高を更新している店舗さえある。
全国百貨店の23年1月から11月まで累計の売上高前年比は9.7%増(日本百貨店協会調査)。前年同時期(14.5%増)と比べ、伸び率は鈍化したものの、コロナ禍前の19年比では3.8%減で、前年(12.2%減)と比べると回復に拍車がかかった格好だ。東京地区に限ると、11月までの累計前年比は11.4%増、19年比では0.0%減となっており、全国に先駆けて「復活」を遂げている。
11カ月累計の全国百貨店の売上高は4兆7746億円で、12月が11月と同様の消費トレンドと仮定すると、暦年売上高は5兆4300億円程度になる。19年の水準まで届かないものの、5兆円台に回復する。1年を通じ、特選ブランド、時計、宝飾、美術などの高付加価値商材と、急回復しているインバウンド消費がけん引し、ここにファッション関連の復調が加わってきた。免税の売上高は7月以降、過去最高だった19年の水準を超え、10月、11月は過去最高額を連続して更新。11月までの累計で3000億円を超えており、暦年では19年の水準に届きそうな勢いだ。
大都市圏の基幹百貨店の回復が先行しており、地域・店舗間の「回復格差」が顕在化しているものの、業界全体ではコロナ禍からの「復活元年」と言えよう。
「百貨店再生」に目途
こうした復活は、百貨店各社各様の構造改革と戦略投資が奏功してきた証であり、消費環境の変化を「追い風」に転換できた成果でもある。
コロナ禍の劇的な環境変化によって、「百貨店」の強み、弱みが鮮明化し、存在価値そのものも問われた。各社各様に「百貨店・自社の存在価値とは何か」という原点に回帰して「百貨店再生」に取り組んできた。構造改革に軸足を置きながら、次世代型百貨店の創造、並びに百貨店を中核とした新しいグループ像の実現を目指した戦略投資も行ってきた。
リアル店舗の重要性を再認識し、これまでの百貨店の枠や常識にとらわれない店舗革新に取り組み、新しい体験価値の提供に留意してきた。改装は積極化し、百貨店本来の強みを発揮できるカテゴリーの拡充、専門店との融合によるフロア構成の刷新、地域生活者に寄り添った新たな編集ゾーンの構築などMD改革も進展した。百貨店の強みである外商力に磨きがかかり、富裕層の開拓も進んだ。
もちろん様々な改革・改善、業務・店舗運営の合理化、あるいは販促活動や顧客施策などにデジタル活用は欠かせず、その活用も広がり、デジタルリテラシーも徐々に高まりつつある。大手百貨店では第2、第3の収益事業の基盤整備あるいは育成準備も進展してきた。
23年の業界動向を振り返ると、コロナ禍前の業績水準に復活させる「百貨店再生」を第一義にした構造改革は、各社各様におおむね一定の成果を収め、中長期的に目指す「百貨店」並びに「百貨店グループ」のあるべき姿へのレールが整備されてきたであろう。
本領発揮の消費環境へ
日本経済新聞によると、上場企業の24年3月期の配当総額は約15兆7000億円になる見通しで、過去最高になるという(12月25日付朝刊)。上場企業の株式のうち約2割を個人が保有しており、約3兆円が家計に入る計算になるようだ。周知のように「デフレ」から「インフレ」に移行しており、今後、賃金と共に購買力が高まる好循環が生まれてくると、「デフレ」下で低迷してきた百貨店にとっては追い風になり、百貨店の本領を発揮できる消費環境に変化してくる。そこでは「ハレ」消費を基軸にしたマーケットの開拓力・創造力が求められ、対象顧客のライフタイルに深く寄り添った体験価値の提供力で格差が生じてこよう。
人的資本をはじめ、リアル店舗の改装やデジタル装備、事業開発などへの戦略的投資をどのように配分していくか。構造改革を継続していかなければならないものの、いよいよ持続的成長に軸足を移していくフェーズに切り替わってきた。百貨店並びに百貨店グループ再創造へ。そのスタートラインに立っている。これからが勝負どころだ。
(ストアーズ社 ストアーズレポート編集長 羽根浩之)