2024年10月30日

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2024年 百貨店首脳 年頭所感・参

<掲載企業>

■大丸松坂屋百貨店

■津松菱

■近鉄百貨店

■京阪百貨店

■天満屋

■伊予鉄高島屋

■鶴屋百貨店

■山形屋

■日本百貨店協会


「人」と「サステナビリティ」に的

大丸松坂屋百貨店 社長 澤田 太郎

昨年は新型コロナウイルス感染症が5月に5類に移行し、社会・経済活動の正常化に伴い、個人消費の持ち直しや訪日外国人観光客数が増加するなど、消費は活発化しました。

一方でウクライナ問題に加え中東地域に新たな火種を抱えた世界情勢は不安定さを増しています。資源価格の高騰や物価上昇などによる消費者心理の冷え込みなど、個人消費の下振れリスクに注視しながらも、当社は完全復活に向けた道のりを歩んでまいりました。

お客様との3つのタッチポイントである、リアル店舗の魅力化、DXの推進、外商の強化に注力した結果、コロナ前の売上高・利益水準への回復が見えてまいりました。新中期3カ年計画がスタートする今年は、昇龍の如く飛躍の年としたいと思います。

令和6年は人流が回復し、再び大きく消費が動き出す1年になるでしょうが、コロナ禍で起こったこと、その変化を理解し、元に戻るのではなく新たなマーケットニーズに対応していかなければならないと気を引き締めています。そのためには、この3年間の変化の本質は何だったのかを仮説化することが極めて重要だと考えています。

その仮説に基づいて新規ビジネスにも取り掛かりました。売らないショップ「明日見世」、百貨店初のファッションサブスクリプション「アナザーアドレス」、当社の食通バイヤーがセレクトした冷凍食品グルメのサブスクリプション「ラクリッチ」など、若手のアイデアから生まれた面白いビジネスも形になりつつあります。

そして、これらのビジネスの一歩先を行く形のものもスタートしています。ここ数年でお客様は現実世界だけでなく、もはやバーチャル・リアリティにも生活の場を見出すようになりました。私達は「3Dアバター販売」を通じて、その世界を豊かで彩りにあふれた空間に変えていくことにチャレンジを始めています。

一方で食品、工芸品など、まだ全国的に認知されていない地域に根差したローカルコンテンツを発信することで、取引先ならびに地域の皆様と共栄を目指していきたいと考えています。よりすぐったコンテンツと独自の編集力に基づく世界感を創出することで、リアル店舗に一層磨きを掛けるとともに、そこにデジタルを融合させていくことが百貨店のビジネスモデルのベースになると考えています。

引き続き好調な富裕層消費については、クローズドサイト「コネスリーニュ」でのスポーツ関連のメモラビリア企画や稀少な日本酒の販売などにより、若年富裕層の開拓を推し進めることができました。実店舗では特選ゾーンの改装に加えて各店のお得意様サロンのリニューアルによるサービスの拡充に取り組んでおり、外商顧客のロイヤルティが向上しています。

当社が創業以来、提供してきた本質的な価値は「人」だと考えています。キュレーター的な人財やチームにスポットを当てるだけでなく、実務の人々も意欲的に働けるよう風土改革も進めています。加えてクリエイティブな人財に幅広く支援を始めており、京都で開催された国際的なアートイベントでは、若手の有望な作家を紹介しました。これからは様々な人財の価値を引き出し、魅力的なコンテンツをお客様に提供していきます。

昨今は企業に環境・社会課題の解決と事業成長を両立するサステナビリティ経営が求められています。本年も地球や環境への負荷が少ない商品・サービスを提案する活動「Think GREEN」と、地域との共生を目指した活動「Think LOCAL」を中心に、成果の見えるサステナビリティ活動を推進いたします。

マーケット変化への対応という観点では、サステナビリティ志向が顕在化しており、一例を挙げますとファッションサブスクの「アナザーアドレス」では、この思想を商品企画に反映したアップサイクル企画のトライアルを始めました。本年も、社会課題を本質的に突き詰めることを念頭に置き、サステナビリティ経営を進めてまいる所存です。


一丸でサービスの満足感を向上

津松菱 社長 谷 政憲

2023年始はコロナ第8波の拡大、インフレによる物価高、電気代などの高騰による消費者の生活不安など、従来のコロナ禍だけでなくウクライナでの戦争や米中貿易摩擦を起因とする、これまでにない想定外の災いに悩まされました。

このような中、春以降には長かったコロナ禍もいよいよ終息に向かい、5月からはコロナウイルスの5類移行もあり、経済の正常化が大いに期待されました。しかしながらインフレによるお客様の生活防衛意識の高まりの中、これまでの行動制限の反動で優先順位の高い旅行や、都市部への買い物などの消費の流出により、全面的な回復には至りませんでした。

反対にコロナによる行動制限下において、これまでは都市部で買い物されていたお客様の地元回帰が、行動規制の撤廃によって再び都市百貨店に顧客が流失するマイナス面も一部にみられました。あらためて顧客との関係性をより一層深めていくことが、全館の喫緊の課題となっております。

またお客様に来店いただくために、待ちの姿勢ではなく、消費意欲を喚起する目的で、5月に初企画となる「生活応援20%還元セール」をほぼ1カ月に亘り実施。7月には6階催事場において「ポケモン出張所」を1カ月間開催し、売上高4000万円、レジ客数1万1000人以上と、集客アップによる売上げアップに努めました。

9月は暑さが例年以上に長引き、外出もはばかられる酷暑で、秋冬物をラインナップした衣料品中心に苦戦しました。10月には地元津市発行の「津市プレミアム商品券」が始まり、当店も販売所の1つとして拡販に努め、また11月に入ってからの急激な冷え込みもあり、業績は急速に回復しております。これまでのところ売上げは、生鮮食品の地下1階「サポーレ」、安定した固定顧客を強みに持つ「サトウダイヤモンドチェーン」、富裕層への高額販売があった美術などが計画を上回って好調に推移しております。

さて24年ですが、2月に同一商圏内のイオン津ショッピングセンター(旧サティ)が休業します。当店と顧客層が近いことから、一部改装を行い地域のお客様の囲い込みを図ります。また外商部門においては優良顧客に重点を置いた営業体制の構築、および人員補強を行い、より強化してまいります。

経費削減は借地借家料、警備員、配送センターなどの店舗を維持運営していく上での経費を、抜本的に見直し削減するとともに、人件費が減少した現在の社員体制でサービスレベルを落とすことなく、運営できるよう効率化を図ります。

これからも「ありがとうと言っていただける百貨店」を合言葉に、全従業員がお客様と直に向き合い、地元百貨店だからこそできるサービスの満足感を、地域のお客様に感じていただけるよう店づくりに努めてまいります。


キリンビール


新たな価値創造事業会社へ変革

近鉄百貨店 社長 秋田拓士

本年度の業績は計画通り推移し、2024年度を最終年度とする中期経営計画の数値目標についても、ほぼ近い数字を見通すことができました。

当社を取り巻く環境は、長期視点では国内の市場規模が縮小していく中、今後に向けて既存の百貨店事業モデルから大胆な変革ができるかどうかが求められています。そこで当社は、事業戦略の方針として、百貨の「貨」を価値の「価」に変えて、新たな価値創造事業会社(百「価」店)に生まれ変わります。

その主な戦略として、中期経営計画の4つの基本方針に基づき、まず1つ目に旗艦店である本店では、都市型総合百貨店へと進化し続けるため、ラグジュアリーブランドの強化や各売場の改装に積極的に投資するとともに、あべの3館体制の再構築に向けて取り組んでおります。

2つ目に地域中核店・郊外店のタウンセンター化、ローコスト店舗運営を推進していくために、上層階へは専門店を、低中層階には高収益事業である自主・フランチャイズ運営売場を積極的に導入するなど、さらなる収益構造改革を進めています。

3つ目にフランチャイズ事業の強化、拡大を推し進めており、新たにレストラン事業にも積極的に進出しています。フランチャイズ事業の運営店舗は今や22 業種、59 店舗まで拡大し、2024 年の目標売上高150 億円を前倒しで達成できる見込みです。

4つ目はSDGsの観点に基づくESGの取り組みです。沿線価値の向上や地域活性化への取組みを推進していくために、地域とともに農業事業に積極的に取り組んでいます。具体的には河南町での「いちご」の生産事業に取り組み、昨年12 月には「はるかすまいる」というブランド名で販売することができました。このように川上戦略として、生産から販売までに関わる新しい事業モデルを構築し、高収益化を実現していきます。

また、地球環境への貢献として未来に向けて、地球環境を守り、次世代へ持続可能な社会を実現していくことは、私たちの使命です。当社では30 年までに温室効果ガス排出量を15 年対比で50%削減、また食品ロスの削減に向けて廃棄物排出量を19 年対比で20%削減することを目標としています。

そのほか、人的資本経営として多様性を尊重した働きやすい環境整備と人財の育成にも重点的に取り組みます。昨年は女性活躍推進法に基づき、まずは育児短時間勤務者の在宅勤務制度の充実や育児保育支援手当の新設などを実施してきました。本年については、抜本的な人事制度改革に取り組みます。仕事の「役割」「責任」を重視した、年功型から成果主義型への改革に着手し、今後のマネジメントラインの活性化を強化していきます。

そして当社の従来の枠組み、事業領域を超えた変革を推進していくために、百貨店グループ各社はもとより、近鉄流通グループ各社との連携、協業に積極的に取り組んでいきます。さらには近鉄グループである鉄道、不動産、ホテル、旅行、レジャーなどの各社の全体戦略ともより一層の連携強化に努めてまいります。

また、大阪・関西万博やIRに向けても、今後も近鉄グループ一体となって積極的に取り組んでいきます。

終わりになりましたが、本年3月にあべのハルカスは早いもので開業10 周年を迎えます。あっという間の10 年でしたが、これを機に再出発して行くためにも、様々な取り組みに全社一丸となってまい進していきたいと考えています。


守口店の改装と新規出店に全力

京阪百貨店 社長 辻 良介

昨年5月にコロナが5類へ移行され、当社でも2カ月遅れで7月ごろから売上げが目に見えて回復、店頭にもようやく明るさが出てまいりました。

その一方で、コロナが3年もの長期間に亘り続いたことで、新しいことにチャレンジするマインドが弱まるなど積極的に商売する姿勢が委縮してしまい、経費を使わない守りの体質が散見されました。そういった姿勢を一掃することが重要と感じ、様々な場面で先頭に立って改善の必要性を説いてきました。その成果もあり、催事においては大型食品催事で折り込みチラシのサイズを拡大し、SNS広告も通常より予算を大きく投下、それにより大幅増収を勝ち取ることができました。従業員のマインドにも変化があったと確信しております。

次に売場の改装ですが、守口店では年々集客力が弱まっていたレストラン街を改装しました。コロナを経て、夕方以降のアルコールを伴った飲食はダウントレンドであったため、思い切って縮小し、その場所に美容・エステなどを増設しました。各区画とも順調に推移しております。

前述のような取り組みの結果、しばらく営業損益の赤字が続いていましたが、現時点の見通しでは営業黒字で着地できそうで、攻勢に転じる足場固めができたのではないかと総括しています。

さて本年ですが、前年からの方針である「直営強化」「外商強化」「新規事業への挑戦」に加え、「守口店改装計画の推進」「京阪枚方市駅再開発への進出」に全力で挑みます。商圏の競合関係は一層厳しさを増しています。昨年春に「ららぽーと門真」、冬に「イオンタウン守口」が本店である守口店を取り囲むように進出。この難局を乗り越えるためにも、これらの取り組みで逆境を跳ね返したいと思います。

守口店改装計画は、以前から直営強化の一環で各フロアに直営ショップを新規オープンさせ、他社との差別化を明確にしてきました。直営ショップはお客様からも好評で順調に成長しておりますが、周辺の売場へのにじみ出しがまだまだ十分でなく、その解決が急務です。問題の本質は直営売場・取引先が運営する売場にかかわらず、お客様の欲しいものをどうやって集めてくるのかに尽きます。本年はスピード感を持ってこの課題解決に取り組みます。

次に京阪枚方市駅再開発への進出です。沿線での出店余地の乏しい中、増床できる貴重なチャンス、大きな期待をしております。直営のコスメや婦人服を中心に売場を展開する予定です。

新規事業への挑戦では、引き続きECを強化、それに加えてふるさと納税への参入とキッチンカー事業にもチャレンジします。

最後になりますが、会社を回復基調へ乗せていけるか、重要な局面です。経営者と従業員が一致団結して社業にまい進します。


山元


全方位で店舗魅力化にアクセル

天満屋 社長 斎藤 和好

昨年は新型コロナウイルス感染症が5類へ緩和され、新しい日常のスタートの年となりました。一方で、一昨年から続く円安・原材料不足による物価高、エネルギー価格の上昇など先行き不透明な状況は変化していません。都市部の百貨店はインバウンドの復活により大きく売上げを伸ばしましたが、地方ではその恩恵はまだまだ先の状況です。そこで当社は、都市部とは異なる地方ならではの戦略を明確に打ち出し、「新しい地方百貨店」のビジネスモデルの構築を目指し、「地域連携」「CS向上」「DX」の3つの重点施策を推進しました。

「地域連携の推進」として、昨年当社は「新たな地域連携の実践」をモットーに、地域のために何ができるかを従業員一人一人があらためて見つめ直しました。新設した「地域連携推進担当」が地域の自治体を細かに訪問し、具体的な地域の課題を伺うことができました。そして、天満屋グループの持つリソースを生かすことで、その課題を解決する取り組みができることを確信し、岡山県内4つの市町と連携協定を初めて締結しました。

地域の商品の販路拡大についての課題解決のため、丸広百貨店との相互出店企画にも取り組みました。また、東京・新橋にある鳥取県・岡山県の合同アンテナショップ「とっとりおかやま新橋館」の物販部門の運営を両県から受託し、今年4月に運営を開始します。地域の魅力を全国そして海外へ発信する拠点として、アンテナショップの活用を計画しています。

「CS向上の推進」では、顧客満足の向上を目的にお客様の気持ちに寄り添う「気づき」を学ぶ当社オリジナルのCS向上研修を実施しました。昨年末までに450人の社員が受講し、自律的にCSを考え体現できる組織の実現に向けて取り組んでいます。少しでもお客様へのサービスに費やす時間を増やすため、「DX推進」にも注力しました。様々な場面におけるデジタル化の推進により、生産性の向上と新たな買い物体験の提案を目指しています。

地域から「あって良かった、なくてはならない」存在であり続けられるよう、引き続きこれら3つの重点施策に取り組むとともに、本年はあらためて「店舗の魅力化」に取り組みます。どうしたら天満屋ならではの切り口で店舗の魅力化を実現し、地域のお客様に喜んでいただけるのかを考え、商品、販売サービス、店舗環境、それぞれの視点でレベルを上げていきたいと考えています。

本年、当社は創業195周年を迎えます。小間物店、呉服店を経て百貨店に業態を変え、現在では百貨店だけでなく多岐に亘るグループ企業群として、地域の皆様のお役に立てるよう日々取り組んでいます。過去への感謝だけでなく、地域社会と共により良い未来を築いていくという決意を込め、本年は「ありがとう これからも」をキャンペーンテーマとして掲げます。これからも持続可能な地域社会の発展に寄与し続け、来る2029年の創業200周年に向けて一年一年信頼と連携を積み重ねてまいります。


強みを磨き増収増益基調を堅持

伊予鉄高島屋 社長 林 巧

日本経済は新型コロナウイルス感染症の5類への移行を契機として社会・経済活動が一段と正常化へ進み、国内景気は緩やかな回復基調となりました。個人消費については、サービス消費をはじめとしたリバウンド需要が回復をけん引し持ち直しの動きが見られた一方で、エネルギーコストの高騰や物価上昇による生活防衛意識の高まりなどの下押しリスクを抱えており、先行きは未だ不透明であると感じております。

そのような環境下、2023年は持続的成長に向けた強固な経営基盤の確立と企業価値の向上を目指して取り組みを進めてまいりました。外出機会の増加を背景としたアフターコロナの消費需要を着実に捉え、顧客ニーズに即応した品揃えの充実や特徴化を発揮した物産催事の強化、話題性ある新規ポップアップにチャレンジするなど顧客の拡大と賑わい創出につなげました。

また、フロアの活性化と相乗効果を高めるリニューアルに継続して着手。顧客ニーズの高いナチュラルコスメや食品ブランドなどの百貨店MDの強化に加え、「ニトリエクスプレス」の導入に合わせて買い回りや効率性を重視したフロアMDの再編を行い、館全体の魅力向上に取り組みました。一方で諸経費の上昇が続きさらに踏み込んだ構造改革の必要性が高まる中で、全体最適の観点から業務フローの再構築を行い、スムーズな組織運営と効率化を進めており、今後は抜本的な構造改革に向けたグランドデザインの確立が急務であると考えております。

24年においても個人消費拡大への期待感が高まる一方で、都市部商圏への集中化や所得・消費の二極化の進行、旅行をはじめとしたコト消費へのシフトなど、様々な環境変化への対応が求められます。そのような中、引き続き当社の強みを生かしたリアル店舗の魅力向上を目指して百貨店MDのさらなる強化を進めてまいります。

顧客ニーズの高いアクセサリー、化粧品、衣料品のブランドなどの新規展開を行い、「無印良品」導入と連動したフロア再編との相乗効果を高めるとともに、中期的には本店が立地する松山市駅前広場の再整備を見通す中で、見やすく・買いやすい売場環境を構築してまいります。

また、変化する顧客ニーズに適応し購買意欲を高める話題性と品質を両立する品揃えの強化に加え、ハウスカードである「ローズカード」の機能・特典の変更により、組織顧客とのつながりを一層強め、店頭・外商顧客政策の実践力を高めてまいります。そして、営業から後方を含めた全社においてデジタルを活用したDXをさらに進める中で効率性と効果性を追求し、増収増益基調の堅持に努めてまいります。



大転換期の新しい価値観に順応

鶴屋百貨店 社長 福岡 哲生

昨年、当社は「深化・新化・真価」を営業指針に掲げ、百貨店本来の価値を取り戻し、新しい世代の新しい発想を取り入れながら、様々な取り組みを行ってまいりました。

熊本では台湾半導体大手TSMCの工場の稼働が本年末からスタートすることに向けた様々な動きがあった1年でもありました。3月には熊本空港の新旅客ターミナルがオープンし、9月に台湾との定期便が就航してからは、台湾を中心としたインバウンドが急速に回復しました。

そのような中で、当社は初めての取り組みとなる「台湾フェア」を実施しました。熊本のお客様へ台湾の食・文化に親しんでもらおうと企画し、日本初登場の商品などを集め、大変好評いただきました。4月には中国と台湾出身の社員を2人増員しました。外国出身の社員は免税業務以外にも様々な業務を担当しております。当社のトラベルサロンが企画、運営するインバウンド向けの観光ツアーの実施や、中心商店街と連携した新規のグルメ開発など、中心商店街と一体になってインバウンドを呼び込むための企画にも取り組んでおり、今後当社が観光のランドオペレーターのような役割を担えればと考えております。

また、8月に開催した「くまもとの特産品祭り」では県内のインフルエンサーとコラボし、オリジナルメニューを企画。SNSで反響を呼び大きな注目を集め、コロナ禍前の160%超の売上げを達成しました。この催事や「台湾フェア」は、若手社員たちが企画・運営したもので、台湾フェアでは現地に出張チームを派遣して、人気店との出店交渉や商品の買い付けを行いました。これらの催事は従来の価値観にとらわれない新しいアイデアから生まれたものです。今後も若手社員ならではの新しい発想やアイデアを大事にし、加えてその価値観に対応する人材を確保するための採用も強化してまいります。

リニューアルでは、好調が続く食料品を強化するべく、惣菜の人気店を新たに導入したほか、婦人服フロアへの集客や買い回り強化を目的としたカフェ、化粧品ブランドの導入を行いました。今後も食料品、化粧品は強化していきたいと考えております。

今年の営業指針は「ADJUST~新しい価値観に順応せよ~」と定めました。本年稼働を始めるTSMCの進出は熊本にとって、明治維新に匹敵する大きな転換期です。そのような中で生まれる新たな需要や消費に対応し、新たな価値観に順応するべくまい進してまいります。


全員で「百+1貨店」をデザイン

山形屋 社長 岩元 修士

本年山形屋は創業274年、会社設立107年を迎えております。コロナへの守りからいよいよ攻めに着手する大切な年と位置付けております。

昨年はコロナ4巡目の年であり、5月には5類移行となってマスクを外す機会も増え、コロナそのものによる影響はほぼ収まってきました。この歴史的な災禍に対し、心の豊かさ、生きることの喜びをお届けするという百貨店の使命と役割を高いレベルで果たすことができたと考えております。この流れを今年も継続し、さらなる変革を本年も実行してまいります。

今まさに、コロナによる内面の変化とデジタルによる技術の進化が相まって大きな社会変革が起きようとしています。岐路に立つ私達にとって必要とされるのはその変化の先にある未来へ光を当て、変化の先にある未来から今の我々を導くことです。10年先のあるべき姿の実現のために全てのことをゼロベースで見直し、これまでのやり方、組織を時代に合った形に整え、私共の使命と役割が10年後もこの社会で価値あるものとして提供し続けられるよう進化させてまいります。

本年の私共のテーマは「私はビーム」です。従業員が心を明るく照らし、光り輝くビームのように、一人一人のお客様を笑顔にする百貨店を目指す、という思いを込めたテーマです。

従業員一人一人の体に満ちあふれる「お客様の喜びが私たちの喜び」という山形屋の揺るがぬ原点を起点に「地域の人々に愛される日本一の百貨店」「良い街の良い百貨店の実現」に向け、コロナ後の時代を先導する「百+1貨店」を全従業員が一丸となってデザインするスタートの年といたします。



「魅力ある業界づくり」を一段と

日本百貨店協会 会長 村田 善郎

昨年を振り返りますと様々な出来事がありましたが、百貨店においてはコロナ禍を乗り越え、企業業績の回復に向けて着実に歩みを進めた1年であったと捉えております。昨年5月の新型コロナ5類移行で大きく潮目が変わり、外出機運の高まりから人流が増加して旅行やオケージョン、ビジネス需要が盛り上がるなど、消費に明るさが戻ってまいりました。

またインバウンドは、円安効果が後押しする形でコロナ前を超える活況にあり、昨年10月と11月には、2カ月連続で調査開始以来の最高売上高を更新しています。さらに、時計や宝飾品など高額商材の増勢に加えて、主力商材であるアパレルや化粧品、あるいは菓子類など、幅広い分野で復調傾向がみられるようになり、業界全体の業績は回復基調が鮮明になっております。中には過去最高益を記録する会員店も出てまいりました。

このような前向きな業績動向の下で、新春を迎えられますのは喜ばしいことですが、一方で経済全般を俯瞰しますと、円安などを背景にエネルギー価格や原材料費の高騰による物価上昇が続いています。ここにきて消費者物価への転嫁は一服感も出ていますが、今後は人件費の上昇などに起因した値上げの動きが広がる可能性もあり、個人消費に影を落とすことが懸念されます。

また国内の社会課題として、様々な業界で要員不足が指摘されています。今や人材確保は事業継続に直結する重い経営課題であり、要員不足は企業の存続を脅かすまでの深刻なリスクとなっております。

さらに国際情勢に目を向ければ、はや2年が経過したロシアのウクライナ侵攻、昨年10月から続くパレスチナ紛争、アジアでも南シナ海の領有権問題など、地政学リスクは絶えることがありません。加えて国内も、かまびすしく騒然とした状況にあります。

このように年があらたまってもなお、国内外で政治経済の不透明感は高まる一方ですが、企業経営に携わる者としては、混沌の中からいかにして成長機会を見出し大きな進化を遂げていくか、慣例や経験則にとらわれず、挑戦心と気概を持って臨むべきではないかと考えております。

私が協会長に就任してから4年目を迎えましたが、この間、当協会では社会課題の解決に重点を置いた事業計画を立て、非競争領域のプラットフォームづくりにまい進してまいりました。特に経産省の指導を得て2021年に立ち上げた「百貨店研究会」では、各種の業界課題が整理されましたが、その後、課題解決に向けた具体策に取り組み、いくつかの成果物をまとめることができました。

ここで一例を紹介しますと、まず1点目は取引先業界の問題提起を踏まえ策定した「店頭における労働環境改善指針」があります。働く場の魅力向上は人材確保に不可欠ですので、会員各社には「営業時間の短縮」や「休業日の増加」に取り組むことを呼びかけております。

2点目は「人権デューデリジェンスの手引き」。近年、人権問題は企業責任が問われる新たな社会課題として関心を高めていますので、カスハラなど百貨店固有の事業特性に則した手引書を作成いたしました。

3点目は「物流の適正化・生産性向上に向けた自主行動計画」を作成して、昨年11月に発表いたしました。いわゆる「2024年問題」への対応策ですが、百貨店独自として「深夜検品の廃止」や「納品リードタイムの緩和」などにも取り組むことを掲げております。

そして、最後4点目は「地域活性化」をテーマとした成功事例の情報共有。地方百貨店のトップが参画する協議会において事例研究を進めていただきましたが、その結果、「地方店間での物産交流事業」などが行われるようになりました。

いずれも「魅力ある業界づくり」に向けた土台を再構築する施策でして、本年もこの取り組みが一層進むことを期待しているところです。

さて足元では、インバウンドや高額消費で百貨店業界は力を取り戻したかに思われますが、これからが再生に向けた正念場になります。少子高齢化の時代にあって、百貨店は既存顧客に寄り添いながらも、次世代顧客を取り込んでいかなくてはなりません。これを二律背反と捉えるのではなく、両立させるイノベーションを起こして、新たな価値を創造することが必要になります。

あらゆる世代に力強い消費を喚起させることこそが、百貨店に求められている役割であり、世代を問わず、百貨店がワクワクする存在であり続けなければ、次の時代に生き残ることはできないと考えております。

今年の干支は「甲辰(きのえ・たつ)」です。その由来は、「あまねく光に照らされ、急速な成長と変化が起きる年」とあり、誠に縁起良く、百貨店の向かう先を示唆しているように思えます。これからが百貨店の出番です。次のステージに向けて、さらに進化する百貨店をつくってまいりましょう。

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