2024年11月21日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 国税庁が乗り出した「タワマン節税規制」の波紋

相続税の評価額と市場価格との乖離を活用した「タワマン節税」の規制に、国税庁が乗り出している。

国税庁は6月、相続税を算出する基準となるマンション評価額の新たな計算式を公表。新基準ではマンションの高さや築年数、所在階、敷地持ち分狭小度が考慮されて、評価額が算出される。現在は平均で時価の4割程度にとどまる評価額を6割以上に引き上げ、戸建ての水準とそろえるのが狙いだ。

数百戸規模の大型タワマンは現状、1戸当たりの土地の持ち分が小さいため、相続税における土地の評価額を抑えやすい。また、眺望のよい高層階ほど価格が高く、評価額との乖離が大きい。国税庁によれば、相続税の評価額と市場価格が2.5倍以上も乖離するマンションは4割を超える。

  • 見直しのきっかけは最高裁の判決

今回、国税庁が見直しを行うきっかけとなったのが昨年の最高裁判所の判決だ。

マンションの評価額と時価との乖離などを用いた過度な相続税の節税策を否認した、国税庁の追徴課税を適法と判断。国税庁も算定方法そのものの見直しが必要と判断し、改正の議論を進めてきた。手続きが順調に進めば、新基準は2024年1月から運用が始まる予定だ。評価額の計算式が変われば、超高層タワマンなどの相続税が従来よりも大幅に増額となる可能性が高い。

では、相続税評価額はどの程度増えるのか。ある試算の結果を見ると、多くの物件で税務上想定時価が平均取引価格(市場価格)に近づいている。中には税務上想定時価が市場価格を超える物件もあった。ただ東京都心では平均取引価格との乖離が依然としてあり、中には平均取引価格よりも約3割低い物件もあった。

新基準での評価額は、タワマン以外で5〜8割ほど、タワマンで2倍前後に増えた。評価額が倍増したタワマンであっても、平均取引価格に対して6割ほどの水準にとどまる。「新基準の計算式では、税務上想定時価に0.6を乗じており、これが激変緩和措置になっている」と税理士は指摘する。

マンションの相続税評価額の上昇で、相続税負担が重くなるケースも出てくる。そのため、評価額が低い23年中に保有マンションの生前贈与を、と考える人がいるかもしれない。ただ、「購入して数年内の贈与などは国税庁から『過度な節税』と指摘される可能性がある。また、贈与による不動産の移転コストは相続よりも大きく、駆け込み贈与が有利になるケースは限られる」と別の税理士は指摘する。

  • 富裕層への影響は

では富裕層への影響はどうだろうか。「富裕層の多くは資産価値が下がらないことを期待してマンションを購入する。節税目的で物件を買う人はほぼいない」と、不動産仲介会社の幹部は語る。

この仲介会社の顧客には、タワマン最上階のプレミアム住戸など転売益が狙える住戸を複数抱える富裕層も珍しくないというが、マンションを買う目的は資産分散やセカンドハウスとしての利用が主だという。そのため相続税対策としては区分マンションではなく、むしろ賃貸マンションや事業用ビルの1棟物件などで行っているのが実態で、そこまで影響はないのかもしれない。

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