2024年11月22日

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脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み(1)

今、二酸化炭素(CO2)などのGHG(温室効果ガス)排出を抑え、脱炭素化を図ることが世界的課題となっている。日本も2030年に温室効果ガス46%削減、2050年にカーボンニュートラルの達成という目標を掲げている。その達成において重要なカギとなるのが、排出量の約80%を占める企業の削減への取り組み。三井不動産はカーボンニュートラルな街づくりに向け、「SCOPE3」(企業の直接排出以外の事業活動に関連する間接排出)に当たるサプライチェーンと連携し、「&マーク」に象徴される共生・共存の精神や新産業創出のノウハウを通じて、サプライチェーン全体の排出削減に挑戦している。「脱炭素社会実現に向けた三井不動産グループの取り組み」を三井不動産社長の植田俊氏、同取締役専務執行役員の広川義浩氏、同サステナビリティ推進部長の山本有氏のスピーチで紹介。第1弾は、三井不動産代表取締役社長植田俊氏による「カーボンニュートラル実現に向けた三井不動産グループの街づくりについて」を掲載する。


当社の歴史を紐解くと、日本初の超高層ビルの「霞が関ビルディング」は、高さを競って高層化したのではなく、地上に空地をつくり緑や憩いの場を確保し、オフィス環境を向上させるために、当時の最先端技術を駆使して高層化したのです。その後、都心のオフィスで働く人々のニーズに応えるために質の高い住宅事業に参入。そして、その方々のクオリティライフを高めるために「ららぽーと」をはじめとするショッピング事業、さらにホテル・リゾートや東京ドームなどスポーツ・エンターテインメント事業へも参入しました。バブル崩壊後は賑わいを失っていた日本橋を官民、地元の方々と一体となり、「日本橋再生計画」としてミクストユースの街づくりを推進。現在の日本橋は老若男女、昼夜休日を問わず日本を代表するウェルビーイングな街に変貌しています。

ウェルビーイングのために必要となるのは街の賑わいだけでなく、憩いをもたらす緑の空間です。我々は地球環境保全のための取り組みにも注力し、街と共生する緑の空間をつくってきました。当社グループは北海道に5000haの広大な森林を有しており、“植える・育てる・使う”を伴った「終わらない森」づくりを進めています。CO2削減のためにも緑の循環は大変重要です。

また、現在推進しているスポーツの聖地である神宮外苑の街づくりでも、緑の保全、新たな緑の創出を計画しています。象徴される4列のいちょう並木の景観および空き地の保全はもちろん、競技の継続性に配慮しながらスポーツ施設の連鎖的更新、現在の閉鎖的施設をバリアフリー化した回遊性の向上、首都圏直下型地震に備えた施設老朽化への対策といったことに取り組んでいます。樹木本数を1904本から1998本に、緑の割合も従前の25%から30%に増やし、家族連れやレジャー、スポーツイベントなどで来られた方々が合間に利用できる広大な芝生広場などのオープンスペースも、現在の21%から44%に拡張します。様々な人が気軽に訪れ、憩い、賑わいの場所となるよう、22世紀を見据えたウェルビーイングな街づくりを進めていきます。

我々は単に建物をつくるだけでなく、街づくりを通じて場とコミュニティの提供を行うプラットフォーマーとしてイノベーションを起こし、付加価値を高める取り組みをしています。日本橋であればライセンスや宇宙に関係する人が集まり、コミュニティを通じて多様な連携が生まれ、新たな産業創造に結び付くような取り組みを進め、柏の葉スマートシティ、東京ミッドタウンなどでも街づくりを通じて様々な社会課題の解決に貢献してきました。そして脱炭素社会の実現に向けてもプラットフォーマーとして多様な関係者をつなぎ、イノベーションを起こしていくことが重要と考えています。

当社グループの脱炭素に関する方針については、21年11月に包括的かつ具体的な戦略をまとめた「脱炭素社会に向けたグループ行動計画」を策定しており、グループ全体の温室効果ガス排出量を30年度までに19年度比で40%削減、50年度までにネットゼロを目指すという目標を掲げています。我々はこの目標に向けて様々な排出削減策に取り組んでいますが、自社の活動を通じて排出される温室効果ガスを削減するだけでは、この目標を達成することはできません。

我々のサプライチェーン、特に「SCOPE3」と呼ばれる川上、川下からの排出量が約90%を占めており、いかにここを減らすかが重要となります。そしてサプライチェーンには沢山の企業やお客様がいらっしゃいます。協力いただくサプライヤーの裾野は極めて広く、1つのビルをつくるにしても躯体工事、内装工事、外装工事、設備工事などがあり、さらに各部材ごとにメーカーの会社が関わるなど、多種多様な協力会社の貢献があって実現可能になります。また、オフィスや商業施設のテナント様、マンションの入居者様やホテルを利用されるお客様、街で働くワーカーやショッピングを楽しまれる来街者など、多様なアセットを通じて多くのお客様と関わっています。このように街づくりのサプライチェーンには、数多くのステークホルダーがいらっしゃいます。

しかるに脱炭素社会の実現に向けて高い目標を達成するために当社グループができることは、プラットフォーマーとしての役割を果たすこと。すなわちサプライヤーの皆様やお客様とともに新しい排出削減手法に挑戦し、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みを加速することだと考えます。そしてこれらの取り組みを通じて街づくりのサプライチェーンに関わる川上から川下までのあらゆる人々の意識に働きかけ、行動変容を促していきたいです。

 

新たに取り組む挑戦とは、まず1つ目は、サプライチェーンの川上について。街づくりで川上には我々が直接間接的に取引する無数の企業がおられ、その皆様がご利用いただけるようなGHG排出量、算出マニュアルを当社と日建設計様とで作成しました。GHG排出量を精度高く算出できる標準ツールを共通化し、見える化することで削減に向けて課題解決を促進することが可能となります。

2つ目は、脱炭素時代の旗印となるような開発を促進すること。脱炭素社会を実現するためにはイノベーションが必要です。街を構成する建設物の在り方も、イノベーションで変わっていかねばなりません。そこで我々は、当社が保有する木材を活用し、木材賃貸オフィスビルのような循環型社会に貢献する新しい建設物のあり方を提案します。それが日本橋に26年に竣工予定の17階建ての木造ビルです。

3つ目は、サプライチェーンの川下における取り組み。川下の排出削減を電力のグリーン化と省エネの両方で進めていきます。オフィスや商業施設などの入居テナント様や当社グループが分譲したマンションの居住者様に対しては、脱炭素行動計画のアクションとして定めた「グリーン電力提供サービス」をすでに開始しており、利用者は着実に増加を辿っています。一方で、日本のCO2排出量の約20%は家庭関連の排出です。家庭関連は、脱炭素と分かっていても何をしたらいいかわからない、モチベーションが上がらないといった課題があります。

この家庭関連の排出量を減らすには、生活者の皆様が脱炭素に意識を向け、行動変容を起こしていくことが肝要です。そこで我々は暮らしの中で脱炭素を呼びかけ、削減量を見える化しポイントが付与される、楽しみながら持続的に脱炭素に取り組むサービス「くらしのサス活」を原則全物件で標準導入します。さらにこれら3つの施策にとどまらず、2050年ネットゼロの高い目標に向けたイノベーション創出にも取り組んでいます。

三井不動産グループは、これまで日本橋におけるライセンスや宇宙などの様々な事業で街づくりを通じて場とコミュニティの提供を行い、オープンイノベーションの産学連携の促進に臨んできました。脱炭素領域でもこうしたプラットフォーマーの役割を果たすことで、新技術の開発や実装をサポートして参ります。そしてこのような我々の挑戦が日本初のグリーンイノベーション創出や世界から日本へのESG投資促進へとつながっていくと期待しています。グリーンな建物をつくるだけでなく、街づくりそのものをグリーンにしていきます。そのために我々に関わる全ての皆様に働きかけ、ゆくゆくは企業や産業の枠を超えた取り組みに広げていきたいと思っています。

カーボンニュートラル実現という日本社会の、さらには世界の大きな目標を達成するために、街づくりを牽引してきた我々だからこそ取り組まなければならない使命と考え、推進して参ります。

(塚井明彦)