2024年11月21日

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大丸松坂屋百貨店のファッションサブスク、現代アートや“診断”追加で勢いに弾み

品揃えを衣料品から広げ、現代アートを追加。世界的に著名なアーティストもいるが、多くは「ネクストジェネレーション」だ

大丸松坂屋百貨店が運営するファッションのサブスクリプション「AnotherADdress(アナザーアドレス)」が、リニューアルに着手した。9月1日に現代アートの取り扱いを、同13日に顔のタイプやパーソナルカラー、骨格、好みを分析して似合う服を提案する「ファッションタイプ診断」を、それぞれ開始。「サステナブル」がキーワードの新機軸も計画中だ。2021年3月に立ち上げて以降、約2年半で会員登録者数は2万を、レンタルした衣料品は15万着を超えた。事業責任者の田端竜也氏は「当初に掲げた『5年間で黒字化』という目標は(登山で表せば)5合目まで到達した」と手応えを示す一方、「プラットフォーマーとしての確立、あるいは目指すべき姿からすると、まだ1~2合目」と気を引き締める。今秋のリニューアルをてこに、さらに収益力を高める狙いだ。

約2年半が経っても、会員登録者数は右肩上がりだ。在庫の回転率が収益に直結するビジネスモデルのため、季節商材は手薄で、夏場や冬場、とりわけ汗をかく夏場は伸びにくいが、今年の8月は休退会率が過去最低を記録。お盆明けからは好調で、9月に入ると会員登録者数が前年比で1割増に転じた。

今夏は季節商材の可能性も浮かび上がった。8月に浴衣を投入すると、僅か10秒で在庫が払底。需要は旺盛だ。田端氏は「浴衣は1~2カ月しか動かず、本格的に扱うのは難しい。ただ、来年は別注なり何なりでトライする手もあると感じられた。今後は何%と比率を決めて、季節商材も打ち出す。カラーサングラス、ストールが候補だ。ストールは昨年に数点だけ揃えたが、動きは良かった。今年は増やす。コートやニットも昨年より多く仕入れる」と対応の強化を明言する。

現代アートにも伸び代を見出す。田端氏は「実体験として親和性が高いと判断した。自宅にアートを飾ると気分が上がるし、新鮮さを出せる。ファッションのサブスクは『ハードルが高い』とされてきたが、アートも同様。つまりはビジネスチャンスだ。アートの愛好家を取り込めれば、衣料品を借りてくれるかもしれない。近年はアートと衣料品のコラボレーションも増えており、ファッションからアートに興味を持つ人も多いだろう」と指摘する。

ラインナップは“一点物”を中心に油絵、水彩画、アクリル画、ペインティング、シルクスクリーン、写真など多彩だ。作家は東数博、土屋由貴、清水佳代子、米澤さとみ、末松由華利、須永有、樋口亜弥、朝日聡子、三井彩紗などで、いわゆる「ネクストジェネレーション」が多い。品揃えや作家は順次増やしていく方針だ。

料金はライトプラン(1点、1カ月)が5500円、スタンダードプラン(3点、1カ月)が1万1800円、スタンダードプラスプラン(5点、1カ月)が2万2000円。往復の送料、クリーニング、基本的な修繕・補修料金が含まれており、衣料品と一緒に借りられるのも特徴だ。

こだわったのは「衣料品と一緒に借りられるようにしたほか、アートが当たり前ではない人をメインターゲットに据える上で、ピンを同封するなど絵の掛け方も指南する。そもそもアートは壁掛けだけが正解でなく、階段に置く用もある。退去時に原状回復が求められる賃貸住宅での飾り方も含めて、指南は欠かせない。アートそのものも、まずは飾りやすい小さいサイズをメインに用意した」(田端氏)。

初動は、全体の約15%がレンタルされた。今後は大丸松坂屋百貨店が手掛けるアートのオウンドメディア「ARToVILLA(アートヴィラ)」と連携し、利用者を増やす。

品揃えだけでなく、サービスも拡充した。ファッションタイプ診断だ。大丸松坂屋百貨店の専門的な知識を有するスタッフが、コーディネートなどをサポートする「ファッションナビ プレミアム」、日本顔タイプ診断協会が監修。2択形式の50~70問に回答すると、顔のタイプやパーソナルカラー、骨格タイプ、好みが分かる。診断に基づき衣料品を検索できるようにもした。

ファッションタイプ診断を導入した効果で、新規会員登録者は従前の10倍に跳ね上がった

さらに、ファッションAIのスタートアップ、ニューロープが提供するシステムを導入。閲覧中の衣料品とシルエットや色柄などが似たものを一覧で表示するようにした。AIアルゴリズム開発のベンチャー、グラフとも協業。会員の登録情報と行動を踏まえて衣料品を表示するレコメンドシステムを開発した。

ファッションタイプ診断の効果はてき面だ。新規会員登録者が従前の10倍に跳ね上がった。田端氏は「そもそも、百貨店で診断してもらっても、最適な衣料品を購入できる人は少ない。価格が高いからだ。ファッションナビ プレミアムも予約は埋まっているが、買上げには結び付きづらい。レンタルなら、それを取り込める。新規の会員を獲得できるだけでなく、既存の会員は好みの衣料品を選びやすくなる」とメリットを強調する。ファッションナビ プレミアムとは相互送客を検討中だ。

品揃えとサービスの拡充と並行して、販促も本格化。9月6日には、シンガーソングライターのchay(チャイ)さんとコラボレーションし、インターエフエムでラジオ番組「chay,like you – clothes save people -」(毎週水曜日、午後8時30分~9時)を始めた。chayさんがアナザーアドレスで選んだ服を着て番組を収録し、SNSで投稿したり、アナザーアドレスでchayさんとタイアップした記事を配信したりする。田端氏は「アナザーアドレスの利用者は30代が少なく、そこに発信したい」と狙いを明かす。

大丸松坂屋百貨店は2024年3月に新たな中期経営計画が始動する。「利益を出す3年間で、黒字化も果たす。そのための体制づくり、準備を急ぐ」と田端氏。近く現代アート、ファッションタイプ診断に次ぐ“第3の矢”を発表する予定で、収益力の向上に余念がない。

(野間智朗)

大丸松坂屋百貨店のファッションサブスク、日本一へ“折り返し地点”通過