2024年10月30日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 訪日観光客をバネにして復活し始めた「夜の経済」

今年の夏、米国やオーストラリア、韓国、香港、そして台湾といった様々な国の外国人達100人余りが東京・六本木の小さなバーでわいわい盛り上がっていた。彼らは海外から日本にやって来た旅行者達。SNSでその日開かれるパーティーを見つけ、三々五々集まっていたのだ。

このパーティーは、毎週金曜と土曜に開催されている「東京パブ クロール」。午後7時に六本木のバーに集合、3軒程度バーを巡った後、午前0時までクラブで踊って解散というものだ。

参加資格は特になく、男性は3000円、女性は1500円のチケットを購入すれば、各バーでウエルカムドリンクが振る舞われ、それ以外のドリンクも格安で飲むことができる。参加者は、毎回100〜120人程度と大盛況。昨年の秋からは訪日外国人旅行者が増え始め、今では参加者の8割以上を占めるほどだという。

国が観光立国に向け訪日外国人の拡大を掲げた頃から、「日本は諸外国に比べて夜間に遊べる場所が少なく、ナイトタイムエコノミー(夜の経済)が弱い」との指摘が根強かった。そのため2019年には、観光庁が主体となって指針や具体策をまとめた「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」を策定するなど、ナイトタイム強化に乗り出していた。

ところがその矢先に新型コロナウイルス感染症が拡大。緊急事態宣言などを受けて、夜の街は壊滅的なダメージを受けた。小規模の飲食店やバーはもちろん、高級クラブなども相次いで店を畳んだ。

しかし新型コロナの沈静化に伴って、飲食店をはじめとする夜の街は息を吹き返している。さらに東京パブ クロールを見ればわかるとおり、訪日外国人の急膨張を追い風に活気を取り戻しつつある。

  • 社交場にも客足戻る

「欧米系の訪日客はバーや踊るクラブがお気に入り。一方でアジアからの訪日客は女性がいるクラブがお気に入りだ。アジア系の訪日客は、ホステスさんと同伴して高級クラブを3軒ぐらいはしごし、その後アフターまでさせてくれと頼んでくる」

そう明かすのは富裕層サービスを運営する男性だ。

とはいえ高級クラブは会員制で一見さんお断り。そのため増渕氏は、個人的なツテでホステスさんに頼み込んで訪日客に対応してもらい、数軒の高級クラブを回る「クラブホッピング」を展開、好評を博しているという。

訪日外国人のみならず、銀座の主要顧客であるビジネスマンたちも、接待をはじめとした社用利用をし始めており、銀座の夜も復活し始めている。

高級ブランドが軒を連ねる銀座並木通りのクラブの社長は、「コロナ前の銀座は、空前の賑わいを見せていた」という。「オリンピック景気で、ゼネコンを始め不動産会社など多くの企業が使ってくれて人が足りなかったほど。それがコロナ禍で一変、客足がピタッと止まった」(クラブの社長)

ただ水際対策が緩和された昨年の秋以降、小規模かつ短時間になるなど“新常態”に変化しているものの企業の接待も再開し、客足はコロナ前の水準に戻っているという。

「接待の形も変化しているが、やはり対面が基本というビジネスマンが使ってくれている。クラブは普段知り合うことができない経営者たちと知り合えるほか、接待のやり方なども女性がしっかりと教えてくれてビジネスマンが成長できる夜の社交場。仕事の一環として使っていただきたい」とこの社長は語る。

社交場といえば料亭も代表格の1つだ。ミシュラン二つ星に輝いている東京都内の老舗料亭には、連日、訪日観光客が押し寄せている。

料亭の社長によれば、「ミシュランを見て来てくれる人に加え、最近では日本文化に触れたいと大手ホテルのコンシェルジュに頼んで来てくれる外国人も増加している。接待もすっかり回復しており、おかげさまでコロナ前の水準を超えている」と明かす。

  • 夜に目をつけ始めた観光地

飲食店を中心に復活しているナイトタイムエコノミー。一方で観光地も「夜」に目をつけ、新たな取り組みを進めている。

愛媛県大洲市。JR予讃線の伊予大洲駅から少しの肱川沿いに、鎌倉時代末期に建造され国の重要文化財にもなっている大洲城が鎮座している。実はこの城が一般閉館する午後5時から開館時間の午前9時まで、「1日城主」として独占して宿泊することができるのだ。

現地に到着し甲冑と着物に着替えると、鉄砲隊が祝砲を放ち、大勢の甲冑武者がお出迎え。伝統芸能を鑑賞した後、大洲藩に献上したとされる食材でつくった豪華な料理を堪能し、天守閣に宿泊することができる。もちろん貸し切りだから、思う存分「キャッスルナイト」を楽しむことができるというわけだ。

金額は1人55万円と少々高いが、コロナ禍の20年7月にオープンしたのだが、これまでに企業経営者夫婦やファミリーなど26組が利用。「タイムスリップしたかのようで55万円でも安過ぎるとの声が多く寄せられている」(大洲市)という。

コロナ禍で消滅したかに見えたナイトタイムエコノミー。だが訪日観光客をバネにしながら質や形を変え始動し始めた。

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