2024年11月22日

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お客様との信頼関係の構築に全力 松屋

《連載》「ウィズ・コロナ」に求められる安全・安心な買い物環境を提供する百貨店 第4回 松屋

「ウィズ・コロナ」の時代に、どう安全・安心な買い物環境を提供できるか――。百貨店業界の各社は、配慮や工夫に余念がない。消毒、検温、マスクやフェイスシールドの着用、ソーシャルディスタンスの確保など手法は多岐に亘るが、根幹には〝おもてなし〟がある。百貨店業界は常に安全・安心を追求し、おもてなしに昇華させ、信頼を育んできた。そして、最良のおもてなしは時代によって形を変え、ウィズ・コロナの時代にも適合していく。百貨店で買い物を楽しむ人々に、〝百貨店流のウィズ・コロナ〟を発信する連載の第4回は、松屋だ。食品売場も含めた長期間の休業を決めた理由、休業中の社員とのコミュニケーションを円滑にした興味深い仕組みの存在、営業を再開するにあたっての感染防止策などを、柳澤昌之執行役員総務部長が明かす。

 

■社長と副社長を中心に緊急対策本部を組織

――新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して以降、どう対策を講じていきましたか。

「1月24日に、店頭でのマスクの着用を許可しました。その後、危機管理委員会内に緊急対策本部を立ち上げました。危機管理委員会は本来、大規模な震災などを想定し、1年間に2回活動する組織です。実は2009年にインフルエンザの感染が拡大した時も同本部で対応しましたが、早期に弱毒性が判明し、大事には至りませんでした。新型コロナウイルスに関しては、高いリスクを認識して速やかに情報を収集。本部長(秋田正紀社長)と副本部長(帯刀保憲副社長)を中心に、お客様や従業員に対する感染防止策、社内に感染者が発生した場合のフロー、会食や渡航の原則禁止などを決めました」

――緊急対策本部は、どのようなメンバーで構成され、何を決めるのですか。

「30人強からなり、所属は人事部や総務部、環境マネジメント部、ブランドデザイン部、グループ政策部、営業本部など多岐に亘ります。感染防止策を講じるだけでなく、企業も存続させなければならないので、経理部も名を連ねました」

「感染防止策としては、お客様に向けて『入店口と退店口を分け、一方通行にしてお客様同士の接触を避ける』、『サーモグラフィーによる検温』、『店内出入口での手指のアルコール消毒、マスク着用のお声掛け』、『マスクをお持ちでないお客様には有料で配布』(全額を医療支援に寄付)、『エレベーターは4名定員とする』、『レジ、対面カウンターでの飛沫防止シートの設置』、『お客様との濃厚接触を避けるため、1メートル以内かつ15分以上の接客は行わない』などを、従業員に向けて『コイントレー、筆記具、試着室などは、1客ごと使用ごとに消毒』、『更衣室の3密を避けるため、接客に相応しい私服での勤務を認める』、『臨時休憩場所の増設』などを、それぞれ定めました」

 

入口にはサーモグラフィーを設置

――政府の緊急事態宣言を受け、百貨店業界は概ね「全館休業」と「食品売場のみの営業」に切り替えました。銀座店が長期の全館休業を決めた理由を教えて下さい。

「銀座店は3月2日から時短、同28日と29日、4月4日と5日、4月8日~5月24日に全館休業、緊急事態宣言が解除された5月25日~31日に食品売場のみの営業、6月1日に全館営業を再開、同23日と30日に全館休業と、臨機応変に営業してきました。もちろん、当初は社内から『食品売場のみの営業』という声も上がりましたが、従業員の安全・安心を考慮し、社長が全館休業を決断しました」

「当社が掲げる5つの経営方針の1つに『人間尊重』があります。『お客様と従業員は財産として守る』という意味です。『ライフラインを守るため、百貨店は食品売場を開けるべき』といった要請や意見はありましたが、百貨店の食品売場はスーパーマーケットと特性、役割が異なります。ライフラインではないと判断しました。銀座地区としても、一体で感染の防止に取り組む機運が高まり、ほとんどの店舗が休業しました。銀座の街全体が協力して自粛し、危機意識の醸成に繋がったと考えています」

「ただ、当社だけでは決められません。百貨店業界の場合、取引先は営業に際して事前に商品を準備しなければならず、休業の決定が遅れるとムダが生じます。政府が緊急事態宣言を出す2日前か3日前には、当面の全館休業を伝えました。すでに3月28日と29日、4月4日と5日の営業を休み、そこでお客様や取引先に是認された印象があり、混乱などは生じませんでした」

■有用な「セコム安否確認サービス」

――全館休業中の社員の働き方について教えて下さい。

「大半の社員は、一時帰休またはテレワークです。ただ、経理部や人事部、施設のメンテナンスを管轄する環境マネジメント部などに属する約1割の社員は、業務上、どうしても自宅だけでは職務を全うできません。1週間に1日か2日程度、ローテーションで出勤しました。緊急事態宣言下の約1カ月半は、出勤した社員に1日単位で特別手当てを用意し、在宅での業務が必要な社員に対しても、出勤者よりは少ないですが、同様に特別手当を出しています」

「社員の不安の緩和にも心を配りました。当社は3~4年前に『セコム安否確認サービス』を導入し、安否確認のメールやメッセージを社員に送れます。それを使って社長のメッセージを計8回、営業や人事関連の情報などを計14回、社員に届けました。内容は、全館休業で不安な社員に安心してもらうメッセージ、精神面を含めて健康をチェックするアンケートなどです。このサービスは、社員がメールやメッセージを受け取るだけでなく、アンケートには回答しなければならないのがポイントで、現状を精確に把握できます。回答も、文字を打つ必要はなく、クリックするだけです。回答率は90%台の後半でしたが、回答しない社員がいると、上長にその旨が伝わるため、〝ダブルチェック〟や注意も可能です」

「もっとも、震災への備えとして、以前から不意打ちで安否確認のメッセージを送っており、社員は使い慣れていました。全ての社員に行き渡らないと、安否の確認やメッセージの通達などは徹底できません。社員には『会社と繋がっている』という安心感も生まれますし、セコム安否確認サービスは有用です」

――営業再開に向けては、従業員に対する安全・安心の担保も求められました。

「取引先からの要望が特に多かったのは、ロッカー、社員食堂、休憩室です。例えば社員食堂は2カ所から5カ所に増やしました。本館8階の催事場『イベントスクエア』の一角や屋上、別館の会議室などを転用し、福利厚生の一環としてワンコイン弁当も販売しました。社員には1箱・50枚入りのマスクと除菌スプレーを支給し、店舗の全ての入口と従業員入口にはサーモグラフィーを配備しています」

――まずは、食品売場のみの営業に踏み切りました。

「政府や同業他社の動きを見ながら、要望が多かった食品売場のみを5月25日に再開しました。行列も発生しましたが、当社の役員も整理に当たるなどでソーシャルディスタンスを守って頂き、混乱は起きませんでした。全館営業に切り替えた6月1日以降も、マスクの着用や検温、消毒などのルールは徹底しています」

――来店客の反応は、いかがですか。

「買い物したお客様を対象に、店頭やメールでアンケートを実施していますが、店舗での買い物に『リスクを感じる』が6割と高い反面、松屋銀座店は『他の商業施設よりも安心して買い物ができる』は75%にのぼります(数字は6月下旬時点)。一定の支持、信頼は得られているのではないでしょうか。回答率も通常のアンケートと比べて遥かに高く、関心の強さが窺えます」

「ただし、楽観視はできません。『感染のリスクを考えて、来店は減る』という回答が35%と多く、店舗の収益力を維持するためには、来店頻度や単価を上げる施策が不可欠です。リアル店舗は滞在してもらうのが1番ですが、コロナ禍で難しいのであれば、取引先と組んでライブコマースやオンライン接客を積極化するなど、接客の方法を工夫しなければなりません。店舗では催事の運営も見直しており、3密を避けるため、入場の日時指定を採用しました」

店舗の出入口を分けるほか、アルコール消毒も用意

――最後に振り返って、最も苦労したエピソードは何ですか。

「前例のない状況で判断を求められたのが、最大の苦労と言えます。社長以下、誰も『正しい判断』を知りません。非常に難しかったです。今後の第2波、第3波が危惧される中で、引き続き感染防止を徹底していかなければなりませんが、まずは、お客様の一人一人と信頼関係を構築すべきと考えています。お客様を裏切らない。それが当社の〝ウィズ・コロナ〟です」

(聞き手・野間智朗)