SCが防災イベント拡充 意識啓発にあの手この手
今年は関東大震災から100年に当たる。これを受け、9月1日の「防災の日」の前後には、ショッピングセンター(SC)の多くが防災イベントを開催する。地域や警察署、消防署との連携も強め、会場を増やすなどで規模を拡大。防災フェアの初開催や、施設スタッフを対象にしていたインナーでの訓練を地域顧客にも開放するSCもみられる。会場での消防・救急車両の展示、防災服を着ての記念撮影に加え、消火器、AED、煙、起震車などの体験からAR・VRによる防災体験まで、「体験型」への取り組みが強まっている。
イオンタウンは、9月1日が防災の日であることと、一般社団法人日本記念日協会の認定を受けて「イオンタウンの日」に制定していることから、防災に関する取り組みを実施。今年は8月30日~9月5日の期間中、全国のイオンタウン53店舗で訓練や防災フェアなどのイベントを行った。訓練にはSC専門店従業員が参加し、地域に防災意識の普及を図るだけでなく、イベントを通して顧客に向けて防災に対して改めて考える機会を提供した。
9月1日に開催した「イオンタウンふじみ野」では、防災訓練と、“まず姿勢を低く・頭を守り・動かない”というシェイクアウト訓練を実施。9月2日開催の「イオンタウン水戸南」では消防車展示、消防服着用体験、水消火器の体験、煙体験を開いた。9月3日には、「イオンタウン能代」で救急車展示と心肺蘇生講習を行い、「イオンタウン姶良」でも同日に防災フェスタで働く車両(自衛隊車両や消防車)を展示した。
イオンタウンは防災の日だけでなく、9月9日の「救急の日」にも救急関連イベントを6店舗で展開した。救急の日には、救急医療および救急業務に対する国民の正しい理解と認識を深めるとともに、救急医療関係者の意識高揚を図ることを目的として、救急業務の普及啓発運動が実施されている。イオンタウンでは救急の日に合わせ、SC近隣の消防署や医療機関などと協力し、心肺蘇生法・AED体験や、消防・救急車両展示などのイベントを開催。命の大切さについて学び、考える機会を提供するほか、地域の防災意識の一層の普及を図っていく。
9月9日に救急の日関連イベントを実施したのは、仙台泉大沢・吉川美南・おゆみ野・ふじみ野・姫路・南城大里のイオンタウン6店舗。「イオンタウン吉川美南」では心肺蘇生法体験、身近な物を使った応急手当、救急車両展示と乗車体験を行い、体験して集めたスタンプに応じて消防啓発品をプレゼントした。「イオンタウンおゆみ野」では心肺蘇生法・AED体験、こども防火服着装体験、チーバくん・ちはなちゃんによる救急車両利用に関する広報、消防・救急車両展示、こどもレスキュー体験、おゆみ野中学校吹奏楽部の演奏を開催。「イオンタウンふじみ野」では救急車乗車体験、オリジナルコースターしおりづくり、救急車塗り絵、福祉用具体験会、高齢者体験会、心肺蘇生法・AED使用体験を実施した。
東急モールズデベロップメントは、防災の日関連イベントを「南町田グランベリーパーク」、「港北 TOKYU S.C.」、「武蔵小杉東急スクエア」で開催した。
「南町田グランべリーパーク みんなで学ぼう!まちの防災」は、東急モールズデベロップメント、パークライフ・サイトの運営管理会社のミュージアム・スタッフ、鶴間公園を運営管理するTSURUMAパークライフパートナーズが主催となり、グランベリーパーク、パークライフ・サイト、鶴間公園を会場にして展開。東急モールズデベロップメント事業本部グランベリーグループ営業部マネジャーの西嶋千咲氏は「スタンプラリーを中心にしたつながりだった初回よりも2回目、2回目より3回目と、回を重ねるごとにバージョンアップしている。3回目の今年からは1日だけだった開催が2日間(9月2日・3日)になり、自衛隊が初めて参画したり、協力会社・団体も増えたりと、新たなコンテンツが多く加わった」と話す。
アウトレット複合施設のグランベリーパークは、まちの防災イベントの総合受付を施設導入口にあるグランベリープラザに置き、「シアタープラザ」、「オアシスプラザ」、「グランベリーホール」を会場に充てた。9月2日のシアタープラザには町田消防署の消防車両が展示され、煙体験、消火器体験、「なりきり消防隊」が行われた。なりきり消防隊には家族連れの列ができ、子供用の防火服を着用して消防車の前に立つ我が子の写真を撮る保護者の姿が目立った。9月3日には自衛隊の小型トラックと偵察用オートバイが展示され、ライフハック体験(ロープワーク講習)、VR体験(戦車・ブルーインパルス・空挺降下など)、マスコット「とうち君」撮影会、陸・海・空戦闘服体験などを開いた。
オアシスプラザでは、トイファクトリーによる「もしもの時のキャンピングカー」、東急㈱住まいと暮らしのコンシェルジュによる防災システム体験型展示、アニコム損害保険による犬の首輪づくりワークショップ、サントリービバレッジソリューションとキリンビバレッジによる緊急時飲料提供ベンダー体験、防災知識を学びながらマイ防災リュックをつくる「新☆ぼうさいクエスト」を開催。グランベリーホールにおいては、火災・浸水・地震のAR・VRによる災害体験が先着50人(整理券)を対象に、1日4回開かれた。グランベリーパーク以外では、パークライフ・サイトのまちライブラリーで防災に役立つ本などを集めた「読む防災」、鶴間公園では起震車体験が行われた。
多彩なイベントが開催可能な7つの屋外会場を持つグランベリーパークは、まちの防災イベントのように鶴間公園、パークライフ・サイトと3者まとまっての催しが少なくない。そのため「3者(施設)が毎月1回定例で情報交換し、連携を取ってイベントをつくり上げている」(西嶋氏)という。
東急モールズデベロップメント事業本部グランベリーパークマネージメントオフィス管理部支配人の黒岩安平氏は「(3施設は)地域の防災拠点としての機能を担い、私共グランベリーパークは帰宅困難者受入施設として災害発生時、建物屋内の一部スペースを開放して約1000人の受け入れを可能とし、災害発生後に提供する水、食料も完備。パークライフ・サイトは風水害時避難場所に、鶴間公園は一時避難場所となる」と説明した。さらに「インナーに向けてはグランベリーパークスタッフに向けた不審者対応訓練、テナント関係者を対象にした防災訓練を実施している」(黒岩氏)。加えて、災害飲料自販機を導入して、災害発生時に3000Lの飲料水の提供を可能としている。
横浜市営地下鉄「センター南」駅前にある「港北 TOKYU S.C.」は、今年に入り防災イベントを2回開催した。1回目は開業25周年イベントとして5月のGWに開いた「つくって、学ぼう防災ラリー」、そして2回目は関東大震災から100年の節目に合わせた「防災・救急フェア」。「1回目は都筑消防署と都筑区役所の協力を得て家族で防災を学んでいただくイベントとし、2回目は都筑消防署の主催で我々のS.C.、都筑区役所、東京ガスライフバル横浜北が会場となり、4者合同で本格的に展開した」(東急モールズデベロップメント事業本部沿線運営グループ沿線運営部港北東急ショッピングセンターの勝亦将也氏)。
GWに開いた、つくって、学ぼう防災ラリーでは、防災を楽しみながら学ぶ防災〇✕、公衆電話のかけ方から緊急通報などを学ぶ公衆電話教室、災害で家族と離れてしまっても家族を探し出せる災害時の安心カードづくり、「防災リュックの中身はなんだ!」などを実施。都筑消防署は消防車車両と一緒に写真撮影を、都筑区役所はハザードマップの配布と横浜市避難ナビの登録促進を行った。
9月3日の「防災・救急フェア」は「都筑区役所が地震をテーマに起震車体験やAED講習、防火衣の着用体験、消防車両の展示など、東京ガスライフバルが避難をテーマに自衛隊の車両展示や制服着用体験など、当S.C.は避難所をテーマに展開した」(勝亦氏)。港北 TOKYU S.C.では、避難所をテーマに災害時の避難所で使用されるトイレと段ボールベッドによる避難所体験をはじめ、消防車両展示、関東大震災写真展示などを、A館1階イベントスペースで行った。
10月10日の「かわさき家庭と地域の日」に、親子参加型の避難訓練「子ども防災訓練」を開催するのが「武蔵小杉東急スクエア」。同SCで働くスタッフを対象に定期的に行っている防災訓練を、今回から顧客参加型に変更。地域に住む人達の防災意識向上のきっかけをつくる狙いだ。武蔵小杉東急スクエアの1階南口広場を会場に、川崎市在住の小学生と、その保護者(応募者の中から抽選で選ばれた15組30人)が参加する。
訓練の内容は、年2回従業員を対象に行っている施設内防災訓練に小学生と保護者が参加し、一次訓練では営業時間中に地震とそれに伴う火災が発生したという想定の下、商業施設内で被災した場合にはどのように避難すればよいのかを体験する。一次訓練後の中原消防署長の講話に続いて始まる二次訓練では、商業施設と初めて連携する中原消防署の協力を得て、起震車と煙ハウスを体験する。訓練の最後には中原消防署の隊員による防災講座がある。起震車や煙ハウスでの体験をもとに、地震・火災発生時の避難方法、災害への備えについて、家庭だけでなく外出先で被災した際にも有用な防災知識が語られる予定。
小田急SCディベロップメントが運営する「本厚木ミロード」は、9月16日に親子で楽しく防災について学ぶイベント「防災フェスタ」を初開催する。子供だけでなく家族で防災に関する知識や、地震などの災害時に命を守る術を学べる機会を提供したいとの考えから、厚木市消防本部・厚木市危機管理課の協力を得て実現した。
防災フェスタは3つの企画からなる。1つ目が段ボールキットで消防車をつくり、それを使った疑似消火体験と記念撮影、館内パトロールを行う「防災キッズ!消防教室」(会場:4階ミロにわ)で、参加対象は小学生以下の子供80人。2つ目が「防災キッズ!サバイバル教室」(会場:4階ミロにわ)。泥水をろ過する装置の作成体験やテントの組み立て体験、避難時を想定し本当に必要なものだけを選んで入れるパッキングゲームを通して、災害時に役立つサバイバル術を学ぶ。参加対象は満4歳~小学生以下の子供80人。いずれの企画参加にも、イベント当日の税込み1000円以上の利用レシートと、本厚木ミロードのLINE公式アカウント友だち登録画面の提示が必要となる。
3つ目の企画は、子供用の防火服を羽織ってちびっこ消防士になりきり、消防士と記念撮影ができる「厚木消防本部 ちびっこ防火服を着て記念撮影をしよう!」(会場:6階レストランフロア)で、定員は無く、自由に参加できる。
三菱地所・サイモンが運営する「あみプレミアム・アウトレット」は、9月18日に「あつまれ!はたらくくるまinあみプレミアム・アウトレット」を開く。同イベントは普段見る機会がないパトカーやはしご付き消防車、自衛隊の高機動車などの特殊車両を集め、火災予防・防災・交通安全の呼びかけや、地域連携強化を図る目的で昨秋に初開催した。するとショッピングの合間に子供連れの家族が立ち寄り参加するケースが多く見られ、好評を博したことから今年2回目の開催となる。
特殊車両を登場させるのは、茨城県 牛久警察署、稲敷広域消防本部 阿見消防署、防衛省自衛隊茨城地方協力本部 土浦駐屯地の3団体。茨城県 牛久警察署によるイベントでは、パトカー(クラウン1台)、覆面パトカー(クラウン1台)、白バイ(CB1300P2台)を展示。子供用制服を着用しての記念撮影や、音楽隊と演奏に花を添えるカラー・ガード隊によるパフォーマンスを楽しめる。
稲敷広域消防本部 阿見消防署の場合は、13mブーム付多目的消防ポンプ自動車(1台)、レスキュー車(1台)、救急車(1台)を展示。車両の前で子供用防火衣を着用して記念撮影ができる。防衛省自衛隊茨城地方協力本部 土浦駐屯地は、高機動車(1台)、軽装甲機動車(1台)、偵察バイク(1台)が展示され、こちらは子供用と大人用の制服を着用した記念撮影が可能だ。
構造体耐震安全性を有する、銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」は、中央区との協定により帰宅困難者3000人の受け入れに対応できるように、最大72時間分の食料や水、毛布など災害時に必要な物品を保管する備蓄倉庫を整備。そのほか、地下3階の文化・交流施設「観世能楽堂(多目的ホール)」などを一時滞在スペースに充てている。
同施設は9月1日から3日間、2階三原テラスで“食”を通じて防災を考える「銀座もしもイブニングカフェ at 三原テラス」を開催した。日本の避難所の環境改善に向けたキーワード「TKB48」(トイレ、キッチン、ベッドを48時間以内に避難所に整備する)を提唱。災害関連死の問題に取り組む避難所・避難生活学会および銀座に店を構える「資生堂パーラー」、「GINZA innit」、「空也」とコラボレーションして、食を通じてこれからの銀座の街の防災を考えるきっかけの場を創出することを狙いに実施した。
銀座もしもイブニングカフェ at 三原テラスで提供したのが、電気やガスを節約しながらキッチンにある食材と非常食を使ってシェフがつくったという設定の「もしもディッシュ48H」。資生堂パーラーの総料理長がレシピを考案した3品(もしも野菜スープ・もしもチキンライス・もしもコブサラダ)を、1日限定50食提供した。
同イベントでは、一斉帰宅の抑制やTKB48についての知識、もしもディッシュ48Hのレシピ、もしもディッシュの番外編となる“もしも”の時に役立つ「もしもスイーツ」を掲載した「銀座もしもフーズ」のリーフレットを配布した。もしもスイーツには、銀座空也 空いろの「かぜ」、資生堂パーラー銀座本店ショップの「金平糖」などが紹介されている。
(塚井明彦)