三菱地所、三井不動産、森ビルが大規模防災訓練
首都圏直下型地震が発生する確率が30年以内に70%と想定され、近年は防災に対する意識が高まっている。特に今年は関東大震災から100年という節目の年。防災の日にあたる9月1日前後に防災訓練を行う施設が増えただけでなく、街が一体となって警視庁や消防署などと連携を強めるなど、防災訓練への取り組みが大規模化している。ここでは三菱地所、三井不動産、森ビルの防災訓練を取り上げる。
三菱地所が9月1日に実施した「ひと×まち防災訓練」は、東京・丸の内エリアを中心に三菱地所グループ社員約2000人および関係先が参加する大規模となった。関東大震災の3年後の1926年(大正15年)から毎年実施してきた「三菱地所総合防災訓練」は97回目となる本年度、ひと×まち防災訓練に名称を変更した。三菱地所グループの社員のみならず、就業者や来街者でも参加できる、まちに開かれた防災訓練を目指す。
ひと×まち防災訓練は警視庁と東京消防庁と連携し、オフィス街を交通規制して車両やビルからの救出救助訓練や道路啓開訓練を実施。丸ビル・新丸ビルにおいては就業者参加型の総合防災訓練を行った。
総合防災訓練は「行幸通り地区」と「有楽町ビル地区」で実施。まず行幸通り地区では、午前10時に東京都内で最大震度7を観測する地震が発生した想定で訓練が始まった。地震発生後に新丸ビル内に火災が発生。丸の内はしご隊がバスケットを活用して逃げ遅れた4人を救出した。6階から地上へロープを張り、要救助者を乗せた救助担架をロープで地上に降ろし、レスキュー隊の3人が緊急脱出。そして一斉放水となった。
その後は「DJポリスによる多言語広報訓練」で、日本語、英語、中国語、スペイン語の4カ国語で案内。「関係機関等との情報収集訓練」(本部立ち上げ)では、警視庁が対策本部(丸の内警察署現場警備本部)を行幸通り中央に立ち上げ、警視庁、消防庁、千代田区、三菱地所などが確認した情報を集約した。「多重衝突事故車両からの救出救助訓練・道路啓開訓練」では、地震の影響により複数の車両を巻き込んだ多重衝突事故が発生。車の中に閉じ込められた人(三菱地所社員)を、警視庁機動救助隊が救助装備(油圧式はさみなど)などを使って救出。さらに車両が道路をふさいでいるため、国土交通省と東京都建設局が事故を起こした車両を移動させ、道路を空けて車両動線を確保した。
そのほかに行われたのが、地震の影響で停電し、信号機が消えている(滅灯している)のを電気自動車から給電して信号機の復旧を図る「信号機厳灯訓練」、東京電力、東京ガス、東京都水道局、東京都下水道局と連携し、各インフラに損壊が起きた際の復旧活動(電柱の破損、ガス管からのガス漏れ、水道管からの水漏れの修復など)をデモンストレーションする「民間インフラ業者による展示訓練」、丸ビル内に人が残っていることを確認し、警視庁機動救助隊が要救助者を丸ビル7階から行幸通りへ展張したロープを使って降下し救出する「警視庁機動救助隊による高所からの救出救助訓練」などだ。
一方の有楽町ビル地区は、地震発生後、有楽町ビル内に多数の要救助者がいることを確認。警視庁警備犬によるビル内の捜索を実施後、警視庁機動隊がビル内から要救助者を救出した。ビル外に運び出された要救助者に対して、医療従事者(聖路加メディローカス)がトリアージし、災害協定を締結している日の丸交通のバスで重傷者を聖路加病院に搬送する想定の訓練が実施された。
丸ビル1階、マルキューブの会場で全員が黙祷を捧げた後、東京都知事の小池百合子氏、千代田区長の樋口高顕氏、丸の内警察署長の大月正司氏、三菱地所執行役社長の中島篤氏が登壇し、ひと×まち防災訓練を講評した。小池都知事は「災害はいつ起こるかわからない。災害への備えは一時たりとも気を休めることはできない。公助はもとより、一人一人の自助、共助の力を結集することは極めて大切。今日の防災訓練は、三菱地所、警視庁、東京消防庁などが連携して実施された。東京の中心、丸の内で官民が連携し、地域が一体となって大規模訓練に取り組まれたことは大変心強い」とした。
樋口区長は「関東大震災から3年後の1926年から防災訓練を続け、今年で97回目と伺った。その訓練を拝見し、日本の中枢である丸の内地区の安全安心に大きく寄与されていると確信した。千代田区としては発災時に九段にある本庁舎が災害対策本部となり、警察、消防、自衛隊などの各防災機関と一体となり、千代田区内の各地域と連携して情報の共有・発信に努める。千代田区と三菱地所は現在、災害時の帰宅困難者対策としてデジタルサイネージを活用した災害ダッシュボード実証実験を進め、街の安心安全を高めている」と語った。
三菱地所の中島社長は「1926年から毎年続けてきた三菱地所総合防災訓練の名称を、今年からひと×まち防災訓練に変え、初めて警視庁と合同訓練を実現するとともに、より多くの方々が参加し、一体となって取り組める防災へと一歩前へ進めることができた。ひとまちというのは『人を、想う力。街を、想う力。』という三菱地所グループのコーポレートブランドスローガンにリンクしたもので、まさに来街者の方も含む丸の内一帯に来られる方々の安全を守るということになる。100年前の関東大震災の折には三菱地所の大先輩方が旧丸ビル周辺で炊き出し、飲料水の提供、臨時診療所の開設を行った。その臨時診療所の壁面に『どなたでも』という言葉が書かれていた。このどなたでもが周りの方々と共に取り組む防災、安全・安心を表している。そのDNAを引き継いだ私共としては、より一層防災を強化し、丸の内、ひいては東京を世界に誇れる模範的な街にしていきたい」と力を込めた。
三井不動産は8月30日の東京ミッドタウン八重洲を皮切りに、9月19日に東京ミッドタウン日比谷、26日に日本橋室町・福徳の森で「防災フェス 2023」を開催。8月30日には、日本橋室町三井タワーにある三井不動産グループの防災基地「危機管理センター」や東京ミッドタウン八重洲にある自立分散型のエネルギーシステム「八重洲エネルギーセンター」の公開を含む、三井不動産グループの安全・安心の取り組みを紹介した。
地域防災イベント第1弾の「東京ミッドタウン八重洲 防災フェス 2023」には、入居テナントや同ビル内にある中央区立城東小学校の児童とその関係者、ヤエチカおよび周辺地域の人など約1500人が参加した。東京消防庁の協力による地震、火災、風水害のVR防災体験および起震車による地震体験などのイベントが開かれた。参加者からは「VRや起震車を体験し、地震への心の備えができた」、「レプリカの防災衣がとても重く、一瞬でも消防職員の大変さを知ることができた」といった声が聞かれた。
三井不動産グループの安全・安心の取り組みは「地域防災へ寄与」、「組織・スタッフ教育」、「建物の災害対策」、「DX活用」によって、開発から運営管理までの一貫した安全・安心、災害に強いまちづくりを実現する体制がとられている。地域防災への寄与では、毎年9月を防災月間として防災イベントの開催や帰宅困難者受入れなどの複数の訓練を実施。今年はこれに加え、10月に日本橋の解体予定ビルを活用した訓練が実施される。東京消防庁や地域の消防団、町会とも連携し、稼働中のビルでは実施できない、扉の破壊、粉末消火器放出、放水などのリアルな体験ができる訓練となる。
東京ミッドタウン八重洲地下4階にあるのが「八重洲エネルギーセンター」。三井不動産は都心部において自立分散型電源から既存市街地に電力を供給し、街全体の電力バックアップシステムを構築する。これにより、都市防災力の向上に寄与する日本初の取り組みである「スマートエネルギープロジェクト」を推進する。八重洲エネルギーセンターはその中枢を担い、日本橋、豊洲、八重洲の3拠点を構える。エネルギーセンターには、中圧の都市ガスを燃料とする大型のCGSを導入しており、系統電力停電時にも中圧の都市ガスの供給が継続する限り、CGSによる発電が可能。断水時にも、蓄熱槽の水を熱源機器の冷却水として有効活用することで熱供給を可能にする。
組織・スタッフ教育では、非常時の行動指針、指揮命令系統、対処方法までをグループ3社が三位一体の布陣で臨む。三井不動産が「災害対策総括本部」(危機管理センター)、三井不動産ビルマネジメントが「各オフィス対策本部」、三井不動産ファシリティーズが「各ビル防災センター」(24時間365日体制)と、3社が連携して強靭に対応する。スタッフの教育施設として、20年に柏の葉に「三井不動産総合技術アカデミー」を開校。ここでは多様なトラブル発生を想定した30種類の訓練を、繰り返し実施。柏市消防局西部消防署隊員(約50人)も研修に参加している。
建物の災害対策で、災害対策総括本部として有事の際に三井不動産グループの司令塔となるのが「危機管理センター」。ハブとなって全国11都市と接続、全国150棟の「三井のオフィス」の連携が可能となる。三井不動産グループでは、2010年から宿日直制度を導入している。グループ3社の管理職2人が近隣に宿泊し待機することで、24時間365日体制を実現。有事の際には、ボタン1つで全システムを起動させられる。大規模な地震が発生すると、約200人の社員が必要に応じて危機管理センターおよび各拠点に参集する体制もとられ、夜間や休日であっても短時間で災害対策体制が構築できる。
DX活用には、テナント向けオンライン防火情報サイト「&BIZ防災」と、企業向け事業継続力強化支援サービス「&Resilience」がある。&BIZ防災は、三井不動産グループのオフィスワーカーが必要な防火情報を、パソコンやスマートフォンから閲覧できるウェブサイト。災害発生時になすべきことを体系化して映像や写真で分かりやすく解説し、利用ビルの避難経路も確認できる。
&Resilienceは、BCP運用支援において日本初の定額・会員制のコンサルティングサービス。22年3月に提供を開始し、累計1000社(組織)・3000人以上が訓練に参加した。参加者の9割以上が「効果を実感した」という成果を受け、23年1月に新会社アンドレジリエンスを設立。同3月に&Resilienceのサービスを拡充した。
森ビルの「総合震災訓練」は防災の日の9月1日、六本木ヒルズアリーナで森ビル社員500人が参加して実施された(1回あたり約250人が参加する訓練を2回)。「逃げ出す街から逃げ込める街へ」をコンセプトに、災害に強く、周辺地域の防災拠点としての役割も果たす安全・安心な街づくりを目指し、ハードとソフトの両面から様々な取り組みを進める。防災の日前後に毎年震災訓練を実施することで、有事の際に迅速に対応できるよう、社員一人一人の防災意識を継続して高め、防災力の向上を図ることを主眼としている。
今年の総合震災訓練では、全社員の3分の1にあたる約500人が全社員に支給している震災用身装備品を着用して訓練に参加。複数のグループに分かれて災害時の初動期に必要となる、心肺蘇生・AED、応急手当、救急搬送、消火器による消火活動訓練、火災時煙訓練の5種の活動を体験した。
災害対策室事務局事務局長の細田隆氏は「本日の総合訓練を通じて、単に知識として知っている状態から、実際の訓練で体験し、『できる』状態を目指すことで、災害対応の実行性を高めることができた。本日の訓練を通じて自助および共助のスキルの確認や維持・向上、防災知識の習得、当社の都市づくりの理念や企業文化を社員に浸透させることができたと考えられる。いつ起こるとも知れない災害に対して、引き続き備えを進めていく」とコメントした。
(塚井明彦)