【連載】富裕層ビジネスの世界 コロナ禍で大きく変わった富裕層の投資先
コロナ禍を経て世界の金融市場が大きく変動する中、富裕層はどのような金融商品に関心を持ち、投資してきたのか。
2019年以前、富裕層がこぞって投資していたのが米国株だ。代表的な株価指数S&P500を見ると、19年までの10年間の平均年率リターンは11%超に上る。同指数に連動するETF(上場投資信託)を10年間保有していれば、資産価値が約3倍になった計算だ。
20年からは米国株の中でも、GAFAMをはじめとしたハイテク株が人気だった。ハイテク株中心のナスダック総合指数は、2年間の平均年率リターンが約30%と急上昇しており、富裕層がその波にうまく乗った形だ。
高金利に円安ドル高に熱視線
そしてコロナ禍が収束し始めた22年以降、富裕層が熱い視線を注ぐのが「米ドル建て債券」だ。昨年、ある富裕層サービスの運営会社に寄せられたドル建て債券に関する相談件数は前年比で5倍にも膨らんでおり、その要因は大きく2つに分けられるという。
1つ目は高金利だ。米長期国債の足元の金利は9月1日時点で3.88%、利回りにして4.10%と、12年ぶりの高い水準にある。米国債の金利が上がれば、米企業の社債などほかの債券の金利も必然的に上昇する。そのため、格付けでAからBBBの比較的安全性が高い債券でも、5%から6%程度の金利を得られるのだ。
2つ目は円安ドル高だ。22年の為替相場は、当初1ドル=115円台だったが、米国の利上げによって同年10月には151円をつけるなど急速にドル高が進んだ。
そもそも日本の富裕層は資産の大半を円で保有している。また収入もほぼすべて円のため、資産の一定量をドル建て商品に換え円安リスクを抑制し、ドル高の恩恵を享受したいという意向が強い。
富裕層サービス運営会社の代表は次のように明かす。
「実際に昨年末、そうした意向の強さを改めて実感する出来事があった。日本銀行の事実上の利上げによって、一時的に円高ドル安が進んだ時のことだ。ドル安に動くと円ベースでは評価額が下がるため、不安に駆られた顧客から電話があるかもしれないと身構えていた。ところが、電話をしてきた顧客はすでにドル建て債券に10億円程度を投資しているにもかかわらず、追加で10億円分投資したいと依頼してきたのだ」。
つまりこうした顧客は、日銀のサプライズによる一時的な円高ドル安をドル建て資産の「押し目買い」のチャンスとみていたわけだ。
超長期債への関心も高まる
さらに、足元では超長期債への関心も高まっている。超長期債とは元本が返ってくるまでの期間が10年超の債券のことを指す。期間が長い債券は、市中の金利が低下したときの価格上昇幅が大きい。
今年に入って米国の利下げが徐々に現実味を帯びる中で、超長期債への投資で金利が下がった時のキャピタルゲイン(値上がり益)を狙いたいという富裕層が、こぞって投資しており、こうした傾向は今後も続きそうだ。