SC・再開発ビルの施設内外に広がる“屋上・広場・庭園”
「広場」、「食」、「連携」は、SCが新規出店やリニューアルで取り組んでいる3つの強化施策である。これらの施策は、市街地再開発事業で竣工させている高層複合ビルにも当てはまる。今回取り上げる「広場」は、集客・交流・憩い・遊びを提供する場として、広場増設とそこでのイベントの活用を本格化させている。ウィズ/アフターコロナを経て屋外の活動が見直され、屋上庭園や施設の緑化も強まっている。市街地再開発事業では、賑わい性と回遊性の創出、歩行者ネットワークの整備、まちの安全性・防災性の向上などが開発の要であるだけに、広場づくりや緑化づくりに一段と力が入っている。
今年4月17日にオープンしたRSCとアウトレットの2業態複合型商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと門真・三井アウトレットパーク 大阪門真」(以下、ららぽーと・以下、MOP)の好調が続いている。開業してほぼ1カ月後に同施設を訪ねると、その日は日曜日で開店景気もあり館内は大変な賑わいをみせていた。昼時には食の一大ゾーンを形成している1階の「門真うまいもん」にある飲食店も、1000席超ある3階フードコートも、満席状態が続いていた。
店舗はフロアの中央部吹き抜けにセンターコートがあり、153店舗からなるららぽーとが1階と3階に、その間の2階が98店舗からなるMOPというフロア構成。そのほか4階屋上に「空の広場」、1階のメインエントランス前にはくすのきがシンボルの「くすのき広場」がある。屋上の空の広場もファミリー連れで賑わっている。同広場の南側には大型すべり台や築山トンネル、キッズ用ボルダリングや複数の遊具があり、中央部には多様な植栽やベンチが配され、北側にはイベントができるステージ付きの多目的な広場がある。加えて空の広場には、LOGOSが出店する新業態の「LOGOS CAFE&HIROBA」があり、カフェとキャンプを模擬体験できる「HIROBA」が展開されている。
ららぽーと・MOPの2業態複合型施設は、大規模複合街づくり型開発事業によってA街区に開発された。B街区には三井不動産レジデンシャルの大規模分譲マンション(11階建て・155戸)が23年度に竣工・入居開始となり、本年夏にはC街区に会員制倉庫型店舗のコストコが開業する予定。D街区には東和薬品の施設が建設される。これら4街区を合わせた敷地面積は、約16万4000㎡に上る。
広場の多彩さでは、三井不動産の三井ショッピングパークららぽーと福岡や同ららぽーと堺、イオンモールのジ アウトレット北九州やジ アウトレット湘南平塚などが代表的。ららぽーと福岡であれば「出会い×体験の広場~“ふれあい”と“つながり”のまちへ~」を施設コンセプトに、約8万6600㎡の広大な敷地面積を生かし、屋内外に9つの多彩なパークを配置する。9つのパークはそれぞれ特徴があり、「オーバルパーク」は約4000㎡の広場と遊歩道とでなる2フロアにまたがる。貸し農園施設とBBQ施設からなるのが「アグリパーク」で、200mの陸上トラックやテニスコート、3×3バスケットボールのコートを有するのが「スポーツパーク」となる。
グランベリーパーク、アリオ鷲宮、イオンモール上尾などにも複数の広場がある。グランベリーパークの場合は7つの屋外広場があり、連携している鶴間公園と合わせると14広場になり、いずれの広場でも広場特有のイベントが展開されている。グランベリーパークにある「シアタープラザ」は、映像や音楽などエンターテインメントの発信拠点となる。大規模イベント広場の「オアシスプラザ」では、夏には噴水(水のカーペット)での水遊び、冬にはスケートリンクが登場する。イオンモール上尾には、約3000㎡の広さ(うち1000㎡が緑地面積)があるサステナブルパーク「AGEO PARK」がある。そのパークには芝生広場や約80席のテーブル席がある野外テラス、子供達が巨大ふわふわドームなどで遊べるエリア、ペットと一緒に食事や休息ができるペットエリアなどがある。
別表にもあるように、屋上は庭園ばかりでなく貸し農園や菜園も少なくない。屋上は見晴らしが良いので展望スペースにもなる。三菱地所の「大手町ビル」の屋上にある「SKY LAB」は約4000㎡の広さで緑あふれるワークプレース。ここに都内最大級の屋上農園がある。皆でつくれる、食べられるシェアリング型コミュニティ農園で、ワークスペース、緑もある同SKY LABはビジネスパーソンの交流の場となっている。「マークイズみなとみらい」にある屋上庭園「みんなの庭」には、約1000㎡の広さに果樹園・菜園があり、果樹、野菜、ハーブなどが栽培され、週末に収穫体験などのイベントが開かれている。今年3月に竣工した日本郵政の大規模複合施設「蔵前JPテラス」には、テニスコート11面半の面積がある屋上農園があり、貸し農園も開いている。ほかにも立川髙島屋S.C.では、11月のリニューアルオープンに合わせ、10階屋上でサポート付き貸し農園が始まる予定。
東京建物が大手町駅に直結して竣工した高さ約200mの「大手町タワー」の地上に、うっそうとした森が出現した。それが敷地面積の3分の1(約3600㎡)におよぶ「大手町の森」である。大手町の森は、千葉県君津市の山林で約3年掛けて木々や植物を育成して移植するプレフォレスト手法によって実現させた本物の森である。今秋で丸10年となる大手町の森は、当時約100種だった植物数が、現在では208種の植物数と129種の昆虫類が確認(2021年時点)され、敷地内は周辺と比べて1.7°C平均気温が低下するなど、ヒートアイランド現象を緩和させる効果も出ている。
こうした実績が認められ、大手町の森は「DBG Green Building認証」や、「第35回『緑の都市賞』国土交通大臣賞受賞」などに代表される6つの表彰・認証を受けている。東京建物では10周年を機に運営コンセプトに「森(しん)・呼吸できるまちづくり」を設定し、都市の中で自然と人が融合する大手町だからこそ「日本一の都市の森」を目指すとしている。8月には10周年を記念して「大手町の森 10th Anniversary ~日本一の都市の森を目指して~」のイベントが開かれる。
JR東日本が進めている「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」は、約9.5haの開発面積に4街区・5棟が建設される大規模プロジェクト。高輪ゲートウェイ駅の改札口から続く3.5haのパブリックレルム(公共的領域)、総面積約2万㎡に及ぶ広場空間などのオープンスペースが整備される。建設される「文化創造棟」は公園と一体となった低層建物で、足湯と水盤のある屋上庭園が完備される。JR東日本が同じ東京南エリアで開発に着手している「大井町駅周辺地区開発(仮称)」では、歩行者ネットワークの整備と大井町駅改良、地域の防災力強化によって複数の広場が整備される。それは新設する改札の前に街の玄関口となる広場や、バスやタクシーなどが利用可能な交通広場、災害時には広域避難場所となる約4600㎡の広場などだ。
日鉄興和不動産、大成建設など6社で進める「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業 業務棟」で、23年11月に大規模オフィスが竣工する。これに伴う周辺部開発で、外構部には緑地や並木道が整備され、敷地全体で約9000㎡が緑化され、オフィスワーカー・地域住民・来街者などが街歩きを楽しみ、憩える街づくりが計画されている。野村不動産、住友商事など4社が進める「西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発事業」では、初台駅~新宿駅方面の歩行者デッキの整備のほか、細い道路が多く老朽化した木造家屋の密集地解消に向けて、道路の一部拡幅や災害時には帰宅困難者が一時利用できる4500㎡の広場整備等地域の防災性を高める計画。
細分化された敷地を取りまとめて大きな敷地を生み出し、そこに超高層ビルを建てることで、足元に緑豊かなオープンスペースを創出する「立体緑園都市」(ヴァーチカル・ガーデンシティ)を具現化している森ビル。その緑に覆われた超高層都市づくりが、虎ノ門ヒルズと麻布台ヒルズで完成間近となっている。開業して20年となる「六本木ヒルズ」は、年間約4000万人が訪れる街となり、ヴァーチカル・ガーデンシティの街づくりで生み出された地表面は、毛利庭園をはじめとした緑地が広がり、けやき坂コンプレックスの屋上には水田のある屋上庭園が設置され、現在では港区緑被率の約1.4倍の約31%(22年時点)の敷地が緑で覆われている。
ヒルズシリーズの最初のプロジェクトとして1986年に誕生した「アークヒルズ」は、緑化率が約42%に達している。「都市と自然との共生」を掲げ、緑を積極的に取り入れ、都心とは思えない緑豊かな環境を実現している。四季折々の草花が楽しめる庭園「アークガーデン」や四季折々のイベントなどを開催している「アーク・カラヤン広場」をはじめ、春に約150本のソメイヨシノがピンクのトンネルをつくる並木道、歩道沿いに約50種類のアジサイが植えられた坂道がある。「アークヒルズサウスタワー」のエリアには、高さ12mの人工滝に面するやすらぎと憩いの場「サンクンガーデン」や、緑にあふれ開放感に満ちた地上100m、約1000㎡の陸上庭園「スカイパーク」があり、「アークヒルズ仙石山森タワー」には野草があり、こげらなどの小鳥も見られる「こげらの庭」や大きなけやきがそびえ立つ「大けやき広場」がある。
「虎ノ門ヒルズ」の場合は、14年に竣工した「森タワー」が約6000㎡の大規模オープンスペースを持つ。屋上庭園「オーバル広場」や、階段状のテラス「ステップガーデン」などの豊かな緑地空間に加え、生物多様性に配慮した緑や小川も創出。20年に竣工した「ビジネスタワー」内には、約1200㎡の緑豊かな「西松公園」が整備され、22年の「レジデンシャルタワー」の完成によりエリアの低層部の緑の連続性ができ、隣接する愛宕山や愛宕グリーンヒルズの緑とも緑道でつながり、周辺エリアをつなぐ新たなグリーンネットワークが創出された。そして23年秋に「ステーションタワー」が開業すると虎ノ門ヒルズは区域面積約7.5ha、延床面積約80万㎡に拡大し、緑化面積は約2万1000㎡となる模様。
23年秋に開業する「麻布台ヒルズ」。“緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街-Modern Urban Village”をコンセプトにしている麻布台ヒルズは、街のシンボルとして人々をつなぐ中央広場を中心に、多種多様な植栽が広がる街となる。約8.1haの広大な計画区域は圧倒的な緑に包まれ、約6000㎡の中央広場を含む緑化面積は約2.4haに上る。街区内には3棟の高層タワーが建ち、うちA街区の「麻布台ヒルズ森 JPタワー」は地上64階・地下5階、高さ約330mのスケールとなり、日本一高い超高層タワーが今秋誕生することになる。
(塚井明彦)