2024年11月22日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 株主総会で加速する「社長のクビを狙いにいく株主たち」の動き

佳境を迎えている株主総会が、例年に比べて熱を帯びている。株主提案が過去最高の件数に上っていることに加え、社長の“クビ”を取りにいっているケースが多いからだ。

皮切りは、5月に開かれたセブン&アイ・ホールディングスの株主総会だった。アクティビスト(物言う株主)のバリューアクト・キャピタルが、傘下のイトーヨーカ堂を始めとする不採算事業の取り扱いをめぐって井阪隆一社長ら社外取締役を含む4人の実質的な解任を求める株主提案を行ったのだ。結果は再任されたものの、井阪社長の賛成比率は昨年の94.73%から76.36%へと18.37ポイントも低下した。

6月に入ると、同様のケースが相次いだ。22日には、コスモエネルギーホールディングスが株主総会を開催。山田茂社長の取締役選任議案に対し、事実上の筆頭株主でアクティビストの村上世彰氏らが反対を表明した。結果は賛成多数で再任されたものの、賛成比率は67%と前年から22ポイント下がった。

そのほか北越コーポレーションの岸本晢夫社長や、熊谷組の桜野泰則社長などの取締役再任議案に対しても、香港のアクティビストであるオアシス・マネジメントが反対意見を表明。東洋建設に対しても、和製アクティビストといわれる任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスがTOB(株式公開買い付け)の実施をちらつかせながら、独自の取締役9人を提案して実質的に社長解任を求めた。

大和総研の集計によると、6月7日までに90社に348件の株主提案が出された。昨年の6月総会では76社、285件で、社数・件数ともに2割増えた形だ。東京証券取引所の要請もあって企業の資本効率に焦点が当たる中で、一部のアクティビストが積極的に提案している。

トヨタには米年金基金も異議

だが、トップに狙いを定めているのはアクティビストだけではない。

米年金基金のカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)は今年、トヨタ自動車の豊田章男会長の取締役選任議案に反対すると表明、米議決権行使助言会社のグラス・ルイスも豊田氏の選任議案に反対するよう推奨した。結果として、6月14日に開かれた株主総会で、豊田会長は再任されたものの賛成比率は昨年より11ポイントも低下し、取締役の中で最も低い8割台前半にとどまった。

とはいえ、これらは氷山の一角だろう。というのも株主は株主提案を出す形ではなく、会社提案に反対するという行動もとっているためだ。それらを合わせるとかなりの数の株主が、社長に対して反対の意思を表していると言える。

株主提案が日本で増え始めた当初は、増配や自社株買いといった株主還元に焦点を当てた要求が主流だった。狙いは、日本企業の資本効率の悪さや、ため込みすぎた剰余金などの使途だ。もちろん、そうした株主提案は今もなお多い。

しかしここ数年の株主総会では、取締役や社外取締役の選任議案などガバナンス(企業統治)に焦点を当てたものが急増している。株主還元を中心に要求を突き付けてきたものの、一向に変わらない日本企業に業を煮やし、それならば取締役会に自分たちの推薦する人物を送り込んで会社を監督してもらおうと考えているためだ。

根本的な戦略にも異議を唱える株主たち

そうした戦略の1つが、社長のクビを取りにいくパターンだ。経営陣を監督する社外取締役を1人、2人送り込んだくらいでは何も変わらない、いっそのこと社長のクビをすげ替えるくらいしなければ意味がないと株主側が判断しているのだ。

さらに言えば、株主が企業の戦略そのものに注文を付け始めたということだ。株主還元の強化などはあくまで余剰資金の使い道というだけの話。そうではなく、企業の戦略そのものの見直しを迫って企業価値の向上、引いては株価の向上を狙う。社長のクビを狙っているのはそのためとも言えそうだ。

例えば北越の岸本社長に反対しているオアシスは、北越が大王製紙を持ち分法適用会社にしていることに疑義を唱えている。熊谷組に対しても、住友林業との提携のシナジーが出ていないことや業績悪化の責任を取るよう求めている。こうした戦略の方向性や資本提携の意味などは、企業経営の本質論そのもの。社長反対という要求は、こうした企業戦略自体に異議を唱え始めているというわけだ。

とはいえ安定株主などもいることから、実際に社長のクビを取るのは容易ではない。だが、株主が企業戦略そのものにも口を差し挟み始めたということは大きな変化。そうした動きは今後もどんどん加速しそうだ。「会社提案の人事案はどうせ否決されないから大丈夫」などと高をくくっていると、今後痛い目に遭う可能性も否定できない。

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