百貨店の中元商戦は「ここだけ」や「今だけ」で独自性競う 右肩上がりのECにも注力
百貨店業界の中元商戦は6月末~7月初旬にピークを迎えるが、各社は「ここだけ」や「今だけ」などを充実させて品揃えの独自性を競うとともに、成長領域であるインターネット通販(以下、EC)を強化し、売上げの伸長を狙う。商品のカテゴリーでは近年好調な洋菓子の拡充が目立ち、松屋や京阪百貨店は店舗に専用の売場を構える冷凍食品を他社との差異化に役立てる。アフターコロナに突入し、多くの百貨店がギフトセンターでの試食や試飲を再開。買う前に味を確かめられるのは、贈答需要でも自家需要でもメリットは大きく、商戦の押し上げ効果が期待できる。デパートニューズウェブのアンケート調査によれば、序盤~中盤にかけての動きは鈍いが、ラストスパートで巻き返す。
大丸松坂屋百貨店は5月30日に開いた中元商戦の説明会で「ギフト市場は拡大しているが、中元・歳暮市場は縮小が続く。中元・歳暮市場の縮小を防ぐのではなく、ギフトの需要を増やすのが目標。強化するカテゴリーとチャネルを菓子とECに設定して、それを達成する」と方針を明かした。実際、昨年の歳暮商戦では菓子の売上げが前年比1.4%増と伸び、そのEC化率は49.8%を記録。菓子やECは他社でも動きが良く、シュリンクする中元・歳暮商戦では貴重な伸び代だ。
とりわけECは新型コロナウイルス禍で成長に拍車がかかった。混雑するギフトセンターを避け、ECに切り替える客が急増したからだ。例えば、小田急百貨店は昨年の中元商戦で売上げが前年比で2桁増だった。
各社は今年もECの態勢を整備。小田急百貨店はEC限定で送料無料、対象の商品を1万円以上購入した客に対する500円のクーポンのプレゼント(期間限定)を行い、例年通り楽天市場など外部のショッピングモールにも出店した。京王百貨店は「ご自宅用限定お買い得品&人気グルメ」特集内でコロナ禍で定番化した冷凍食品や酒類を充実させ、送料無料および送料込みの商品をギフトセンターの1.5倍以上も用意。新規の利用者にはクーポンを配る。客とパソコンやスマートフォンの画面を共有して操作をサポートするシステム、簡単な質疑応答が可能なチャットボットを備えるなど、デジタルに不慣れな人を支援して買上げにつなげる。
そごう・西武は初めて「EC限定ご自宅用お買得品」を展開。17SKUで、バイヤーが自信を持ってセレクトした全国の特産品や有名店の味を詰め合わせた。ギフトカタログではECの表記を明確化し、案内も同封。店頭でもECの利用を促す媒体を掲示した。大丸松坂屋百貨店はECの品揃えを前年から100点増やし、2900点で構成。クーポンの拡大、SNSを使った販促などにも踏み切った。
東急百貨店はECの受注期間を前年より10日、東武百貨店は同じく7日、それぞれ増やした。松屋は約1600点のうち約940点を送料無料に定め、ポイントを2倍、初めての利用者には1000円のクーポンを配る(先着1000人)なども実施。昨年の中元と歳暮は売上げが前年の2倍に膨らんでおり、今年はさらなる伸長を狙う。三越伊勢丹は前年と同様、動画での商品説明やソーシャルギフトの販売を強化。法人需要に特化した「法人オンライン」を紹介し、その売上げも伸ばす。
近鉄百貨店はEC限定の特典を訴求。期間や対象を限定した送料の割引、購入者に対する9月以降の買い物で使える500円のクーポンの贈呈などだ。京阪百貨店は約710点を10~15%割引かつ全国一律の送料(440円)で販売し、期間限定で近畿2府4県への送料が無料となる商品を30点揃えた。阪急阪神百貨店の「阪急」のれんは、推奨するブランドを紹介するメールマガジンを配信。「阪神」のれんはメールやSNSでの告知を強化した。
ECは今年も順調。そごう・西武は6月29日時点で売上げが前年の約1.3倍と大きく伸ばしている。京王百貨店は前年より1週間早く5月13日にECをスタート。既存顧客の受注時期の分散は懸念されたが、新客を開拓するなど滑り出しは上々という。他社も前年以上や前年並みを見込む。
ECに注力するのは各社共通だが、品揃えは魅力を競う。小田急百貨店は「今注目のエリアセレクション」で愛知県にフォーカス。京王百貨店は「ひと味ちがう、ひと品を。」をテーマに、老舗の逸品や名店のコラボレーション、タイムパフォーマンスを重視する若年層に支持され好調な「美味・適量(簡単・手間いらず)」などを特集した。そごう・西武は「夏のごちそう」を提案。「暑さ」をキーワードに「暑い夏にぴったりなクールギフト」や「メリハリ消費にうれしい夏のグルメ」を特集した。
大丸松坂屋百貨店は昨年の歳暮商戦で始めた、菓子を軸に話題性や地域性、稀少性に優れた商品を200点以上も集めた「GOHOUBI(ごほうび)」が目玉。昨年の歳暮商戦では購入者の年齢が全体より10歳ほど若く、客層の拡大や新客の獲得に寄与した。高島屋は「クオリティ」や「安心安全」、「信用信頼」、「伝統」、「ワクワク期待」などをキーワードに、幅広い贈答需要に対応できるラインナップを実現。中でも「一夜城ヨロイヅカファーム」の「湘南ゴールドフロマージュ」が自信作だ。
東急百貨店はバイヤーの探求心に裏打ちされた「極味伝心」、渋谷地区に構える「東横のれん街」、「渋谷 東急フードショー」、「東急フードショーエッジ」の推奨品などが軸で、コロナ禍で伸びた自家需要にも引き続き注力。普段使いに上質感、利便性、割安感などを掛け合わせた「ご当地グルメ」、無洗米、訳あり品などを揃えた。東武百貨店は、つくり手のこだわりが詰まった「逸品伝心」を拡充。昨年より11多い50点を扱い、山形県から選りすぐった「さくらんぼギフト」、爽やかな風味が夏にぴったりな「レモンギフト」などをPRする。
松屋は「みんなで集まって味わうギフト」をテーマに、店舗を擁する銀座地区や浅草地区ならではの商品を提案。コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスに優れる冷凍食品、節電対策も兼ねるクールデザートも訴求する。三越伊勢丹は数年来のテーマである「みらいへつなぐ贈りもの」を継続。「サステナブル」をキーワードに、それに適う商品を充実させ、簡易包装も推進する。「三越」のれんでは、創業350周年を記念した特別な商品も揃えた。
近鉄百貨店は「北の宝ギフト」を初企画。バイヤーが厳選した北海道の逸品を扱う。同社はあべのハルカス近鉄本店や奈良店で「北海道公式アンテナショップ どさんこプラザ」を運営しており、そのネットワークも生かした。コロナ禍で伸長した、自宅用商品も強化。「ご褒美スイーツ」、「おうちグルメ」、「理由ありグルメ」などの切り口で発信する。京阪百貨店は、昨年9月に守口店1階に開いた冷凍食品を中心とする自主編集売場「ゴエフ」にちなみ、冷凍食品を訴求。独自性の強い「バイヤー推奨ギフト」も59点を用意した。
阪急阪神百貨店の阪急のれんは「夏を涼やかに楽しむ、とっておきのアイス集合」のほか、「地域共生」や「文化継承」、「環境保全」を理念に、つくり手の想いとともに選りすぐりの美味を紹介する「プラットファームマーケット」などを展開。阪神のれんは地域で愛される名店、簡単につくり立ての味わいが楽しめる冷凍食品、暑い夏にぴったりの冷たい麺やウナギ、アイスデザートなどを充実させた。
中元商戦は追い込みに入ったが、京王百貨店は「産直グルメは安定、タイムパフォーマンスに長けた簡単・小分けグルメ、洋菓子の人気は続く。物価の高騰で2000円以下のプチギフトも伸長する」、高島屋は「家族や友人との集いが活発化し『一緒に・大勢で楽しめる』商品に反響があるのではないか」と予想。そごう・西武では猛暑が予想される中でゼリーやアイスなどの動きが良く、価格に敏感な客を中心にオリーブオイルなど油のギフトも人気だ。
一方で、厳しい見方も少なくない。アンケート調査を行った6月上旬時点では「例年に比べてギフトセンター、EC共に購入者が少なく、売上げが前年を割っている」(東武百貨店)、「ECが厳しい。ギフトセンターの初日は良かったが、2日の大雨で激減。現状では先行きが読めない」(阪急のれん)、「儀礼ギフトは縮小傾向で、今年も全体では厳しいと予想する。パーソナルギフトや自家需要に応えられる、こだわりのギフトが伸びており、それで需要を獲得する」(阪神のれん)。
中元市場、正確には儀礼ギフト市場の縮小を、いかにパーソナルギフトや自家需要で補うか。各社は利便性に優れるECを活用しながら、中元商戦の期間しか買えない特別な商品を揃えて訴求し、1人でも多く購入者を積み上げる。
(野間智朗)