2024年11月22日

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六本木ヒルズの人気が衰えないワケ 街の一体的な運営が魅力に

20年間の累計で1880万人の入館者数を記録した「森美術館」

森ビルが運営する「六本木ヒルズ」は、2003年4月に開業してから20年を迎えた。街のコンセプトに「文化都心」を掲げ、オフィス、住宅、商業施設、美術館、映画館、放送センター、緑地など、多様な都市機能を高度に複合させたその街づくりはコンパクトシティの先駆けとなっただけでなく、街を一体的に運営する「タウンマネジメント」が人を惹きつけてきた。開業から20年を経過しても衰えることなく年間4000万人が訪れ、22年12月24日には過去最高となる1日33万人を記録するなど、磁力ある都市であり続けている。

六本木ヒルズは約12ヘクタールにもおよぶエリアに、400人の地権者とともに17年の歳月をかけて誕生した。「ヴァーティカル・ガーデンシティ(立体緑園都市)」というコンパクトシティを創出する開発手法によって、地上部に広大な空地を生み出し、緑地や文化施設、交通インフラなど、東京に求められる都市機能を整備した。開発規模も巨大で、様々な施設が複雑に絡み合う街を一体的に運営するため、森ビルがまちの統一管理者となってタウンマネジメントの仕組みを立ち上げ、街を一体的に運営してきた。

そのタウンマネジメントは街の魅力を最大限に生かし、いつ訪れても楽しくワクワクするまちづくりに街の構成員が参加する「六本木ヒルズ自治会」が軸となって、地域の人々との交流や連携を促進してきた。1年で最も賑わうクリスマスの期間には約700万人が来街するほか、地域の清掃活動「六本木クリーンアップ」は延べ170回開催し、約2万人が参加している。

六本木ヒルズは、地震や災害時に逃げ出す街ではなく「逃げ込める街」として、ハードとソフトの両面で様々な取り組みを続けている。安定的な電力供給を実現する特定送配電と熱供給のプラントは、東日本大震災時にも停電することなく街に電気を供給し、余剰電力を電力会社に融通した。港区とは「災害発生時における帰宅困難者の受け入れ等に関する協力協定」を締結し、受け入れ態勢を整えるとともに約10万食の食料などを備蓄している。

緑に覆われた街づくりも進められ、毛利庭園をはじめ、けやき坂コンプレックスの屋上には水田のある屋上庭園を設置するなど緑地が広がっている。今では港区平均緑被率の約1.4倍の約31%(22年時点)の敷地が緑で覆われた。また、脱炭素化社会の実現に向けて、19年にはオフィス賃貸事業者として国内で初めて、森タワーで入居テナントへ再生可能エネルギー電気の供給を開始している。

20年間の成果を施設別にみていくと、文化都心・六本木ヒルズの象徴である「森美術館」は国際性と現代性を追求しながら複雑かつ多様な世界との出会いの場となることをミッションとし、20年間で約60本の企画展を開催。総入館者数は累計で1880万人にのぼり、現在ではアジアを代表する現代美術館の1つに成長している。21年にはオンラインチケット販売やQRコード認証に対応した新しいチケットシステムを導入。ミュージアムショップも増床し、旗艦店となる「森美術館ショップ」をオープンした。

森タワー52階の東京シティビューと同屋上のスカイデッキからなる「六本木ヒルズ展望台」は、東京に欠かせないトラベルデスティネーションとして国内外客から利用されている。海抜270メートル、360度遮るものがないオープンエア空間の屋上スカイデッキは、夕陽やお月見の名所としても人気だ。毎月第4金曜日を「六本木天文クラブの日」として天体望遠鏡で星空を観望する「星空観望会」を実施。東京シティビューは、高さ約11メートルの吹き抜けのガラス張りの屋内展望台で、天候に関わらずダイナミックな東京の街の景色を見渡せ、随時、眺望と融合した展覧会やイベントを開催している。

知的活動の場と学びの機会を提供している「アカデミーヒルズ」

「アカデミーヒルズ」は、組織や会社を離れた“自律的に自立する個人の支援”をミッションに、会員制ライブラリー事業を展開し、人や情報とつながるインタラクティブなセミナーや交流プログラムを実施するだけでなく、国際会議やビジネスイベントに対応できるフォーラム事業を運営している。人と本がつながり、知識や情報を交換する会員制ライブラリー(朝7時~24時まで、席数320)では、約1万2000冊の旬な書籍を館内に配架。セミナーや交流会、サークル活動などもあり、志を同じくするメンバー2200名が在籍する。フォーラム事業においては、グローバル企業のフォーラムや国内外の政府機関による国際会議など、20年間で合計約2万5000件近くの多様なイベントを開催、延べ約510万人が来館した。

六本木ヒルズの商業エリアは、それまでショッピングの拠点がなかった六本木に、ここにしかないオリジナリティやクオリティを追求した“ONE&ONLY”をコンセプトに、飲食・物販・サービス店舗約200店で構成される新たな一大商業拠点を構築した。開業後には時代に合わせた大規模改装を行っている。2008年の大改装で新規店・改装店を合わせて約70店舗、13年に約40店舗、18年に約20店舗、20年に約20店舗を一新した。

六本木けやき坂通りやウェストウォークには16年冬以降、「ロレックス」、「グッチ」、「サンローラン」、「カルティエ」、「クリスチャン ルブタン」、「バレンシアガ」などを加え、ラグジュアリーブランドの集積を厚くした。18年には「エストネーション」、「ユナイテッドアローズ」などのセレクトショップに「ビームス」の旗艦店が加わった。17年からは「ヒルズカード」で年間税別300万円以上の買上げ顧客向けサービス「4スタープログラム」をスタートさせ、21年春から顧客とのネットワークを強化する「ヒルズアプリ・ネットワーク」の運用を開始している。

商業エリアは飲食・物販・サービス店舗合わせて約200店舗で構成されている

2003年のオープン当時に都心部で最大規模であった約1300坪の巨大プレートが特徴の森タワーをはじめ、クロスポイント、ゲートタワー、けやき坂テラス、ノースタワーの5棟からなる「オフィス」は、最先端スペックを兼ね備えた大規模から小規模まで多様なニーズや働き方に応えるオフィス環境を提供。20年経った今も世界をリードするグローバルカンパニーや成長著しいスタートアップ企業などが集まる。オフィスは常にほぼ満室の高稼働が続いており、現在も約120社が入居。就業者数は多彩な業種と国籍のワーカーを合わせ約1万5000人を数える。

「六本木ヒルズレジデンス」は、合計約800戸の住宅のうち賃貸住宅は約450戸で、その稼働率は約9割。このうち約3割は海外からの居住者で占められている。

(塚井明彦)