天文館エリアの再生目指す「センテラス天文館」
商業施設、図書館、ホテルなどから構成される複合施設「センテラス天文館」が開業して、1周年を迎えた。同施設は鹿児島市にある南九州最大の繁華街であり、観光客にも人気のスポットエリアである天文館に位置する。かつてあった商業施設「タカプラ」及び、その周辺ビルを含めた跡地に2022年4月に開業した。天文館エリア内において、最も多い乗降客数を誇る路面電車の電停「天文館通」の目の前という好立地にある。同施設で商業施設の運営管理を担うのがプライムプレイス。中心市街地である天文館に活気を取り戻し、再生させることをミッションとして開業から運営まで取り組んできた。その「再生」の実現を探った。
鹿児島市は南九州の最大都市で、その中でも天文館は公共・業務・商業・娯楽などの都市機能が集中するエリア。同社運営事業本部運営四部部長兼センテラス天文館オペレーションセンター長の山本賢一氏は「他県の中心市街地でも同様の傾向がみられるが、駅周辺や郊外部への商業施設などの開発に伴い、中心市街地のマーケットが分散。減少傾向にある環境を改善し、エリアを再生させるべくプロジェクトをスタートさせた」と、再開発について語る。
センテラス天文館は中心市街地である天文館エリアの活性化を担い、市街地再開発事業(千日町1・4街区市街地再開発事業)の下、15階建ての複合ビル(延床面積約3万6700㎡)として建設が進められた。1~4階に商業施設、4~5階に図書館、5~6階にオフィス、6階にホール、7~14階に217の客室を擁するダイワロイネットホテル、15階にレストランと展望スペースという構成となっている。
この再開発事業は12年のまちづくり研究会の設立によってスタートし、約10年をかけオープンした。そのセンテラス天文館の商業施設における開発コンサル及び運営に携わるのが、コンペにより選定されたプライムプレイスだ。同社は18年から基本計画、20年から実施計画、21年秋頃から開業準備に着手し、プロジェクトを推進した。
同社は基本計画において綿密なマーケット分析を行い、戦略を策定。「わたしにイイバショ」をコンセプトに、天文館の拠点となる施設を目指した。また、天文館エリアにはすでに百貨店や商業施設があり、ゾーニングやMDプランなどについては、既存施設と共存共栄するポジショニングを目指した。
実施計画におけるリーシングでは、基本計画で策定した戦略を基にゾーニングとMDプランを計画。これに基づいたリーシング活動を進行したものの、新型コロナウイルス禍に直面。すでに内定していたテナントが出店をキャンセルするなど、リーシング活動へ大きな打撃を受けた。こうした状況変化に対応すべく、計画の一部見直しに取り組んだ。
同社運業本部運営四部センテラス天文館オペレーションセンターサブマネジャーの今田翼氏は「コロナ禍に直面したことによりトレンドや出店ニーズなど情勢が大きく変化。それに伴いリーシング計画も一部見直し柔軟に対応した。具体的には当初は1階に立ち飲みゾーンを計画していたが、飲食への打撃が大きかったことを受け、テイクアウト主体の食物販ゾーンに転換。また、2階を中心に都市型ファッションを中心としたゾーンを計画していたのをライフスタイルゾーンに転換。ファッションだけにこだわらず、雑貨やファッション雑貨を加え、アフターコロナを見据えたデイリー性の高いゾーンを構築した」と、当時の状況を振り返る。
こうした取り組みにより、コロナ禍に直面する厳しい環境下でも、開業時にはほぼ満床に近い状態でオープンを果たした。多くのテナントから「天文館エリアと複合施設の可能性」が評価され、全国初が2店舗、九州初が4店舗、鹿児島初が16店舗の誘致を実現した。全国初が「ぐるなびDining Park」(フードホール)や「nouer」(バッグ・シューズ・アクセサリー)、九州初が「coca」(レディス・メンズ・キッズファッション)、「mula wear」(ヨガウェア)などで、鹿児島初が「中川政七商店」(生活雑貨、インテリア雑貨、キッチン雑貨)、「Eggs’n Things Coffee」(カフェ・パンケーキ)、「金子眼鏡店」(眼鏡・サングラス)などとなる。
山本部長と今田氏は、期待と不安が入り混じる複雑な気持ちでオープン当日を迎えた。しかし続々と館内に入ってくる客に、2人共センテラス天文館への期待の大きさを実感した。その後も複合施設の強みを発揮し、動員は好調に推移。オープンから約1カ月で約70万人に達した。特に4~5階の図書館が地元客の憩いの場として機能し、買い物の合間などでも多く利用されている。図書館は床や天井などが商業施設と同じような仕様で一体感のある空間となっており。開業後も継続して来館されている要因の1つだという。
プライムプレイスは商業施設の運営管理を主体としている。決して開業がゴールではなく、経常期に入ってからも中長期的な成長を目指した運営に取り組んでいる。特にセンテラス天文館の1階メイン入口付近にはイベント広場があり、集客イベントなどに積極的に活用する。一例として、天文館地区のまちづくりを推進するエリアマネジメント組織のWeLove天文館と協業し、初年度のGWに「天文館こどもフェスティバル」を開催。射的や輪投げなどの子供が楽しめるコンテンツを提供し、約6500人が来場した。また7月には、鹿児島市の無形民俗文化財に指定されている伝統祭事「おぎおんさぁ」のメイン会場として活用。天文館エリア一体で神輿や傘鉾(かさぼこ)などが展示される中、広場でも提灯やぐらを行列展示、写真展の開催などにも協力した。商店街、行政、地元企業などと積極的に連携し、エリア全体としての一体感や賑わいの創出にも貢献している。
センテラス天文館の開業で山本部長は「我々が命題としてきた中心市街地の再生に一定の貢献ができた」と語る。当初掲げた「再生」という命題に対し、実現できた具体的な成果として次の3つを挙げる。
1つ目が「拠点としての集客」。天文館の拠点の1つとして顧客から認知され集客に成功した。開業景気といった一時的な動員でなく、経常期においても様々な策を講じたことで来館を促進させた。2つ目が「エリアにおける回遊性の向上」。プロジェクトの戦略の1つとして実践したエリア内での共存共栄策が功を奏し、来館者の中には天文館エリアにある百貨店や商業施設、商店街の店舗などを利用する様子が多く見受けられるという。3つ目は「地域における賑わい創出」。イベント広場を活用し、行政や商店街、地元企業などとの連携を通し、エリアと一体となった施策を展開。館の集客のみならず、エリア全体に賑わいをもたらすことができたとしている。
22年は鹿児島市内の新型コロナウイルスの感染状況により、顧客の外出へのモチベーションが変動。館の集客に影響も見られた。今後は新型コロナウイルスの「5類感染症」への移行で、以前よりも外出の動きが向上することが期待される。今年からは、イベント広場やホールなどを活用した集客イベントを充実させる。館への集客、街全体の回遊性、賑わい創出に一段と弾みを付け、天文館エリアのさらなる活性化を目指す。
(塚井明彦)