2024年11月23日

パスワード

購読会員記事

<ストレポ4月号掲載>23年春夏の百貨店改装最前線

店舗構造改革が加速している(画像はイメージ)

百貨店がリアル店舗の魅力をさらに高め、集客力を取り戻していくためには、言うまでもなく対象顧客の関心が高い体験価値を提供する新しいモノ・コト・トキの提案が求められる。今春夏シーズンも全館規模レベルの大型改装では、百貨店MDと専門店との融合による「ハイブリッド型の新しい百貨店ビジネスモデル」の構築が潮流となっている。一方、大型複合商業施設と差異化できる根幹の百貨店MDでは、これまで培ってきたマーケティング力や編集力、目利き力、提案力などを生かした自主編集売場やブランド編集ゾーンの新設も相次ぐ。各店各様のビジョンに基づく「百貨店価値の再創造」への改革・再編に拍車がかかってきている。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2023年4月号掲載の特集「23年春夏の百貨店改装最前線」(全17ページ)の一部を抜粋・編集して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他4月号の内容はこちらからご確認いただけます)

郊外・地方に相次ぎ進出、ハンズの地域密着型店舗

春夏改装でも昨年に引き続き大型専門店を導入する百貨店が多い。目立つのが、ハンズが手掛ける暮らし密着・発見・発信型店舗の「プラグス マーケット」で、既に草津店と四日市店で展開している近鉄百貨店は橿原店と上本町店に相次いで導入し、八木橋は婦人服フロアに誘致した。ハンズとしては郊外立地並びに地方都市の百貨店への進出に拍車がかかった格好だ。

プラグス マーケットはコロナ禍の2020年にデビュー。地域の百貨店やショッピングセンター(SC)などの商業施設、地方自治体や地元企業とハンズの3者が連携して、新たな刺激を街に流し地域の魅力最大化、活性化を目指していく大型専門店だ。大丸松坂屋百貨店では全館規模の改装を機に大丸下関店と高知大丸に誘致している。近鉄百貨店のようにフランチャイズ運営も特徴の1つだ。

導入を契機に百貨店の多くが行政と連携協定を締結している。例えば八木橋では2月15日のプラグス マーケット開業に先駆け、熊谷市とハンズとの3者で「産業振興等に関する連携協定」を1月24日に締結した。「熊谷市の特産品等の販売促進、観光振興、その他3者が協議し合意した事項」で連携協定し、農業、商業、工業の各分野で活力ある産業振興を目指していくという。

こうした連携協定は、地域になくてはならない百貨店としての存在価値を高めていくための重要な地域貢献活動の1つだ。プラグス マーケットは現在、百貨店を中心に出店しており、郊外・地方百貨店にとって強力なライバルである商圏内の大型SCとの差異化にもなる。

住まいの相談サロンや、クリニックエリアも開設

専門店(テナント)の誘致は多様化してきた。24年4月の開業60周年を見据え段階的改装を進めているJU米子髙島屋は5階に、インテリアショップを手掛ける「リビングハウス」と提携して、同社プロデュースによる総合ライフスタイル提案フロア「ライフスタイルラボ」を1月26日に新設した。同社にとって百貨店のワンフロアをプロデュースするインテリアショップは初めての試みで、フランチャイズ形式で運営している。

また三越伊勢丹は伊勢丹浦和店の5階に、三井ホーム「住まいの総合SALON」を3月25日に開設した。三井ホームとしては初めての百貨店内に常設する住まいに関する相談サロン。リアルな住宅模型と数々のバーチャル映像コンテンツを織り交ぜた新たな情報発信チャネルを加えて、商品デザインや構造特性、戸建住宅での暮らしのイメージをその場で体験でき、さらにマンションからの住み替え、土地探しや土地活用などのニーズにも、最新のAIツールを活用して簡易的なシミュレーション提案もできる。

ながの東急百貨店は今年1月6日に本館6階にクリニックエリアを新設した。「おおくぼ眼科」、「びわレディースクリニック」(婦人科)、「コンタクトのアイシティ」、「アーク調剤薬局」の4つのテナントで構成する。同店にとっては人流の変化と長野駅周辺のマンション建設の活発化による駅近隣への新たな生活者の増加傾向に応じたクリニックエリアの新設であり、駅前エリアの生活利便性の向上と活性化を目指した環境整備の一環だ。

阪急うめだ本店が8階で、「人と自然の共生」を提案

一方、百貨店本来の強み、これまで培ってきたノウハウを生かした新しい売場づくりも欠かせない。釈迦に説法だろうが、むしろ百貨店のリアル店舗の存在価値を高め、その特徴化を極めていくキーゾーンになる。他の大型複合商業施設とは一線を画するためにも益々磨き上げていかなければならないであろう。

この春夏の改装による新しい編集売場づくりで注目されるのが、阪急阪神百貨店が阪急うめだ本店8階に開設する新しいワールド「GREEN AGE(グリーンエイジ)」である。「パートナーや仲間との絆を大切にする都市生活者に向けて新しい自然共生型ライフスタイルを提案し、人と社会と環境が調和した豊かな未来を共創していく」編集売場だ。コアターゲットはミレニアルファミリーで、百貨店が将来を見据えて開拓しなければならない重点顧客層である。コロナ禍でより強まってきた「サステナブルな暮らしをしたい」、あるいは「お洒落を楽しみながら環境にも配慮したい」といった生活者ニーズに対応していく売場でもある。

いずれにしても百貨店業界は、コロナ禍を経て再成長に向けた店舗構造改革とリアル店舗の魅力化への売場革新に拍車をかけるステージに入っている。

月刊ストアーズレポートを購読される方は、こちらからご注文ください。