2024年11月23日

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大丸松坂屋百貨店のファッションサブスク、日本一へ“折り返し地点”通過

2021年3月12日にスタートした「アナザーアドレス」は、右肩上がりを維持。今年3月1日にはメンズを加え、勢いに弾みが付いてきた

折り返し地点まで来た――。2021年3月12日の開始から5年後に黒字化、そして日本におけるファッションサブスクリプションでのナンバーワンを目指す「AnotherADdress(アナザーアドレス)」の事業責任者、田端竜也氏は2年余りを経た現状に手応えを実感する。今年3月1日には従来のレディースにメンズを追加。当初は27年度(27年3月~28年2月)末に売上高で55億円、在庫高で20万着、有効会員3万人を目標に掲げていたが、メンズの追加で売上高を75億円、在庫高を30万着、有効会員を4.5万人に上方修正した。増員など組織の拡充も急いでおり、目標に向けて前進を続ける。

アナザーアドレスは2年目も収穫が多かった。売上げの右肩上がりを維持しつつ、打った布石が効果を発揮したからだ。例えば昨年10月1日に導入した、1カ月5500円(税込み)で1着をレンタルできる「ライトプラン」は好評。子供の面接や卒業式、入学式といったオケージョン需要も取り込み、売上げの約2割を占める。

昨年6月に実装した、SPRING OF FASHION社が手掛ける「STYLISTA(スタイリスタ)」も、レンタルの促進に寄与。利用者同士でコーディネートなどを相談・助言できるサービスで、それを経由したレンタルは10%に迫る。

田端氏は「ライトプランはオケージョンなどでスポット的に使ってもらえており、スタイリスタは『誰かに相談したい』というニーズを浮かび上がらせた」と新たな発見を喜ぶ。それが新たな商機を生み、収益力を高める。

アナザーアドレスが産声を上げる前は難航したブランドとの交渉も一変。22年度はブランドからの“ラブコール”が劇的に増えた。

業容も急拡大。売上げは1年目の3倍超に膨らみ、2年間での総登録会員数は約1万5000人(今年2月20日時点)、レンタルの総数は約10万着(同)に達した。21年3月~22年9月はレンタルの順番待ちが発生しており、潜在的な需要はより多いとみられる。

また、利用者の9割超は大丸松坂屋百貨店のデータベースで21年に婦人服を1万円以上買っておらず、アナザーアドレスは大丸松坂屋百貨店への入口も担う。平均解約率は1年目も2年目も1%前後で、アナザーアドレスだけでなく大丸松坂屋百貨店のCRMにも役立てられる継続性の高さだ。

右肩上がりが急角度ゆえに、運営体制も急ピッチで整備。組織は当初の2人から7人、21人、24人と増え、23年度は28人で臨む。社員と外部採用者が半々で、大丸松坂屋百貨店では珍しいという。28人のうち約4分の1が新卒や20代前半で、平均年齢も全社が40代後半に対して34歳と若い。“異分子結合”と若さが組織の特徴だ。ただ、50代後半の社員も擁しており、若手のアイデアや感性などをマネジメントや交渉に長けたベテランがサポートし、組織としての機能性を高める。

増員と並行して役割の分担を進めており、現在は①仕入れの計画やブランドとの交渉などを担う「MD」②いわゆる「ささげ」業務やコンテンツの制作などに従事する「メディア」③サービスの改善や新客の獲得、カスタマーサービスなどに取り組む「CRM」④提携する企業との連携などを推し進める「オペレーション」――の4チームからなる。

組織が巨大化すると、事業責任者の目が届かない部分も出てくるが、田端氏は「外部採用者は夢に共感して入ってくるし、やりたいことがあるからベクトルを示してくれる。自分にも(大丸松坂屋百貨店で)何をどう変えていくかを求めてきた10年間がある。仕事とは社内調整でなく、何を実現したいか。全員が『お客様に喜んでもらえるか』を大事に行動してくれれば、問題は生じない」と自信を示す。

3年目となる23年度の伸び代はメンズだ。初動は「アーリーアダプターと呼べる、ファッションの感度が高い男性が利用しており、平均年齢は女性が44歳に対して5歳くらい若い。人気はデザイナーズブランドなどエッジが効いたモノ。利用してくれた友人は『トップスは派手でもチャレンジできるが、ボトムスは難しい』と言っており、女性とは傾向が逆かもしれない。金曜日の午後8時30分に新着のアイテムの情報を発信しているが、そこにメンズを加えると、女性が借りてくれた。ジェンダーレス化する世の中で、10%の女性がメンズを借りてくれたら理想的。当面の目標であり、楽しみでもある」(田端氏)

一方で、解決すべき課題もある。クリーニングや修繕だ。提携する洗濯ブラザーズを介して受け入れ態勢は強化したが、限界が迫る。アナザーアドレスは毎月1~2万着を貸し出しており、当然、同じ数だけクリーニングが必要だ。しかし、クリーニング業界にとっては多過ぎるという。

そもそも、一般的なクリーニング店に持ち込まれる衣類の約7割はワイシャツだが、アナザーアドレスにはワイシャツがない。さらに、高価格帯の衣料を扱うため、高いレベルのクリーニングや修繕が求められる。一般的なクリーニング店が対応するのは難しい。

そこで、クリーニングや修繕の集約化を検討中だ。田端氏は「リードタイムや物流のコストを、どう下げるかが収益化への重要なファクター。フルフィルメントセンターの設置が理想だ。例えばレンタルの注文は午後7時~午前1時が多いが、倉庫は午後6時に閉まるため、リードタイムが長い。フルフィルメントセンターを構え、機械で自動的にピッキングできるようにすれば、それを大幅に短縮できる。アナザーアドレスでの活用に限らず、お客様からクリーニングの依頼も受けられるようになり、店舗で展開する骨格診断やパーソナルカラー診断との相乗効果も狙える。骨格診断やパーソナルカラー診断の結果を踏まえ、いきなり新しい服を買うのはハードルが高い。アナザーアドレスは、その受け皿を担える」と夢を描く。

着々と進化するアナザーアドレス。「事業としては1合目」とも話す田端氏の“登山”は、まだまだ長く、目標は高い。

(野間智朗)