2024年11月22日

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高島屋大阪店、改装で要望を反映、ファン着々と

新型コロナウイルス禍による機会損失は、衣食住の中でも食に、とりわけ人との会食に顕著に表れた。そうした中、制限を余儀なくされたのが「酒」だ。家族の祝い事や友人との語らいの場では賑わいの一助として、祭礼の場では宝物として、各場面で役を担ってきた酒は、コロナ禍で奇しくも存在を問われる的となった。しかし見方を変えれば、酒はいつの時代も「人が集う場」に存在してきた。この数年、多くの人が自粛してきた集いは改めて望まれ、求められているリアルと言えるだろう。時代の変化と共に人々の生活に豊かさを添えてきた百貨店。ウィズコロナを歩み始めた今、「百貨店で酒を買う価値」、「百貨店が売る酒の価値」にスポットを当て、酒売場の刷新で攻勢を掛ける現場を探る。


昨年4月7日にリニューアルした高島屋大阪店の酒売場は、“客が望む品揃え”を実現し着実にファンを増やしてきた。「テロワールbyエノテカ」(以下、エノテカ)は、売場面積を約23㎡から約69㎡と3倍に拡大し、仏パリの老舗レストランであるタイユヴァンが厳選したワインを取り揃えるコーナーを大々的に導入した。顧客から要望のあったバーカウンターも新設し、商品数は520SKUから600SKUと増加。同時に改装した自主編集売場も、320SKU増やして2550SKUとラインナップを強化した。リニューアル後の昨年4~9月の売上高は、テロワールが前年比147%、自主編集売場もワインの147%を筆頭に、洋酒が125%、クラフトビールが123%と軒並みアップし、品数を減らした焼酎も約103%と微増した。「高島屋らしい品揃え」のコンセプトに加え、「日常をワンランクアップさせる」商品や時間の提供を目指した売場は奏功し、2年目を迎える。

リニューアルした「テロワールbyエノテカ」。3倍に面積を拡大した店舗には優雅な時間が漂う

酒売場の改装計画は同店が掲げる「品揃え改革」の一環として、2020年の冬に決定した。以前の売場形態で10数年、同店が“強み”とする富裕層の顧客からの支持は得ていた。しかし、インバウンドを含めた客層の多様化、新型コロナウイルス禍による生活スタイルや価値観の変化、マイクロブルワリーの増加に伴う幅広い種類の酒の出現などマーケットが活発な動向を見せる中、「ニーズの高い商品の提案スペースが十分でないと感じていた」(同店)。特にウイスキーやナチュラルワイン、生酒や高価格帯の日本酒については、満足な提案に至っていなかった。

また、新しい酒が続々と登場し話題を提供する一方で、若年層の“酒離れ”が顕著になっている側面もあった。厚生労働省がまとめた「年代別習慣飲酒率(男性)」調査によると、1989年から2019年までで20代では32.5%から12.7%、30代では55.5%から24.4%と減少。国税庁が22年に発表した「酒レポート」内でも成人1人当たりの酒類消費量が右肩下がりに減少し続けている。「酒業界全体が新たな提案を必要としていた」(同店)状況も変革のきっかけと捉えて「より柔軟に対応できるようにしたい」とリニューアルを決定。既存顧客の満足度を上げることはもちろん、中間層の購入率アップや、百貨店の主要課題でもある20~30代の新規顧客の獲得を目指した。

歴史あるタイユヴァンが厳選したワインを揃える立派なセラー。落ち着いた雰囲気の店内で品を吟味できる

エノテカは、タイユヴァンのコーナー展開を他店と差別化を図る目玉と位置付けた。店舗の中央には約70種類の高価格帯や稀少なワインが収まるセンチュリーセラーが堂々と構え、訪れた客の心を掴む。店内には手に入りにくいオールドヴィンテージから、人気の国産ワインやナチュラルワイン、新たに伸長している東欧のワインまでも用意。壁面を大きく使用した商品棚は、客が見やすく選びやすいよう地域別やブランド別の構成に変更した。

迷わずにはいられないほど多種多様なラインナップ。高島屋が直輸入する「ルロワ」のワインも並ぶ

自主編集売場でもワインは主力商材として展開。以前より100SKU増やし1300SKUを取り揃えた。中でも仏ブルゴーニュを代表するワイン醸造所、ルロワ社の商品を特徴として打ち出す。高島屋は1972年に輸入・販売を開始し、88年には資本提携してドメーヌ ルロワを設立。自社畑でブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを行う。化学肥料を排除し農薬散布せずにブドウを育てる「ビオディナミ農法」でつくるワインの普及にも取り組む。

ウイスキーを中心に拡充した洋酒売場。スペースを独立させ、ゆっくりと過ごせる時間と空間を実現した

ワイン以外の洋酒は200SKUから450SKUと大幅に増やし、特にコロナ禍以前から世界的に人気が高まっていたウイスキーを拡充。関西地域の百貨店ではトップの品揃えを誇る。人気のオフィシャルボトルはもとより、販売員がセレクトしたボトラーズブランド(蒸留所から直接原酒を買い付け、独自の製法で熟成と瓶詰めする業者)を展開。コーナーレイアウトは、ウオッカやラムなどハードリカーも一緒に“ひとつのショップ”としてゾーニングし、愛好家にもゆっくりと時間を過ごせる空間を演出した。

美しく顔を揃える日本酒は、ギフト需要も多い。高額なタイプや生酒を増やして提案にバリエーションを生み出す

日本酒は贈答用に適した百貨店らしいラインナップに加え、新たに季節限定酒や蔵元と直接取引した生酒の取り扱いを充実させた。500SKUと豊富な品数で棚を埋め尽くす。一般的なトレンドは“辛口至上”だが、同店では「フルーティーでジューシーな味わいのものが自家用で人気」だという。近年生産されている13度程度の低アルコールでライトな口当たりに仕込んだタイプも、品揃えに反映。客がいつ来店しても新しい商品と出会える提案を意識し、少量在庫で多くの品種を常時回転させる方法にシフトした。

ナショナルブランドはグローサリーコーナーへ移動。新たに大阪のブルワリーをメインにしたクラフトビール

ビールは30SKUから80SKUと増強。新たに「MARCA(マルカ)」や「泉佐野ブルーイング」といった大阪のブルワリーを中心にクラフトビールを多く取り揃えた。商品は2~3週間のタームで入れ替え、地域色を打ち出しながら新鮮さをキープする。今後はさらに種類を増やして拡販する。

リニューアル後、上期の売上高はエノテカ、自主編集売場ともにワインが前年比147%を記録し、洋酒が125%、クラフトビールが123%、焼酎が103%と好調に推移した。

カウンターを使用してのセミナーは月2回開かれる。初級編~上級編などスタッフがテーマを設定する

エノテカは、新設したバーカウンターが集客に力を発揮している。グラスで試飲機会の少ない高額なワインから気軽に試せる600~1500円の種類を増やした結果、買い物の前後や待ち合わせに利用する客が増加。ソムリエの大倉宣靖氏は「テイスティングカウンターの利用頻度が上がってきた」と手応えを得る。平日でも1日15人ほどが利用し、平均単価は4000円。「立ち寄ったお客様からは『楽しい気分になったので買い物し過ぎた』、『こんな商品を見付けた』などの話をしていただける」(大倉氏)と、顧客との接点も増えてきた。

月3回程度開催するワインセミナーは、会費が2500円~1万円で、スタッフがテーマを設定してレクチャーする内容が毎回好評だ。物販についても、手に取りやすい1000円台の価格帯のワインを加えたことで、これからワインを楽しもうというエントリー層やデイリーワインを購入するミドル層を徐々に取り込めてきたという。

自主編集売場のワインは、ルロワ社を軸とした直輸入ワインの拡充と試飲販売が売上げに貢献した。洋酒は、国産ウイスキーの品薄状態が続いているものの「ギフト需要が伸びており、5000~8000円の価格帯が好調」(同社)に動いている。店頭での品数を380SKUから220SKUと減らした焼酎は、直接取引による特徴的な商品をポイントに販促。日本酒とともに週替わりで実施する試飲販売も実を結び、売上げは前年を超える結果となった。鮮度のあるラインナップに刷新したビールは、コロナ禍前に開催していたビールイベントの復活もあり、客から「様々なタイプにトライしてみたい」という意欲的な声が寄せられている。

高島屋のインターネット通販サイト(ECサイト)も、積極的な施策を展開。大阪店の在庫を中心にクラフトジンやウイスキーの特集を打ったり、日本酒と焼酎のカテゴリーサイトでは特別感のある季節商品を前面に出したりと、要所を押さえながらバイヤーがセレクトした逸品との出会いを創出する。

リニューアルから1年、明確な課題も見えてきた。「中間層のデイリー需要の取り込み」と「若年顧客層へのアプローチ」にはまだ余地を残している。カテゴリー別では“洋高和低”の傾向が続いており「和酒のてこ入れ」が必要だ。

同店は「エノテカ、自主編集売場ともにソムリエや利き酒師が常駐しているため、店頭でのサービスやセミナー、イベントを通じて酒売場全体としての顧客固定化を進めたい」と今後の目標を語る。エノテカの大倉氏も「セミナーなどのイベントを継続して酒売場全体を盛り上げていきたい」と、ジャンルを超えて酒売場の活性化に意欲をみせる。

丁寧に“品を揃える”仕事は人を呼び込む。同店はカテゴリー別にトレンドを把握、分析することで、それぞれの酒が持つ魅力を引き出しサービスにつなげる。きめ細やかな試みは好循環を生み、理想とする酒売場が完成する日もそう遠くないだろう。

高島屋大阪店は1938年、呉服店系列では異例の食堂経営に着手。1000席を擁する大食堂は当時“東洋一”とうたわれ、2004年の閉店まで多くの客に食の楽しさを提供してきた。人々の生活をワンランクアップさせる品揃えと客をもてなす精神は、時代の変遷とともに形を変えながら、今日も受け継がれている。

(中林桂子)

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