2024年11月22日

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伊勢丹新宿本店、ゼビオと組んだ“高感度化”で躍進

新型コロナウイルス禍で熱を帯びるゴルフ市場に照準を合わせ、東京都新宿地区の百貨店が相次ぎ売場を新装した。同地区には専門店や量販店が多い上、今年4月22日には2層に亘る巨大な売場を擁する「アルペントーキョー」が開くなど、ゴルフ市場を巡る競合は激しいが、4百貨店(伊勢丹新宿店、小田急百貨店新宿店、京王百貨店新宿店、高島屋新宿店)の売上げは好調だ。品揃えを充実させるだけでなく、ファッション性やコンサルティングの追求など“百貨店ならでは”の強調が客足を呼び込む。4百貨店の改装の要諦と成果、今後の戦略を追った。

「ダブルイーグル パワードバイ イセタンゴルフ」はメンズ館に隣接するパークシティイセタン5の2階に位置

昨年3月23日に増床・改装した伊勢丹新宿本店のゴルフ売場は、初年度の売上げが前年を大幅に上回った。スポーツ専門店を展開するゼビオと組み、セレクトショップ「ダブルイーグル パワードバイ イセタンゴルフ」(以下、イセタンゴルフ)を開設。旬のウエアを取り揃えるとともに、扱ってこなかったゴルフクラブの販売やフィッティング、修理、カスタマイズなどを始め、感度が高いゴルファーを取り込んだ。

イセタンゴルフは、メンズ館に隣接するパークシティイセタン5の2階に位置する。面積は小さく、回遊性も高くないが、2020年度(20年4月~21年3月)以降は売上げが好調に推移。「驚くほど伸びており、一過性ではない」(石井博之第2MDグループ新宿紳士商品部イセタンゴルフバイヤー)と判断し、21年3月に改装を決めた。

リモデルは、ゼビオが手掛ける「ダブルイーグル」との協業が前提だった。石井氏は「ショップの集合体では意味がない。ショップごとに会計しなければならず、コーディネートなどではブランドの枠が邪魔になる。それらを解決しつつ、より高感度、よりオシャレに売場を変えたかった。ただ、面積を考えると単独での運営は難しい。そして、伊勢丹新宿本店のお客様が満足できる品揃えが可能なのは『ダブルイーグル』だけであり、他の選択肢はなかった」と振り返る。ゼビオとの交渉は順調で、同7月までには合意に至った。

イセタンゴルフが目指すのは「循環型のゴルフショップ」だ。専門のフィッターを常駐させ、試打室や工房も併設。一人一人の技量に合った提案、クラブの修理やカスタマイズ、あるいは不要になったクラブの引き取りなどで「お客様とずっとつながり続けながら、買い替え需要を取り込める」(石井氏)ようにした。初心者は何が自分に合うか分からない。ゴルフ業界では、最も売れるブランドは最も返品が多いともいわれる。つまり、コンサルティングが不可欠なスポーツだ。それを強みに、量販店と差異化する。

工房を擁し、修理やカスタマイズに対応

ウエアは“旬”に特化。「旬のブランドの旬のアイテムのみを揃える」(石井氏)。春夏だけ、秋冬だけ登場するブランドもあるという。一般的なショップには、いわゆる「見せ筋」や訴求力を欠く商品も存在する。しかし、イセタンゴルフはセレクト型の利点を生かし、それらを排除。ブランドの長所を集約した品揃えで、感度が高い客の購買意欲を喚起する。

さらに、ポップアップスペースも設置。1カ月ごとに入れ替え、品揃えの鮮度を高める。過去に誘致した中では「ココエアリー」や「ルシアン ペラフィネ エルピーエフジー」が盛況。後者の商品は常時取り扱うようにした。品揃えも循環型だ。

新装オープンから1年を経過したが、売上げは前年を大きく超えた。売れ筋は雑貨で、とりわけキャディバッグやカートバッグ、マーカーなどの動きが良い。雑貨以外では、新宿地区初展開のウエアが好調だ。石井氏は「ゴルフは思った以上にニーズがあり、やはり百貨店に必要と分かった。お客様の年齢は40~50代が中心で、30代も増えてきた。想定以上に三越伊勢丹の既存顧客が多く、潜在需要を開拓した格好だ。新しいお客様も増えており、『インスタグラム』からの流入が目立つ。総じて『オシャレにプレーしたい』というゴルファーに支持された」と手応えを実感する。

アイテムではマーカーが人気。バリエーションが多彩で、他のゴルファーとの差異化にも役立つ

課題は本館やメンズ館からの回遊やゴルファー以外の誘引だ。裾野の拡大が、中長期的な成長につながる。本館やメンズ館でゴルフのイベントや連動した企画などを行い、客足を促す。ゴルフウエアは機能性が高く、普段着や運動着としても使える。それをPRし、ゴルフが目当てでない人の買上げも狙う。

(野間智朗)