2024年11月22日

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熱気高まる“サ活”(1)愛好家の輪が広がる「三越伊勢丹サウナ部」と「伊勢丹サウナ館」

好評を博し、今年1月には第3回を開催した「伊勢丹サウナ館」

サウナの熱波が、百貨店にも押し寄せている。空前のサウナブームが続き、各百貨店はそれを取り込むべく、催事の開催やコンテンツの発信に力を入れる。当連載ではその事例を追っていく。第1回は、三越伊勢丹の社内コミュニティ「三越伊勢丹サウナ部」と催事「伊勢丹サウナ館」。サウナを愛好する社員によって生まれたサウナ部は、社内の交流の場として発展し、150人超のコミュニティへ成長した。伊勢丹サウナ館は伊勢丹新宿本店で定期的に開催されており、人気催事と化している。

三越伊勢丹サウナ部のステートメント。サウナや仕事には「愉しさ」を追求する

三越伊勢丹サウナ部(以下、サウナ部)が始まったのは、2020年の冬。MD戦略統括部販売促進部付の田代径大さんら数名の社員が、お互いサウナが好きであることを知り、社内コミュニケーションツール「ヤマー」内にグループを立ち上げた。「単純に、サウナ好き同士で集まったり喋ったりしたら面白いと考えた。当社は約1万7000人の社員がおり、普段接点が無い人も多いので、コミュニケーションのきっかけにもしたかった」と田代さんは話す。

サウナ部は三越伊勢丹やグループの社員であれば誰でも参加できるため、部員は福岡県から北海道まで広域に存在する。部の活動は各々がサウナで交流したり、サウナの情報交換をしたりなど、自分のペースで参加できる。ヤマーに加えて外部向けに「ツイッター」、「インスタグラム」、「ノート」のアカウントも持ち、活動内容を発信。オリジナルグッズの製作、販売も行っている。

部員は様々な部署に跨って存在するため、それぞれの得意分野を生かして業務を担当している。例えば田代さんは普段オウンドメディアなどを担当しているため、CCO(チーフ・コメント・オフィサー)という役職で、コメントの作成やノートの文章の執筆など、言葉に関する業務を行う。

伊勢丹新宿本店婦人・宝飾時計・雑貨営業部付(計画)の丸山岳大さんはモノづくりに精通しており、C3PO(チーフ・サウナ・プロダクト・オフィサー)として商品製作の責任者を務めている。「いわばジョブ型のような形態で運営しているのも、当部ならではの特徴かもしれない」と田代さんは語る。

こうして活動を重ねる中で、サウナ部の情報を積極的に拡散したり、イベントで直接会いに来たりなど、熱心なファン層も増えてきた。そのためファンクラブも設立し、現在は約1000名が登録。限定商品の販売や先行受注などを行っている。

第1回の「伊勢丹サウナ館」のロゴ。「お湯かれさまです。」のフレーズが入っているのはサウナ部のアイデアだ

サウナ部の活動が発展をみせる一方で、伊勢丹新宿店本店でもサウナブームに着目し、サウナの催事を企画した。それが21年8月に初開催した「伊勢丹サウナ館」で、今年1月に3回目を迎えるほど人気の催事へと成長した。サウナ部も監修をしたり、サウナ部のイベントを開催したりなど協力している。

第1回は、21年8月11~17日に、本館2階のイベントスペース「ザ・ステージ#2」で開催。タオルや洗剤、バスグッズなどのサウナグッズに加え、サウナ飯の代表格であるカレーのスパイスやパジャマなど、「ととのう」グッズを集積した。

サウナ部は企画の担当者から相談を受け、企画に携わった。「1人のサウナ好きとしての視点から、意見を言わせてもらった。『伊勢丹サウナ館』のロゴのデザインやコピーのアドバイスをした」(田代さん)。伊勢丹サウナ館というイベント名は、実際に伊勢丹会館に存在したサウナに由来するが、それを推した方が良いと進言もしたという。

第1回が好評だったため、22年1月2~4日に第2回を開催。場所は本館6階の催物場へと移り、規模を一気に拡大した。サウナ部員でもある丸山さんは、第2回から同催事をメインで担当している。「第1回を見たとき、サウナ好きとして『場所やカテゴリーを広げれば、もっと人が集まる』と考えた。催物場の空きなどタイミングが重なり、2回目から担当することになった」と経緯を語る。

大きくスケールアップした第2回の「ととのう2022 伊勢丹サウナ館」は、日本各地やフィンランドのサウナアイテム、伊勢丹サウナ館オリジナルのグッズなど計50ブランドを用意。売場面積は第1回の約10倍となり、それに準じて品揃えも大幅に拡大した。「サウナといっても切り口は様々で、サウナで使うアイテムやサウナモチーフのグッズ、食事、美容ケアなど、様々なカテゴリーがある。それらをまんべんなく網羅した」(丸山さん)。期間中は男性を中心にコアなサウナ好きが多く集まり、活況を呈した。

第3回目の会場の様子

今年1月に開いた第3回「ととのう2023 伊勢丹サウナ館」では、さらに初心者や女性も呼び込むため、ファッションや雑貨、コスメを充実させた。コスメブランド「アスレティア」やサウナアパレルブランド「SAUNA JUNKY」、アクセサリーブランド「Marco tokyo sento」、アクリルグッズの「KAE ACRYLIC」などが初登場した。

また、「サウナ好きな方のSNSを見ていると、ここでしか買えないもの、体験できないことなどを重視していることが分かった」(丸山さん)ため、伊勢丹サウナ館の限定コラボグッズや、イベントを多数用意。伊勢丹サウナ館ならではの特別感を出した。

限定グッズは「Pure west」、「MOKU」、「CA4LA」など様々なブランドとコラボレーションを実施。イベントは、サウナブームの仕掛け人と言われている五箇公貴さんのトークショーを開催したり、クイズ形式のスタンプラリーを開催したり、サウナ部のブースを設けてファンと交流したりなどした。

限定コラボグッズを多数用意し、「今・ここだけ」の特別感を出した

これらの施策が奏功し、3回目はビギナーや初心者が多く来場。とりわけ女性は学生から高齢まで年齢層が幅広く、1人で来る人やカップル、家族連れなど様々な客がいた。サウナ部ブースにも多くのファンが訪れるなど盛況で、期間中の売上げは2回目の約2倍を達成した。

成功事例を重ねる伊勢丹サウナ館だが、その企画の精度が上がったのは、サウナ部の影響も大きい。サウナ部では、部の活動内容や部員の仕事について話し合うこともある。伊勢丹サウナ館についても意見を聞いたことがあったが、「違う部署の人達なので、自分では思いつかないアイデアをもらえる。会議より気軽にやり取りできるのもメリット」と丸山さんは説明する。

田代さんも、「仕事で、今までなら解決できなかったことも『(サウナ部の)誰々さんに聞いてみよう』となり、良い影響が出ている」と話す。サウナは売上げや集客に寄与する強力なコンテンツだが、組織のコミュニケーションを円滑にし、業務の質を高める“効能”まであるようだ。こうした趣味・嗜好軸による社内コミュニティの形成も、組織の生産性を上げる有益な一手に違いない。

(都築いづみ)