2024年11月22日

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大丸松坂屋百貨店、ファッションサブスクをメンズに拡大

GINZA SIXの屋上で発表。澤田太郎社長(右端)や田端竜也事業責任者(左端)がスピーチした後、ファッションショーも行われた。モデルが着用するのは、廃棄される枝や花を使った草木染めの生地の服

大丸松坂屋百貨店は21日、ファッションサブスクリプション事業「アナザーアドレス」をメンズに拡大すると正式発表した。2021年3月にレディースでスタートしたが、今年3月1日から「メゾン マルジェラ」や「アンリアレイジ」、「トゥモローランド」ら約80ブランドのメンズを貸し出す。2023年度(23年3月~24年2月)末までに約100ブランド・約2.5万着を揃える方針で、メンズを着こなす女性の増加、パートナーや家族との共同利用を見据え、うち半分ほどは「ジェンダーレス」として打ち出す。アナザーアドレスは当初、27年度末に売上高で55億円、在庫高で20万着、有効会員3万人を目標に掲げていたが、メンズの追加で売上高を75億円、在庫高を30万着、有効会員を4.5万人に上方修正。24年度に単月黒字化、25年度に完全黒字化を見込む。

アナザーアドレスをスタートした直後から、メンズを求める声は多かったという。メンズのサブスクは、サイズなどの問題で世界的に“鬼門”とされるが、「近年のファッションのジェンダーレス化や男性のビジネスシーンにおけるカジュアル化は追い風」(田端竜也事業責任者)と捉え、参入に踏み切った。コンセプトやシステム、サービス、価格などはレディースと共通にして、コストも抑え込んだ。

メインターゲットは「30~40代の都市圏で働く大人の男性」。週末に着るカジュアルウエアをメインに“ビジカジ”やゴルフにも対応する。取り扱うブランドはメゾン マルジェラ、「マルニ」、「ディースクエアード」、「ワイズ」、アンリアレイジ、「メゾン ミハラ ヤスヒロ」、「ターク」、トゥモローランド、「セオリー」、「アウール」ら約80、アイテムはコート、ジャケット、シャツ、カットソー、パンツ、バッグなどで、靴は除外した。アイテムの半分はジェンダーレスで、女性の利用も促す。

メンズの追加に合わせて、新たな配送方法も採り入れる。これまでは段ボールに入れ、ビニールで包んで配送してきたが、ガーメントバッグに変更。段ボールは廃止し、ビニールの使用量も約30%減らす。ガーメントバッグには衣服にしわや折れ筋が付きやすいという欠点があるが、芯地に反発性の高い素材を使用し、それを防げるようにした(特許出願中)。アナザーアドレスは「レンタルビジネスではなく、新しいメディア、サーキュラー型ビジネスモデル」(田端氏)と位置付けており、環境への配慮にも余念がない。

大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー、「お菓子食べすぎ会社員」こと野﨑瑞穂さん(中央)が持つのは、しわや折れ筋を防ぐガーメントバッグ

同じく環境への配慮として、昨年に続き「森を纏(まと)い、森を育てる」プロジェクトを実施。東京藝術大学、三菱ケミカル、マイトデザインワークス、BOTANICと連携し、世界で唯一の天然木材由来の繊維「トリアセテート」を使用した衣料品がレンタルされた回数に応じて東京藝大周辺の植樹に寄付する。

昨年は東京藝大および三菱ケミカルと組み、計596着を貸し出し、大丸松坂屋百貨店と三菱ケミカルで11万9200円を寄付したが、今年は昨年の2倍に当たる286型・1158着を揃えるとともに、「Arobe(アローブ)」や「JUN OKAMOTO(ジュン オカモト)」ら4ブランドに、廃棄される枝や花を使った草木染めの生地で別注企画を依頼。さらなる支援につなげる。

アナザーアドレスは百貨店業界初のファッションサブスクとして21年3月に始動。キーワードは「Fashion New Life」、事業の目的は「持続可能なビジネスモデル」と「ファッションエンパワーメント」で、田端氏は「(長くファッション業界が課題とする)大量生産・大量廃棄を抑制し、着る服によって自信が湧く、仕事が上手くいくといったファッションの力、本質的な価値を多くの人に知ってもらいたい」と強調する。

ファッションサブスクは国内外に少なくないが、アナザーアドレスは百貨店ならではの上質な、洗練された、旬のブランドを揃えて独自性を確立。22年度の売上げは前年の約3倍に膨らみ、総登録会員数は1万5000人、総レンタル数は約10万着、平均解約率は1.04%、平均買い取り客数(=レンタルを機に買い取った人の数)は4.15%(以上、今年2月20日時点)、グループ新規顧客率は91.74%(22年4月時点)を記録した。平均解約率は2年間に亘り1%前後と低く、平均買い取り客数は直近の数カ月では5%を超える。グループ新規顧客率は大丸松坂屋百貨店にとっての新客を指し、顧客基盤の強化にも結び付いた。

利用者は30~50代が70%、地域は3大都市圏で90%を占める。「見えてきたのは3つのペルソナで、日々忙しく仕事着や学校行事などファッションがタスク化した30~40代の『忙しワーママ』、若い頃はファッションにこだわって過ごしたが、今は年齢に合うファッションを探す30代後半~40代の『おしゃれ迷子』、モテるために素敵なファッションに身を包みたい、賢く生きたい20代後半~30代の『恋活・婚活女子』」(田端氏)。こうしたペルソナを踏まえ、品揃えの精度を上げていく。

レディースは新規に「コーチ」や「チノ」、「マーク&ロナ」など60ブランドを追加して計173で3年目を迎え、23年度末には200ブランド、約6.5万着まで増やす。

今後について田端氏は「不要品を買い取って他の人に渡す、あるいはアートや再生繊維にするほか、愛用品のクリーニングやリペアも検討中。(ファッション以外のカテゴリーも含めて)モノのサブスクにおけるプラットフォームを構築し、この将来の成長が期待される領域でのティアワンを目指す」と力を込めた。

大丸松坂屋百貨店にとって、アナザーアドレスは「新規事業の象徴」(澤田太郎社長)だ。その意図を澤田社長は「新型コロナウイルス禍の3年間で百貨店の役割が鮮明に浮き彫りになった。どういうポジションを取って、存在感を出していくか。どこで強みを発揮するか。それが戦略の柱。300~400年の歴史で培ってきた信頼、のれんを最大限に活用して新しいマーケットにチャレンジし、新しいお客様を獲得していく。それが伸び代だ」と説明した。アナザーアドレスは3年目も右肩上がりを描き、新規事業の象徴としての役割を果たすため、メンズという鬼門に挑む。

(野間智朗)