三越日本橋本店、「エミール・ガレとドーム兄弟」の特別展示 名品を一堂に
三越日本橋本店は27日まで、「北澤美術館開館40周年記念特別展 エミール・ガレとドーム兄弟」を開催している。北澤美術館が所蔵する、アール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸家のエミール・ガレとドーム兄弟の作品約90点を展示。「脚付杯『フランスの薔薇』」や「花瓶『蜘蛛に刺草』」などの名品もある。
本館7階の催物会場で行い、入場料は一般が1000円、大学生が500円、高校生以下は無料。同時にガレとドームのランプや花瓶、香水瓶などの展示即売会も催している。
北澤美術館は、バルブ製造大手のキッツを創業した北澤利男氏が1983年、長野県諏訪市の諏訪湖畔に開館した。中でもフランスのアール・ヌーヴォー期のガラス工芸のコレクションで知られ、現在は約1000点を所蔵している。
実は、北澤美術館の始まりには三越日本橋本店が関係している。1980年代初頭に同店で開かれたアール・ヌーヴォー展に北澤氏が訪れ、ガレの作品に感銘を受けたのがきっかけでガラス工芸品の収集を始めた。こうした経緯があり、北澤美術館の開館40周年と、三越の創業350周年を記念して同催事が企画された。
展示の設えや照明、レイアウトは北澤美術館主席学芸員の池田まゆみ氏が監修した。同美術館の作品はガラス製で扱いが難しいため、百貨店催事を行うことが少ないという。「そうした中でも、ぜひやりたいと声を掛けて頂いた。当館との関わりも深いため、喜んで引き受けました」と池田氏は話す。
三越日本橋本店営業計画部MD計画マネージャーの小川貴史氏は、「北澤美術館の作品は、他で見る作品とは一線を画している。ぜひ見てほしい」と力を込める。
ガレはフランス北東部ロレーヌ地方の主都ナンシーに生まれた。ガラスと陶器、高級家具の製造を手掛け、1889年と1900年のパリ万国博覧会でグランプリを受賞。植物の研究にも熱心で、自然の観察に基づくガレのデザインは同時代のガラス工芸に大きな影響を与えていた。ドーム兄弟らと「芸術産業地方同盟」、別名「ナンシー派」を結成し、ロレーヌ地方の工芸の振興に心血を注いだ。
「脚付杯『フランスの薔薇』」は、ガレの愛国心が込められている。ガレの出身地であるロレーヌは、普仏戦争によって一部がドイツに割譲された。同氏の故郷で咲くとされる野生のバラ「ロサ・ガリカ」を主題に選び、表面と背面に表現している。
兄のオーギュスト、弟のアントナンからなるドーム兄弟もナンシーでガラス工場を経営し、ガラス工芸家として活躍した。父であるジャンが会社を始め、息子の代に高級工芸ガラスの分野に進出。シカゴ、リヨン、ボルドー、ブリュッセルと各地の博覧会に出展し、1900年のパリ万国博覧会でガレと同時にグランプリを受賞した。第一次世界大戦以降もフランスを代表する高級ガラスブランドとしての地位を維持し、現在に続いている。
「花瓶『蜘蛛に刺草』」は1900年のパリ万国博覧会に出品したもので、非常に複雑な技術を駆使して採算を度外視して制作された。長らくドーム家で保管されていたが、1982年にドーム家が経営から退いた際にオークションに出された。複数回行われたうち東京でも開催され、そのとき北澤氏が競り落とした。
展示会場に隣接して、展示即売会も開催している。博物館に飾るような稀少価値の高いものから、日常使いができるアイテムまで、約150点を用意。目玉はガレの「タツノオトシゴ文花器」で、世界に4点しか存在しない。価格は1億6500万円。「とはいえ、手の中で愛でられるような小さいものまで、幅広く取り揃えている。様々な方に楽しんで頂きたい」と三越日本橋本店美術営業部工芸バイヤーの平岡智氏は語る。
(都築いづみ)