2024年11月23日

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<ストレポ2月号掲載>ESG経営下の人財戦略

人的資本の確保のためには、ダイバーシティの推進や働き方改革が欠かせない(画像はイメージ)

「人的資本」が経営課題として重みを増している。上場企業にとって、もはや人的資本は非財務情報の中核に位置しており、人的資本経営に具体的に取り組み、的確な情報開示が求められる。言うまでもなく上場百貨店にとっても看過できない。サステナビリティ(ESG)経営を推進していくうえでも、従業員満足度の向上への取り組みが欠かせない。経営戦略と連動した人財(人材)戦略の具現化と、その情報の可視化並びに投資家などへの伝え方が、経営の重点課題と化している。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2023年2月号掲載の特集「ESG経営下の人財戦略」(全11ページ)の一部を抜粋・編集して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他2月号の内容はこちらからご確認いただけます)

重要度増す人的資本への投資 経営戦略と表裏一体、連動が不可欠

ここからは大手百貨店が、昨年11月から12月にかけて発行した「統合レポート(サステナビリティレポート)」から、サステナビリティ経営(ESG経営)に基づく、「人財」戦略の指針、ダイバーシティ推進や働き方改革などへの主な取り組みをピックアップしていく(J.フロントリテイリングは事例で詳細掲載)。

高島屋は、「ダイバーシティ推進」、「働き方改革の推進」、「施設・サービスのユニバーサル化」、「地域社会との共生(まちづくり)」、「社会貢献活動の推進」という5項目を「すべての人々が活躍できる社会づくり」に対するESG経営の重点課題に挙げている。

これら重点課題のうち「ダイバーシティ推進」については、20年7月にダイバーシティ推進方針を策定して、「多様な価値観や能力を尊重し、企業の成長に結び付ける取り組み」を進めている。具体的には「女性の活躍やジェンダー平等に向けた取り組み」をはじめ、17年に横浜店で試験導入した「日曜・祝日の社内臨時保育」(現在5店舗で実施)、「キャスト(契約社員)・クルー(パート社員)からの正社員登用制度」、「外国人の受け入れ」、「LGBTへの理解促進」、「障がい者雇用促進」などに留意している。

エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は、21年4月より、地域社会への貢献を柱にした3つの重点テーマと2つの基本テーマをグループの重要課題(マテリアリティ)と位置付けて、サステナビリティ経営を進めている。重点テーマは「地域の絆を深める」、「地域の子どもたちを育む」、「豊かな地域の自然を守り、引き継ぐ」で、そして2つの基本テーマとは「お客さま・ステークホルダーからの信頼に応える」と「従業員の働きがいを高める」であり、言うまでもなく重点テーマの具現化には欠かせない重要課題だ。

まず「お客さま・ステークホルダーからの信頼に応える」の具現化に向けては、H2Oグループ人権方針に基づいた「人権への取り組み」と「ダイバーシティ推進」の2軸で、安全と品質、脱炭素、資源循環や、ダイバーシティ推進などに取り組んでいる。ダイバーシティに関しては、女性活躍推進、障がい者雇用、ユニバーサルデザイン推進の観点から、各々中期的な取り組み目標を掲げている。

三越伊勢丹ホールディングスでは、「人・地域をつなぐ」、「持続可能な社会・時代をつなぐ」、「従業員満足度の向上」を重点取り組み(マテリアリティ)としてサステナビリティ経営の基本方針に定め、これらの土台に「グループガバナンス・コミュニケーション」を掲げている。

「従業員満足度の向上」に対しては、「ダイバーシティ&インクルージョンの推進、ライフワークバランスの実現、生涯CDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)の推進、コミュニケーション」を重要な要素に捉えている。「定期的な定量調査を活用して、『組織と個人の目指す姿』に向けた課題を明確にするとともに、経営と各部門と密なコミュニケーションによって一体感のある改善に向けた取り組みを行っている」という。

■J.フロント リテイリング

新たな価値を生み出す力に焦点、「人財力主義」の人事制度へ転換

J.フロントリテイリング(JFR)は、成果・貢献に直結する「職務遂行能力」と「新たな価値を生み出す力」を「人財価値」と定義したうえで、それまでの「職務型」から人財力に焦点を当てた「人財力型」への戦略転換による人的資本経営を推進している。

人財力主義の人事制度自体は20年から始動してきたが、百貨店業界は同年、コロナ禍で未曾有の業績悪化に陥った。このため休止状態を強いられ、コロナ禍が落ち着いてきた22年度からこの人事制度が本格的に動き出し、重点課題に取り組んできている。重点課題とは「内発的動機を高める仕組みづくり」、「グループ横断の人財配置・活躍」、「専門人材の育成・確保」、「未来志向・挑戦を促す組織風土の進化」の4項目である。

重点課題1つ目の内発的動機を高める仕組みづくりでは、グループ内外で社内公募の機会拡大と、キャリア開発やリカレント支援メニューの再構築に取り組んでいる。次いでグループ横断の人財配置・活躍に関しては、次世代の経営・リーダーの育成並びに女性活躍推進プロジェクトと、グループ人財交流・配置の拡大を進めている。

3つ目の専門人材の育成・確保については、デジタルコア人財の内部育成と各事業戦略に応じた専門人財の採用・育成に注力している。4つ目の未来志向・挑戦を促す組織風土の進化に向けては、「CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)」を通じた事業創出やオープンコミュニケーションに取り組んでいる。

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