2024年11月25日

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売場を3倍に広げた高島屋新宿店、“日本一”へ視界良好

新型コロナウイルス禍で熱を帯びるゴルフ市場に照準を合わせ、東京都新宿地区の百貨店が相次ぎ売場を新装した。長くゴルフ関連の売上げで他を圧倒してきた小田急百貨店新宿店が、本館の営業終了および新宿西口ハルクへの移転に伴い、その売場を大幅に縮小せざるを得ないという事態も、“改装ラッシュ”を促した。同地区には専門店や量販店が多い上、昨年4月22日には2層に亘る巨大な売場を擁する「アルペントーキョー」が開くなど、ゴルフ市場を巡る競合は激しいが、4百貨店(伊勢丹新宿店、小田急百貨店新宿店、京王百貨店新宿店、高島屋新宿店)の売上げは好調だ。品揃えを充実させるだけでなく、ファッション性やコンサルティングの追求など“百貨店ならでは”の強調が客足を呼び込む。4百貨店の改装の要諦と成果、今後の戦略を追った。

取り扱うクラブは以前の約10倍に当たる3000本

高島屋新宿店は昨年3~4月にかけて9階のゴルフ関連の売場を刷新し、面積を3倍強の約1000㎡に広げた。関東地区の百貨店では最大級だ。クラブをはじめとする用品とウエアの品揃えを大幅に増やすとともに、広々とした試打室やパターを試せる場所を設けるなど体験価値も高め、日本一の売上げを目指す。完成後の売上げは以前の約3.5倍で推移しており、視界は良好だ。

リニューアルでは、まず昨年3月16日に「有賀園ゴルフ THE CLUB」をオープン。従来は自主編集してきた用品をテナントに切り替えた。「売上げで新宿地区や関東、いや日本で1位になるためには、品揃えを大幅に増やすだけでなく、試打室やパターコーナーなど時間消費の受け皿も整えなければならず、自主編集では難しい」(京瀧文雄販売第2部ゴルフ・スポーツストアマーチャンダイザー)からだ。

そこで、有賀園ゴルフにアプローチ。交渉は合意に至り、有賀園ゴルフは高級感が漂う“百貨店仕様”のショップを出した。取り扱うクラブは以前の約10倍に当たる約3000本で、修理やカスタマイズにも対応。2カ所の試打室ではシミュレーションゴルフが可能で、弾道測定などのデータを通じて一人一人に最適なクラブを提案する。一般的には4~5mほどのパターコーナーも約40㎡と広い。

広々とした試打室ではシミュレーションゴルフが可能

パターコーナーは一般的な売場の10倍以上

続いて昨年4月20日にウエアの売場を増床。既存の「パーリーゲイツ」、「マスターバニーエディション」、「マンシングウェア」、「ランバン スポール」、「アダバット」、「アルチビオ」、「ブラック&ホワイト」に、「ムータ・マリン ゴルフ」、「SY32 by SWEET YEARS」、「ダンスウィズドラゴン」、「デサントゴルフ」、「ジュン アンド ロペ」、「ジャックバニー」、「サマンサタバサ UNDER25&NO.7」、「アンパスィ」を加え、ブランドの数は7から15に増やした。

さらに、昨年9月には8階に「CPG GOLF」、9階に「A.P.C.ゴルフ」を、同10月には9階に「ブリーフィング ゴルフ」を、それぞれ導入。8階にも売場を広げた。京瀧氏は「8階は他にもゴルフの用品やウエアを手掛けるブランドがあり、親和性が高い」と意図を説明する。

ウエアのブランドは、ターゲットやキーワードごとに配置。①マンシングウェアやランバン スポールなど50代後半以上の既存顧客に向けたブランド②ジャックバニーやサマンサタバサ UNDER25&NO.7など若年層向けのブランド③ムータ・マリン ゴルフやA.P.C.ゴルフなど“新宿地区初”や“国内初”のブランド――の3つに分類し、客が買い回りやすくした。

9階のエスカレーター付近には、ポップアップショップを開ける10㎡ほどのスペースも構築。「新宿地区初」、「百貨店初」といった切り口で定期的に新しいブランドを誘致し、新客の獲得や既存顧客の買上げ頻度の向上を狙う。

ポップアップショップを定期的に誘致するスペースも構える

大規模改装に踏み切った背景には、コロナ禍でのゴルフブームと環境の変化がある。「コロナ禍前のゴルフ市場は、いわゆる『2025年問題』でプレイヤーが減っていくと予想され、約10年前の価格破壊以降はゴルフ場の閉鎖も少なくないなど、良い話題が乏しかった。しかし、コロナ禍ではアウトドアや釣り、サイクリングと同様に市場が拡大。また、小田急新宿店が本館の営業を終了し、新宿西口ハルクに集約されれば、ゴルフの売場は縮小を余儀なくされる。これまでゴルフ関連の新しいブランドの新宿地区1号店は小田急新宿店、当店は2号店以降で、売上げの伸び悩みにもつながっていたが、逆転のチャンス」(京瀧氏)

実際、大規模改装の効果はてき面に表れた。カードのデータによれば、買上げ客は50代男性が従前の約2.5倍に、20代が3倍、30代が2倍に増加。A.P.Cゴルフでは、大学生の女性が20万円以上分の商品を買って帰ったという。京瀧氏は「ファッション性が高いブランドが多く、ゴルフをやっていなくても、普段着や違うスポーツで着る用に購入するお客様もいる。1件につき25~30万円ほどのコンペ需要も取り込めている」と手応えを実感する。

結果、売上げは従前の約3.5倍で推移。面積の増加分を上回る。ブランドではパーリーゲイツ、ブリーフィングゴルフ、ムータ・マリン ゴルフが売れ筋だ。

好調な「A.P.C.ゴルフ」

「ゴルフがライフスタイルとして定着するように、売場として協力していきたい」と京瀧氏。昨年11月30日~12月25日には「ゴルフフェスティバル」と題して、20人を超えるプロゴルファーを招いてトークショーやミニレッスンを行ったが、用品やウエアを買わなくても定期的に立ち寄りたくなる売場を追求し、日本一へと着実に前進する。

(野間智朗)