2024年11月23日

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<ストレポ12月号掲載>大手百貨店サステナビリティ・アクション2022

百貨店が主導するサステナビリティ活動が広がりつつある(画像はイメージ)

コロナ禍を通じて、「百貨店再創造」への構造改革と共に大きく進展してきたのが、百貨店グループ各社各様のESG経営指針に基づくサステナビリティ活動だ。21年から22年にかけて、様々な取り組みが活発化してきた。コロナ禍前から着々と進めてきた既存の企画やフェア・キャンペーンのブラッシュアップに加え、新しい企画やアイデアが次々に具現化され、その活動領域やコンテンツは多岐に亘ってきている。そこで今号では、大手百貨店の2022年のサステナビリティ活動の主なトピックス(事例)を取り挙げた。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2022年12月号掲載の特集「大手百貨店2022 サステナビリティ・アクション」(全17ページ)の一部を抜粋・編集して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他12月号の内容はこちらからご確認いただけます)

■H2Oリテイリング

<「GREENable」活動> 人と自然が共生する暮らしを広げる

H2Oグループの阪急阪神百貨店は、22年3月末に環境省と「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を締結した。百貨店業界では初めてのこと。20年から岡山県真庭市と協業で進めてきた「大山隠岐国立公園(蒜山高原)」をブランド化する取り組み「GREENable」が評価された。「これが大きな転機になり、GREENableの活動が広がりつつある」(阪急阪神百貨店阪急本店グリーンエイジ開発部地域協業パートナー開発担当前田陽一郎氏)。

阪急阪神百貨店は、国立公園オフィシャルパートナーシップに基づき「真庭市が設立した観光文化発信拠点『GREENable HIRUZEN(ひるぜん)』における各種企業と連携した国立公園における商品、サービス、体験の開発支援を通じた誘客促進」に取り組むとともに、「阪急うめだ本店において大山隠岐国立公園の魅力をGREENableの体験メニューなどを通して提案することで、国立公園の認知拡大、理解促進、誘客促進を行い、将来的には他の国立公園が所在する地方の関係自治体とも連携して取り組みの拡大を目指す」という活動を進めている。

<「森の循環促進」への貢献> 豊かな地域の自然を守り、引き継ぐ

H2Oリテイリングが22年度から本格的に取り組んでいるのが、グループ発祥の地である大阪の「森の循環促進」に貢献するサステナビリティ活動だ。サステナビリティ経営方針で掲げている重点テーマの1つ「豊かな『地域の自然』を守り、引き継ぐ」を具現化している象徴的な活動であり、同社およびグループ各社が連携して、「地域の生活者が自然環境に興味を持ち、身近に感じてもらえる取り組み」の一環だ。

森の循環に貢献するモノづくり・仕組みづくりは、山主、伐採事業者、森林組合、製材所、加工事業者などサプライチェーン全体に関わってくる。「植樹」から「育成(間伐)」、「収穫(主伐)」、「(地域で)使用・製品」までの循環の創出に貢献していくことだ。

この好循環を創出していくために小売グループである同社グループが貢献できる役割は、「需要の創出(地域で使用)と関係人口の拡大(認知度の向上)」(エイチ・ツー・オー リテイリング経営企画室サステナビリティ推進部西田哲也部長)。需要の創出とは、店舗の内装、催事で使用する什器、売場開発などで木材を使用する取り組みと、間伐材を使用した文具や雑貨などの商品開発や販売である。関係人口の拡大とは、大型イベントやワークショップ、体験学習会などの実施と、森林保全ボランティアといった、いわば生活者との接点を拡大していくコト提案やコミュニケーション活動である。

■高島屋

<廃棄段ボール削減に着手> 新しいスキームで「通い箱」を活用

「脱炭素化や廃棄物削減の課題に対して現実的にできるところから着手した」(ESG推進室桂由里子室長)のが、店舗から廃棄される段ボールの削減だ。高島屋の店舗から排出される廃棄物のうち、約3割が段ボールごみで占められ、この大半が納品時に使用されていた段ボール箱だった。廃棄段ボールを削減できれば環境保全につながる。同社のグループESG経営の重点課題の1つである「脱炭素化推進」活動にもなる。そこで同社は、百貨店の納品代行を手掛けている浪速運送㈱とエコビズ㈱と協業して、繰り返し使用できる「通い箱」を活用して廃棄段ボールを削減する取り組みを開始した。

高島屋は2社と協業して、廃棄段ボール削減のスキームを構築した。通い箱はエコビズ社が開発する。この「エコビズボックス」を浪速運送が購入して、保管・管理する。浪速運送はエコビズボックスを取引先に貸し出して、エコビズボックスを使用した商品を高島屋の店舗に配送し、納品後のボックス回収も行う。高島屋は取引先にエコビズボックスの利用を推奨・紹介し、納品後の館内におけるボックス回収もサポートする。こうした通い箱を活用したスキームの構築による廃棄段ボール削減は、百貨店業界で初めての取り組みだという。

<中元・歳暮、配送ピーク分散化> 宅配の安定化や働き方改革の一助に

高島屋が22年の中元ギフト商戦から本格的に取り組んだのが、「配送ピークの分散化」だ。21年にも一部でトライアルしていたが、22年はポスターも作成して、ギフトセンターや館内、オンラインストアで告知活動を強化。ギフトセンターでの接客時に顧客に協力を呼びかけた。22年歳暮ギフトでも配送ピーク分散化に取り組んでいる。

昨今、慢性的な人手不足や宅配需要の増加などによる物流問題が深刻化してきている。これに働き方改革法に伴う「時間外労働時間の上限規制」などが24年4月から自動車運転の業務にも適用される「2024年問題」も迫ってきている。百貨店業界にとっても看過できない問題であり、特に中元・歳暮ギフトシーズンはこうした問題に直面する。

高島屋が中元ギフト期から本格的に取り組んだ「配送ピークの分散化」は、物流問題の一助につながる活動だ。この課題に対する声は、中元・歳暮ギフトの配送作業に携わる現場から上がってきた。中元ギフトの配送が集中するのは7月1日~5日まで。歳暮ギフトも12月上旬の5日間だ。この時期は配送業者もトラックの便や人手を増やして対応し、ドライバーの多くが残業を余儀なくされる。企業にとってはコスト負担が大きくなるだけでなく、期間中だけトラックの便が増えるとCO2排出といった環境問題にも関わってくる。

■大丸松坂屋百貨店

<脱炭素社会実現への説明会> サプライチェーンとの協働の第一歩

JFRの中核事業である大丸松坂屋百貨店では、22年4月に都内ホテルで、主要な取引先を対象に「脱炭素社会の実現に向けた取り組み」に関する説明会を開いた。会場には250社超、約300名が集まった。そこではJFRの好本達也社長、大丸松坂屋の澤田太郎社長と営業本部長の加藤俊樹取締役常務執行役員の3名が方針や取り組みの方向性、具体的な事例などを説明した。

説明会は、大丸松坂屋の総売上高の約8割を占める約500社に呼びかけ、半数超の企業が参画した。会場では、まず好本社長が「JFRグループのサステナブルな社会実現に向けた考え方について」述べた。JFRが目指すサステナビリティ経営とは、社是並びに、「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する」というグループビジョンに基づき、「マテリアリティ(環境・社会のための重点課題)」への取り組みを通じて、「社会的価値と経済的価値の両立を図っていく経営」と定めている。

JFRが掲げているマテリアリティは以下の7項目で、「脱炭素社会の実現」、「サーキュラー・エコノミーの推進」、「サプライチェーン全体のマネジメント」、「地域社会との共生」、「ワーク・ライフ・インテグレーションの実現」、「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」、「お客様の健康・安全・安心なくらしの実現」である。これらへの取り組みが21年度からの中期経営計画で掲げた「Well-Being Life」の実現につながり、これをサステナビリティ視点で再構築したグループビジョンのゴールと位置付けている。

<クリスマスツリーによる発信> 海洋ごみ、再生木綿紙を装飾に活用

百貨店にとって館内が賑わう有数の時期であるクリスマス商戦で、大丸福岡天神店、松坂屋名古屋店、大丸札幌店、松坂屋静岡店、大丸下関店は、クリスマス商戦のシンボルとなるツリーで、環境保全などサステナビリティ活動を表現している。

大丸福岡天神店では、22年11月12日、エルガーラ・パサージュ広場に高さ約12メートルのクリスマスツリーが姿を現し、午後6時に点灯された。一般的なツリーとは一線を画す。オーナメントは対馬市と連携して、海洋ごみを活用して制作したものだ。

■そごう・西武

<地域との連携に広がり> 海洋ごみ、食品ロス啓蒙、食農体験も

そごう・西武の各店で繰り広げている環境活動で、行政や企業、団体など地域との連携を深めながら「サステナブルな暮らしの提案」に広がりを見せているのがそごう広島店だ。この象徴的な企画が、3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進月間である10月に全館規模で開催した「未来の地球のために一人ひとりができる事を伝えるサステナブルウィークス」である(22年10月4日~24日)。

今回のサステナブルウィークスでは様々な取引先・団体と協業して、暮らしの中で取り入れやすい地球環境に配慮した商品やサービスなどを全館の随所で提案したが、特筆したいのが海洋プラスチック対策に係わる官民連携プラットフォーム「GREEN SEA瀬戸内ひろしま・プラットフォーム」(略称GSHIPS〈ジーシップ〉)の参画企業との連携企画である。今回はジーシップ参画企業・団体のうち12と連動して、その活動を紹介した。

<Z世代との機会創出に的> 服の循環型サービスやコスメ回収で

一方、百貨店の次世代顧客であるZ世代を意識した新しい取り組みが相次いだ点も、22年のサステナブル活動の特徴だ。象徴的活動の1つが、22年1月に西武渋谷店(B館4階イベントスペース)で期間限定開催(18日~31日)した服の循環型サービス「CLOSET to CLOSET」のポップアップショップの展開である。

服を売らないアパレルブランド「energy closet」によるポップアップショップで、Z世代の三和沙友里氏が代表を務め、2019年に立ち上げたブランド。「着ない服を誰かに届ける体験、新しいファッションへの挑戦の機会」の場として、定期的に服の循環をテーマにしたポップアップショップを手掛けている。同店での展開は百貨店で初めてだった。

事前に入場チケット(3000円、完全予約制)を購入し、当日、不要な服を3着持ってくると、会場に並んでいる古着から気に入った3着を選び、持ち帰ることができる。婦人服や紳士服など約200着を揃えた。自ずと展開アイテムは順次入れ替わる。西武渋谷店では事前にそごう・西武の社員や同店で働く従業員から事前に集めた服(約50着)も展開。それぞれ従業員の服に対する想いやお薦めのコーディネートなどを記入したコメントカードを付けて展示し、服選びの楽しさに彩りを添えた。

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