百貨店の構造改革を完遂し、飛躍への土台を築く 高島屋 村田善郎社長に聞く
高島屋にとって2023年は3カ年計画の最終年度にあたり、「高島屋ブランド」価値の源泉である国内百貨店事業の構造改革を完遂する年だ。構造改革は営業力の強化とコスト構造改革の両輪で、大型店から着手している。その成果が22年度の業績に反映されてきた。22年度(23年2月期)の第2四半期は国内百貨店が大幅な増収増益を遂げ、連結通期業績計画を上方修正した。計画を達成できれば、最終年度の目標に掲げる連結営業利益300億円も射程圏内に入ってくる。グループ総合戦略「まちづくり」を軸に、百貨店の収益構造の変革とグループ利益の最大化に取り組んでいる高島屋の村田善郎社長に、3カ年計画の進捗と23年度の重点戦略や優先課題について聞いた。
内製化によって本質的サービスのあり方、従業員をどう守るべきかを再認識できました
――22年度(23年2月期)は国内百貨店事業の第2四半期業績が総額営業収益、営業利益共に期初計画を上回り、連結業績の通期予想を上方修正されました。国内百貨店が計画を超過した要因は何でしょうか。
村田 行動制限がなくなり外出機会が増えてくると、それに関連する様々な消費が生まれてきます。消費マインドが改善されたうえ、百貨店の店舗が通常営業に戻りましたし、大口受注など特殊要因もありました。また他の百貨店も同様かと思いますが、特選ブランドや時計・宝飾、美術など、国内の富裕層を中心に高額消費が好調でした。これにコロナ禍で伸び悩んでいたアパレルやファッション雑貨関連も少しずつ動き出してきました。
顧客層では、30代、40代の若い層のお客様が増えてきており、特に高額消費で目立っています。特選ブランド、時計やアートなど、中長期視点で資産価値の高いものに対する関心が高いようです。それとZ世代のお客様の利用も増えています。商品の歴史や背景、ストーリーなど、そうした説明を受けながら購入できる百貨店の接客販売が評価されています。それに1人の大人として接客が受けられる特別な場所として認識されているかもしれません。横浜店の化粧品売場などではZ世代の若いお客様をよく見かけますし、XやY世代に比べて百貨店に対する敷居の高さを感じていないようです。
今後は世界的に見てもZ世代が(消費の)大きな塊になってきますので、こうしたお客様が百貨店を利用されている事実は今後の百貨店事業に期待を持つことができる消費動向ですし、Z世代と共に百貨店も進化していく必要があろうかと思います。もちろん今の主力のお客様を大切にしてそのニーズの変化に対応していかなければなりませんが、百貨店は次世代顧客の開拓にも取り組んでいかなければならない過渡期を迎えていると思います。
――21年度からの3カ年計画では、「高島屋ブランド」価値の源泉であり、中核事業である国内百貨店事業の構造改革に取り組まれています。その中心となる大型5店舗(大阪店、京都店、日本橋店、新宿店、横浜店)では、まず22年3月から先行して大阪店の構造改革に着手され、半年後の9月から他の大型4店舗に広げられています。その進捗度はいかがでしょうか。
村田 この(22年度)上期に営業利益が期初計画を上回り、通期予想を上方修正できたのも、構造改革の成果が少しずつ表れてきたからです。3カ年計画では高島屋グループの総合戦略「まちづくり」を推進し、持続的成長に向けて百貨店の収益構造の変革とグループ利益の最大化に取り組んでいます。特に、中核事業の国内百貨店では安定的に利益を創出できる経営体制の整備を最優先課題に、収益源である大型店の構造改革を進めています。安定した利益を創出できる新しい店舗運営モデルの体制づくりを目指しています。
当社の構造改革は、コスト構造改革と、営業力強化の両面で進めていますが、コスト構造改革が先行して効果が表れてきています。コスト構造改革では、宣伝費も改善されていますが、最も大きいのが少人数店舗運営体制の実現で捻出した要員による外部委託業務の内製化です。
――大型店の構造改革によって、3カ年計画最終年度の23年度には、21年10月の要員数に対し約2割減の6900名体制を想定されていますが、具体的にはどのような業務効率化でしょうか。
村田 基本的には、中元・歳暮など繁忙期以外の平常月の常備(売場)を運営できる体制を店舗の基本要員とし、繁忙期には店舗を跨いで運営をサポートする要員を配置していく体制に切り替えています。基本要員にはこれまで外部委託していたレジ業務なども含まれています。このサポート要員は、春の組織改正で本社に新設した「サポートセンター」に所属します。関西サポートセンターは大阪店と京都店を、関東サポートセンターは日本橋店、新宿店、横浜店の店舗運営をサポートしています。
このほか、高島屋通信販売のオペレーター業務など、様々な業務も内製化しています。
――業務の効率化に伴い店舗の運営要員が減るわけですが、運営に支障をきたしませんか。
村田 お客様にご不便をおかけしないことが前提になりますので、そのためにはどうしたら良いのか、現場が真剣に考え実行してくれています。不慣れな業務を担ったり、業務負担が増えたりするなど、ある程度の不満も出てくるだろうと想定していましたが、コロナ禍で百貨店事業が危機的な状況に陥っていることを共有していましたので、何が何でも構造改革をやり切らなければならないという意識が高く、ポジティブに取り組んでくれています。
マルチタスクの究極とも言えるサポート要員からは、複数店舗の勤務を通じて、他店での好事例を別の店舗に広げるなど、様々な改善提案が挙がってきて、業務オペレーションが簡素化されてきましたし、(構造改革前に比べ)少ない要員でもうまく回り出しています。
それと、内製化したことによって、改めて百貨店に求められているサービスレベルを確認できたことも、構造改革効果の1つです。従来は外部委託していた業務の実態を私どもがきちんと理解できていないこともありました。例えばオペレーター業務ではお客様からどのようなことを言われているのか、もちろん委託企業から報告が上がってきていましたが、社員がお客様と直接会話することで生の実態を把握できる。体感しなければわからないカスタマーハラスメントもあるわけです。百貨店の本質的なサービスがどうあるべきか、またどう従業員を守るべきかを再認識する機会に恵まれました。
今後、総要員数が徐々に減ってきますので、内製化したオペレーターやレジ業務などを再び外部委託しなければならないケースが想定されます。その時、今、学習している百貨店に求められるサービスクオリティーを具体的に示すことができるようになります。
組織の階層をフラット化して、お客様の声を品揃えに迅速に反映していきます
――構造改革のもう一方の営業力強化に関しては、効果が表れてきていますか。
村田 コスト構造改革に比べ、営業力強化の成果発揮には少し時間がかかります。営業力強化に向けた組織の改革から着手していますので、それが品揃えなどに本格的に反映されてくるのは、23年春夏シーズンからになると思います。
大型店の営業組織改革では、組織の階層をフラット化しました。これまでの店長、副店長、部長、副部長、マネージャー、セールスマネージャーの6層から、店長、副店長、部長、マネージャーの4層にしました。会議の数や資料づくりの時間を削減する狙いもありますが、店長や部長がより現場に近いところで営業展開を考え、店頭のお客様の声を品揃えに迅速に反映したり、商品開発にも生かしていくためです。店の仕入れの役割を担っていた副部長のポストがなくなりましたが、お客様の声を品揃えに生かし、売場横断的にMDを構築したり、商品在庫のチェックなどを担当するストアマーチャンダイザーを配置しました。
それと副店長職もこれまでの店内営業担当、外商担当、総務担当の3名体制から、営業担当と総務担当に集約しました。外商部を営業担当副店長の直轄にすることによって、店頭との連携を強めて外商活動を強化していく狙いもあります。
また、営業力強化の一環として、本社のMD本部では高島屋の自主販売売場を担当するバイヤーを増員しています。自主販売売場は百貨店として強化していくべきコンテンツですので、特に若手を増やしています。この秋からは海外のコレクションにもできるだけ若手を行かせて経験を積ませるようにしています。
取引先との協業による商品開発にも取り組んでいますが、これも本格的な拡大は23年春夏シーズンからになるでしょう。
――大型5店舗で取り組まれている百貨店の構造改革は、郊外や地方都市の店舗にも広げていかれるのでしょうか。
村田 23年春から玉川店と柏店で取り組んでいきます。フラット化した営業組織にして、要員体制も効率化していきますが、ただ地方郊外店は既にローコストオペレーションで運営していますし、構造改革に率先して取り組んでいる店舗もあります。構造改革は全店で取り組んでいきますが、それぞれ個別店舗の実態に応じて進めていきます。
次世代に向けた筋肉質な百貨店の店舗運営モデルを完成させなければなりません
――さて、23年度は現3カ年計画の最終年度です。最優先の経営課題は何でしょうか。
村田 国内百貨店事業の構造改革を完遂させていくことが最大のテーマになります。月並みな言い方ですが、次世代に向けた筋肉質な百貨店の新たな店舗運営モデルを完成させていかなければなりません。ただ、大型店の構造改革は、修正しながら進めているのが現状です。法令遵守やお客様に提供する百貨店クオリティーの接客サービスなどが劣化するような構造改革であってはなりませんので、そこは細心の注意を払いながら、取り組んでいかなければなりません。
23年度は新しい店舗運営モデルの構築に向けて基盤を整備していく過渡期になろうかと思いますし、24年度以降の次期中期計画の下準備をする年でもあります。
それと創業200周年を迎える2031年を見据えた高島屋グループのあるべき姿を示すプロジェクトを22年の春に結成していますので、高島屋グループの将来的な姿や事業ポートフォリオなどを創り上げていく作業も進めていきます。
――3カ年計画では23年度に連結営業利益で300億円を目標に掲げておられます。22年度に約255億円を予想されていますので、22年度の回復基調が続くと達成射程に入っているようですが。
村田 決して楽観できる環境ではないと思います。世界経済の失速感、エネルギー価格の上昇、リベンジ消費の反動減など、消費環境の懸念材料は複数あり、先行きは依然不透明です。経営として何としてでも達成していく考えですが、その道のりは険しいものとなるでしょう。
――百貨店の構造改革では営業力強化の成果が問われそうです。MD面では衣料品と食料品の再構築を課題に挙げられていますが。
村田 衣料品の再構築では、主要取引先10数社と協業して、川上に遡って商品開発に取り組んでいます。これらは23年春から本格的に店頭に並んでくる予定です。
また、新しい取引先の開拓も進んでいます。例えば高崎高島屋が4階紳士服フロアで展開している「メゾン・ド・エフ」(20年3月新設)はファクトリーブランドの商品を揃え、独自に工場と協業した企画商品も販売しています。こうした新規取引先による店舗独自の品揃えも少しずつ広がってきています。
食料品では自主編集売場である「味百選」と「銘菓百選」の再構築に、9月より日本橋店をプロトタイプとして取り組み始めました。「味百選」や「銘菓百選」は、地域特性に応じた独自の品揃えが魅力ですが、店舗オペレーションや商品管理は店舗ごとに異なる運営となっていました。それで今回、各店共通の「セントラルPLU(プライス・ルックアップ)」と、それぞれの店舗独自の「ローカルPLU」を分けて、全てPLU管理していく新しい運営モデルをスタートさせています。
自主編集売場は魅力ある品揃え・特徴化がその売場の存在意義ですが、一方でオペレーションの標準化と省人化による効率的な運営モデルに切り替えていかなければ持続的な利益を確保できません。この運営モデルが構築できれば、将来的に高島屋以外の商業施設への出店も可能になってきます。
――国内百貨店で23年のトピックスは秋に京都店が増床し、その区画に専門店ゾーンを構築されます。百貨店と専門店で構成される商業施設「京都高島屋S.C.」に生まれ変わります。どのような商業施設になるのでしょうか。
村田 新設する専門店ゾーン(地下1階、地上7階、営業面積約1万3000平米、百貨店との合計約6万5000平米)は、グループの東神開発がテナントリーシングと管理・運営を担います。
「アート&カルチャーを発信する館」として、エンターテインメント、現代アート、サブカルチャーのトップランナーが集う館になります。主要テナントの1つとして、高島屋、東神開発とカルチュア・コンビニエンス・クラブによる合弁会社「TTC LIFESTYLE」(21年10月設立)が手掛ける新しい店舗の1号店、「京都 蔦屋書店」を導入します。ここでは1200年の歴史のある古都で、アートと文化の伝統から最先端まで幅広く提案していきます。
また下層階(地下1階~地上4階)では、フロアごとに3人の新進気鋭の建築家がそれぞれ異色のコンセプトで環境を設計し、さらにアドバイザーも起用して、様々な人々や文化、物事が混ざり合う出会いと発見がある空間を創出します。
お客様に楽しく、気軽に利用していただける施設を創り上げ、今まで高島屋を利用されていなかった新しいお客様も取り込みたいと思います。そのために百貨店と、新しい機能やサービスを加えた専門店ゾーン全体で、街のアンカーとして「京都で一番の待ち合わせ場所」を目指していきます。国際都市でもある京都で、グループの総合力を発揮してチャレンジングな高島屋ならではの「まちづくり戦略」を進めていきます。
引き続き「まちづくり戦略」に基づき街の魅力化と地域活性化に貢献していきます
――「京都高島屋S.C.」もその一環でしょうが、国内外で商業開発業の成長戦略を進められています。国内における優先的な課題は何でしょうか。
村田 つくばエクスプレス・東武アーバンパークライン「流山おおたかの森駅」の周辺エリアで東神開発が手掛けている大規模な開発は、22年夏に一旦完成を迎え、全10館体制となりました。流山は子育て世代や次世代の富裕層が多く住まれており、期待できるエリアです。今後も「まちづくり戦略」に基づいて行政とも連携しながら、引き続き街の魅力を高め、地域の活性化に貢献していきたいと考えています。
一方で、新規開発や既存物件の取得によって、オフィスや住宅など非商業アセットの拡大も進めていきます。商業施設から非商業施設へ、物販から非物販へと移行することで、東神開発の事業ポートフォリオを再構築して、利益基盤の安定化を図っていきます。
――3カ年計画では商業開発業に次ぐ第3の柱と位置付ける、金融業の拡大も進められています。23年度の営業利益目標は55億円で、中長期視点では100億円規模を掲げられています。
村田 カード事業が営業利益の約9割を占めていますので、新規会員の獲得や手数料収入を増やしていくための施策に継続して取り組んでいきます。一方で、ファイナンシャルカウンター事業や融資事業などで新しい商品開発やサービスを導入してお客様を増やしていく必要があります。
6月から開始した新しい金融サービス 「高島屋ネオバンク」はその1つです。住信SBIネット銀行が提供する「NEOBANKⓇ」を活用したサービスで、銀行機能と高島屋での買い物の利便性を高める機能を併せ持っています(高島屋ネオバンクアプリをダウンロードして口座を開設すると、住信SBIネット銀行が提供するサービス利用が可能)。また毎月一定額を12カ月積み立てると1カ月分のボーナスが付く金額の買い物ができる「スゴ積み」もアプリに搭載しています。早いお客様では、12カ月の積み立てが満期になる7月以降、高島屋の店舗や高島屋オンラインストアで使用できるようになります。
「高島屋ネオバンク」には、今後も買い物の利便性を高める機能や銀行サービスを順次追加していく予定です。新しいお客様の開拓と共に、お客様のライフタイムバリューの最大化につながる金融サービスになると期待しています。
23年は3カ年計画における国内百貨店事業の再生が最も重要な課題ですが、同時に収益基盤の安定化に向けて高島屋グループ全体の事業ポートフォリオを再構築し、24年度以降のさらなる飛躍に向けた土台を築いて参ります。
(聞き手:羽根浩之)