設立80周年を機に、成長軌道に転換へ 三陽商会 大江社長インタビュー
三陽商会が2年間の再生プランを経て、2022年度(23年2月期)から始動した中期経営計画が順調な軌道を描いている。これまでの「守勢」から「攻勢」に転じて成長軌道に乗せていくための基盤が整備されつつある。アッパーミドル市場で確固たるプレゼンスを構築し、トップランナーを目指していくための4つの成長戦略(ブランド戦略、チャネル戦略、マーケティング戦略、EC戦略)が業績に結び付いてきた。中期経営計画の2年目となる23年度は設立80周年を迎える節目の年でもあり、構造改革を継続しながらも攻勢を加速していく重要な年だ。優先的な戦略と成長シナリオを大江伸治社長に聞いた。
正念場の秋冬商戦、黒字化に目途
――中期3カ年計画の初年度である22年度(23年2月期)は第2四半期(3~8月)業績が期初計画を上回り、通期業績見通しを上方修正されました。第3四半期以降の下期(9月~23年2月)の商況はいかがでしょうか。
大江 第2四半期は計画を若干上回ることができ、(黒字化への)正念場と見ていた秋冬商戦を迎えましたが、第3四半期(9~11月)については、上期業績の公表時に上方修正していた通期業績計画を上回る進捗になっており、さらに上方修正をしております。9月の売上高は前年比128%、10月が123%となり、9月は計画比を若干上回った程度でしたが、10月は計画比で2桁伸びました。11月は104%でスローダウンしましたが、想定内の伸びでした。売上げが伸びた結果、上期は3億円超の営業損失でしたが、第3四半期累計で営業黒字に転じましたので、通期黒字化の目途が立ってきました。
――売上高が計画値を上回り、再生プランに基づき削減されてきた固定費のコントロールがうまく稼働していることが大きいのでしょうか。
大江 今期、最も力を入れてきた粗利率改善のための施策が進んできたことが大きい。引き続き強化してきた調達原価率の低減やインベントリーコントロールによる在庫削減が進みましたが、最も大きいのはプロパー販売比率の改善です。上期のプロパー販売比率は前上期よりも8.4ポイント増の66%まで改善し、下期はさらに上がっています。9月が77%、10月が83%、11月は84%で、11月までの9カ月累計で73%弱まで改善されています。通期で目指している70%超えが達成できそうです。
もちろん前期から継続している在庫削減も徹底してきましたので、上期の総在庫は(前期8月末より)10億円減の77億円まで削減され、このうち旧品と言われる繰越在庫が16億円も減少し、中身の改善が大幅に進んでいます。こうしたインベントリーコントロールの強化とプロパー販売比率の向上策は表裏一体ですので、共に進展してきています。
――インベントリーコントロールでは、期初仕入れ量を80%に抑えて、残り20%を期中に投入するプール制による過剰仕入の抑制、品番SKUの削減にも取り組まれています。その効果も表れているのでしょうか。
大江 過剰仕入の抑制と品番SKUの削減は、トップダウンで徹底して取り組んできたことです。これが想定通りに進展してきました。品番SKUを絞り込んで、限られた商材を売り切って数字(売上げ)を積み上げていく商売の仕方を、社員一人一人が自ら成果を体験して、このやり方が正しかったことを確認できたのではないでしょうか。この自信が深まってくると、好循環が生まれてきます。
品番SKUを絞り込むことで、1点1点の商材に対するこだわりや思い入れが格段に違ってきます。この結果、商品1点1点がブラッシュアップされ、全体的にラインナップも改善されてきます。いわゆる商品力が上がってくるのです。プロパー販売比率の改善は商品力が上がってきた成果でもあると判断しています。品番SKUを絞り込んだことで、三陽商会が本来、持っていたエクスパティーズが引き出されてきたのではないかと思っています。
それと、黒字基調に変わってきたのは、事業構造改革を成し遂げるための重点施策に社員一丸となって取り組んできた結果です。何よりも社員の意識が変わりモチベーションも上がってきました。重点施策を社員一人一人が自分の目標として設定し、自律的にPDCAを回して結果を摘み取ることができ、それぞれ自身の達成感を得られ、自信もついてきたのではないかと思っています。
全社横断プロジェクトにヒット品番
――全社横断プロジェクト「商品開発委員会」による商品をこの秋冬シーズンから本格展開され、全44型(9~11月)を投入されましたが、商品力向上には横断プロジェクトの商品開発効果も寄与しているのでしょうか。
大江 ヒット品番が相次いで生まれ、総じて順調です。例えば、先進的な機能素材を用いたコートやアウターアイテムがヒットしています。アウトドア製品を中心に多く使用されている「パーテックス シールドエア」はハイレベルな通気性を発揮する高機能素材で、「マッキントッシュ ロンドン」、「ポール・スチュアート」、「サンヨーコート」のコートなど4型展開していますが、中にはブランドの売上げトップ3品番に入っている商材もあります。既に追加生産して12月に期中投入しました。
もう1つ、「光電子」素材も支持されています。これは着る人の体温によって生み出される自然なあたたかさが持続する素材で、8ブランドで20型の商材を展開しました。既に標準装備の素材になってきています。こうした高機能素材はファッションブランドでもキーファンクションになり、お客様から支持されると思っていましたが、その通りになっています。
商品開発委員会は、予想以上の成果につながっていると感じています。三陽商会の本来の強みである技術力や開発力を最大限に生かし、市場に支持される価値のある商品をつくることを目的に、関係部門が結集して開発を進めていく全社横断プロジェクトとして発足(21年5月)しましたが、商品開発や素材などの情報を共有できるようになり、ブランド間で刺激を受けたり、素材ソーシングの選択肢が広がるなど、様々な効果が生まれ、実際、ヒット商材も生まれています。ここでも社員の意識が変わり、達成感を得られてきたことが大きいと思います。
基幹事業の着実な成長を具現化
――23年度は中期経営計画の2年目になりますが、どのような位置付けでしょうか。
大江 最終年度(24年度)の目標達成(売上高625億円、営業利益率7%)に向けたトランジションの年であり、きちんとしたステップを踏んでいく非常に重要な年になります。事業構造改革が進み、基盤が整備されてきましたので、売上げをストレッチさせることによって、成長軌道をつくっていく年にしたいと思っています。
ただ、成長戦略のための奇手奇策はありません。基本的にはオーガニックグロース(再生プランで実行した構造改革施策継続によるKPI改善)に基づき既存事業を成長させていかなければなりません。実際に実行できる施策をいかにして積み上げていけるかです。
既存事業の中でも、「マッキントッシュ ロンドン」、「マッキントッシュ フィロソフィー」、「エポカ/エポカ ウォモ」、「ポール・スチュアート」、「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ」の5つの基幹事業に、婦人服4ブランド(「アマカ」、「トゥー ビー シック」、「トランスワーク」、「エヴェックス バイ クリツィア」)を加えた6つの基幹事業を着実に成長させていけるか。50億から100億円弱の事業規模ですが、各々10億~20億円をストレッチさせていく計画と、その戦術を積み上げている段階です。
それと、都市型商業施設やショッピングセンターなどの新販路を開拓していくために「シービー・クレストブリッジ」と「マッキントッシュ フィロソフィー」をディフュージョン展開していますが、23年以降も出店を進め、ミドル市場で1つの塊をつくっていきたいと考えています。
改革進み、百貨店への再出店も検討
――チャネル戦略の中で、売上高構成比で66%を占める主力販路の百貨店に関してはいかがでしょうか。
大江 構造改革に伴い不採算だった約250店舗を閉店して、現在約800店舗体制になっていますが、これらの既存店の経営効率は着実に改善されています。
私どもの店舗の損益分岐点が下がっていますし、百貨店の方も構造改革に取り組んでおられます。撤退した時に不採算だった店舗も、双方の改革によってフェアなプロフィットシェアができる環境に改善されていることも考えられます。こうした可能性がある百貨店については再出店を検討したいと考えています。
――上期はリアル店舗に比べEC・通販の売上げの伸びが鈍化しましたが、ECも重点戦略に位置付けられています。24年度の売上高目標98億円(21年度実績80億円)の達成に向けて、どのような施策を進めていかれるのでしょうか。
大江 私どもはゼネラルストアである「サンヨー・アイストア」と、ブランドごとのスペシャリティサイトを運営していますが、このECサイトとブランドサイトを統合したプラットフォームに刷新して、メディアコマース化を目指していきます。計画では23年下期にリリースする予定です。
ただ、ECに関しては独立した事業として成長させていく考え方ではなく、あくまでリアル店舗の補完ツールという位置付けです。お客様がリアルとECをうまく使い分けして購入していただくことで、(売上げ)全体を底上げできるようなECプラットフォームを構築していきたいと考えています。
リアルとECの相互補完体制を確立して、クロスユーザーをいかに増やしていけるか。私どもは高付加価値商品を提供していますので、リアル店舗に来店されてブランドの世界観を感じながら、商品を触って、試着して、販売員の接客を受けて初めて商品価値を理解していただけます。このリアル店舗での体験価値を提供していくことが私どもの役割だと思います。
原点回帰、80周年記念商品を開発
――ECプラットフォームの刷新はブランド戦略の一環であり、マーケティング戦略の重点施策でもあります。EC強化と並び、CRMや顧客とのタッチポイントの強化を掲げられていますが、23年度の課題は何でしょうか。
大江 顧客起点のマーケティングへの転換を図るために、CRMや顧客とのタッチポイント、ECの強化をそれぞれ進めているわけですが、KPIの1つに、リアルとECの両方を利用されているお客様のクロスユーザー率があります。それが2割を超えてきました。将来的には4~5割まで高めていきたいと考えています。
また、サンヨーメンバーシップ会員数は130万人を超えてきました。SNSやアプリの活用によって双方向のコミュニケーションも進んできています。結果的にメンバーシップ会員の売上高比率が50%を超えてきました。顧客比率が上がってきたのは大きな成果ですが、一方でエントリーユーザーの開拓が進んでいない側面もあります。トップラインを上げていくためには顧客化も大事ですが、並行して各々のブランドでエントリーユーザーをキャッチしていく必要が出てきています。
――そのためには引き続き、各々のブランドでさらに商品力を上げていくことが前提になります。
大江 23年は三陽商会が設立80周年を迎える節目の年に当たります。現在、プロジェクトを組んで80周年記念企画を進めていますが、イベントを連打してお祭りごとにするのではなく、80年の歴史を振り返り、本来のミッションを原点に立って改めて見つめ直す機会にしながら、80周年記念商品開発を中心に記念事業を進めていきます。中期経営計画の2年目でもあり、24年度の最終年度の目標達成に向けた補完事業にしていきたいと考えています。
三陽商会の最大のアセットはクリエイティビティーだと自負しています。フットワークの器用さには欠けていますが、上質かつ高感度で品位、品格のあるしっかりとしたモノづくりができます。80年間で積み上げ、今後も絶対に継承していくべきアセットです。これが私どもの生命線ですし、80周年記念商品で表現したいと思っています。
(聞き手:羽根浩之)