2024年11月22日

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【寝装・寝具特集】“百貨”生かした提案で、眠りへ多様なアプローチ

香りものは手軽に睡眠環境を変えられるアイテムとして、昨今注目されている(写真は三越銀座店)

百貨店の寝具売場は、様々な商品が揃う百貨店の強みを生かした訴求で、快眠需要を取り込む。三越銀座店は10月に予約制サービス「Good sleep tour」を開始。マットレスや枕、アロマやハーブティーなど、同店のリビングフロアを回りながら様々な商品を体験できる。京王百貨店新宿店は快眠グッズやバス雑貨の取り扱いを増やし、9月にはマットレスの寝試し体験会を開催。あの手この手で多角的なアプローチを仕掛ける。


西川 西川、家庭用医療機器「ヘルシオン」

需要が高まる冬に照準


昭和西川 昭和西川、6階をサロンに改装

特別な空間で商談や販売会に


寝具への関心は衰えを知らない。矢野経済研究所の調査では、スリープテック関連の市場は2022年で前年比33%増、25年は21年比で2.3倍を予測している。京王百貨店新宿店は21年度(21年4月~22年3月)が前年比約10%増、22年度も10月までで約15%増と上昇が続く。三越銀座店は、機能性を謳う敷き布団や枕の売上げがコロナ禍前より上がっているという。

20~21年はコロナ禍で家にいる時間が増えたことが要因で需要が一気に高まったが、行動制限が緩和され始めた現在も落ちる様子はないようだ。百貨店の寝具売場にとってはまたとない好機であり、工夫を凝らした販促策で攻勢を掛けている。

 

三越銀座店、睡眠環境づくりを手伝うコンサルサービス

「Good sleep tour」では「エアウィーヴ」の体格計測など、様々な寝具の体験ができる

三越銀座店は、10月5日に「Good sleep tour」を開始した。「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」から予約でき、料金は無料。内容は、エアウィーヴや西川、シモンズの寝具を試せる「#1」(約2時間)、自分に合ったルームフレグランスとハーブティー、サプリメントを探せる「#2」(約1時間~1時間30分)、まずは何か1つから変えてみたい人向けの「#3」(同)、睡眠に関するギフトを探せる「#4」(約30~40分)、じっくりと寝具を選べる「#5」(約3時間)の5コースがある。

同サービスを始めたのは、接客を含めたリアル店舗での購入体験の重要性を感じたためだ。「最近は、口コミの評価が購買動機として増えている。しかし、人気の商品が自分に合うかはまた別の問題。第三者が『これがあなたに合っていますよ』と勧めることで、より納得して満足感のある買い物ができる」と第3営業部本館7・8階・新館8階(ライフデザイン)アシスタントバイヤーの清水越美氏は説明する。寝具メーカーは様々なパーソナルサービスを用意しているが、その認知度が低いこともあり、1つのパッケージにまとめることで訴求を強める。

中でも、20~30代の若年層の取り込みを視野に入れる。百貨店に来る若年層の中には、リビング売場に「高いものしか売っていない」、「接客が億劫で気が引ける」というイメージを持ち、避ける客が少なくない。「まずモノやサービスを知って頂き、検討材料の1つにして頂ければ」と清水氏は語る。リモートショッピングアプリを使用するため、ツアー後に自分で検討し、後日注文することも可能。

アロマやハーブティーを紹介するコースも設け、手軽な睡眠環境の改善を提案する。寝具はどうしても金額が高く、入れ替えるのに手間も掛かるのがネックとなる。まずは簡単に変えられる香りや食べ物で、睡眠の質の変化を実感してもらい、寝具の購入にもつなげる狙い。睡眠の質に悩んでいるものの、それほど深刻ではない人の受け皿も担う。

「エンハーブ」で自分に合った茶葉をつくってもらうこともできる

様々な商品を、効率よく見て回れるのもメリットだ。同店は銀座という土地柄、仕事帰りや子供のお迎え前に来る客が多い。パッケージのツアーにすることで、長時間滞在できない客にも充実した買い物体験を提供する。同サービスに関する売場は全て7階にあるため、フロアを移動することなく回れる。

スタート以降は、実際の接客内容をもとに、サービスのブラッシュアップや販売員のスキル向上に取り組んでいる。例えば、フレグランスに関心を持つ客が多いことから、#3のフレグランスの紹介の時間は、当初の10分から30分に拡大した。認知度の向上も急務で、今年度(23年2月期)は宣伝や告知に注力する方針だ。

 

京王新宿店、寝試し体験会やバスグッズ拡充

「試し寝」のハードルをいかに下げるかが、寝具販売のカギを握りそうだ(写真は京王新宿店の寝具売場)

京王百貨店新宿店も、寝具の寝試しの促進や、関連アイテムの提案などを行う。今年9月には、マットレスの寝試し体験会を2週間に亘り開催。「エアー」、「ムアツ」、「エアウィーヴ」、「シモンズ」、「テンピュール」など、同店の寝具売場のブランドをスタンプラリー形式で回り、複数のブランドを回るとプレゼントがもらえる。売場で寝転がるのにハードルの高さを感じる人や、複数のブランドを回りにくい人が多いことから企画した。

期間中は、「前から気になっていた」という人達が多く参加。特徴的だったのは、一般客が多かったことだ。同店の寝具は外商でのセールスが好調のため、当初は外商顧客の利用を想定していた。外商販売員と連携して顧客へと案内したが、実際には店頭で見て参加した人など、一般客の方が多かったという。家庭・文化・子供用品部自主売場担当バイヤー(タオル・エプロン・寝具)の佐藤恭子氏は、「どの層にどう宣伝するかなど、まだ改善の余地がある。今回の経験をもとに、また開催したい」と話す。

パジャマ売場で、快眠をサポートするウエアの取り扱いを始めた

寝具以外の、眠りに関する商品の取り扱いも徐々に増やしている。同店の寝具の平場の隣にはパジャマ売場があり、そこで体の血行を整えるルームウェアや、快眠をサポートするパジャマの取り扱いを開始。通路沿いの目に留まりやすいスペースで展開し、寝具を目的に来た人にも訴求する。

「眠りに悩んでいる方は、まずマットレスや枕を買いに来る。そういう人に、マットレスと枕以外もあるとアピールしたい」(佐藤氏)。機能性寝具の購入は20~30代の次世代層が比較的多く、その層を固定化する狙いもある。

バス・トイレタリー売場では、入浴剤や石けん、バス雑貨を拡充。フレグランスソープやキャラクターものの入浴剤などが人気で、売上げは好調に推移している。ギフトとしての購入も多い。

ただし、パジャマ売場やバス・トイレタリー売場と寝具売場は分かれているため、現在も寝具売場への直行直帰は多い。どのようにアプローチするかは今後の課題であり、佐藤氏は「いずれは睡眠やおうち時間にまつわるアイテムとして、一緒に展開したい。エスカレーターの前のスペースにディスプレイしても良いかもしれない」と展望を語った。

 

どちらの売場でも、「寝具の寝試しをしづらい、というお客様が多い」という声を聞いた。人通りの多い売場で寝ることに抵抗感がある人や、接客を受けると買わないといけない気がして踏み出せない人が多いそうだ。寝具は自分の身体に合うかが重要で、寝試しは欠かせない。その心理的障壁を下げる施策は、百貨店の寝具売場にとってはもはや必須といえよう。

さらに、寝具は一度購入すると次の買い替えまでのスパンが長く、頻繁なリピート購入が見込めないという特徴がある。睡眠の悩みを解決するという観点では、香りものや食品、照明など、寝具以外にも提案できるアイテムは多い。文字通り“百貨”が揃う売場の特性を生かし、提供できる付加価値の向上に努めたい。

(都築いづみ)