2024年11月22日

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伊勢丹新宿本店・阪急うめだ本店、生活や価値観に寄り添う提案で価値創出【ホームファッション特集】

阪急うめだ本店は、SDGsや地域共生など「共感」を生むイベントを開催する(写真は「Challenge! WASTE LESS LIFE」)

リアル店舗にはモノだけではない“付加価値”が求められる中で、伊勢丹新宿本店と阪急うめだ本店のリビング売場は、「ライフスタイル」や「共感」を軸にしたイベントでそれを提供する。伊勢丹新宿本店は、今年8月にライフスタイルの提案をテーマにした催事「ISETAN HOME DECOR(イセタン ホーム デコール)」を開催。阪急うめだ本店は、廃棄予定の陶磁器を再利用したアートピースの販売など、客が共感できるストーリーのイベントを連打する。どちらも消費者の生活や価値観に寄り添う提案が功を奏し、好評を博している。


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伊勢丹新宿本店、アライアンスを広げ住空間をトータル提案

「イセタン ホーム デコール」は、高感度で上質なブランドを集積した

伊勢丹新宿本店のリビング売場は、アライアンスによる住空間の総合的な提案を強化している。昨年からアライアンスの提携先を増やし、今年8月には、提携ブランドを中心にしたインテリア家具の催事「イセタン ホーム デコール」を開催。複数のブランドを組み合わせたブースを設け、コーディネーターを招いてイベントを開催するなど、「ライフスタイルの提案」を全面に打ち出した。その結果、多くの商談が進み、中にはブランドやブースを超えた注文もあるなど、狙い通りの効果を得られている。

三越伊勢丹は、外部のショールームや路面店で三越伊勢丹のハウスカードが使えるアライアンスの輪を広げ、多様なニーズに応える戦略を進めている。インテリア売場でも昨年から提携先を増やしており、昨年は約20だったのを、同催事開始時点で約40にまで増やした。イセタン ホーム デコールはこうしたアライアンスの認知度を上げる目的もあり、5階の常設売場に出店していないブランドを中心に構成した。「アライアンスの存在や提携先のブランドを知ってもらうことで、引っ越しや新生活のときに『家具を買うなら伊勢丹だな』と思ってもらえたら」と第3MDグループ新宿ライフデザイン・子供商品部計画担当渡邉駿担当長は意図を明かす。

イセタン ホーム デコールは8月17日~22日に、本館6階の催物場で開催した。会場は「リビングルーム」、「ベッド・バス・ガーデン」、「キッズルーム」、「インテリアセレクト」の4つのゾーンに分かれ、全15のインテリアブランドのブースと共に、ブランドをミックスしたライフスタイル提案ゾーンを設置。家具売場のコンシェルジュが常駐し、住空間に対する様々な相談を受けた。ブランドは、「ビー・アンド・ビー イタリア」、「ポルトローナ・フラウ」、「アイピーニジュウ ジャパン」など。

ライフスタイル提案ゾーンには、コーディネーターとして活躍する宮澤奈々さん、黒沢祐子さんも空間設計に携わった。イベントも行い、宮澤さんと黒沢さん、さらに一般社団法人MOTHER代表の小澤あきさんによるトークショーが開かれた。

この催事の一番の特色として、「ライフスタイル提案」がある。コーディネーターに協力してもらい、家具やブランドに詳しくない人も「こんな暮らし素敵だよね」、「こういう空間に住んでみたい」と想起できるような提案を行った。同部リビングルーム佐々木えりさバイヤーは、「消費者に近い感覚でいうと、単に机だけを勧められても、それを使った生活を想像しにくい。例えば机の上に、机に合ったお皿や料理、お花があれば、もっとイメージが湧きやすくなる。そうした生活感のある空間提案は、百貨店だからこそできると考えた」と語る。

「アイピーニジュウ ジャパン」など、子供部屋の提案も行った

会期中は、ブランド目当てというより、空間を楽しむことを目的に来た人が多かったという。コーディネーターのファンや、イエナカ空間への関心があるため、見てみたいという来店動機が多かった。来場客からは「生活シーンが具体的に想像できた」、「自分には合わないと思っていたブランドも、アレンジ次第では合わせやすくなることを発見できた」という声が寄せられ、ブランドやブースを跨いだ購入や相談もあった。各イベントも予約初日で全て埋まってしまう程の人気で、当日も盛況を呈した。

イベントをきっかけに購入に向けて動いている案件は、9月上旬時点で約50件に上る。催事で見た商品と5階の売場の商品を比較検討している客もおり、それを含めると案件の数はさらに多い。渡邉氏は、「今は体制を整えている段階だが、アライアンスもより広く、深くすることで、『暮らしのことなら何でも相談してください』と言えるようになりたい」と今後の展望を語った。

 

阪急うめだ本店、共感を呼ぶストーリーで“劇場型”へ

今年6月に開催し、盛況を呈した「TOYAMAクリエーション 錫とガラスと冷酒と」

阪急うめだ本店のリビング売場は、「共感」をキーワードにしたコンテンツを発信する。7階リビング売場のイベントスペース「コトコトステージ」を中心に、SDGsや地域共創など、昨今関心が高まっているテーマでイベントを展開。実演や試飲といった、商品の魅力を実際に体感できる企画も実施し、あの手この手で“共感”を集める。

「最近の消費環境は価値観の劇的な変化を迎えており、それに対応するため、去年から『お客様との共感を価値にする』を重点的なテーマにしている」とリビング営業統括部OMO販売企画部徳備尚樹ディヴィジョンマネージャーは語る。「モノだけならいくらでも溢れているこの時代で、SDGsやサステナブル、地域創生など、人と人との繋がりや利他的な考え方にフォーカスし、お客様の生活を豊かにする『共感』をつくり上げたい」考えだ。

今年6月には、SDGsや地域創生に繋がる取り組みとして、コトコトステージで「Challenge! WASTE LESS LIFE」を開催。波佐見焼の産地で廃棄予定だった陶磁器を使ったアートピースを販売した。

陶磁器をつくる窯元では、生産過程で出てくる、販売基準に満たない製品を砕いて山に捨てている。それを「もったいない」と感じた波佐見焼の生地屋「ウラベ」の双子の姉妹・裏邉彩子さんと恵さん、インテリアデザイナーの本村らん子さんの3名が、廃材をアップサイクルするプロジェクト「Utte(ウッテ)」を始めていた。それを知った徳備氏らは、プロジェクトに“共感”。直接窯元にも行き、波佐見焼のものづくりも含め、広く発信することを決めた。ウッテでは廃材を「テラゾー」という建築資材にする企画が進んでおり、それをアートピースにして阪急うめだ本店で販売することにした。

ポップアップの期間中は、最初は「何だろう?」という目で見る客が多かったが、販売員や裏邉さん、本村さんが客に説明すると、「そういう商品だったんだ」、「陶磁器をつくると廃棄物が出るんだ」と納得し、興味を持つようになった。

関心を寄せたのは、一般の来店客だけでない。同時期に、9階の催事場に出店していた陶磁器メーカーの人がたまたま売場を訪れ、「自分もものづくりをしているから、廃材への問題意識はとてもわかる」と共感し、購入することもあった。企画の立ち上がりから購入まで、至るところで「共感」が生まれ、まさに共感で繋がるコンテンツと言えよう。「改めて、共感を価値にすることの重要性を感じた」と徳備氏は振り返る。

客に寄り添ったコンテンツを発信するため、組織の体制も見直した。ポップアップやイベントは主に企画担当やバイヤーが手掛けるが、昨年に、入社2~3年目の若手社員も参加できる部内のプロジェクトを発足。既存の手法や取引先にとらわれず、消費者に近い目線を取り入れることを狙いとした。無論若手社員の育成や、組織の活性化も目的とする。

最近では、今年6月にコトコトステージで開催した「TOYAMAクリエーション 錫とガラスと冷酒と」が好事例となった。「能作」や「富山ガラス工房」の商品を展開し、富山県の魅力の発信するイベントだが、より商品の良さを実感してもらうため、若手社員が、商品の製作実演や富山の酒とのペアリングなどを提案。これらが奏功し、イベントは盛況となった。イベントをきっかけに、常設の能作の売場の顧客となった客もいた。

今年9月に行った「蔵元まつり」では酒の銘柄に最適なグラスを提案した

客の共感を生むためには、従来の商品カテゴリー区分を超えた取り組みも行う。今年9月には、毎年行われる日本酒のイベント「阪急蔵元まつり」で、日本酒に合う酒器を販売した。「リーデル」と組み、銘柄ごとに一番合うグラスを紹介し、試飲も実施。すると「器を変えるだけでこんなに違うのか」と驚くなど客からの反応は良く、グラスの売れ行きも好調だった。今後は酒を楽しむためのワインセラーやアートなど、リビング領域からの提案の拡大も考えているという。

こうしたイベントの企画は、苦労も少なくない。様々な商品を2週間単位で入れ替えるため、販売員は日々勉強をする必要がある。今まで取引のないメーカーだと、細かい部分での意思疎通が難しいこともある。とはいえ、モノを集めて売るだけでは、客に伝えたいメッセージが生まれない。「当店は『劇場型百貨店』を標榜している。まず自分達でストーリーを書き、どんな役者(商品)に来てもらうかを考え、連れてくるのが仕事。それが価値提供になる」と徳備氏は力を込める。

 

ニーズを読み取り、マッチングする力が重要に

これらの事例をみると、「いかに消費者の生活や価値観に寄り添ったかたちで提案できるか」がカギになることがわかる。伊勢丹新宿本店のイセタン ホーム デコールは、家具を組み合わせたライフスタイルの提案が、「家具には詳しくないが、今よりちょっと素敵な住空間や暮らしには興味がある」という客の心を捉えた。阪急うめだ本店も、SDGsや地方共生といった、近年高まっている「社会や環境の役に立ちたい」ニーズを取り入れることで共感を促し、店舗の価値を創出している。

モノやコトが飽和している現代では、消費者が関心を持っているものを素早く察知し、最適な形式で提案をする。そんな「マッチング力」が問われているのかもしれない。

(都築いづみ)